奥永さつき

日々のできごとをそこはかとなくつづります。

「日本モデル」の陰の力

2020-05-25 21:07:31 | 社会
 安倍晋三首相は25日、記者会見し、新型コロナウイルスが3月以降、欧米で爆発的に感染が拡大しており、「世界では今なお日々10万人を超える新規の感染者が確認され、2か月以上にわたりロックダウンなど強制措置が行われる国もある」と指摘した。そのうえで「わが国では緊急事態を宣言しても罰則を伴う強制的な外出規制などを実施することはできない。それでもそうした日本ならではのやり方で、わずか1か月半で今回の流行をほぼ収束させることができた」と感染の封じ込めに一定程度以上成功したことを強調した。
 「まさに日本モデルの力を示したと思う。すべての国民のご協力、ここまで根気よく辛抱して下さったみなさまに心より感謝申し上げる」とも語った。(THE PAGE)


「日本モデル」の定義は何か?
「ゆるゆる規制」にもかかわらず国民が我慢強く辛抱したことか?
確かに、報告されている陽性判明者数の変化をSIRDモデルで説明するためには、人人接触削減率が増加したということを考慮する必要がありそうだ。
だが、集中治療ベッドの限界を超えずに医療崩壊しなかった根本原因は(アジア全般に言えるが)日本の死亡率の低さにあり、それがBCG接種なのか免疫系遺伝因子によるのか?「みんな頑張ったね、よかったね」で終わらせることは科学的知見を残さないことになる。
政府も専門家会議も自分たちの手柄にしたいから、「陰の力」を明らかにはしたくないのだろう。
第三者の科学的考察が必要となろう。

それから、世間では第二波が来るとか言っているが、実は、武漢株終息後の欧米株の第二波は既に凌いだので、第三波が来るのは明白で、それに対して再度緊急事態宣下では国民は疲弊するから、SIRDモデルが示すように70代以上にのみ自粛してもらうというのが最良だろう。「年寄り風邪」と言われることと同義だ。
発想の転換ができない現在の専門家会議にそのような最適解を期待するのはほぼ不可能なのかもしれない。
なんだかなぁ。

「42万人死ぬ」は荒唐無稽だったのだろうか

2020-05-20 22:25:53 | 社会
きのうの東京の新規感染者は5人、大阪はゼロである。もう感染は収束したといっていいだろう。緊急事態宣言の「8割削減」の提唱者である西浦博氏は、きのう宮坂昌之氏の批判に答えて、彼の予測が間違っていたことを認めた。
「基本再生産数Ro=2.5で感染爆発する」という彼の予測の根拠は、もともとはっきりしなかったが、きのうは明確にRo=2.5で人口の60%が免疫を獲得するまで感染が拡大するという集団免疫理論が「架空のもの」だと認めた。
その理論は多くの強い仮定にもとづいているが、その最たるものは感染が単純な微分方程式で記述できるというSIRモデルである。ここでは感染の初期から収束まで同じRoで感染が拡大すると想定しているので、それが収束するのは多くの人が集団免疫を獲得したときしかない。(アゴラ、池田信夫)


西浦さんの「42万人死ぬ」は荒唐無稽だったと池田信夫は言うのだが、果たして、そうなのだろうか。以前にも書いたが、SIRモデル(Ro=2.5)でも日々報告される凸凹のある新規感染者数のある時期の山だけをトレースできるし、そのまま行けば「42万人死ぬ」というのも必ずしも荒唐無稽とは言えない。ただ一人数理モデルによる解析を任された学者としては最悪ケースを想定し、意見を述べるということも理解はできる。
SIRモデルにおいてRoは一定なのだが、人・人接触の度合い、手洗いなどの感染削減効果を盛り込むことは当たり前で、そうしないと報告されている陽性者数を説明できない。
アゴラ陣営はBCG接種に派生する自然免疫に頼りたいようだが、BCG接種に頼らなくてもSIRモデルで説明できる。
最近、年代別のSIR微分方程式を解いて経済損失-死者数のトレードオフ下でのロックダウン最適解を求める論文が出ている。
https://www.cemmap.ac.uk/publication/id/14830
日本の対策は、クラスターを発見して、接触者を検査して封じ込めるというものであったが、これは局所的なロックダウンと見なすこともできる。感染削減率を期間に応じて変えることにより、陽性判明者数などをフィッティングできる。
上記論文を参考にして、日本の場合を計算した結果を以下に示す。



ここでは、20-49、50-69、70+の3つの世代に分類し、厚労省データ(5/7付け)の重症者・死者数から集中治療が必要な人の割合、集中治療されている患者の致死率を求めて計算に用いている。簡単化のため感染力には世代差はないとし、回復力は20-49世代を高めにとっている。また、重要な点として、集中治療を必要とする人は100%発見され、集中治療を必要としない人が検査で陽性判明する確率を10%としている。
4/18からは感染削減率を60%(「8割おじさん」の3/4で、専門家会議が報告した実績値にほぼ一致)としている。ここ何日かで、回復者数が急増しているが、報告値の修正と思われる。これに合わせるため、回復率を高くしている。なお、10倍程度の隠れ感染者がいると仮定しているので、現時点での感染者(ほとんどが無症状・軽症で気づかない)と回復者の合計は15万人程度である。もちろん、重症者を見つけ出せば良いので、隠れ感染者は気にすることはない。
5月末に緊急事態宣言を完全に解除して、感染削減率を22.5%と仮定した場合を実線で示す。この場合、10月には集中治療床が現時点で確保されている17,034を超える。超過分の患者の致死率を100%としているので11月中旬の死者は85000程度(現在の米国と同程度)になる。
図中の点線は、70歳以上の方々だけに「自粛」(感染削減率60%)をお願いし、それ以下の世代は通常の生活(感染削減率22.5%)をすると想定したものである。集中治療床制限以下で医療崩壊も起こらないと思われる。この場合、11月中旬の死者は5000人程度になる。2018-2019のインフルエンザ死者数(3000人強)よりやや多くなる。
将来予測は、SIRモデルによる「絵に描いた餅」で、夏季に紫外線の影響でSARS-CoV-2が弱まったりすることもあり得るから、最悪ケースであると考えられる。

経済的損失も含めた最適解を見つけるのが専門家会議の役割のはずだが、いままでのメンバーは感染症や公衆衛生に偏っているため、大局的な指針を示せなかった。さらに言えば、医学関係の人たちは数学に弱いらしく、数理モデルを西浦さんだけに頼っていた。

ここで参考にした論文の著者はMITの経済学者である。



世論に阿っていたら真面な政治はできない

2020-05-18 21:04:17 | 社会
 政府・与党は18日、検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案の今国会成立を断念した。
 安倍晋三首相が自民党の二階俊博幹事長に伝えた。同改正案に対する世論の強い反発で見送りに追い込まれた形で、求心力低下は必至だ。(時事)


小ブログは大抵の場合、世論調査の少数派に属する。
SARS-CoV-2感染症も、こんなものは日本では普通のインフルエンザと変わらないので、指定を解除して、重篤者だけケアして元の生活に戻る、それではICUベッド数が足りないと予想されれば年寄りだけlockdownすればよい、という考え方なので、10%程度の少数派であるのは間違いない。「年寄りだけlockdown」に関しては、それが経済損失-死者数のトレードオフ下での最適解と主張する論文もあるので、目下、日本の場合を計算中で、そのうち計算結果は示したいと思う。
わき道にそれたが、検察庁法改正案に関しても、世論が正しいとは思えない。
「三権分立の破壊」などいう人たちが多いが、そもそも、日本は「三権分立」ではない。立法府の与党の党首が行政府の長を務めるの(「二権」の長が同一)だから、すぐにでもわかる。それから、検察官は行政に属していて司法ではない。司法とは裁判所。そんなことも理解していないのだろうか。
民間では、法律によって、年金受給時期までは(給料は減るだろうが)働けるという仕組みが出来上がっている。一方、公務員はそうではないから、「天下り」先を探す必要もあろうし、そういうことで官民癒着が起こる。公務員の定年を延長して、至れり尽くせりの年金で晴耕雨読でもしてもらって、再就職禁止にでもすれば良いと思っている。

「大衆の反逆」ではないが、大衆が正しいとは限らないし、世論に阿っていたら衆愚政治に陥るだけだ。
安倍さんの経済優先の「ゆるゆるコロナ対策」は支持していたのだが、世論(専門家会議)に阿って緊急事態宣言したり、この件といい、ちょっと長くやりすぎたかなという印象はある。

ところで、日本が「三権分立」ではない根本の理由は、英国に倣って「立憲君主制」に基づいていることである。これを止めるべきだろう。


朝日の得意技

2020-05-12 20:00:22 | 社会
 テレビ朝日の情報番組「グッド!モーニング」で、新型コロナウイルス感染症について取材を受けた医師が「取材内容とはかなり異なった報道をされた」とSNS上で抗議し、波紋が広がっている。同番組は12日の放送で医師の意見を改めて紹介し、「医療現場の声を放送につなげることをおろそかにした」として謝罪した。
 問題となったのは7日の放送。同局から取材を受けた医師の澁谷泰介さんのものとみられるフェイスブック(FB)の投稿によると、テレビ朝日のスタッフから6日朝、「コロナウイルスへのヨーロッパと日本の対応に関して現場の生の声を聞きたい」という取材依頼があり、同日夕方にテレビ電話での取材を受けたという。
 日本のPCR検査の対応に関してコメントを求められた際、澁谷さんは「今の段階でPCR検査をいたずらに増やそうとするのは得策ではない」という趣旨で繰り返し答えたが、実際の放送ではその発言部分はカットされ、ヨーロッパ各国でのPCR検査は日本よりかなり多いという文脈の中で自身のインタビュー映像が流れたため、「PCR検査を大至急増やすべきだ!というメッセージの一部として僕の映像が編集され、真逆(まぎゃく)の意見として見える」と主張していた。
 FBでは一連の経緯が説明されたうえ、澁谷さん本人によるものとみられる「放送を見て正直愕然(がくぜん)としました」「PCR検査に関してはこれから検査数をどんどん増やすべきだというコメントが欲しかったようで繰り返しコメントを求められました」「現場の生の声を多くの方に知ってもらえればと思い取材に応じさせてもらいましたが、実際には生の声すら全く届けることは出来ず不甲斐(ふがい)ない気持ちです」との書き込みがあった。
 同番組は12日の放送で、メインMCの坪井直樹アナウンサーが「木曜日(7日)に放送した際に、『日本は疑わしい人だけにPCR検査をするという世界的に珍しい政策をとっていた』という澁谷医師のコメントの一部を紹介しました」「ただその後、同じVTRで別の学者の主張もお伝えしたことで、結果として澁谷医師もPCR検査を直ちに増やすべきだという主張をしている印象となりました」と説明した。(朝日新聞デジタル)


この件、「澁谷医師」というのがロンドンの大学の、メディア称「WHO顧問」の渋谷健司かと勘違いしてしまった。渋谷健司は確か産婦人科専門で、感染症にどれだけの知識があるのかも怪しげなのだが、日本はPCR検査が足りないと騒いでいる医師だ。そんなに騒ぐのであれば、PCR検査数が日本より圧倒的に多い英国での死者が日本の二桁多い理由を説明せよと言っておけばよいわけだが、福島原発でも騒いだようだから、「アベガー」の部類だろう。マスコミにとっては使い勝手が良いということか。
話が別の渋谷医師にそれてしまったが、澁谷泰介医師の一件は、自分たちの主張を通すために「切りとる」という、朝日系の得意技だ。さらに、朝日を象徴するのが、「誤解を生んだ」という「謝罪」。「事実をゆがめて都合の良いように編集する」という事実がなかったかの如く、二重の虚偽報道をする。
テレビというものは見ないのが良いのだが、コロナ自粛でテレビを見ることでしか「時間の潰しようがない」という人間もある程度はいるのだろう。実に困ったものだ。


イタリアの100日間

2020-05-11 21:41:56 | 社会
3月28日にSIRDモデルにもとづいたイタリアの状況を報告しました。
このモデルは次の未査読論文に掲載されているもので、大まかにいえば、ロックダウン後に感染力と致死率が指数関数的に減少するというものです。
D. Caccavo, “Chinese and Italian COVID-19 outbreaks can be correctly described by a modified SIRD model,” medRxiv
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.19.20039388v1
ただし、この論文では、ロックダウン前後で感染力が不連続になる、感染力が指数関数的に減少してゼロに近づくなどの問題がありましたので、これらを修正しました。

イタリアで最初の感染が確認されてからほぼ100日経って、アクティブな人数より回復者の方が多くなり、第一波は収まった感じです。解析結果は次の通りです。もちろん、Caccavoの論文とパラメータの値は異なります。


モデルの妥当性を検討する必要がありますが、ロックダウン以降報告値に一致してしまうので、このまま行けば、最終的な数値をある程度予測できてしまうという怖さもあるのかもしれません。イタリアの医療関係者によりその予測値が外れることを祈ります。

ついでといっては失礼ですが、米国の状況もシミュレートしました。


落ち着くまでには時間がかかりそうです。

ところで、日本はどうかというと、このモデルでは説明できません。
その理由は、イタリアも米国も第一波を迎えただけですが、日本の場合には武漢株を克服した後に欧米株の第二波が来て、これが死者数を増大させました。
日本の第二波が落ち着いたころに結果を示したいと思います。