ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/01/06 『贋作・罪と罰』で野田秀樹ワールドへ

2006-01-09 20:08:39 | 観劇
歌舞伎ファンの皆様用に冒頭にまず書いておきます。プログラムに載っている蜷川幸雄との対談によると『桜の森の満開の下』を歌舞伎の脚本に書いてるそうです。私にとって未知の坂口安吾原作ですが、楽しみ~!!(お詫びと訂正m(_ _)m当初、太宰治って書きました。両方読んでないのバレバレ~)

昨年の『走れメルス』にはイマひとつ入っていけなかったので『赤鬼』もパスしたのだが、一応ドストエフスキーの原作を踏まえていると思われる『贋作・罪と罰』ならば大きくはずすことはないだろうという予測のもと、野田秀樹ワールドへ再挑戦することにした。
『走れメルス』の時の感想はこちら
そのためのウォーミングアップとして新潮文庫の『おねえさんといっしょ』も読んでいた。冒頭の人物エッセイのあまりの馬鹿馬鹿しさに何度も投げ出しそうになったが、真ん中の演劇関係の対談はとても面白かった。その後のエッセイは掲載した雑誌や新聞に合わせて多彩に書き分けられていて、野田秀樹という才能の幅広さ、奥深さをやっと把握できたのだった。

舞台は対面式舞台。蜷川の藤原『ハムレット』や『KITCHEN』でお馴染みだ。菱形の台の周りに階段が何箇所もついていて、その周りをぐるぐる高低差もある中を動き回れるというのが変化が出ていい。プチプチのクッションシートを巻きつけた4本の柱とか、いろいろな椅子が使われていろいろなものに見立てられてというようなシンプルな舞台。時折、銀色のカーテンが対面の客席から舞台を隠すように引かれてまた開く。
そこに出てくるのは幕末の人物たち。主人公は江戸開成所の女塾生・三条英(さんじょうはなぶさ=松たか子)。塾生たちによってある思想が語られる。『非凡人はその行動によって歴史に新しい時代をもたらす。それによって人類の幸福に貢献するのだから、既成の道徳法律を踏み越える権利がある』彼らに敵視されているのは金貸しの老婆(野田秀樹)。そして英はその思想を実践すべく老婆を斧でメッタ打ちにして殺害(ここで銀色のカーテンが活躍)。さらに偶然戻ってきてしまった老婆の妹までも殺害。金を借りにきた人をやりすごし、まんまと逃げおおせるが、予定外の殺人が彼女を苦しめる。
この殺人事件の犯人は当初左官職人と思われたが、担当捜査官の都司之助(みやこつかさのすけ=段田安則)は、次第に英を疑うようになる。都は執拗な心理戦を仕掛けていく。
英の塾生仲間で親友でもある才谷(さいたに=古田新太)は、英の動揺からくる変化に気づいてその身を案じてくれる。しかしながら才谷は坂本竜馬が幕府方の情報を得るための仮の姿で両者に情報を売る二重スパイのような設定。しかしその目的はお金を使ってでも無血革命を目指していたのだ。
また、英には彼女を一家の柱にお家再興をはかる家族がいた。父(中村まこと)が失踪して死んだと思われていたのだ。三条家の血をひく母(野田秀樹)は英の妹・智(とも=美波)を金持ちの溜水石右衛門(たまりみずいしえもん=宇梶剛士)に嫁がせても姉娘の立身出世を願っている。英はそんな母や妹を非難するが、結婚話はすすめられる。溜水は竜馬とも通じているが、「オペラ座の肝心」もどきの醜い顔をしており芯からのニヒリストになってしまっている。
尊王倒幕の機運は高まり、江戸のまちを「ええじゃないか」踊りが埋め尽くし、薩長軍に対して武装で対抗しようとする塾生たち。しかしながら竜馬の活躍もあり、ついに将軍慶喜(野田秀樹)は大政を朝廷に奉還する。(追記:後から思い返してみると、ここは倒幕派の志士たちの江戸城攻めの場面なのかな?同じ人が塾生をやったり志士をやったりしているからこんがらがっちゃった。)
苦しみぬいた英は才谷による受容・愛を得る。そこで有名な「大地への接吻」シーン。その愛に支えられて自らの罪を告白し、遠い酷寒の地へ流され贖罪の日々を送る。
そしてついに明治維新の大赦によって英は赦されることが決まり、才谷のところに戻りたいと素直に愛する気持ちを謳い上げるが、同じ舞台の上で竜馬が暗殺されて命を落とす場面(その暗殺者が英の父だという皮肉つき)が展開されて、THE END。最後の場面を覆うプチプチのクッションシートがこれも効果的。上を歩くプチプチの音まで面白かった。(追記:これももしかしたら一面雪の場面ってこと??)

休憩なしの約2時間をかなりのスピード感で走り抜けていくような舞台。薩長の江戸城攻めに対するバリケードを昔の小学校で使われていたような木の椅子をくみ上げたバリケードにし、黄色い長い椅子を大砲に見立てるシーンが一番印象に残った。やっぱり『レ・ミゼラブル』のバリケードシーンに直結してしまう私。
さらにプログラムでわかったこと。野田秀樹の学生時代にはすでになかった全共闘運動だったが、その生き残り達による鉄パイプによる内ゲバ殺人を学生芝居のビラ配りをしていた時に1m以内で目撃してしまった原体験があり、それを老婆惨殺シーンに重ね合わせて作品はつくられたのだ。そして「目的のためにはどんな手段を使っても正当化されるのか?」「否!」「それを相手に気づかせ、相手を救うものは?」「愛!」というメッセージが強く伝わってきたのだった。

プログラムにもあったが『走れメルス』とは対極にある硬質な作品だ。こういうタイプの作品には入っていけるとわかる。軽すぎるのはダメ。本を読んでもわかったが、野田秀樹の作品は幅がそうとう広そうなので選んで観れば大丈夫だということがわかった。

さて、キャスト評。
①古田新太が一番魅力的だった。笑いをとりながらも信念を表に出さない飄々とした演技が滲み出ていた。またちょっと引き締められたのかと思うが、松たか子を包み込む場面、しっかりいい男になっていた。こういうところが魅力なのね、と開眼した。
②段田安則×野田秀樹を初めて観たが、やっぱり息が合っていると感心。『将門』で起用した蜷川幸雄がプログラムの対談でいい役者だと絶賛していたが、本当にそう。
③松たか子はこういう気位高く思いつめるような硬質な役は合っていると思う。涙でくしゃくしゃの大熱演だった。
④宇梶剛士、カッコいい!背も高いし、がっしりしてるし台詞も通るし、マスクかぶってて正解。そうじゃなきゃカッコよすぎるもの。智に嫌らしくせまるくせに結局思いをとげられずに自殺ってちょっと可哀相な役だった。
⑤役者としての野田秀樹。女役というかおばさん役・お婆さん役、よすぎる!英の母が化けたっていう変なワープをみせた慶喜の姿にも感心。
⑥塾生役の右近健一にもひとこと。『SHIROH』ですっかり御贔屓になっているのだが、彼の甲高い声の謎が溶けた。QUEENの日本語訳バンドをやっているとプログラムにあった。そうか~、フレディ・マーキュリーばりにボーカルやってればこうなるわな~。ガッテン。

とにかく野田秀樹ワールドへの苦手意識も薄まって早速次回も面白そうなら読もうと決めた舞台だった。

写真はNODA・MAPのHPより。実際の舞台の衣装や髪型とは異なっている。
下記はご参考まで。
『おねえさんといっしょ』内容(「BOOK」データベースより)
見よ!日本出版史上に輝く驚愕の名著!孤高の天才野田秀樹の埋もれたる業績を発掘、文庫オリジナル駄文集大成として,堂々の刊行。美空ひばり、松田聖子から長島茂雄まで徹底的にめった斬りする「おねえさんといっしょ」から、川崎徹、奥野健男、野坂昭如、扇田昭彦、中村勘九郎各氏との対談、さらに’82年から’91年までの全雑文を収録。南伸坊画伯の挿画入り。


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6 コメント

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うらやましい…っ! (キナ湖)
2006-01-10 10:58:26
『桜の森の満開の下』の歌舞伎化!!それは…美しい舞台になりそうです~

『贋作罪と罰』は気になったもののチケット争奪に乗り遅れてそのまま…やっぱ見たかったと後悔。

WOWWOW(一念発起して加入!)で放送されるはずなので、それを待つことにします。ナマの迫力には敵わないと思いますが…
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行ってきました (mayumi)
2006-01-13 20:17:22
昨日 行ってきました。

私は、昔から野田ワールドは結構好きなのですが、

今回に関しては、演出は素晴らしいと思ったものの

ちょっと思うところ有りでした。
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古田さん、いいですね (サム)
2006-01-14 11:51:52
はじめまして

昨年末、『贋作罪と罰』に観に行って、

バランスが取れてて、よいお芝居だなと

満足して帰ってきました。



あの、『桜の森の満開の下』は、

太宰ではなく、坂口安吾かと。







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皆様ありがとうございますm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-01-14 12:14:13
★サム様

>太宰ではなく、坂口安吾かと

...ご指摘ありがとうございます。両方読んでないのバレバレです。なんか暗い男の小説家というイメージでくくられてまして...。野田さんの本の中にも両者の違いを説明した文章があったと記憶してるんですが、まだまだ無知に近い私です。早速本文中に訂正とお詫びを入れておきました。これからもよろしくお願いします。



★キナ湖さま

>WOWWOW(一念発起して加入!)で放送されるはずなので、それを待つことにします。

ってこちらこそ羨ましい!私も住宅ローンのメドがついたらケーブルTVに入って家でも話題の舞台が観られるようにしたいと思ってます。

★mayumiさま

TBありがとうございます。bunkamuraでのハシゴとは贅沢な時間を過ごされましたね。松たか子のイラストも超ステキ!スチール写真より舞台の衣裳・ヘアスタイルの方がカッコよかった!それが髣髴としてきました。

>話を幕末に持って行ったのでは 筋が通らない

っていうのは確かにねえという気がします。でもどうしても権力闘争の頃にしたかったんでしょう。そうなると日本ではよい時代がないと思われます。片目つぶってかな。

TB返ししたいのに何回やってもうまく飛んでいかずにじれております。gooどうしのTBがうまくいきません。じれて一本記事起こしてしまいました(^^ゞあと何回か頑張ってみるつもりです。

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遅いコメントでごめんなさい (こやま)
2006-02-03 00:21:43
詳細な感想に、記憶がよみがえってきました。

なによりフルタくんを誉めていただけてうれしいです。板の上の彼は、無類のイイオトコだと思っていますので♪

それと、『贋作 桜の森の満開の下』は名作だと思ってます! もともと歌舞伎調な演出も見うけられましたが、本物の歌舞伎になるとどう展開されるのだろうと考えると、わくわくしてきます。
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TB、コメントありがとうm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-02-03 23:30:11
★「たまごのなかみ」のmayumiさま

今度はうまくTBが飛んでいきました。成功するときとうまくいかないときと何が違うのでしょうねえ。でも成功して嬉しいです。



★「酒と芝居の日々」の花梨さま

再観劇の方の記事のTB確かにいただきました。ありがとうございますm(_ _)m

野田さんの遊眠社時代は私が観劇から遠ざかっていた頃なので未見です。オペラや歌舞伎から野田秀樹に入った変な客です(^^ゞ野田歌舞伎の第3弾を楽しみにしています。普通の芝居の方も少しずつ観ていこうと思います。



★「持続する夢」のこやま様

TB、コメントありがとうございますm(_ _)m超多忙なお仕事からのご生還?お待ちしておりました~。

レンタルT屋にレンタル半額の日を待ってビデオの『贋作 桜の森の満開の下』を借りに行ったら在庫がなくなってしまっていて他店からの取り寄せも依頼したのにどこにもないと言われて悔しい思いをしたことがあります。借りる人がほとんどいなかったようです。確かに古い作品ですからね~。だから歌舞伎版が全くの初見となるのです。楽しみだな~。

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