ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/12/06 日米開戦前後の『元禄忠臣蔵』

2006-12-07 23:58:16 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)
国立劇場開場40周年の記念公演3ヶ月連続の『元禄忠臣蔵』の観劇は見送った。真山青果の台詞劇を3ヶ月連続で緊張感を保つ自信がなかったからである。通し上演といえば蜷川幸雄演出の『グリークス』は3日連続通ったあの頃のハイテンションが懐かしい。いや、今でも十分テンションは高い方なんだろうけれど、持続しにくくなっているのだ(^^ゞ

BS放送でエッセンスを観たいとお茶屋娘さん(正確には息子さん!)に録画をお願いした。さらにお誘いをいただいたので溝口健二監督の映画『元禄忠臣蔵(前篇・後篇)』をフィルムセンターに観に行くことにした。なんだかんだこだわってるじゃないか、私。
12/6 国立近代美術館フィルムセンターに初めて行く
行ってみて初めて気づく。溝口健二没後50年特別企画の一環だったのだ。写真もたっぷり入った『はじめての溝口健二(映画カタログ)』という立派な資料が1000円で売られていたので即購入。
以下、公式サイトより概要を抜粋(いずれも35mm・白黒)。
(原)眞山青果(脚)原健一郎、依田義賢(撮)杉山公平(美)水谷浩(音)深井史郎
【前篇】(112分)1941年(興亜映画)
(出)河原長十郎、中村翫右衛門、河原國太郎、嵐芳三郎、坂東調右衛門、助高屋助藏、瀬川菊之丞、市川笑太郎、三浦光子、瀧見すが子、岡田和子、山路ふみ子、京町みち代、中村梅之助、三井康子、山岸しづ江、小杉勇
溝口の時代考証への熱意に応え、美術監督・水谷浩は原寸大の「松の廊下」セットを作ったが、まったく写らないところまで実に精密に作ったため、さすがの溝口も驚いたという。なお、この前篇封切りの直後に日米が開戦している。
【後篇】(106分)1942年(松竹京都)
(出)河原長十郎、中村翫右衛門、中村鶴藏、河原國太郎、嵐芳三郎、坂東調右衛門、助高屋助藏、瀬川菊之丞、市川笑太郎、梅村蓉子、山路ふみ子、三浦光子、峰三枝子、河津清三郎
セットまで完成していながら「忠臣蔵」につきものの討入りシーンを撮らなかったことで知られる後篇。引き続き隙のない作りを見せ、結局、討入りの様子は間接的に語られるという方法が採られた。映画統制のため興亜映画は松竹に吸収され、後篇の製作は松竹が引き継いだ。

きれいな施設に座席も気持ちよく傾斜もあって見やすいシアター。映画の最初にスタッフキャストの名前が巻物を読んでいくように出てくる。まず感心したのが時代考証をお願いした人たちの名前が何人も出てきたこと。武家建築○○氏、民家建築△△氏・・・・・能××氏などと敬称つきで列挙されている。なるほど松の廊下は素晴らしいセット。刃傷の場面は絵的にも優れていた。ところがすぐにちょっと後悔。多くの侍が何を言っているのか台詞がききとれないのだ。寝てしまうかも~と危惧していたら河原長十郎らの主要メンバーが出てきて台詞がちゃんと聞き取れるようになっていったらググっとドラマに入っていけた。もしかして録音技術レベルの問題ではなくてうまい俳優と下手な俳優のレベルの差?。前編後編の間に買った『はじめての溝口健二』という資料を読むとはたして書いてあった。前進座以外の俳優の台詞回しが悪かったという。やっぱり~。
真山版の『元禄忠臣蔵』は二代目左團次が上演したので、関係の深い前進座が上演を続けていたということがあって映画化の際も前進座中心のキャストになったらしい。
とにかく河原長十郎の内蔵助が立派だった。低い声で淡々としゃべる台詞がずずず~っとしみとおってくる。他は登場人物の名前もまだちゃんとわかっていない状態だが、井関親子のうち息子の方が中村梅之助だったと思う。
時代を感じてしまったのが、京都に詰めていた家臣から禁中の方々が浅野内匠頭に同情的だったときき、皇居の方に有難いと感謝の気持ちを述べる場面。なるほど~。宮城(きゅうじょう)参拝ね。その時にもうひとつ感心したことは平伏する時の長十郎の身体の形。歌舞伎の口上でも役者によってこの形の違いを感じるが長十郎の身体の低く平べったくなること!身体の関節とかどうすればこうなるかという形が身についているいないが如実に出てしまうのだろうなぁとか思いながら見ていた。

私がこれまでずっと疑問に思いながらほっぽらかしていたこと。弟の大学をもって御家再興の願いを出したことと敵討ちの関係。今回ようやく謎がとけた。内蔵助も失敗だったと思ってずっと苦しんでおり、幕府方の判断を待つ間に放蕩していたというわけだ。なぁるほど~。それが却下されて始めて動き出せたのだ。実はこのあたり、勘九郎時代に大河ドラマをやっていた時も真面目に観ていなかったあたりなのだ。ようやくスッキリ~。

昨年に歌舞伎座でかかったけれど観ていない「大石最後の日」の十郎左衛門が河原國太郎、おみのが峰三枝子だった。こういう悲恋だったんだな。
それと市川右太衛門が綱豊卿で特別出演。旗本退屈男でお馴染みだが子どものころTVで観て大好きだった。カッコいい役だねぇ。劇中のお能の演目も「船弁慶」でなんとなく嬉しかったりした。(お詫び訂正)「船弁慶」では間違いで「望月」が正しい。
しかしなぜに後編の冒頭にくるんだろう。前編の終わりとだぶっておかしいなぁと思って終了後に資料を読んだらやはりわけがあった。撮影が間に合わず前編の封切りが迫っているので綱豊卿のくだりは後編にまわしたらしい。そのために後編の冒頭に予定されていた場面がカットになったりして大変だったという。最後の討ち入りの場面もなんのことはない、撮影が間に合わなくなったから撮らずに語りですませたと資料にあった。うーん、現代よりは映画も量産されていた時代、スケジュールが相当おせおせだったようだ。
溝口健二こだわりの長回しがけっこうよかったのだが、場面場面がブツブツ切れてしまったのはこの時代では仕方がないのか、それともやはり時間切れなのか。
もう一箇所記憶に鮮明な場面。山科の閑居から妻のおりくが離縁を申し出、娘と下の息子を連れて実家に戻る駕籠を見送る力と後から内蔵助が出てくる場面を遠く手前から撮影していた。距離の差と時間の差をうまく計算して絵をつくっているなと思った(追記:閑居の茅葺民家の造りも重厚な出来。さすが民間建築の時代考証家をつけているだけある)。

ちょうどこの映画が封切られて65年がたったのだなぁ。明日12/8は日米開戦の日だ。戦勝国となったアメリカは戦後しばらく「忠臣蔵」などの歌舞伎の人気演目の上演を禁止した。GHQの中に歌舞伎を応援するバワーズ氏がいたために解禁されていったというが、政治と文化の関係というのもまた面白いものだ。

アマゾンを検索したらDVDがあった。写真はその画像。
出演者代表の河原長十郎の名はあるが、監督名も出ていなかった。けっこうこういう不備って少なくないんだと思った。
追記(つまらないことだけど)
第二の使者が届けた内匠頭の辞世の句を内蔵助が読み上げた場面でひらめいたこと。岡田准一主演の映画『花よりもなほ』のタイトルの由来がわかった!仇討ちしなければならなかった侍が長屋の人々とのふれあいの中で仇討ちをやめて生き直すという物語らしいが、それをもじったのかぁ。そちらの評判もいいみたいだからレンタルででも観てみたいな。


最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いつも私の分まで (yukari57)
2006-12-08 01:52:09
ご丁寧なアップ感謝します。凄いわあ。
返信する
いいな~大画面 (かしまし娘)
2006-12-08 15:43:09
ぴかちゅう様、まいど!
TB&コメントありがとうございます!
>御家再興の願い
他の「忠臣蔵」映画では、サラ~っと流してしまっているので、もっと詳しく知りたいと思ってました。
私は「元禄~」の原作を読んで、やっとガッテン! 映画でもそこんとこ、押さえてくれてるんですね。

大画面で御覧になったとは羨ましいぃぃぃ。来週「時代劇専門ch」で見ます。小さい画面だけど…トホホ。
出演者も楽しみだし、溝口作品だから「底の深~い」物語になってるんだろう、と今からワクワクです!
市川右太衛門も出てるんですね!ヒヤ~!ダイナミックだろうな。またまたワクワク!!
返信する
皆様、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-12-09 13:45:14
★yukari57さま
フィルムセンターの「元禄忠臣蔵」をお誘いいただき有難うございましたm(_ _)m
こうしてお声をかけていただかないとなかなか行けないんですよ。ちゃんと公式サイトをお気に入りに入れましたよ~(^O^)/
★かしまし娘さま
下記の”『忠臣蔵』映画のゆうべ”の記事を読ませていただき、その中で列挙されていた映画の中にある作品だと思っていたら違いました。http://blog.goo.ne.jp/mkta5245/d/20061014
時代劇専門chで来週見られるとのこと、さすがに12月のラインナップですね。感想のアップを楽しみにしていま~す。
返信する
遅ればせながら (お園)
2006-12-10 21:31:49
こちらもTBさせて頂きます。



出演者が前進座チームとは、よさそうですねぇ~。

溝口健二の視点にも興味アリます。よさそうですね~。
返信する
続・皆様、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-12-10 22:03:55
★「大入り!文楽手帖」のお園さま
溝口健二監督の「元禄忠臣蔵」は前進座メンバーが忠臣、いや中心を固めてました。すごく渋く光る内蔵助でした。綱豊卿は旗本退屈男でお馴染みの市川右太衛門が特別出演!あの華いっぱいのお顔と声で綱豊の名台詞を言ってくれたんです~。ここは一番華~の場面。お園さまのブログでその台詞も紹介されているので嬉しかったです。
今月は東京の文楽公演がある月なのでそちらも楽しみで~す(^O^)/


返信する

コメントを投稿