ニュージーランド移住記録:日記「さいらん日和」

2004年に香港からニュージーランドに移住した西蘭(さいらん)一家。子育て終了、仕事もリタイア。好きに生きる記録です。

年を越えられなかった命

2005-12-29 | ペット・動植物
気の置けない友人たちと年内最後のパーティーをした昨夜。11時近くにお開きとなり、全員が外に出て、
“Thank you for coming!”(来てくれてありがとう)
“Happy New Year!”(よいお年を)
と挨拶を交わし、お互い手を振りながら1台目のクルマが出ると、なんと、その後に黒い毛玉のようなネコが! 友人のクルマが停まっていたところに、うずくまっていたのです。

「危なかったね~」
と言いながらも、あまりのかわいさにその場にいた全員が思わず笑ってしまいました。直前まで大雨が降っていたので、お散歩に出たはいいものの、雨宿りをしているうちに身動きが取れなくなってしまったのでしょう。

後続のクルマにネコがいることを指差すと、すでにわかっていた彼らは大きくうなずきました。最初に出たクルマがUターンをしようとした時、パっと後方からヘッドライトが輝き、角を曲がって2軒先の隣人のクルマが入ってきました。
「あっ、ネコ!」

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「このネコ、いつも道で寝てるんだよ。」
先日初めてこのネコを見た時、次男がそう言いました。私たち一家は外出から帰ったところで、ネコは私たちのクルマの真ん前、隣家の前の道の真ん中に寝そべっていました。初めて見る猫でした。小柄ながら仔猫ではなく、情報通の子どもたちによれば3軒先のネコやイヌを十数匹飼っている動物好きの年配の女性のネコだそう。

「危ないよ~」
と私が口に出す一方、夫はネコの手前でクルマを左折させ自宅の敷地に停めました。
「アスファルトはあったかいから、道で日向ぼっこなのかな?」
そう思いつつ、家に入ったものでした。
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ニュージーランドの夜の住宅街ですから、街灯などあってなきがごとし。特に私の家の前の道は、数軒先で行き止まりになっているため、ほとんど灯りがありません。ネコは友人のクルマが停まっていた場所からすっと道の中央に出、反対側に渡っていきそうでした。

ところが、もう一台のクルマが入ってきたためか足を止めました。隣人のクルマは走り慣れた道のせいか、夜のこんな時間にしては驚くほどのスピードで入ってきました。
「あっ、ネコ!」
と思ったものの、ネコは、Uターンのために停車している友人のクルマのすぐ脇に座っており、直進してきたクルマとの距離は十分あるように見えました。

しかし、入ってきたクルマはいきなり左折し、私が思っていたよりもかなり手前から、自宅の敷地に入ろうとしました。
「あっ!!!!」

一瞬の出来事でした。ネコの体の一部、多分後ろ足が、妙な形で持ち上がるのが、闇夜の中でもはっきり見えました。3台のクルマのライトが濡れた道に反射し、いつもより明るかったためでしょう。
「ひかれた?!」

背筋を冷たいものが走り、立ちすくんだ瞬間、ネコは起き上がり、弱々しくも弾かれたように脇に飛びのきました。
「まさか・・・」
慌てて駆け寄って抱き起こすと、1本の足がだらりと垂れ下がっています。

隣人がクルマから飛び降りてきて、
“Oh, my god!My god!”
と繰り返しています。私たちや子どもは飼い主の家に走りました。
「どうしよう。時間外でも受け付ける、緊急の獣医がマヌカウにあるって聞いたことがあるけど、この飼い主はクルマがないはず・・」

ネコを轢いた隣人が、
「私が持つわ。」
と言って私の手からネコを受け取り、飼い主のドアをノックしています。すぐにナイトガウンを羽織った女性が現れ、
“Oh,dear”
と言う声が聞こえてきました。
そこまででした。私の視界は涙で埋まり、心配して残っていてくれた最後の友人のクルマを見送るのが精一杯でした。

入れ違いで夫が様子を見に行ってくれたので、家に戻り、ソファーにへたり込んで泣き崩れてしまいました。
「どうして、最初に見つけた時、抱き上げなかったんだろう?」
「人間の子どもだったら、真っ先に動いていたはずなのに。」
「どうして見守ってしまったんだろう?」
「どうして何もできなかったんだろう?」
「どうして・・・・」
「どうして・・・・」
どんなに痛かったことでしょう。何人も人がいたのに、自分も含め、何もできなかったなんて。

「ダメだった。」
しばらくして戻った夫が頭を振り振り言いました。彼の立っていた位置からはネコの体が轢かれるのが見えたそうです。タオルに包まれたネコはすでに息絶えていたらしく、飼い主に頼まれて瞼を閉じようとしたものの、どうしても開いてしまい、ネコは目を開いたまま逝ったそうです。最期まで飼い主を見ていたかったんでしょう。

9歳だったそうです。多分、視覚や聴覚に問題のあるネコだったのでしょう。普通、クルマの下にいても、人の気配、ましてやクルマにエンジンがかかったりすれば、一目散に逃げ出すはずですが、友人のクルマが出ても、ネコはそこにうずくまっていました。
あの時にネコの何らかのハンディに気付くべきでした。

どんなに後悔しても追いつけない、新年を迎えることなく逝ってしまった、小さな命。まるで私たちに何かを教えるように、目の前ではっきりと絶たれた命。
ネコは何を教えてくれようとしていたのでしょう?

今でも柔らかな毛の感触、華奢で軽い身体の感じが掌に残っています。声を立てることもなく、雨上がりの暗い道でたくさんの人に見つめられながら逝ってしまったネコ。
救ってあげられなくて、本当にごめんなさい。

最期の一瞬だけでも、まだ命があった温かいあなたに触れられたことが、せめてもの救いです。これから道で出くわすすべてのネコをあなただと思って、今まで以上に声をかけ、触れるものなら撫でてみるわ。どうか痛みも苦しみもない場所でゆっくりと心置きなく眠ってね。
Rest in peace.

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ネコ好きの友人もまったく同じ日に、同じような経験をしていました。これも何かの思し召し。
何かの理由で年を越えられなかった小さな命の冥福を祈ります。

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