2008年の歌舞伎座團菊祭で「通し狂言 青砥稿花紅彩画」が上演され、その時が菊五郎の一世一代の弁天小僧になるのではないだろうかと思われて、そのように記事を書いている。
ところが歌舞伎座こけら落し公演の弁天小僧も菊五郎ときた。70歳での弁天というのはかつてないことらしい。團十郎が演るはずだった日本駄右衛門を吉右衛門が代わっている。菊之助が浜松屋宗之助ということで、父と岳父と同じ舞台に立つ楽しみな演目となった。
<第二部>
【弁天娘女男白浪】
「浜松屋見世先の場」より「滑川土橋の場」まで
今回の主な配役は以下の通り。
弁天小僧菊之助=菊五郎 南郷力丸=左團次
日本駄右衛門=吉右衛門 赤星十三郎=時蔵
忠信利平=三津五郎 浜松屋幸兵衛=彦三郎
浜松屋宗之助=菊之助 鳶頭清次=幸四郎
岩渕三次=錦之助 関戸吾助=松江
狼の悪次郎=市蔵 木下川八郎=團蔵
伊皿子七郎=友右衛門 青砥左衛門藤綱=梅玉
武家娘に化けて花道を登場した菊五郎の弁天は、可愛い娘には見えないが、左團次の力丸との台詞のやりとりが絶妙で芝居の世界に引き込まれれば全く気にならない。
浜松屋見世先での橘太郎の番頭以下とのやりとりも観ていて気持ちがいい。幸四郎の鳶頭だけがどうにもちょっと浮いているが(^^ゞ
彦三郎の幸兵衛が出て二人の強請が成功と思いきや、吉右衛門の駄右衛門が弁天の正体をあばいての菊五郎の名台詞。弁天小僧を初演した五代目菊五郎の芸風を継承する当代のこれが本当の一世一代になるのではないだろうか。
こんなに台詞を聴かせる菊五郎の至芸の弁天小僧を堪能できた幸せを噛みしめる。
「稲瀬川勢揃の場」は、菊五郎、左團次、三津五郎、時蔵、吉右衛門が揃う贅沢なもの。3階B席では以前よりは花道の七三がみえるものの、ズラリと並ぶ様子は見えず、台詞が響くのに聞き惚れるだけだが。正面に揃い直して立ち回り、絵面に極まるのを観る楽しさ、感無量。
大詰、「極楽寺屋根立腹の場」は菊五郎の70歳の奮闘ぶりが伝説となるだろう。悪次郎に重宝の香合を川に落とされて、絶望の果ての立ったままの切腹自害。大屋根ががんどう返しになる中を最後までふんばる姿は忘れない。
仕掛けが大きくせり上がっての「極楽寺山門の場」は「楼門五山桐」の五右衛門のように日本駄右衛門が門の上から台詞を響かせる。名場面は異なる狂言でも多用するというのが歌舞伎の融通無碍というところだ。気力がみなぎる吉右衛門の駄右衛門、美味し過ぎる。
「滑川土橋の場」で家来が拾い出した香合をもった青砥左衛門藤綱が登場して駄右衛門と天地で極まる。潔く捕縛される覚悟の駄右衛門をいったん解き放つ放生会という歌舞伎のお約束の幕切れ。2008年の舞台では富十郎が演っていた青砥を梅玉。ここのところ、舞台を締めくくるにふさわしい品格と貫目が出てきたようで喜ばしい。
かくして第二部の「弁天娘女男白浪」も堪能。敬意を表して歌舞伎座新開場杮葺落記念のホログラムのしおりを買ってしまった。角度を変えて撮影した2枚の写真を組み合わせて冒頭にアップしてみた。
4/14歌舞伎座新開場杮葺落四月大歌舞伎(1)第一部の前半の記事
4/14歌舞伎座新開場杮葺落四月大歌舞伎(2)贅沢な大顔合せの「熊谷陣屋」
菊五郎の弁天の誉め方が実によいです(笑)