虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

お正月の読書三昧(『奇跡の教室 伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀』など) 2

2011-01-04 09:57:11 | 工作 ワークショップ

『奇跡の教室 伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀』 伊藤氏貴  小学館

を読みました。本当に大切なことが書かれているけれども、今ほど、こうした
ゆっくりと本質的なものを学ぶことが難しい時代はないのだろうな……という感想を持ちました。

かつて私立が公立のすべり止めと見られていた時代、橋本武先生は、灘中・灘高等学校に赴任しました。それから50年教壇に立ち続けました。

橋本先生の教え子たちは、戦後の成長社会・スピード社会と逆行するように、
ゆっくりゆっくり、しかも着実に「学ぶ力」と「生きる力」をつけていきました。
その結果、橋本先生の教え子たちは、「私立校として史上初めての東京大学合格者数日本一」という偉業を成し遂げました。

燃え尽きることを知らない、立ちはだかる「壁」を「階段」にすることを苦にしない教え子たちは、実社会に出ても、教科書なき世界、未知な道を口笛を吹くように歩き、行く先々で数々の実りを創り出していきました。

橋本武先生の授業は、追体験を何よりも大切にしています。
教科書としている『銀の匙』に駄菓子が出てくるシーンがあると、先生は
色とりどりの飴を授業中に配りました。
子どもたちは、飴を噛み砕きながら、銀の匙の作者の形容の妙に浸っていました。

普通の授業なら語句説明だけで、わかったつもりで済ませてしまう一節も、
追体験をすることで全く異なるものになる……と橋本先生は捉えていたんですね。
「押し付けじゃなくて、生徒が自分から興味を起して入り込んでいくためには、゛主人公になりきって読んでいくこと゛がまず必要」と考えていたのです。

薄い文庫本に3年間を費やす授業は、生徒の興味で脱線していき、「わからないことは全くない」領域まで一冊を徹底的に味わい尽くす、崇高な「遅読」「味読」(スロウ・リーディング)のスタイルです。

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こうした授業をしたら、東大合格者がたくさん出た。
なら、同じ授業を
すればいい、家庭でもスロウ・リーディングを実践すればいい……というわけでは、ないのでしょう。

そうしたテクニックや形だけまねても、
学ぶことと生きることに対する愛情は伝えられないですから。

私は、子どもたちと、ブロック制作や工作で、ゆっくり何年もかけて関わっています。
そうすると、ものづくりの場でも、橋本武先生の授業で起こるような奇跡(子どもの本質的なものが変化し、学習に対する感受性が高まることです)を何度も目にします。

ゆっくりと愛情を込めて、ワクワクを感じなが熱中することは、
子どもの心の底の底まで浸透して、
世界に対する好奇心、探究心、より深く知りたいという知識欲、粘り強さ、学ぶことへの愛着、本当の意味での知恵を引き出すのです。

スロー・リーディングについての本だったのに、ものづくりの話をしているのは、
「子どもを伸ばすには、ゆっくり本を味わっていけばいいんだ。スロー・リーディングをすればいいんだ」って、テクニックや方法の部分だけが注目されることを避けたかったからです。

橋本武先生のような教育は、内容や方法も大事でしょうけど、
何より、子どもの内面に、『自分』で生きているという実感や、世界との関わり方や物事の優先順位、
それから体験への愛情のかけ方を学ぶからこそ意味があって、
効果があるのだろう……って感じるのです。

表面的な先へ先へと進む学習ではなく、

学ぶことが、その子の個性的な独自性の扉をノックして、
しまいにその子らしい世界の扉が開いて、
どっと自分を表現するようになって、
いっしょにいる子たちまで豊かになるという形で進むように工夫する
必要があると思っているのです。

私の場合、どんな工夫かというと、橋本武先生と同じく
『追体験』を大事にするということです。
それと自分独自のオリジナルの考えを自由に表現することです。

ものづくりの場合は、スロー・リーディングのように、
本の世界の追体験ではなく、
それぞれの子どもの日常の体験や感じたこと、身の回りの不思議や興味を感じたもの、社会を観察して見えてくるもののを追体験することになります。
そして、表現するのは、言語で説明するだけでなく、目で見える作品としての表現も加わります。

それぞれの子が自分のアンテナでキャッチして、
まだ未消化のものを、
目に見える形にして、言葉を与えて、考える、改善する、他の子の表現を味わうことは、『生きる力』につながると感じています。

私には、勉強とかテストとかが主で、そのためにいろんな体験をしておくとか、
練習するとかいう順番は、生きる力を奪い取るように思えるのです。

生活するとか、人とつきあっていくとか、自分を表現するとか、夢見るとか、
『生きる』ということが一番にあって、

そのために、
いろいろやってみる、工夫もするし、考えもする、がんばりもする、がまんもする、勉強もするという、

イメージの世界の順番が心の軸にあってはじめて、『生きる力』が育ってくる
と考えているのです。

おそらく橋本武先生の授業も、大学の受験準備ではなく、
人生と社会で生きている未来を見据えたものなのでしょう。


『奇跡の教室 伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀』を読んで、
こういうすごい先生は、どの子も、身近にいるはず……
特に幼児は……とも感じました。

すごい先生って、
つまりそれぞれの子どもの持っている「これが好き」「これがしたい」「もう一回これやりたい」という脳の中の自然なプログラムが導く
欲求です。幼児は自分から進んで追体験したがり、自分から「なぜ」と問い、
自分を最も成長させる遊びを考え出します。

なら、その先生がちゃんと授業ができるようにするには
どうすればいいかというと、
子どもの成長する力を信じて、子どもが自分で決めたり、実行したり、失敗したりできるよう大人のコントロールをゆるめること……
ではないでしょうか?


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