アリの一言 

オキナワ、天皇制、朝鮮半島の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「北朝鮮制裁は国民への打撃」ースイス大統領の注目発言

2017年09月07日 | 朝鮮問題とメディア

     

 5日スイスのジュネーブで行われた軍縮会議で、北朝鮮に対してアメリカ、日本などから非難が集中したと報じられました(写真中)。トランプ大統領は11日にも安保理で、「石油・天然ガス輸出禁止」を含む新たな制裁決議を挙げようとしています。
 ロシア、中国は制裁強化に賛同していないとされていますが、それは大国間の政治的駆け引きとして報じられています。

 しかし、北朝鮮に対する経済制裁に反対しているのはロシアや中国だけではありません。あくまでも中立的な立場から、制裁は北朝鮮の市民を苦しめるだけだと指摘し、「今こそ話し合いの時」と自ら仲介を申し出ている国があります。スイスとスウェーデンです。

 スイスのロイトハルト大統領(写真左)が4日行った記者会見は、たいへん注目される内容であるにもかかわらず、また軍縮会議と同じスイスで行われたにもかかわらず、「北朝鮮制裁」一色の日本のメディアはほとんど報道しませんでした。その内容はこうです。

 <スイスのロイトハルト大統領は4日、北朝鮮情勢を巡る問題の解決に向け、仲介役を務める用意があると明らかにした。
 大統領は記者会見で、スイス軍は韓国と北朝鮮の国境付近に配備されており、スイスはスウェーデンと共に中立的な外交の長い歴史があると指摘した。中国と米国は責任を果たす必要があるとし、北朝鮮の核実験に「過剰反応」しないよう求めた

 北朝鮮に対する制裁は国民に打撃を与える一方で、核開発を断念させるという目的に対して「あまり多くの変化をもたらさなかった」との見方を示した。

 その上で「今こそ対話の時だ。われわれは仲介役を申し出る用意がある」とし、「今後数週間で米国と中国がこの危機にどう影響力を行使できるかが重要な鍵となる。だからこそスイスやスウェーデンには舞台裏で果たせる役割があると考える」と強調した。…

 「北朝鮮情勢は懸念すべき状況だ。関係国はスイスで交渉し、軍事的ではなく政治的な解決策を見出すことが可能だ」と訴えた。>(4日、ロイター)

 北朝鮮に対する経済制裁は国民生活に打撃を与えるだけである、という指摘は同大統領だけではありません。

 北朝鮮経済の仕組みに精通している元朝鮮労働党幹部(亡命して米在住)・李正浩氏は、制裁によって「金正恩氏が体制維持に不安を覚え、逆に核保有に固執する恐れがある」一方、大量の失業者、食糧難をもたらし、「国民だけが苦しむ結果になりかね」ないと指摘しています(8月14日付中国新聞=共同配信)

 また、富山大学の今村弘子教授(中朝経済)も、「国連安全保障理事会決議による経済制裁は一般の北朝鮮国民には徐々に効いてくるが、金正恩指導部には直接影響は及ぼせないだろう」(8月30日付中国新聞=共同配信)と述べています。

 トランプ大統領と安倍首相が旗を振り、平和的解決に逆行する制裁強化に突き進もうとしているいま、「制裁は国民に打撃を与える」だけ、「今こそ対話の時」というロストハルト大統領の指摘を広く国際世論にしていく必要があるのではないでしょうか。


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「朝鮮学校排除」に対する画期的判決と「ミサイル発射」

2017年07月29日 | 朝鮮問題とメディア

     

 朝鮮学校を高校無償化法の対象から排除している国(安倍政権)の措置は違法であるとする画期的な判決が28日、大阪地裁でありましたが、その半日後の同日深夜、北朝鮮が「弾道ミサイル」を発射し、メディアは「ミサイル」一色になりました。

 くしくも同じ日に起こったこの2つの出来事に、私たちはどう向き合うべきでしょうか。

 大阪地裁判決(西田隆裕裁判長)は、こう断じました(判決要旨より)。

 「下村博文文科相は、後期中等教育段階の教育の機会均等とは無関係な、朝鮮学校に無償化を適用することは北朝鮮との間の拉致問題の解決の妨げになり、国民の理解が得られないという外交的・政治的意見に基づき、朝鮮高級学校を無償化の対象から排除するため、高校無償化法施行規則の規定を削除したものと認められる。従って、規定の削除は…違法・無効と解すべきである」

 「国は、朝鮮高級学校が北朝鮮または朝鮮総連と一定の関係を有する旨の報道などを指摘して…朝鮮総連から「不当な支配」を受けているとの疑念が生ずると主張している。しかし、国の指摘する報道などの存在及びこれに沿う事実をもって、適合性に疑念を生じさせる特段の事情があるということはできない

 判決はまさに、「政権の思惑で教育行政をゆがめてはならないことを明確に指摘し、司法の独立性を示した」ものであり、「朝鮮学校が学校教育法に照らし…適法な学校であるとの認識を示しており、ヘイトスピーチなどへの一定の歯止めにもなるだろう」(新藤宗幸・千葉大名誉教授、29日付朝日新聞)と思われる画期的なものです。

 こうした判決内容は、裁判の民主的な進め方によってもたらされたものでした。
 「訴訟の進め方も異なっていた(国の言い分を追認した今月19日の広島地裁判決とはー引用者)。大阪地裁では原告である学校法人の理事長のほか、卒業生や元教員を証人として採用、当事者の訴えに耳を傾けた。広島地裁が、原告が求めた証人尋問を実施しなかったのとは対照的だった」(29日付「朝日」)

 判決後の報告集会で大阪朝鮮高級学校2年の女子生徒が「声を詰まらせながら語った」言葉を、私たちは正面から受け止める必要があります。
 「判決を聞き、自分たちの存在が認められ、この社会で生きていていいと言われた気がした」(29日付「朝日」)

 そんな喜びの中、朝鮮学校元教員の複雑な思いがありました。
 「元教員は北朝鮮のミサイル発射のニュースが流れる度に『また学校が批判される。もう撃たないでほしい』」と願う」(29日付毎日新聞)

 元教員の悲痛な声です。しかし、「北朝鮮のミサイル発射のニュースが流れる度に」、なんの関係もない朝鮮学校とその生徒たちを攻撃しているのはわれわれ日本人(日本社会)であり、それをたきつけているのが安倍政権です(写真右は29日未明)。

 さらに、北朝鮮の「ミサイル発射」の背景には朝鮮戦争休戦協定を無視したアメリカの武力挑発、米日韓合同の軍事行動があります。それを棚上げして北朝鮮を批判するのは道理に合いません。そして、「北朝鮮のミサイル」を口実に在日朝鮮人を攻撃するのは民族差別以外の何ものでもありません。

 大阪地裁判決が直接断罪したのは高校無償化をめぐる安倍政権の違法性ですが、それは北朝鮮に関する偏向報道をはじめ、日本社会の根深い差別性に対する警告ともとらえるべきではないでしょうか。


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差別助長する「朝鮮学校無償化除外」の不当判決

2017年07月20日 | 朝鮮問題とメディア

     

 朝鮮学校(高級部は全国11校、約1400人)が高校授業料無償化(2010年施行)から除外されているのは憲法違反の不当な差別だとして、広島朝鮮学園の在校生・卒業生ら109人が国を訴えた裁判の判決が、19日広島地裁でありました。
 判決(小西洋裁判長)は国の言い分に追随し朝鮮学校の無償化除外を追認するきわめて不当な判決でした。同様の裁判は大阪、愛知、福岡、東京でも行われていますが、判決が出たのは広島が初めてです。

 このニュースをNHKは「全国ニュース」ではまったく扱いませんでした。広島で販売されている全国紙では朝日新聞が社会面で大きく扱っていますが、中国新聞も第2社会面3段の地味な扱いです。全国の新聞はどうでしょうか(沖縄の県紙が2紙ともまったく報じていないのは重大です)。
 メディアのこの問題に対する過小評価・軽視自体が、日本社会の病理を映し出しているようです。

 憲法は「法の下の平等」(第14条)を明確に規定しており、この裁判は「法的にはまったく負ける要素のない裁判」(足立修一弁護団長)でした。それが敗訴になったのは、裁判所が憲法判断を避け、政府に追随し、「朝鮮総連との関係」から無償化に伴う支援金が適正に使われるかどうか懸念がある、というきわめて政治的な判断を行ったからです。

 「支援金の適正な使用」については、広島朝鮮学園の金英雄理事長兼校長が裁判の中で、「適正に学校運営に務めている。今からでも朝鮮学園を訪問してください」と訴えましたが、裁判長は聞く耳を持ちませんでした(在日本朝鮮人人権協会「人権と生活」第44号)。

 判決がいかに政府・安倍政権に追随した政治的判決であったかは、経過を見れば明らかです。
 
 2010年4月 高校無償化法施行
  同 11月 北朝鮮の韓国・大延坪島砲撃を理由に菅直人(民主党)首相が朝鮮学校の指定凍結を指示
 2012年12月 第2次安倍政権が発足し、下村博文文科相が拉致問題や朝鮮総連との関係を口実に朝鮮学校を無償化の対象としない方針を表明
 2013年2月 安倍政権が「北朝鮮の核実験」を理由に朝鮮学校の適用を想定した高校無償化法の文科省令の規定を削除

 朝鮮学校は一貫して日本政府(安倍政権)の「朝鮮敵視」政策の犠牲になってきたのです。
 
 朝鮮学校に対する差別は、安倍政権の偏狭ナショナリズムと一体です。

 <二〇〇六年(第1次安倍政権ー引用者)には「教育基本法」が全面改訂され、「日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心」の育成を教育行政の基本の一つとすることが盛り込まれた。その後も、リーマンショックや政権交代、東日本大震災、中国・韓国との領土をめぐる確執や北朝鮮の核実験など、政治・経済・外交の混迷がつづくなかで、人びとはますます内向きとなり、一部には狭隘なナショナリズムを振りかざした他者排撃の気分も立ちこめている。そうした機運は、自治体が独自に与えてきた朝鮮学校に対する補助金の削減や、朝鮮高校などに対する政府の就学支援金対象からの除外など、自治体や中央政府の在日朝鮮人政策にも少なからず影を落としている。>(水野直樹・文京洙著『在日朝鮮人ー歴史と現在』岩波新書)

 さらに、わたしたち日本人は、そもそも朝鮮学校とは何かを考える(知る)必要があります。

 <植民地支配の結果として、日本には二〇〇万人を超える朝鮮人が住み、その子どもたちは、朝鮮語を受け継ぎ朝鮮人としての民族意識を保持することも困難な状況に置かれていた。解放された(1945年8月15日ー引用者)朝鮮人は人間としての尊厳を取り戻し、奪われた言語、文化、歴史を取り戻すために、「金のあるものは金を、力のあるものは力を、知恵のあるものは知恵を」というスローガンの下、日本各地に「国語(朝鮮語)講習所」を設けた。それが今日の朝鮮学校の「原点」である。

 日本の社会、特に教育界の中では「民族教育」という用語は、在日朝鮮人の民族教育だけを指す意味で用いられてきた。その背景には、日本の学校で行われている教育も日本人を育てる日本の「民族教育」であることを意識せず、日本のみが価値があるという植民地時代から継続する帝国意識がある。植民地支配の歴史の清算が必要である。>(佐野通夫こども教育宝仙大学教授、「人権と生活」第42号)

 日本の政治・社会に根深く残る清算されざる植民地主義・帝国意識。それが朝鮮学校はじめ在日朝鮮人に対する差別、北朝鮮に対する予断と偏見の根源であることを、わたしたち日本人は自分のこととして考える必要があります。


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「北朝鮮報道」は果たして公平・公正か

2017年03月09日 | 朝鮮問題とメディア

     

 北朝鮮が弾道ミサイル4発を発射したことに対し、安倍首相は「北朝鮮の新たな段階の脅威」を示すものだとし、直ちにトランプ米大統領と電話会談して「日米韓の緊密な連携を強化」することを確認しました。(6日)
 朝鮮中央通信はミサイル発射が「有事の際の在日米軍基地攻撃部隊の訓練」だと報じました。(7日)
 北朝鮮をめぐる情勢はきわめて緊迫し、トランプ政権の誕生がそれに拍車をかけています(後日詳述)。

 こういう時だからこそ、事実に基づいた、予断と偏見のない公平・公正な報道が死活的に重要です。日本のメディアの「北朝鮮報道」はどうでしょうか。

★「挑発」しているのは、北朝鮮か、アメリカ・韓国か

 北朝鮮のミサイル発射に対し、日本政府とメディアは一貫して「北朝鮮の挑発」と言います。それは正しいでしょうか。

 ミサイル発射が米韓合同軍事演習に対する対抗措置であることはだれも否定していません。
 北朝鮮の金正恩委員長は今年1月、「われわれの門前で戦争の演習をやめない限り、核戦力を中核とする先制攻撃能力を引き続き強化するだろう」と警告しました。(写真左)

 しかし、アメリカと韓国は予定通り、3月1日から合同演習を開始しました。昨年の演習には米韓合わせて約31万7千人が参加しましたが、今年はそれを上回る「過去最大規模」(1日付共同電)といわれています。

 「訓練で軍事的緊張を高め、北朝鮮の朝鮮人民軍を臨戦態勢に追い込んで疲弊させる狙いもありそうだ」(1日付共同電)

 これに対し北朝鮮は、「米韓が『侵略戦争演習』を強行し続ける限り、先月発射した新型中距離弾道ミサイルより『さらに新型の戦略兵器が勢いよく飛んでいくだろう』と警告」(4日付共同電)しました。

 もちろん米韓は合同軍事演習を続行。北朝鮮が「警告」通りミサイルを発射。米韓はその直後の7日、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備を開始。

 以上の経過から、果たして「挑発」しているのはどちらでしょうか。

 再三述べているように、朝鮮戦争はまだ終結していません。北朝鮮とアメリカ・韓国は戦争中です。戦争相手の連合軍が、しかも圧倒的に優位な軍事力を持つ米韓両軍が、「門前」で、金委員長暗殺の特殊訓練を含む合同軍事演習を強行する。北朝鮮が何度もやめるよう警告(要求)したにもかかわらず(朝日新聞は7日付の社説で「予告もない暴挙である」と断じましたが、それは事実に反します)、「過去最大規模」で強行する。「挑発」したのはアメリカ・韓国の側だということは明らかではないでしょうか。

★「金正男氏殺害」を北朝鮮の「国家犯罪」とする根拠・証拠は何なのか

 
毎日新聞は「北朝鮮 国家の卑劣さが際立つ」と題した社説(9日付)で、「金正男氏殺害事件」について、「事件への関与を否定する北朝鮮の猛反発は、むしろ国家犯罪ではないのかという疑念を強めている」と書きました。断定はしていないものの、事実上、「北朝鮮の国家犯罪」とする立場に立っていることは明らかです。これは毎日新聞に限りません。「もし~だとしたら」という推測や仮定がいつのまにか「事実」になり、対立国である「韓国情報当局」の発表が「事実」として扱われる。これこそまさにメディアによる「印象操作」ではないでしょうか。

 この事件を北朝鮮の「国家犯罪」とする根拠・証拠はどこにあるのでしょうか。まだ何も明らかになってはいません。事件はナゾが深まるばかりです。
 そもそも死亡した男性が金正男氏であるという正式な発表すらマレーシア当局はまだ行っていません。「金正男の息子」と名乗る男性が突然ユーチューブに現れましたが、金正男氏の家族はなぜマレーシア当局が求めている「DNAサンプル」を提供しないのでしょうか。

 もちろん、事件が「北朝鮮の犯行ではない」と断定しているのではありません。「北朝鮮の犯行」なのか、そうでないのか、いずれの根拠・証拠も明らかになっていない。したがって「北朝鮮の犯行」と断じたり「印象操作」をすることは重大な誤りだということです。

 ミサイル発射についても、それ自体容認できないことは明らかです。しかし、だからといって米韓の挑発(合同軍事演習)を棚上げして北朝鮮を一方的に悪者扱いするのは大きな間違いです。
 また、北朝鮮の「核開発」を批判するなら、アメリカをはじめとする大国の「核保有」、その「核の傘」を求める日本の「核抑止力」政策も同時に批判しなければなりません。「核兵器禁止条約」に反対し続けているアメリカとそれに追随する日本政府を厳しく批判しなければなりません。

 北朝鮮を「新たな脅威」として日米軍事同盟を強化し、軍事力のさらなる増強と戦争参加を図る安倍政権。それと歩調を合わせるように北朝鮮を一方的に悪者扱いする予断と偏見に満ちたメディア報道 。戦争の導火線に火が点けられるのは目前だと思えてなりません。


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なぜ「北朝鮮の犯行」と断定できるのか

2017年02月27日 | 朝鮮問題とメディア

     

 26日夜放送された「外国人記者は見た+」(BS-TBS)で、「金正男氏殺害事件」をめぐる日本の報道について、韓国のジャーナリスト(元韓国ニュース専門テレビ局記者)がこう言いました。
 「韓国では日本ほど報道していない。(金正男氏の)”亡命”も説にすぎない。ウラがとれていない。いろいろな説や分析があるだけで、真実とは言えない

 続いて中国のジャーナリスト(経済日報東京支局長)も言いました。
 「(北朝鮮の)暗殺かどうか分からない。証拠がまだ発表されていない。日本のニュースも韓国のニュースを転載しているだけ。(真実は)誰も分からない。中国はまだ見守っている」

 ジャーナリズムとしてきわめて妥当・正当な態度ではないでしょうか。

 日本はどうでしょう。18日のブログで「推測・仮定・伝聞が『事実』に変わる異常さ」と書きました。その後「猛毒VX」はじめいくつかの「事実」が発表されていますが、「北朝鮮国家の犯罪」と断定できる証拠はいまだに明らかではありません。逆になぞは深まるばかりです。
 にもかかわらず、日本のメディアは「北朝鮮の犯行」と事実上断定する報道を強めています。

 例えば、朝日新聞は社説(24日付)で、「韓国を発信源とする不確かな情報が目立ち、実像は見えにくい」と言いながら、「北朝鮮の異様さが際立つ」とし、「『人権』で国際的な圧力を」と〝北朝鮮包囲網”を呼びかけています。

 毎日新聞の社説(24日付)も、「今回の事件で北朝鮮は国際的な孤立を一段と深めることになるだろう」と事実上北朝鮮の犯行と断定しています。

 沖縄タイムスの社説(27日付)が、本文では「北朝鮮による『国家犯罪』の様相が強まった」と断定を避けながら、見出しで「許せぬ独裁国家の蛮行」と言い切っているのは、「推測・仮定・伝聞が『事実』に変わる異常さ」の典型です。

 そもそも、マレーシア警察・当局の捜査には矛盾・ずさんさが目立ちます。

 ①マレーシア警察は当初、実行犯の2人の女性を「北の工作員」と発表したが、その後2人は約1万円で「いたずらビデオ」出演を引き受けた民間人である可能性が強まっている。
 ②実行犯の2人は「素手で犯行に及んだ」と発表したが、26日会見した保健相は「致死量を大きく上回るVXが吸収された」としており(写真左)、「素手の犯行」に対する疑念が強まっている。毒薬に詳しい沼澤聡昭和大学教授は「素手での犯行は考えづらい」と述べている(写真中)。
 ③マレーシア当局は26日の未明に防護服に身を包んで現場検証し、「空港は安全だ」としたが(写真右)、事件発生(13日)から13日間、なぜ現場検証をせず、立ち入り制限もしなかったのか。

 犯行動機も含め、ナゾは深まるばかりです。にもかかわらず、日本のメディアが事実上「北朝鮮の国家的犯罪」と決めつけていることは、たんにジャーナリズムの逸脱という問題ではすまされません。

 第1に、それは「北朝鮮の脅威」をあおって軍備増強・日米韓軍事協力体制の強化を図ろうとしている安倍政権の思うつぼです。

 第2に、日本の朝鮮侵略以来今日まで続く朝鮮(朝鮮人・在日)に対する差別・ヘイトクライムを助長するものです。

 「過去も現在も、朝鮮史の真の姿が国民に見えることを不都合とする日本の支配権力の意図が働いており、そのような意図から作られた歴史観が国民によって自覚的・無自覚的に再生産されてきた」「日本人と朝鮮人との間の、不条理に充ち、複雑にもつれた関係の、初発の原因が日本側の侵略と差別にあり、現在の我々ひとりひとりと無関係でないことは、明らかである。現に私たち日本人が加害者なのである」(梶村秀樹氏『朝鮮史』講談社新書)

 北朝鮮に対し、差別と偏見を排し、あくまでも事実に基づいた判断を行うことは、メディアの責任であるとともに、私たち日本人1人ひとりに求められる歴史的な責務ではないでしょうか。


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「金正男氏殺害」報道ー推測・仮定・伝聞が「事実」に変わる異常さ

2017年02月18日 | 朝鮮問題とメディア

    

 「金正男氏殺害事件」は、死因さえまだ正式に発表されておらず、ナゾだらけです。
 しかし、確かなことが1つあります。それはこの事件に対する日本のメディアの報道がきわめて異常だということです。

 その異常さは、事実がほとんど分かっていない時点から、「北朝鮮の金正恩委員長が指示した暗殺」だと、予断と偏見によって事実上断定していることです。推測や仮定、韓国当局からの伝聞(発表)がいつのまにか「事実」になっているのです。

 産経新聞(16日付)は1面トップで「『金正男氏 北が暗殺』」の大見出しを立てました(写真中)。中国新聞(記事は共同配信)も1面トップで「金正男氏 北朝鮮が『暗殺』」としました。いずれも横に「韓国(当局)見解」と付記していますが、紙面を一見して、「北が暗殺」が事実であるかのような印象を与えます(それが編集の狙いでしょう)。

 毎日新聞は、「独裁国家の非道強まる」と題した社説(16日付、写真右)で、「非道な独裁者が専横の度合いを強めている表れではないか」と金正恩氏が暗殺を指示したと決めつけています。

 しかし、社説の本文には「北の犯行」と断定できる「根拠」は何も示されていません。「北朝鮮の工作員による犯行だという見方が強まっている」「殺害を命じたとしたら…」「北朝鮮の国家機関による犯行であれば…」など推測と仮定ばかりです。まだ事実が判明していないのですから当然でしょう。にもかかわらず、見出しで「独裁国家の非道強まる」と断定する。推測や仮定が「事実」にすり替わっているのです。

 共同通信某編集委員の「論評」(17日付中国新聞)も、「韓国情報当局は…これが事実だとすれば…たことになる。権力維持の冷徹さを示す暗殺だ」と、「韓国情報当局」の情報による仮説が「暗殺だ」という断定に変わっています。

 朝日新聞も16日付2面の特集(「時時刻刻」)で、「正男氏暗殺 最重要課題」「白昼犯行 正恩氏執念映す」の見出で、正恩氏による「暗殺」と事実上断定しています。

 「朝日」の記事の特徴は、徹頭徹尾「韓国の情報機関、国家情報院」の「判断」「見方」でつくられていることです。「国情院は、正男氏が半ば強引な格好で殺害されたと判断。背景について、自らを脅かす可能性が少しでもある人間を執拗に排除する正恩氏の性格を反映した犯行との見方を示した」。「朝日」はこうした「韓国国家情報院」の「見方」をそのまま(出典も示さず)見出しにとったのです。

 朝日新聞に限らず、そして今回の事件に限らず、日本のメディアは北朝鮮に関して、しばしば韓国政府・情報機関の「情報」を、検証することもなく、「事実」であるかのように扱います。それを「日本国民(社会)」がまた「事実」として受け止めます。
 しかし、北朝鮮と韓国は今も戦争中です(朝鮮戦争は「休戦」しているだけで終結していません)。「敵国」の情報が鵜呑みにできないのは自明です。

 北朝鮮(や中国)に対するこうした予断と偏見に満ちた報道は、たんにメディアの倫理に反するだけでなく、安倍政権の「北朝鮮・中国脅威」論を側面援助し、戦争法(安保法制)で日本を「戦争をする国」にする世論づくりの役割を果たします。
 「独裁国家の非道強まる」と決めつけた「毎日」の社説が、「政府は、北朝鮮の動向への監視を強め、警戒を怠ってはならない」と締めくくっているのは、そうしたメディアの役割を端的に示していると言えるでしょう。

 北朝鮮の独裁・閉鎖性が情報を乏しくしているのは確かです。それだけにメディアには公平・公正な報道姿勢が求められます。そして私たちは、限られた情報・報道から事実を見極める冷静な目と判断力を持ちたいものです。


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