落合順平 作品集

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居酒屋日記・オムニバス (29)     第三話 除染作業員のひとりごと ⑥

2016-03-12 12:22:19 | 現代小説
居酒屋日記・オムニバス (29)
    第三話 除染作業員のひとりごと ⑥




 (誰かと思ったらバツイチ、子持ちの、佳代子じゃないか・・・
 同級生の佳代子がなんで今ごろ、こんなところへ顔を出すんだ?)



 姿を見せたのは、同級生の佳代子だ。
佳代子は数年前に離婚して、娘2人を連れて実家へ戻ってきた。
町ですれ違ったとき。「帰って来たのよ、あたし」と幸作に向って苦笑いを浮かべた。
佳代子が苦笑いしたのには、わけが有る。



 佳代子と幸作は、家が近い幼なじみの同級生だ。
義務教育の9年間を1度も離れず過ごしている。ある意味、これは奇跡に近い。
義務教育の場合、進級するたびにクラス替えがやって来る。
仲の良い友達や、好きな異性と同じクラスになれるのか?、担任の先生は誰なのか?
などなど、クラス替えのたびにドキドキした思い出は、誰にでもある。



 親友たちがつぎつぎに別のクラスに離れていく。
そんな中、何故か、佳代子だけがいつも幸作のそばへ残る。
『わたしたち。もしかしたら、赤い糸でむすばれていたのかしら、深い縁で』
中学を卒業する朝。佳代子が嬉しそうに笑った。



 無作為に見えるクラス替えだが、実は背後に『教師たちの大人の事情」が潜んでいる。
クラスに40人いたら、40通りの個性がある。
いろんな個性の子供たちがいる。
個性が偏らないよう、各クラスへ平等に振り分けていく必要がある。
それが教師たちの大人の仕事だ。



「平等なクラス分け」をするため、生徒の中から優先的に振り分けられる者がいる。
成績優秀な者。リーダーができるタイプ(学級委員長候補)。運動が出来る子。
クラスの平和を脅かす問題児などが、平等に振り分けられていく。



 特別な才能を持った子や特徴のある子には、アルファベットの記号をつける。
ピアノが得意な生徒は、PianoのP。
学級委員ができる子や、クラスをまとめられるリーダータイプは、LeaderのL。
問題児は、MondaijiのM。なぜか、これだけは日本語で書く。
親がモンスターの子どもは、Monster ParentのMP。



 クラス替えのとき。最初に振り分けられるのが「ピアノが弾ける子」。
合唱コンクールを実施する学校が多い。
その時、伴奏を弾ける子供がクラスにいなかったら不公平になるし、
合唱が成立しないため、親からすぐにクレームが来る。



 『好きな子と同じクラスになりたい』のは、誰もが願うことだ。
だが教師の目は厳しい。とくに思春期に突入する中学生になるとなおさらだ。
中学2年生くらいになると、カップルが誕生する。
教師の目から見れば早い段階から、それがはっきり分かる。
カップルを同じクラスにしておくと勉強に集中しなくなり、やがて学力の低下を招く。
彼らは次のクラス替えで必ず、別々のクラスに振り分けられる。



 佳代子と幸作は教師の目からみれば、どこにでもいる平均点の生徒だ。
トップグループに位置している精鋭ではない。かといって問題の多い、下位集団でもない。
何処に置いてもとくに問題はないだろう、それが佳代子と幸作の置かれた位置だ。



 愛くるしい目をした、おかっぱ頭の利発な子。それが中学時代の佳代子だ。
佳代子の胸がふくらみ、背がすらりと伸びても、幸作の胸に恋愛感情は生まれてこなかった。
顔見知りの女の子が順調に、思春期の中を育っていくごく当たり前の変化。
勇作の目には、そんな風にしか映っていない。



 だがそんな幸作にある日突然、急展開の日がおとずれる。
中学の卒業式から、3ヶ月ほど経った夏休み前のことだ。
町で、セーラー服の少女とすれ違った。
短めのプリーツスカートから、すらりと伸びた足が健康的にかがやいている。
まともに見るには、まぶしすぎた。
恥ずかしすぎて、顔を見ることも出来ない。
だがどこかに、懐かしさを感じさせる雰囲気が漂っている。



 (知り合い、だったかな?・・・)
そう思ったが、幸作に、振り返って少女を見る勇気はない。
数歩離れた少女が、いきなりピタリと足を止めた。
立ち止まった少女が、腰に、機関銃を構えるような仕草を見せる。



 (え?、腰に機関銃をかまえた?・・・)



 次の瞬間。少女が腰にかまえた機関銃を、乱射しはじめる・・・



(30)へつづく
 
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
中学生から高校時代 (屋根裏人のワイコマです)
2016-03-12 18:56:57
一番純粋な青春ロマンスの時代
私にも 経験があります。
多感な時代を・・思い起こします
でも あの当時は みんなまだ
真面目だったね・・石坂洋二郎の
本に・・赤くなっていたんですから
懐かしいですね
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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-03-14 11:10:35
舟木一夫の高校三年生。
同窓会のたびに、かならず歌われる定番ソングです。
あれから40年とすこし。
昭和と青春も、ずいぶん遠くになってしまいました・・・
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