Aちゃんのお兄ちゃんのBくんは、不思議なことに出会うと、
強く心に響くタイプです。
Bくんが初めて教室に来てくれたのは2歳の頃ですが、当時から首をかしげて、
「どうして?」「なぜ?」と問いながら、理由を突き止めようと
あれこれ試してみる姿がありました。
妹のAちゃんは飲み込みが早くて要領がいい子で、
何でもすぐにできるようになるのですが、それだけに、
「上手に模倣しておわり」となりがちです。
「あれ、どうしてかな、不思議だな?」と自分のしていることを探究するような
間が、Aちゃんのまなざしや行動にあまり見られないのです。
といっても、相手はまだ2歳の女の子。
あれもこれもバランスよく発達している必要はないし、個性もありますから、
それ自体は少しも気にすることではないと思っています。
でも、もしAちゃんのようなタイプの子が、こんなに幼い時期から、
何かができるようになると級が上がっていくような環境に置かれるとしたら
注意が必要なのかも、と考えています。
親御さんが、できていることに過剰に反応して、
それをより難易度の高いものへと進めることに躍起になっている場合も。
AちゃんとBくんのお母さんは、ゆったり子どもを見守りながら、
子どもたちが物事を心に深く感じ取っていけるような関わりをする方です。
ですから、Aちゃんが何かができた後に、次のレベルのできるにシフトしていく
のではなく、できるようになったことを味わい、活かし、
理解を深めていくプロセスをいっしょに楽しんでいらっしゃいます。
ですから、Aちゃんは飲み込みの早さという長所を伸ばしつつ、
自分の頭と心と感性を十二分に働かせて物事と関わる面白さに
気づいていくことと思っています。
Aちゃんが箱の手品を得意気に披露する様子を見て、
「Aちゃん、手品が好きですね」と言うと、
Aちゃんのお母さんも、「そうなんです。この間のユースホステルのレッスンで
手品をしてから、すっかりはまっているんです」とおっしゃいました。
そこで、輪ゴムを瞬間移動させる手品を見せることにしました。
小指と薬指に輪ゴムをかけてから
手でグーを作り、親指以外の爪の先に輪ゴムをかけておくと、
手を開くと同時に輪ゴムがひとさし指と中指に移動するという簡単な手品です。
Bくんが興奮した様子で、「どうして?どうして?」と言いながら、
手品を試しました。Aちゃんも、指にゴムをかけてニコニコ。
手品ができるようになってもBくんは
この手品の不思議さと面白さに強く心を奪われている様子で、
どうして輪ゴムが移るのかその秘密を探ろうとしていました。
こうしたシンプルな不思議を目にした時、どうなっているのか
目で確かめただけで、「なんだ、わかった」と言い、
次から「知ってる」と一蹴する子らがいます。最近、そうした子がとても多いです。
でも、その一方で、あっちから見たり、こっちから見たり、その通りやってみたり、
別の方法を試したりしながら、不思議だという思いを保ち続ける子らがいるのです。
後者の子らは、いつも表面的な『わかった』では満足せずに、
他の様々な活動や学習にもつながっていくような深い『わかった』にまで
到達します。
子どもたちがそうした深い『わかった』を体験できるかどうかは、
身近な大人が「見えない世界」を尊重しているか否かにかかっていると
感じています。
話が脱線するのですが、「見えない世界」といえば、もう20年近く前、
うちの子たちがまだ幼かった頃、わが子とその友だちの姿を眺めているうちに
浮かんだ言葉を詩にしたことがあります。
それが今回の記事の「見えない世界」にリンクしている内容なので、
恥ずかしながら、紹介させていただきますね。
『小さな友へ』
世界をかけぬけ
手あたり次第につかみとるすべは
むずかしいようで 意外にやさしい
天指して地面にまっすぐ立つすべ
世界を味わいゆっくり抱きしめるすべは
当たりまえなようで
本当にむずかしい
小さな友よ
教えてあげようか
朝つゆで顔を洗えば
春を見ることができる
走りたいからと走り
笑いたいからと笑えば
夏に触れることができる
友を失って
再び得たなら
秋を感じることができる
未来の花が咲くまでの
ささやかな孤独を愛せるなら
きっと冬を知ることができる
あまたの貴重な宝の中から
ひとつだけひとつだけ
小さな友への贈り物を選ぶとしたら
「答えのない問い」
それがいいだろう
先生のおっしゃること、
何度も何度も読ませていただかないと
深く理解できないわたしですが、
皆様のコメントで、うまく
噛み砕いていただいたり、
こうして詩で表現していただけたりすると、
心に沁み渡ってきます。
”表面的な『わかった』では満足せずに、他の様々な活動や学習にも
つながっていくような深い『わかった』にまで到達します。
子どもたちがそうした深い『わかった』を体験できるかどうかは、身近な大人が「見えない世界」を尊重しているか否かにかかっていると感じています。”
私が心の奥で求めていたのに、
うまく表現できずにいた想い。
これだったんだ…と、
感動してしまいました。
息子にそんな姿を求めるならば、
自分が見えない世界を
蔑ろにいてはいけないんだと、
反省とともに、
明るい光が差し込んだ気がします。
まだまだ未熟なわたしですが、
これからも、先生の言葉を
貯めて、自分なりに消化して、
お手本にしていきたいなぁと思います。