日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

国民投票の是非を考える

2016年08月06日 09時49分03秒 | 日々雑感
 英国のキャメロン前首相は、欧州連合(EU)離脱という大きな課題に対して、国民投票という直接民主主義的な手法に政治的運命を賭けた。その結果、前首相の意に反する離脱派が過半数を占め、自身は首相退任に、世界の経済は一時期大混乱に陥った。本来は、総選挙といった間接民主主義が培ってきた合意形成策や、挙国一致内閣で対処すべきであったとのマスコミの論調が強い。その主張の根拠は、一時の興奮に流されない慎重な対応がなされるべきとの考えであろうが、国民は無知であり、指導者は自分のことしか考えていないとの認識もある。

 EU離脱の要求は、英国に押し寄せる移民が職を奪う等の反発と共に、英国の運命を英国ではなくEUのエリートが決定しているとの反発から生じたようだ。

 キャメロン首相が率いた残留派は、離脱すれば経済に大きな打撃を受けるとして国民の支持を求めたが、ボリス・ジョンソン元ロンドン市長や、英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首は” 離脱によって、国の主権を取り戻そう” とアピールした。国の主権を取り戻そうとの主張は、次期米国大統領候補のトランプ氏にも当てはまり、その単純明快さから国民受けはすこぶる良いようだ。

 EUは、第2次世界大戦以前、ヨーロッパ各国に戦争が絶えなかったことの反省から、一つの共同体としてまとまるべきとの理念から結成された。EUの本部はベルギーのブリュッセルに、欧州議会はフランスのストラスブールに、といったように分散して設置されている。欧州議会の代議員は直接普通選挙によって選出されるが、EUの政策執行機関である欧州委員会は多数の国を管理するために官僚組織が肥大化し、各国の独自の意見が反映されない官僚主義が主流となり、EU懐疑感情が強くなってきたとの背景があるようだ。

 EU離脱という大問題に直接国民の声を聴くことは、さすが民主主義の国英国ならではと思っていたが、どうもそうではないらしい。マスコミの論調は、選挙で選ばれた代議員が熟慮を重ね、決定すべきであったとの論調である。確かに、国民投票は一部指導者の過剰な宣伝に踊らされ、感情に流される欠点も現れる。特に最近発展が目覚ましいSNSの影響は、いろいろな意見をあまたに広げる役目より、一部の過激な意見で興奮状態を引き起こす役目の方に強く出ていたようだ。

 また投票結果はEUへの拒絶と同時に、支配階級層に対する拒絶も意味しているとの指摘もある。EU統合による各国の利害の直接衝突回避の理想は実現されているかも知れないが、特に経済面で利益を受けているのは支配階級層で一般国民には職の喪失との欠点しか実感されないようだ。残留派が離脱すれば経済に大きな打撃を受けるとして離脱反対を声高に叫んでも、損失を被るのは支配階級であり、自分達には関係ないと感じたのであろう。

 前述のように英国では、一時の興奮状態で離脱が決まったとの論調が強い。しかし、EU離脱の議論は、前からある。EU残留か離脱かを問う国民投票の実施を、キャメロンと与党保守党が2015年総選挙の公約として掲げたのは、その2年前の2013年だった。その間、政治家は何をやっていたのだろう。今回の国民投票で国論を2分することになったとの主張もあるが、3年以上前から既に2分されていたのだ。キャメロン前首相は、国会でまとめ切れないので国民投票との手段に訴えただけだ。

 さて、日本においては今回の参議院総選挙で改憲勢力が国会で2/3以上となり、憲法改正発議が可能になった。近い将来国民投票が実施されるかもしれない。国民投票の結果、英国と同様な事態に陥らないであろうか。

 日本の小選挙区で選出された代議士は、その地区でわずかな差でも一位になれば選挙民全体を代表することになる。議員は自分の信念あるいは自分の利益になるように主張し、皆の意見を公平に扱わない。従って、国会で議論を重ねるとしても、選挙民全体の意見の反映とはならないであろう。従て、国民投票が国の一大事を決める最善の方法となろう。問題は、戦争勃発等の国際情勢の変化や巧みな演説に踊らされ興奮状態に陥った時である。国会議員は国民が興奮状態で判断しないよう、客観的な情報を提供しなくてはならないが、期待してよいであろうか。
2016.08.06(犬賀 大好-257)

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