「被爆70年」の長崎平和式典(9日)は、田上富久市長が「安保法制」に言及して「憲法の平和理念が揺らいでいる」と指摘。さらに被爆者代表の谷口すみてるさんが、感動的な「誓い」の中で「戦争につながる安保法案は許すことができない」と安倍政権を厳しく批判して大きな拍手を受け、広島式典との違いを際立たせました。
しかし、その長崎式典でも、触れられなかった問題があります。韓国・朝鮮人をはじめとする在外被爆者の問題です。
安倍首相は一昨年の広島式典で、「日本人は唯一の被爆国民だ」と述べ、市民団体から強い批判を浴びました。これはたいへんな誤りです。
被爆者は、広島で約42万人(うち爆死者15万9283人)、長崎約27万1500人(同7万3884人)、合計約69万1500人(同23万3167人)とされています。このうち韓国・朝鮮人は、広島約5万人(同約3万人)、長崎約2万人(同約1万人)、合計約7万人(同約4万人)にのぼっているのです。
被爆者の10・1%、爆死者の17・2%は韓国・朝鮮の人たちだったのです。その爆死率は日本人よりはるかに高かったことが分かります。
しかし実態はいまだに明らかにされておらず、全面的調査自体が喫緊の課題です。
韓国・朝鮮人被爆者の多くは、帝国日本の植民地政策によって強制連行された人たち、あるいは貧困のため日本に出稼ぎに来ざるをえなかった人たちです。その劣悪な労働・生活環境が爆死率を高めました。
韓国・朝鮮人をはじめ在外被爆者の被爆は、何重にもおよぶ差別の結果でした。しかも、その差別は今現在も続いているのです。
「広島原爆の日」を前にした4~5日、広島市内で「日米戦争責任と安倍談話を問う」をテーマに「平和へのつどい」がありました。その中で、「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」の市場淳子さんが、「韓国・朝鮮人被爆者と市民運動」と題して講演しました。(写真左。写真中は広島平和公園の韓国人原爆犠牲者慰霊碑。右は長崎平和公園の長崎原爆朝鮮人犠牲者追悼碑)
戦後、日本人被爆者には不十分ながら医療・福祉面で援護が行われていく中で、韓国・朝鮮人など在外被爆者はその対象から外され一貫して差別されてきました。厚生省(当時)の差別通達(402号)が廃止されたのはやっと2003年になってからです。それでもなお、今日でも医療費補助の上限などで差別が温存されています。
市場さんはこうした経緯を詳しく解説し、それでも在外被爆者への支援が少しずつ前進してきたのは韓国・朝鮮人被爆者自身の苦難の活動の結果にほかならないと強調。現在の課題が端的に示されているものとして、今年4月ニューヨークで行われたNPT検討会議での韓国原爆被害者協会代表(沈鎮泰・ハプチョン支部長)の言葉を引用しました。
「広島・長崎の被爆者の10パーセント以上が韓国人で、2650余名の生存者たちは今なお日本政府の差別を受けており、この差別は廃止されるべきである。アメリカ政府は韓国人被爆者を含む被爆者に対し責任を取るべきであるにもかかわらず、何の謝罪もなく、何の責任も取っていない。アメリカ政府の謝罪を要求する。韓国では原爆被害者支援特別法の制定運動を推進中だが、特別法を制定して真相調査を行い、韓国に平和公園をつくり、慰霊碑も建てたい」
そして市場さんは、韓国代表の次の言葉を紹介しました。
「この70年間、原爆被害者はいたが、加害者はいなかった」
韓国・朝鮮人はじめ在外被爆者の被爆と差別。その「加害者」はいったい誰なのか。その責任はどうとるべきなのか。
「70年間」答えてこなかった、自分とは関係ないふりをしてきたこの問い、私たちは今こそ答えなければなりません。