ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

サスペンス・ドラマに出演(その1)

2013-02-13 02:05:54 | 能楽
伊豆の子ども能の発表の前日、テレビドラマの撮影に行って参りました。
同じ観世流の能楽師、Nさんからご紹介頂いたお仕事なんですが、とっても興味深かったのでご報告です~

ドラマのタイトルは『金田一耕助VS明智小五郎』。最初このタイトルを聞いた時は、なんてうさんくさい。。と思ったのですが、頂いた台本をよく読んでみたところ、とっても感心したのでした。

ともあれ、まずはこのお仕事をご紹介頂いた能楽師Nさんに内容についてのお話しを伺い、さて助監督さんと、まずはメールで説明を頂いたときには、とても引き受けられない内容なのではないかと思いました。なんというか、人間の心の二面性を表すために、なんでしょう、面を二つ重ねて、それを外す所作をしてほしい、とのこと。これについて、ぬえに話を頂く前にすでにNさんが『現在七面』や『大会』の例を挙げて助監督さんと相談して頂いたようなのですが、監督さんの意向としては物着ではなく正面を向いたまま面を替えてほしい、とのこと。Nさんもこれは少し困ったようで、物着まではいかなくとも、シテが後ろを向いて着座して面を替え、それをカメラのカット割りや編集で調整して「早変わり」にしたらどうか、と提案されたようですが、監督さんはあくまでも正面を向いたまま、面の下からもう一つの面が現れる場面を撮りたいのだそうです。ぬえも新たに『葵上』などの提案をして、カット割りでの編集を申し入れたのですが、やはり監督さんのこだわりは曲げられず。。一時は能の出演は無理、大衆演劇などほかのジャンルの役者さんに変更か? という場面までありました。

ぬえもよく考えて、師匠とも相談をして『現在七面』を少しアレンジして上演することでお引き受けする事に致しました。すなわち「物着」を正面に向いたまま行う改変をし、それに従って『現在七面』の物着で奏される「イロエ」で少々型をする。装束は替える時間はないので物着あとの天女の装束で最初から演じて、そのまま替えない。あくまで新作を作るのではなく古典の曲のバリエーションとして演じるスタンスを崩さないことにしたのです。撮影当日に現場で新たに演出の要求を出されても、師匠の承知していないことは出来ないことは予め助監督さんにもお伝えしておきました。

こうしてようやく演出に得心がいった ぬえ。さて以前にも映画の撮影には地謡としては携わったことがあります(『必死剣 鳥刺し』)が、ホントにこういうお仕事は朝が早いですね~。撮影は都内の神社の神楽殿だったのですが、朝7:30集合とのこと。都内といっても ぬえが住んでいる場所からは東京の端から端までの移動で、始発の電車に乗らなきゃ間に合わないです。じゃ、少しでも乗り換えの少ない方が、装束の運搬のうえでも有利だろう、と助監督さんに頼んでロケバスに乗せて頂いたのですが、それでも新宿発が朝の6:00でした。。それもこの日はエキストラさんも多いとのことでロケバスは5~6台もあったでしょうか。これらが群れを成して早朝に出発~~

撮影会場に到着してみると、なるほどよく調べたもので、雰囲気のよろしい神社でした。ミーティングもなく、ぬえは神前にご挨拶をして、神楽殿のすぐ後ろに設えられたテントを楽屋に装束の準備。やがて午前9:00から撮影が始まりました。

主演はジャニーズの山ピーこと山下智久さん。彼が主人公・まだ駆け出しの探偵の金田一耕助で、彼に舞い込んだ事件についての推理を、この当時すでにベテランの域にある明智小五郎が蔭ながら助言を加えて推理を修正しながら真相に近づいてゆく、というストーリーです。明智小五郎役は映画『海猿』に出演しておられる伊藤英明さん。

撮影は ぬえが考えた演技をまず監督さんに見て頂き、場面にうまくおさまるように時間的な配分について注文が出たのでこれをお囃子方と相談して寸法を調節すると、すぐにOKが出ました。この日はとっても寒い日でしたが、金田一と明智の会話の場面のリハーサルも何度も繰り返し行われて、お二人も大変だったことだろうと思います。あちこちに置かれた固形燃料のストーブの前でご一緒に暖を取ったりしながら、役者さんと能楽師がそれぞれの場面の撮影に臨みました。


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