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6/5の澤瀉屋の団体襲名披露公演初日昼の部の「口上」の記事はこちら
その前の昼の部の最初の演目は、九代目襲名の中車主演の「小栗栖の長兵衛」。香川照之の舞台は、藤山直美が与謝野晶子で主演した「妻をめとらば-晶子と鉄幹-」の夫鉄幹役で観ている。映像では大活躍の香川が舞台ではどうか一度観たくて行ってホクホクになって帰ってきたものだ。妻への想いを語る最後の長台詞が堪能させてくれた。だから歌舞伎転身にも全く心配していなかった。
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【小栗栖の長兵衛(おぐるすのちょうべえ)】
以下、あらすじ、みどころ等を「歌舞伎美人」から引用、加筆。
小栗栖村の長兵衛(中車)は、博打や酒、喧嘩に明け暮れて、村人には嫌われ、父長九郎(寿猿)にまで見放される乱暴者。今日も馬を盗んだ疑いをかけられ、怒って暴れ廻ったため、村人たちに簀巻きにされてしまう。しかし、村に現れた秀吉の家臣堀尾茂助(月乃助)の尋ねによって、長兵衛が謀反の大将明智光秀を竹槍で討った手柄者だと分かると、皆の態度は一変。長兵衛を村の英雄だと褒め称える。長兵衛は英雄の証である竹槍を手に、秀吉の陣のある京へと向かう。
山崎の合戦の後、明智光秀が農夫に襲われ命を落とした史実を背景として、岡本綺堂が浅薄な人間の姿や大衆心理に風刺を込めて描いた新歌舞伎の名作。大正九年に初代市川猿翁(当時猿之助)が初演して以来の澤瀉屋の芸に、中車が挑む。
<その他の出演>
妹おいね=笑三郎 七之助=門之助
馬士弥太八=右近 巫女小鈴=春猿
僧法善=猿弥 庄屋=欣弥
猟人伝蔵=弘太郎
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開幕すると小栗栖村の人が幹線道路(笑)沿いの茶店の前。大勢の登場人物が延々と長兵衛の悪口大会を繰り広げる。親不孝の総領息子をもった父親を心配するという風で村人たちが延々と長兵衛の悪行を並べ立てる。妹おいねと婿の七之助が孝養を尽くしていると誉めたてて、父親も長兵衛のことはあきらめているといった態をみせる。馬士弥太八からは、馬を盗まれて隣村の者に売られてしまったという抗議までくる始末。
そんなところに庄屋と僧法善がやってきて山崎の合戦の状況や権力をとった秀吉が百姓が足軽の真似事をすることを禁じたことを村人に伝えにやってくる。猟人伝蔵は落武者に向けて鉄砲を撃ってしまったが弾はそれ、獲物と間違えたということにして不問に付すことにする。けっこう、ここまでが長い芝居になっているが、澤瀉屋の一門の芝居がよくて飽きさせない。
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そこに花道から新中車の長兵衛が登場。村の八幡神社の巫女の小鈴を無理矢理連れてきて自分の酒の相手をさせようと茶店の床几にどっかと座りこむ。みなの非難にも悪びれず、一旗揚げようと山崎の合戦にかけつけたと言い放ち、親きょうだいや村人たちを見下してこけにする。
新中車は、大河ドラマ「龍馬伝」の岩崎弥太郎がこれでもかというくらい汚く因業だったので、長兵衛のような汚くて破壊的な悪党役での襲名も全く違和感がない。明快な台詞が小気味よく、台詞が下手な役者よりよほど芝居を堪能させてくれる。
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村人たちは怒り狂い簀巻きにして川に放り込もうと庄屋に息巻く。父親も早く勘当すべきだったと言い、法善も黙認する(仏罰が当たるってことで慈悲の対象にはならないらしい)ので、みんなで寄ってたかっての大乱闘の末、ぐるぐるの簀巻きにしてしまう。大勢での立ち回りの中での新中車の動きはよく動いて頑張ってはいるが、舞踊の動きが身についていないせいか、歌舞伎の立ち回りの所作になっていない。ためをきかせたり緩急をつけたりができないと長丁場の立ち回りはどうしても飽きてくる。これからの修行に期待しよう(^^ゞ
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そこに秀吉の家臣堀尾茂助がやってきて状況は一変する。敵の大将明智光秀が百姓の竹槍で刺されてついに自刃をしたということで、手柄を立てた者の詮議にやってきたのだ。尋ねても皆は知らぬ存ぜぬを決め込むが、長兵衛が名乗りを上げる。
簀巻の中から放たれて、どうも自分が竹槍で突いた切っ先を斬り落として去った武将が光秀だったのではないかと言う。堀尾が示した光秀の血糊のついた竹槍の切っ先と長兵衛のそれの切り口が一致し、秀吉の恩賞をもらえることが判明。身支度をしてから京の秀吉の陣に赴くことになる。
段治郎改め月乃助が颯爽としていてよい。こういう役ができる役者はこの座組みでは貴重だ。
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そこから村人たちの態度がころっと変わる。長兵衛は村の英雄扱いになり、父親も自慢の総領息子と持ち上げ始め、娘夫婦を貶める。小心な俗物たちがいともたやすく心変わりする様子を皮肉いっぱいに描いている。
馬士弥太八の馬を差し出させ、竹槍をかついで堂々と京に向かうということで花道を引っ込むが、客席からの拍手喝采は大きかった。歌舞伎のお目見え初狂言で堂々たる主演をつとめたといえよう。既成概念をぶちこわして新しい世の中に旅立つ主人公のお役というのも、新中車の46歳での異例の歌舞伎役者人生のスタートにふさわしい。
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新猿之助と新中車、主役ができる澤瀉屋の二枚看板が大きく掲げられた。三代目猿之助が病に倒れて以来、玉三郎や市川宗家をいただきながら結束を守ってきた一門が、新たな大看板を二つ得て歌舞伎界の中で新たなスタートを切った芝居を観ることができた。
歌舞伎というのは座頭役者が新旧交代をしながら、その真価をつないでいくものなのだと、長く観続けて体感できた。そのことが実に嬉しかった。
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冒頭は、今月公演のチラシ画像より上の方をトリミング。右端の汚いのが新中車の長兵衛。
次はいよいよ新猿之助主演の「四の切」を書く!
御園座の長兵衛も面白い役で客席が沸いていて良かったです。歌舞伎の立ち回りやセリフ回し、難しいでしょうね。私はあんまり歌舞伎に詳しくないので。子供の時踊りの稽古はしていなかったのでしょうか。
昼の部では一番笑える演目なので。
夜の部を観た友人夫妻は四の切りの猿之助に大感激、歌舞伎に興味ない方たちですが。中車には感心しないと言っています。私は香川さんの俳優やキネのエッセイのファンなのでその思いを遂げさせてあげたいです。歌舞伎界も新しい風が吹いて良かったと思います。
朝日新聞劇評もとてもよかったです。
TB出来ないので、又やってみますね。
父と同じ舞台で共演することができたのは大阪松竹座初日だけになっています。NHKがドキュメンタリー映像にしてくれて1/6にオンエアされたのは本当によかったと思います。