かつて自閉症の子の多くは、自分の世界に没頭し、自己刺激行動ばかりして
教育や治療が難しい子だと思われてきました。
ひとりでピョンピョン跳ねたり、くるくる回ったり、
独り言を言い続けたりして、
誰の指示にも従うことができないイメージがありました。
(自閉症スペクトラムの子の中には、知的な能力が高く、
一般的な子どもとほとんど変わらないけれど、
集団行動が苦手だったり、感覚が過敏だったり、
コミュニケーションが少しだけぎこちないという子もいます。)
応用行動分析などの行動療法が行われるようになり、望ましい行動に報酬を与え、
望ましくない行動は無視することで、
自閉症児の行動は好ましい形に返られると考えられました。
行動療法によって、課題をこなし、型はめをし、音や身ぶりの模倣ができるようになりました。
そこで問題になってきたのは、汎化です。
行動を身につけても、予想していなかった場面で使うのは難しかったのです。
そこで、DIR治療プログラムという発達に基づいたアプローチが登場しました。
DIRとは、
D=Developmental(子どもそれぞれの発達に応じた)、
I=Individual‐Deference(個人差を考慮に入れた)、
R=Relationship‐Based(相互関係に基づいた)アプローチのことです。
臨床経験に基づいた代表的な包括プログラムの一つとして、注目を浴びつつある自閉症の治療プログラムです。
その中で特に重要な「フロアタイム」という技法は、
1回20分程度、親やまわりの大人が床(フロア)に降りて子どもと同じ目線で関わるだけの
特別な訓練も環境も必要としないプログラムです。
くわしい内容を知りたい方は、
『自閉症のDIR治療プログラム: フロアタイムによる発達の促し』創元社を一読されることをお勧めします。
DIRの目標は定型発達の基盤を作ることです。
従来の自閉症の子に対するアプローチのように
表面上の特徴的な行動の修正が
目標なのではありません。
DIRのアプローチによって、発達段階で欠かせない能力を身につけることが
可能なのだそうです。
↑の著書によると、自閉症スペクトラムの子たちが、
「温かい気持ちと喜びをもって他人と関わる、
目的と意味のあるコミュニケーションができるようになる、
論理的かつ想像力豊かに考えられるようになる」ことを
可能にしてくれるそうです。
実際、多くの自閉症スペクトラムの子がこの治療プログラムによって
奇跡的な成長を遂げているようですが、
そうした事例を読まなくても、私は「フロアタイム」の方法を目にしたとたん
それがどのような効果をもたらすのか理解できました。
というのも、前の記事に書いた
娘の友だちの妹ちゃんも、幼いころから虹色教室に通ってくれている
自閉症スペクトラムの重度や中度という診断を受けていた子たちも、
療育の場で「この子は黒よ」と決めつけられていた子も、
成長するにつれて定型発達の子と変わらないくらい創造的で知的で、
上手に人間関係を創り出し、想像力を使った遊びに興じるようになっていきましたから。
幼児期は診断名がついていたのに、
小学校に就学する際に病院に連れて行ったところ、
「どうして連れてきたの?」と尋ねられて困惑した親御さんもいらっしゃいました。
そうした子たちというのは、DIR治療プログラムを意識していたわけではないけれど、
(当時はそんな名前すら知らなかったので)
虹色教室との関わりや、親御さんの「子どもにさまざまな体験をさせてあげよう」という積極的な性質や、
きょうだいや近所の子との関わりなど豊かな人間関係のもとで、
「フロアタイム」のプログラムの各ステージを全てをやり終えている子たちでした。
『自閉症のDIR治療プログラム: フロアタイムによる発達の促し』に次のような一文があります。
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定型発達の各段階をマスターしていくために親が行えることを簡単に述べます。(略)
方法や技法を問わずもっともうまくいくのは、子どもが自分から興味をもって、
やってみたいと感じる場合です。そして親子ともども、楽しむことが必要です。
嬉しそうな笑顔、楽しそうな声、キラキラした眼差しなどを、
楽しさのサインを常に見つけるように心がけてください。
こうした関わりは、子どもの意識がはっきりしていて、気持ちに余裕のあるときに
やってみましょう。
1回15~20分間の関わりを一日に何回も行うのが理想的です。
それぞれの家族で、目的に合わせたやり方を工夫してみましょう。
(『自閉症のDIR治療プログラム: フロアタイムによる発達の促し』創元社 より引用)
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そういえば、自閉症のトムくんと私の関わり合いも「フロアタイム」の技法にとても
よく似ている気がします。「フロアタイム」について知らなかった時期も、
仕事柄、定型発達の赤ちゃんたちと関わることが多い私は、
トムくんにそうした赤ちゃんたちがたどる心の発達の段階を
順番にていねいにたどらしていきたいと強く願っていました。
トムくんと、楽しく交流したかったのです。
トムくんの親御さんも、トムくんが通うアトリエの先生も
同じ考えで、トムくんに定型発達の子の成長過程を歩ませたいという
願望のもとで環境作りに励んでしました。
すると、トムくんはみるみる成長していきました。
興味がある方のために、
過去記事をリンクしておきますね。
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