アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「安保3文書」関連2法案に賛成した立憲民主の罪

2024年05月13日 | 日本の政治と政党
   

 10日、国会で十分審議されることなく、またメディアも相応の報道をすることもなく、重大な悪法が2本、相次いで成立しました。

 1つは、新法「重要経済安保情報保護・活用法」(「経済安保法」)。(内容等は4月11日のブログ参照)

 「衆参両委員会での審議時間は約39時間で、約68時間を費やした特定秘密保護法を大幅に下回るスピード審議」(10日付京都新聞=共同)でした。

 衆院で一部「修正」されたものの、「機密の範囲や身辺調査の具体的な内容は「法案を認めてもらったあかつきには詳細に検討する」(高市早苗経済安保担当相)とする政府答弁を切り崩せなかった」(11日付京都新聞=共同)。

 すべては政府の思惑通りだということです。「新法は多くの野党の賛成も得て、あっけなく成立した。旗振り役を務めた高市経済安保担当相は満面の笑みを浮かべ、深々と頭を2回下げた」(同共同、写真中は朝日新聞デジタルより)

 それでも「経済安保法」は新聞もそれなりの扱いをしました。しかし、もう1つの悪法は、ほとんど注目されることさえありませんでした。それは、陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」の創設を柱とする「改正・防衛省設置法」です。

 先の日米首脳会談(4月10日、写真左)の共同声明で、「作戦及び能力のシームレスな統合を可能にし、平時及び有事における自衛隊と米軍との間の相互運用性及び計画策定の強化を可能にするため、二国間でそれぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる」と明記されました。「統合作戦司令部」の創設はそのためです。

統合作戦司令部が動き出し、権限を強化された在日米軍司令部との「連携」が確立されたとき、同盟調整メカニズムに基づく自衛隊と米軍の一体化は、ほぼ完成すると思われる」(城野一憲・福岡大准教授「同盟調整メカニズムと「外国軍隊」―自衛隊と米軍の一体化の完成」=「世界」6月号所収)

 強調しなければならないのは(メディアがほとんど触れていないのは)、「経済安保法」も「統合作戦司令部の創設」も、「軍拡(安保)3文書」(2022・12・16閣議決定)の柱である「国家安全保障戦略」にその必要性が明記されていることです。2つの悪法は「軍拡(安保)3文書」の実践なのです。

 だからこそ改めて指摘しなければならないのは、この2つの悪法に、立憲民主党が、日本維新、国民民主とともに賛成したことの重大性です。いずれも反対した政党は日本共産党とれいわ新選組だけです。

 憲法の基本原則を侵害し、戦争国家化を推し進める政府の悪法に賛成する政党が「野党」と言えるでしょうか。そうした政党が合従連衡し仮に「政権交代」したとしても、政治の基本が変わらないのは明白です。これらの政党に共通しているのは、いずれも日米安保条約(軍事同盟)を積極的に支持していることです。

 戦争国家化(ファシズム)は、国家権力(政権与党)だけでは成り立ちません。それを支える「野党」の存在(政治の翼賛化)、そして国家権力に従順なマスメディアがあってこそ完成します。その歴史の教訓を今こそ想起すべきです。

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軽視できない河村市長の暴言と「日本保守党」

2024年05月02日 | 日本の政治と政党
 

 河村たかし名古屋市長は4月22日の記者会見で、ウクライナやパレスチナに触れながらこう述べました。

「祖国のために命を捨てるというのは、相当高度な道徳的行為であるということは間違いない。…国というものに対して、自分の命を捧げるというのは、大変な勇気のあることだし。みんなで『サンキューベリーマッチ』と言わなきゃ」
「(学校でも「祖国のために命を捨てるのは相当高度な道徳的行為だ」ということを考えるべきと思うかとの記者の質問に)やっぱり一定は考えないといけないでしょう。…自分たちの国の若者の血は流さないけど、アメリカ人の若者の血は流してもよいと。そういう考え方はものすごい不幸を導くんじゃないですか。日本に」(4月22日付朝日新聞デジタル)

 この発言には市民団体などから批判が噴出しましたが、河村氏は30日の会見で発言を撤回しないばかりか、「祖国のために死んでいったことは一つの道徳的行為だった」「なぜ国のために命を捨てないといけないのかを議論することが必要」などと繰り返しました(30日付朝日新聞デジタル)

 これは河村氏が持論を繰り返しただけ、と軽視することはできません。なぜなら、河村氏は「日本保守党」の共同代表でもあるからです。

 「日本保守党」は安倍晋三氏と親交があった作家の百田尚樹氏が昨年9月に立ち上げた政党。百田氏は「南京大虐殺はなかった」が持論のほか、自民党の勉強会(15年6月)で「沖縄の新聞はつぶさなければいけない」と暴言を吐いたことでも知られています。

 百田氏は同党の「結党宣言」でこう主張しています。

「日本ほど素晴らしい国はないと私は断言します。神話とともに成立し、以来およそ二千年、万世一系の天皇を中心に、一つの国として続いた例は世界のどこにもありません。…その日本の海が、山野が、いま脅かされようとしています。…野放図な移民政策やLGBT理解増進法にみられる祖国への無理解によって、日本の文化や国柄、ナショナル・アイデンティティが内側から壊されかかっています」

 綱領には、「日本国を守るに相応の国防力の保持、必要な強化、それを達するための日本国憲法改正を含む法整備を図る」と明記しています。

 その「日本保守党」が初めて国政選挙に候補者を立てたのが先の衆院東京15区の補欠選挙でした。結果は、同党の飯山陽候補は約24000票(得票率約14%)を獲得。小池百合子都知事が推した乙武氏を上回って第4位でした(写真左は左から河村氏、飯山氏、百田氏。写真右は「日本保守党」の公式サイト)。

 選挙戦の街頭演説で百田氏はこう述べました。

「40年以上、自民党を応援してきた。自民が保守政党だったからだ。ところが、安倍晋三氏が亡くなった後、自民は何かがおかしくなった」(4月29日付朝日新聞デジタル)

 選挙最終日に東京15区の様子を見に行ったという評論家の辻田真佐憲氏はこう感想を述べています。

「あくまで自分が見た範囲ですが、日本保守党の演説の盛り上がりはほかを圧倒するものがありました」(同、朝日新聞デジタル)。

 同党の公式アカウントのフォロワー数は33万人(自民党は25万人)、党費(一般党員は年6千円、特別党員は年2万円)を払っている党員は6万5千人を超えているといいます。

 事務総長の有本香氏は、「次の衆院選では、各地で独自候補の擁立を検討している」(同、朝日新聞デジタル)と述べています。

 河村氏が繰り返し「道徳的」と強調する「祖国のために命を捨てる」という「祖国」、百田氏が「祖国への無理解」という「祖国」が、「天皇の国」を意味していることは明らかです。侵略戦争・植民地支配の歴史を消し去る皇国史観の復活・鼓舞です。

 自治体の長である河村氏の「国のための死」発言は、沖縄戦で「天皇の官吏」として住民を戦争に巻き込んだ県知事・島田叡を想起させます。

 「日本保守党」が次の総選挙でどれほど候補者を立て、どれくらい得票するかは未知数です。しかし確かなことは、百田氏や河村氏が振りまく皇国史観に基づく政治批判が、これまでの自民党支持層はじめ保守層の受け皿となり、一定の、いやかなりの支持を得る可能性があることです。

 それは自民党政権が推進している日米軍事同盟の下での戦争国家化をさらに推進するものであり、そこに自民別動隊としての彼らの役割があります。それはけっして軽視することができません。

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「経済安保法案」に賛成した立憲民主の右傾化

2024年04月11日 | 日本の政治と政党
   

 「経済安保法案」(「重要経済安保情報保護・活用法案」)が9日の衆院本会議で可決され、参院に送られました。今国会で成立する見通しです。重大なのは、立憲民主党が自民、公明、日本維新、国民民主とともにこれに賛成したことです。

 同法案は、「国が民間人を身辺調査し、資格を与えた人のみが情報を扱う「セキュリティー・クリアランス(適正評価)」制度の導入が柱」(10日付共同)。しかし、「法案では対象となる具体的な情報は明示されていない」ため、「有識者はプライバシーが侵害されかねないと指摘」し「恣意的な情報指定により、国民の知る権利が制限されかねないとの懸念も根強い」(同)、きわめて危険な治安立法です。

 そもそも同法案の強行は、「敵基地攻撃」を明記した「軍拡(安保)3文書」(2022年12月16日閣議決定)に基づくものです。
 「3文書」の柱である「国家安全保障戦略」の第6章「優先する戦略的なアプローチ」の「(5)経済安全保障の促進」に、「セキュリティークリアランスを含む情報安全保障を強化」と明記されています。

 これに立憲民主が賛成したことは、日米安保条約=軍事同盟賛成が同党の基本政策であるとしても、見過ごすことはできません。

 同法案は「13年末に国会で審議された特定秘密保護法と仕組みは同じ」(10日付朝日新聞デジタル)です。違うのは、「当時の民主党は法案に反対したが、今回の立憲民主は賛成に回った」(同)ことです。

 しかも、「立憲が法案への賛否方針を固めたのは、4日の党内会議だった。政調関係者は「強硬な反対論が出るかもと身構えていたが、拍子抜けするくらいなかった」と振り返る」(同)と報じられるように、党内にさしたる反対論はありませんでした。

 立憲民主のこうした姿勢は、「経済安保法案」に対してだけではありません。攻撃兵器の輸出の突破口となる日英伊共同開発の次期戦闘機輸出についても、立憲は「十分な国会審議が必要」とするだけで反対しませんでした。

「立憲民主党が…経済安全保障や防衛といった政策テーマでは現実路線へのシフトを模索している。…泉健太代表は、党の立ち位置を「現実政党」と説明する。外国特派員協会では「ステレオタイプな与党と野党の二項対立は捨ててほしい。反対ばかりではなく、現実は現実として受け止める」と訴えた」(9日付共同)

 野党が与党(自民党)にすり寄って政策を変える時の常とう句が「現実主義」「現実政党」「二項対立を排す」です。今の立憲民主はまさにそれです。
 その実態は自民党政権の軍拡路線に手を貸すいっそうの右傾化にほかなりません。

 岸田自民党政権が今まさに日米首脳会談で安保条約=軍事同盟をいっそう危険な段階に押し上げようとしている時、それに呼応するかのような立憲民主のさらなる右傾化は、戦時体制の特徴である国会の翼賛化をいっそう強めるものと言わざるをえません。




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自民の裏金と小池百合子氏と都知事選

2024年02月27日 | 日本の政治と政党
   

 自民党の裏金が大きな政治問題になっています。パーティー券などで裏金をつくる脱法的手法も問題ですが、さらに注視すべきは、その裏金が誰に何のために使われたかです。

 その点で特に注目されるのは幹事長だった二階俊博氏(写真中)の裏金です。

 自民党が13日公表した「82人の裏金」で金額が最も多かったのは二階氏の3526万円です。二階事務所は、「3年間で書籍代3472万円を支出…購入したのは17種類、計2万7700冊」と説明しています(15日付朝日新聞デジタル)。常識では考えられない額と冊数です。

 その多くは、二階氏自身をPRする本ですが、異彩を放っているのが、二階氏の本でないにもかかわらず購入金額が3番目に多かった『小池百合子の大義と共感』(大下英治著、発行・エムディエヌコーポレーション、2020年=写真右)です。3千冊、396万円が裏金から支出されました。

 16日の記者会見でこの問題を追及された小池氏は、「それは把握しておりませんでした」「著者は大下さん。(私の)直接の本ではない」(16日付朝日新聞デジタル、写真左)と述べ、“無関係”を装いました。しかしそうはいきません。

 同書は文字通り、小池百合子PR本です。たとえばこうです。

「小池知事は、政治家としてメッセージを打ち出す際、「大義」と「共感」の二つを強く意識している」「果たして、小池は、今回の知事選の勝利に限らず、さらに、女性初の総理大臣になる野望を秘めているのだろうか…」

 そして同書が繰り返し言及しているのが、「小池百合子東京都知事と自民党の二階俊博幹事長との付き合いは長い」「二階と小池は、たびたび面会をし、意見交換をする仲でもある」という両氏の親密な関係です。

 小池氏が「二階先生には、折にふれ、政治の本質について色々教わり、今もご指導いただいています」と言えば、二階氏も「小池さんは、衆院議員の頃から、非常に先見性があり、勇気と度胸もあり、政治家としての高い資質を持っていました」と応えています。
 強調されているのは、「二階は一貫して自民党内で小池の都知事選再選を訴え続けている」ことです。

 注目すべきは、この本が出版されたのが2020年7月、都知事選(7月5日)の真最中だったことです。1カ月前の6月12日、小池氏は知事選に出馬して再選を目指すと発表しました。

 自民党内、とりわけ東京都連の中には、自民党から飛び出して新党を結成した小池氏に対する根深い不信・批判があります。知事選でも自民党は当初の独自候補を模索していました。それを抑えて候補者を断念させたのも二階氏でした。

 その二階氏が小池氏を都知事にふさわしいと絶賛する同書は、事実上、小池氏の知事選PR本であり、自民党都連を小池支持でまとめる政治的狙いがあったことは明白です。
 小池氏の都知事再選のための事実上の広告費が、二階氏の裏金から396万円流用されたと言って過言ではありません。

 裏金問題は、それを作って政治戦略に使った自民党が責められるのは当然ですが、それによって利益を得た側の責任も厳しく問われなければなりません。

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京都市長選で自民助けた立憲民主と政党不信

2024年02月07日 | 日本の政治と政党
   

 4日投開票の京都市長選挙は自民、立憲民主、公明、国民民主が推薦した松井孝治氏が当選しましたが、福山和人氏(共産党支援)との差はわずか約1万6千票(前回は約5万票差)。まさに「薄氷の勝利」(6日付京都新聞)でした。

 それでも同日、牙城の群馬・前橋市長選で敗北した自民は、「京都市長選で勝利した意義は大きい」(小渕優子選対委員長)と胸をなでおろしました。
 沈みかけている自民に浮き輪を投げて助けたのは、立憲民主党でした。

「結果的には松井氏が辛勝したものの、自民、立憲民主、公明、国民民主の相乗りでありながら、福山氏にここまでほぼ互角の戦いを強いられたのは、それだけ自民党主導の政治に不信感が強いからだろう。
 そして言っちゃ悪いけど、情けないのは立憲民主党だ。「ダブルスタンダード」という声が周囲からも上がっているように、与党と対立姿勢なのか何なのかよく分からない中途半端なスタンスが、結局、党の存在感を薄め、埋没していっているような気がしてならない」(仲岡しゅん氏・弁護士、5日付朝日新聞デジタル)

 埋没するだけなら自業自得ですが、立民が果たした役割はそれだけではありませんでした。

 第1に、一貫して「国政と京都市は関係ないと有権者に訴えた」(福山哲郎・立民京都府連会長、6日付京都新聞)ことです。

 今回の選挙は、自民が「裏金問題の逆風にさらされた選挙戦」(5日付朝日新聞デジタル)だったことは明白です。だから「自民の党本部幹部が応援に入ることはなく」「松井氏の演説会で伊吹文明元衆院議長は…裏金問題について「京都の市長選とは何の関係もない」と訴えた」(同)のです。

 「国政と京都市(地方選)は関係ない」というのは大きな間違いで、失政批判をかわそうとする自民のプロパガンダにほかなりません(1月31日のブログ参照)。事実、今回の京都市長選でも「毎日新聞の調査では、投票者の64%が「政治とカネ」の問題を「考慮した」と回答」(5日付毎日新聞デジタル)しています。
 立民は自民と一緒になってこのプロパガンダを吹聴したのです。

 第2に、立民の「ダブルスタンダード」は有権者の政党・政治不信をいっそう助長しました。

「国政の与野党は自民の裏金事件を棚上げして松井氏を推したが、有権者には理解に苦しむ構図となった。4割にとどまった投票率は、政党への不信感も示したと受け止めねばならない」(5日付京都新聞社説)

 「政党への不信感」という点では共産党も埒外ではありません。
 福山氏は今回が市長選3回目の立候補でしたが、過去2回の選挙では共産党はいずれも福山氏を「推薦」しました。しかし、「今回は「無所属・市民派」を前面に押し出す福山氏の方針を踏まえて支援にとどめ(た)」(12月9日付京都新聞)。共産党が前面に出るのを避けたのです。そこには「共産党への不信感」(あるいはその忖度)があったのではないでしょうか。

 選挙は国政、地方を問わず、時の政権の施策・政策と正面から対決し、政治の進路を問うべきであり、その政党の姿を有権者・市民にアピールすべきものです。
 そうしてこそ選挙が「参政権」としての機能を果たし、政治を変革する手段となり得る。今回の京都市長選はそのことをあらためて示したのではないでしょうか。

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野村農水相「汚染水」発言を問題視する政府・与野党・メディアの異常

2023年09月02日 | 日本の政治と政党
   

 野村哲郎農水相(写真左)が8月31日の関係閣僚会議のあとで記者団に、「汚染水のその後の評価について意見交換した」と述べたことが大きな問題になっています。NHKは1日朝のニュースでトップで報じました(写真右)。

 岸田文雄首相は直ちに、「遺憾なことであり、全面的に謝罪するとともに撤回することを指示した」と釈明。それを受け野村氏は、「言い間違えたことについて謝罪して撤回する。関係者に不快な思いをさせて申し訳ない」と陳謝しました。自民党からは「風評被害を助長する」と野村氏非難の声が上がり、立憲民主などの野党は責任を追及し、野村氏の辞任を求める声も出ています。

 笑い話のような話ですが、これが日本の政治の中枢で起こっている現実です。軽視はできません。
 野村氏の発言には何の問題もありません。異常なのは「汚染水」発言を重大問題視している岸田政権と与野党、そしてメディアの方です。

 第1に、海洋放出した「ALPS処理水」を「汚染水」と呼ぶことは全く間違っていません。これまでも繰り返し述べてきたように、「(ALPSを通して)薄めても放射性物質がなくなるわけではない」(今中哲二・京都大複合原子力科学研究所研究員、8月24日付沖縄タイムス=共同)のです。

 第2に、政府・自民党は「汚染水」という言葉は「風評被害を助長する」と言っています。野村氏が「関係者」に陳謝したのはそのためです。
 それは、「汚染水」という用語を使って海洋放出に反対している市民・団体が「風評被害を助長している」といっているのと同じです。「汚染水放出」に反対しているすべての人々・団体に対する中傷・攻撃と言わねばなりません。

 第3に、野村発言を問題視することは、政権が決めた「処理水」という言葉を使わなければ責任を追及されるという見せしめです。これは政権(国家権力)による言葉狩りにほかなりません。野村氏は閣僚ですが、その責任追及は一般市民にも影響します。とりわけメディアへの圧力効果は小さくありません。
 「戦争反対」と言っただけで「非国民」のレッテルを貼られて弾圧された戦中の状況とどれほどの違いがあるでしょうか。

 第4に、岸田政権・自民党が上記のような対応をすることは予想の範囲内ですが、想定を超えているのは、野党第1党・立憲民主の態度です。

 泉健太代表は1日の記者会見で、「水産業を所管している大臣なので(発言は)不適切だ。言い間違いだとしても、一連の処理水放出への対応が『緩んでいる』『自覚が足りない』と言われても仕方がない」と述べて責任を追及しました(1日付朝日新聞デジタル、写真中)。

 泉氏自身が「処理水」と呼んでいる問題はここでは問いません。問題は、泉氏のこの発言は「汚染水」発言が「風評被害を助長する」という政府・自民党とまったく同じ立場に立って野村氏の責任を追及していることです。

 その誤りは上述の通りですが、より重大なのは、野党第1党の党首が政府・自民党と同じ立場から「言葉狩り」を行っていることです。これは国家権力との一体化、大政翼賛化の象徴的な表れと言わねばなりません。

 汚染水放出に反対している中国を悪者にして(「鬼畜米英」を彷彿)、国内の反政府勢力を黙らせ、ナショナリズムを煽る。今回表面化した国家権力の「言葉狩り」、野党の大政翼賛化。そして深化するメディアの体制順応。
 「汚染水放出問題」は、日本が日米軍事同盟の下で事実上すでに戦争国家になっていることと、けっして無関係ではありません。



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軍拡は「当然」という立憲民主は「リベラル」か

2023年07月24日 | 日本の政治と政党
  

 「令和国民会議」(令和臨調=2022年6月19日発足、共同代表・茂木友三郎キッコーマン名誉会長ら)の大会が22日開かれ、自民、公明、立憲民主、維新、国民民主各党の代表が基本政策などを述べました(写真右)。

 この中で、「立憲民主党の泉健太代表は、立憲を「中道リベラル」と位置付け、「権力に抑圧されないリベラルを大事にしながら、現実的な政権運営を考えている」と説明」(22日付朝日新聞デジタル)しました(写真左)。

 また泉氏は、「安保政策を巡り「防衛力を整備するのは当然」との立場を表明。一方で2023~27年度の5年間の防衛費を総額約43兆円に増やす岸田政権の方針は「あまりにも急速。自衛隊の現場が混乱する」と批判」(23日付共同配信)しました。

 泉氏のこの2つの言葉は、二律背反、矛盾の極みと言わねばなりません。

 「リベラル」の定義は簡単ではありませんが、少なくとも泉氏は「権力に抑圧されない」すなわち権力(政権)と対峙・対決するという意味で使っています。
 その権力、岸田政権をはじめ歴代自民党政権が最も重視しているのは、日米軍事同盟(安保条約体制)の強化であり、その下での自衛隊(日本軍)の強化、軍事費(防衛費)の大幅拡大です。

 泉氏は「防衛力を整備するのは当然」と言い切っています。「防衛力整備」とは軍拡のことです。泉氏は自民党政権の軍拡を「当然」だと容認しているのです。「あまりにも急速」だからもう少し慎重にやれと、自衛隊の立場に立って注文を付けているにすぎません。

 自民党政権の生命線ともいえる日米軍事同盟強化・軍拡を容認しながら、権力と対峙・対決することは絶対にできません。

 22日の「令和臨調」の大会には、日本共産党、れいわ、社民党などの代表は出席していません。「共産党など他の政党は主催者が招待しなかった」(23日付共同配信)からです。
 同大会は「次期衆院選に向けて、政治が国民に説明責任を果たすための場」(22日付朝日新聞デジタル)として開かれたといいます。その場に初めから共産党などを招待しなかったということは、明確に自民党政権と同じ土俵に上がれる翼賛政党を選別したということです。

 立憲民主党が招待されたのは、同党が本質的に自民党政権と対峙・対決する政党ではないことを「令和臨調」が見抜いているからです。

 そもそも「臨調」は、故・土光敏夫氏の「第二臨調」(1981年発足)以来、財界・御用学者らによって自民党政権をサポートするための組織です。「令和臨調」も例外ではありません。このような政治的組織を、メディアがあたかも「国民的」組織であるように報道するのはきわめて不見識で不適切です。

 繰り返しますが、日本の政治・社会の最大の課題は、自民党政権の生命線である軍拡・自衛隊増強、その根源にある「軍拡(安保)3文書」(2022年12月16日閣議決定)、その元凶の日米軍事同盟(安保条約体制)に反対し、戦争国家化に歯止めをかけることです。

 この最大課題で自民党と対峙・対決しない(できない)政党、「令和臨調」から招待を受けるような政党と、市民が「共闘」できないことは明らかです。

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「入管法改悪可決」の舞台裏が示す日本政治の構図

2023年05月02日 | 日本の政治と政党
   

 4月28日、自民、公明、維新、国民民主4党の賛成で、衆院法務委員会で可決された入管難民法「改正」案。難民認定がケタ違いに少ない日本で、難民申請3回以上の外国人を強制送還させるなどの改悪は、日本政治の閉鎖性・差別性をさらに悪化させるものです。

 同時に今回、立憲民主との「修正」協議が不調に終わり4党による可決となった背景には、現在の政党の構図、今後の日本政治の行方が示されています。報道(抜粋)からその舞台裏を検証します。

< 維新は今国会序盤から、水面下で与党に歩み寄りの姿勢を見せていた。維新は4月20日、修正を正式に申し入れた。

 維新の要求は小幅見直し。関係者は「微々たる修正でも応じさせれば党の存在感を高められる。与党も賛成を得られウィンウィンだ」と明かした。

 立民支持者には抜本見直しを譲らない人が多く、「対案作成に協力してくれた当事者や外国人支援者への裏切りになる」など、反対論が大勢を占めた。
 攻防が激化した間、国会周辺では連日、改正案への抗議活動が続いた。

 政争に、当事者の救済は置き去りにされたままだ。>(4月29日付京都新聞=共同)

< はじめに修正協議に動いたのは維新だ。要求したのは微修正にとどまる内容だったが、少しでも法案を改善したとの実績を作り、存在感を示す狙いがあった。維新幹部は「議論になっている部分を抜き出し、軽めに出した」と明かす。

 自民は、国会対応で協調してきた立憲と維新を分断する思惑から、維新の要求を受け入れる構えだった。

 ところが、「反対ありき」との批判をかわしたい立憲が協議に前向きな姿勢をみせたため、4党による話し合いを始めることに。自民には2年前に旧法案が世論の反発で廃案になった苦い経験から「より多くの政党から賛同を得た方がいい」との判断があった。

 自民は立憲がこだわった第三者機関について譲歩。だが、弁護士らの支援で改正案の「対案」を用意していた立憲内の反発は大きく、執行部も配慮せざるを得なかった

 野党は賛成に回った維新と国民民主、反対した立憲と共産に対応が割れた。>(4月28日付朝日新聞デジタル。写真中・右も)

 以上の経過が示しているのは以下のことです。

▶自民は2年前の廃案の教訓からできるだけ多くの野党の取り込みを図った。
▶維新、国民民主は、その自民戦略に自ら積極的に乗って自民に手を貸した。
▶立憲執行部は、「反対ありき」の批判をかわすため「修正」で賛成する方向で臨んだ。
▶しかし、立憲の「対案」作成に協力した当事者や弁護士などはまやかしの「修正」を強く批判。立憲執行部は考慮せざるを得ず反対を決めた。

 野党を名実ともに取り込んで国会翼賛化の完成を図る自民。自民にすり寄る維新、国民民主。その間で動揺する立憲―この構図は今後さまざまな法案・事案をめぐって繰り返され強まるでしょう。

 立憲が自民の側に行くのを食い止め、市民の側に繋ぎ止めて置くのは、当事者・支援者はじめ市民の声・運動以外にない。今回の入管法改悪をめぐる経過はそのことを浮き彫りにしています。

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尹大統領が暴露した泉代表の問題発言

2023年03月27日 | 日本の政治と政党
   

 韓国紙・ハンギョレ新聞(日本語電子版)は23日付で、「尹大統領、韓日の野党を比較して「恥ずかしかった」…なぜ?」と題する記事を掲載しました。抜粋します。

< 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「韓日関係改善のために韓国野党を自分たちが説得する」という日本の野党関係者の発言を紹介し、「そのような話を聞いて恥ずかしかった」と述べたことが22日に分かった。日本側の要求を一方的に受け入れた韓日首脳会談に対して「屈辱外交」との批判が相次いでいることを受け、日本の野党の反応を根拠に韓国野党に対する不満を表明したのだ。

 尹大統領は非公開発言で、訪日期間中の17日に東京で立憲民主党の指導部に会ったことに言及した。その席で泉健太代表は「韓国の野党議員と会い、韓日の将来の協力関係のために協調してくれるよう自分たちが説得する」と述べたという。同党の憲法調査会の中川正春会長も「近く訪韓し、韓国の野党議員に会い、未来に向けた韓日関係を共に作るよう説得する」と述べたという。

 尹大統領は、「日本は与野党関係なく国のためにみんなでやると言っていた。恥ずかしかった」と語ったという。尹大統領は同日、与党「国民の力」の委員60人あまりとの非公開昼食会でも「日本は国益を前にして与野党が一つだった」とし、韓国野党に対する不満を吐露したと出席者たちは語った。>

 尹大統領は17日に泉代表と会談しています(写真左)。その場で泉氏は、強制動員(「元徴用工」)被害者に対する「第三者(肩代わり)弁済」を強く批判している韓国野党に対し、「自分たちが説得する」と述べたというのです。それを聞いた尹氏は、韓国では野党の反対が強いことが「恥ずかしい」とし、日本は「国益を前にして与野党が一つだった」と感心したというのです。

 尹氏は複数の場所で同様の発言をしていますから、その内容は事実だと思われます。もし事実でないなら、大統領が他国の野党党首の発言を偽ったことになり、それ自体重大な国際問題です。

 尹氏が暴露した泉氏や中川氏の発言には重大な問題がいくつもあります。

 第1に、強制動員被害者に対する賠償問題は、韓国で国を二分する大問題になっています。25日もソウルで尹大統領を批判する2万人集会が開かれました(写真右)。その政治的争点について、大統領を批判している野党側を「自分たちが説得する」と当の大統領に表明するとは、内政干渉も甚だしいということです。

 第2に、泉氏が野党を「説得」すると言っているのは、強制動員被害者に対する「第三者弁済」で、それ自体、韓国の大陪審(最高裁)判決に反して被害者の権利と尊厳を蹂躙するとんでもないものだということです。

 第3に、泉氏の発言は日本にとっても重要な政治課題について、岸田政権と同じ立場に立つばかりか、政権を助けようとするもので、尹氏が羨ましがったように、まさに「国益を前にして与野党が一つ」の状態、すなわち翼賛体制を示すものに他ならないことです。

 こうした泉氏の発言は、個人的な突飛なものではありません。

 例えば、同党の岡田克也幹事長も、朝日新聞のインタビューで「立憲はリベラルから中道に立ち位置を移そうとしているように見える」という質問に対し、「当然のことだと思います。政権交代を目指さないなら別です」と述べ(25日付朝日新聞デジタル)、「政権交代」を大義名分に「中道に立ち位置を移す」すなわち政権側にすり寄ることを「当然のこと」と明言しています。

 国家が戦争へ突き進むとき、政党政治・議会政治が機能不全に陥り、翼賛体制が強まることは、歴史が教えているところです。「野党第1党」のこの姿は、日本が今その危険な段階に入っていることをはっきり示しています。


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葉梨更迭・米中間選挙にみる政党政治の末路

2022年11月15日 | 日本の政治と政党
   

 葉梨康弘前法相の「死刑ハンコ」暴言で深刻なのは、かばいきれず更迭に追い込まれた岸田文雄首相も、その発言の問題性を自覚していないことです。更迭の理由は「政権・国会運営への影響」にすぎませんでした。

 統一教会との癒着も含め、自民党議員の劣悪ぶりは目を覆うばかりですが、その根底には何があるのでしょうか。

 元凶の1つは、議員の世襲です。自民党議員の多くは世襲議員であり、葉梨氏も岸田氏も例外ではありません。安倍晋三氏や麻生太郎氏をはじめ、この20数年間で首相になった6人の自民党議員うち、世襲でないのは菅義偉氏だけです。
 親から「地盤・看板・かばん(金)」を引き継ぐ世襲は、公職である議員ポストの私物化にほかなりません。

 なぜ世襲議員が横行するのか。
 それは国政選挙が個人の見識や政策を選ぶのではなく、政党を選択するものになっているからではないでしょうか。いかに無能・低劣な人物であっても、自民党の公認を得れば、多くの有権者は「自民党」という名前に投票します。それが議員の質を劣化させ、政治を有権者・市民から遊離させているのではないでしょうか。

 これは日本だけの問題ではありません。

 アメリカ中間選挙の焦点は、「民主党か共和党か」に集中しています。1人1区の小選挙区制では、民主、共和の2大政党以外に議席をえることは不可能です。個別の政策では多少違いはあっても(たとえば今回の中絶法をめぐる動き)、覇権主義はじめ根本的な相違のない2大政党の選択を余儀なくされているのです。共和党の中には個人的資質で疑問符が付く新人候補も複数いました。

 こうした実態はけっして米国の有権者の意向に合致したものではありません。若者の投票傾向を分析している米国の研究者はこう指摘しています。

「有権者の党派性や民主主義への考え方を調べたところ、若者の50%近くは党派で、(共和党か民主党の)どちらかに少しだけ傾くと答えていました。政党への忠誠心のためにその政党のすべての政策を支持したり、リーダーの個人的な失策や欠点を無視したりするような若者はごく少数になっています」(米タフツ大・ケイ・川島・ギンズバーグ所長、6日付朝日新聞デジタル)

 若者の半数近くは無党派であり、政党を支持する場合もその政策を丸ごと支持するわけではない、むしろ政治家個人の失策や欠点に目を向けている、という分析です。

 市民(有権者)の要求・意見は多様化しており、政策課題に対する賛否も個別的です。それを「政党」という括りで一括し、あらゆる政策をパッケージにして賛否を迫ることは、実態に合わない、時代にそぐわなくなっているのではないでしょうか。

 「支持政党」の世論調査では常に「支持政党なし」が“第1党”です。選挙の投票率の低下は、「政治的無関心」の表れではなく、政党中心の選挙・政治体制に対する暗黙の抗議ではないでしょうか。

 政党政治、間接民主主義を抜本的に検証し直し、IT技術の有効な活用を含め、新たな政治制度、民主主義制度を創り出していくことが求められていると考えます。

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