落合順平 作品集

現代小説の部屋。

忠治が愛した4人の女 (10)       第一章 忠治16歳 ⑥

2016-07-07 10:12:16 | 時代小説
忠治が愛した4人の女 (10)
      第一章 忠治16歳 ⑥




 その年の秋。16歳になった忠次が今井村の旧家から、2つ年上のお鶴を嫁を貰った。
当時としてはかなり早い結婚だ。
だがそれには長岡家ならではの、事情が有る。


 忠治の父親は、6年前になくなった。
祖父と祖母は、それ以前に亡くなっている。
のこされた旧家を母が、女手一つで支えていた。


 長岡家は国定村でも裕福な部類に入る旧家だ。
姓を持ち、名主を務めた過去もある。
隣村の田部井(ためがい)村に、かなりの規模の小作地がある。
畑のほとんどを小作人たちに任せ、長岡家では養蚕を手広く手がけている。



 養蚕は、女たちの仕事だ。
母は小作人の女房や近所の女たちを使い、蚕(かいこ)を飼い、繭(まゆ)から
生糸を紡(つむ)ぎ、生糸を使って織物を織り、市場に卸していた。


 家に寄り付かず、遊んでばかりいた忠次が心を入れ替えたと聞いたとき、
母は心の底から喜んだ。
父親の意志を継ぎ、剣術道場をやりたいと言い出したとき、母は目に涙を浮かべた。
気持ちが変わらないうちにと、さっそく縁談をまとめる。



 嫁のお鶴に、お町のような華やかさは無い。
しかし。清楚で、しとやかさがよく目立つ美人だ
ひと目見た瞬間から。忠治はすっかり、お鶴に夢中になった。
お鶴が長岡家にやって来た日から、忠治の生活態度が一変していく。


 寄り道など、絶対にしない。稽古が終れば、道場からまっすぐ家へ飛んで帰る。
叔父の源左衛門と一緒に市場へ行き、絹織物の取り引きなどの見聞をする。 
一緒に群れてきた清五郎や千代松、富五郎たちもあまりの忠治の変りように、
ただただ呆れ果てている。



 「なんでぇ、忠治の奴。口ほどにもネェ男だな。
 あれほどお町に熱を上げていたくせに、お鶴を嫁にもらった途端、
 全部忘れて、女房にべったりじゃねぇか。
 けっ、面白くねぇ」



 「しょうがねぇだろう。
 お鶴も、今井小町と言われるほどの器量よしだ。
 あんな美人を嫁にもらえば、俺たちと遊ぶより、お鶴と一緒に居たいだろう。
 美人の嫁をもらえば、たぶん、俺でもそうするだろうな・・・」


 「ちげぇねぇ。
 それにしてもよく長岡家なんかへ、嫁に来る気になったな、お鶴のやつも」



 「長岡家と言えば、名主も務めたことのある名家だ。
 お鶴が育った今井村の桐生家も旧家だ。
 2人は、忠治の親父さんが生きていたころからの、いいなずけらしい」


 「いいなずけか。それじゃ、しょうがねぇ。
 だがよ。このまま忠治は府抜けたまま、道場の先生になっちまうのかな?」



 「それが忠治が決めた道だ。
 女たちに家を任せて、本気で念流の免許皆伝を取るつもりだろう。
 腕を上げてきたから、最近は、俺も負けることが有る。
 いいじゃねぇか。忠治と俺たちじゃ進む道が違う。
 あいつは剣術の先生になるんだ。
 俺たちはサイコロを頼りに、博徒家業で気楽に生きていく。
 そう決めただ、なぁ、清五郎」



 「そうだな。
 だがよ。大丈夫かな、忠治の奴。
 ああみえて忠治は、どこまでいってもお町にぞっこんだ。
 1年か2年もすれば、嫁のお鶴に飽きがくる。
 そうなりゃまたそのうち、俺たちと一緒に遊び始めるかもしれねえな」

 
 「なんで飽きが来るんだ。美人の嫁のお鶴さんに・・・
 俺には意味がよく分からねぇ」



 「ばかやろう。
 美人は3日で飽きるが、ブスは3日で慣れるということわざがある。
 女はな、見かけじゃねぇ。
 もっと中味をみてしっかり選べと言う、いましめだ。
 そんなことも知らねぇで生きているのか、おめえって男はょ?・・・」

(11)へつづく


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
まだ二人目・・ (屋根裏人のワイコマです)
2016-07-07 19:18:41
四人の女性が出てくるわけですね
これで二人目です・・まだあと二人
楽しみに待ってますね ヽ(^o^)丿
軽井沢セブンツー・・もよくご存知で・・
そちらから一時間ですか? ここ塩尻からも
一時間です。でもいつも迷います
ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-07-08 09:09:05
本編に登場する主な女性が、4人です。
実はそれ以外にも、たくさんの女性が登場します。
最終的に何人になるのか、書いている私にもわかりません(笑)。
ともあれ。国定忠治は有名です。
この作品を通して、歴史上の侠客・国定忠治の人間性に
どこまで迫れるのか、興味津々で書いている、
今日この頃です。

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