落合順平 作品集

現代小説を中心に、連載で小説を書いています。
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居酒屋日記・オムニバス (28)     第三話 除染作業員のひとりごと ⑤

2016-03-11 11:38:37 | 現代小説
居酒屋日記・オムニバス (28)
    第三話 除染作業員のひとりごと ⑤




 「大震災から4年半が経った。
 発生した当時。50万人ちかくいた避難者が12万人まで減っている。
 そのうち福島の避難者は、11万人。
 この人たちは、いまだに家に帰れる目安がたっていない。
 被害が津波と地震だけだったら、いまごろは普通の生活に戻れていたはずだ。
 それが実現しないのは、放射能が帰還をさまたげているからだ」



 「そのために、お前のような除染作業員たちが、頑張っているわけだろう?」



 一升瓶を手にした幸作が、幼なじみのコップに酒を注ぐ。
昔からよくこんな風にして2人は酒を呑んできた。
酔っぱらうたび、「お前、俺」と気安く肩を叩きあってきた。



 「だがここへきて、事態が変わりはじめた。
 政府は、避難者の支援を打ち切ることを宣言した」



 「支援を打ち切るっ?。どうしてだ。
 放射能が少なくなったわけでは無いし、除染も終わったわけではないだろう?」



 「国は福島原発から20キロ圏内の危険区域と、放射能濃度の高い
 避難指示区域を、段階的に解除している。
 それにともない東電による住民への慰謝料の支払いが、終わることになる。
 自主避難者たちには2017年4月以降、仮設住宅の提供をやめる。
 商工業者に対する営業損害賠償も、来年3月で打ち切ることを決定している」



 「何故だ、どうしてだ。
 1年後に慰謝料が廃止されて、住む家がなくなる。
 じゃ、いったいどうすればいいんだ、自主避難している人たちは・・・」



 「避難解除したという事は、その場所へまた住めと言う命令のようなものだ。
 住める状態になっているのだから、そこへ戻ればいい。
 いつまでも避難民に支援金を払っていると、そこへ帰ろうとしない。
 帰還することがいやならその後のことは自己責任だから、国はこれ以上は関与しない。
 と宣言したことになる」

 
 「そんな馬鹿な・・・弱者の、事実上の切り捨てじゃないか・・・」



 「いまさら始まったことじゃねぇ。福島県民なら、誰もが知っている。
 国と自治体が進めてきた除染の結果、住める状態になったのはほんの一部だけだ。
 民家の周りも周囲の20メートルまでが除染されただけ。
 その先は、まったく手つかずのままさ。
 民家を取り囲む広大な山林や、野原はそのまま放置されている。
 雨が降るたび裏山から、放射性物質に汚染された雨水が流れ出す。
 子どもたちが遊んだ森や野原のあちこちに、危険なホットスポットが残っている。
 みだりにキノコを採って食べていけないことを、福島県民なら誰もが知っている」



 「なんてこった・・・4年半足らずで、もう、弱者を切り捨てるのか安倍政権は」


 
 「被災者たちが力尽きるのを待つ。それが東電と国の最初からの狙いだ。
 だがここへきて、呑気なことを言ってられなくなった。
 政権の支持率がじわじわ下がって来たからだ。
 出口の見えない東北の支援事業に、早めにキリをつけたい。
 そのために別の話題をあえて作り、国民の関心をそちらに向けさせる。
 首相が首を突っ込んだ、国立競技場の問題がいい例だ。
 ツルのひと声で白紙に戻して見せたが、国民の目を被災地から切り離すのが目的だ。
 被災地問題に幕を引き、5年後の東京オリンピックに関心を向けさせようという、
 政府のしたたかな策略だ」



 ジャーナリストを目指していた、幼なじみらしい切り口だ。
しかし説得力は充分に有る。政府と閣議は、それを裏付ける形で実際に動いている。
2015年6月12日。
帰還困難区域を除く避難指示を、17年3月に解除すると閣議で決定した。
これを受けて福島県が、自主避難者たちに払っている家賃負担(月額6万~9万円)を
2017年の3月で打ち切ることを決定した。



 原発事故が原因で、今も避難生活を強いられている人は11万2千人余り。
このうち。避難指示区域外から避難している3万6千人の人たちが、1年後の春に
住宅の提供が打ち切られる。


 
 幸作と幼なじみの間に、重い空気がたちこめてきた。
そのとき、カラリと入り口のガラス戸が開いた。
(助かった・・・俺はこいつと違って、社会的な話題は得意じゃない。
誰だ。俺を救うために店に入ってきてくれた、救いの神は・・・)
入って来た救いの神の姿を見て、驚きのあまり、幸作の目がまた真ん丸になる。

 

(29)へつづく

 
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2 コメント

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福島の問題 (屋根裏人のワイコマです)
2016-03-11 19:40:35
確かに おっしゃられるとおりの展開
難しい難問を・・どのようにしていけば
被災者のため・・県や市町村のため
そして国家のためになる・・・
そんな解決法は・・ない。
誰がどんな形で 泥を被るのか??
わかりきっていますが 興味深い。
ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-03-12 12:21:52
昨日も一日中、東北の被災地がテレビで流れていました。
あれから5年。
3月11日が来るたびに注目が集まりますが、
風化の傾向は否定できません。
原発の問題は、まだ始まったばかりだというのに、
多くの人が、東京オリンピックに目を
向け始めています。
こうした状況を作り出すマスコミの姿勢に、
ときどき疑問などを感じます。

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