星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

「花の武将 前田慶次」備忘録(4)

2010-09-27 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)



●まつと慶次 つながる心
あの利家とまつ、のまつである♪
それなのに(笑)。
利家殿には申し訳ないけれど、原作と同じく、慶次の物語を
面白くしている大きな要因が、あの加賀百万石のトップを肴
にまつと慶次がアレコレ語る本音トークだ。
まつにいたっては、夫への遠慮など皆無。小気味いい台詞が
いちいち笑える。武将としての器の大きさ、男の魅力、どれ
をとっても利家が慶次には勝てないことを知っている唯一の
女性なのだ。
「慶次という虎を飼い馴らせなかったのがあの人の器じゃ」。
という言葉に、利家=ちっさいオッサン、というイメージが
バーン!と植え付けられてしまったよ(笑)。
少なくとも内助の功のイメージはなく、実質の女将軍。
その後、信長の書状を慶次に届ける際にも、家の大事をすっ
ぽかし、「利家殿に伝えよ!まつは義のために走っていった
と。よいか」と、家臣に命じるところも一貫している。
ハッキリものを言う、行動力の人。

まつの登場回数はけっこう多い。
まず、仕官を断った慶次の真意を聞きに郭に乗り込む場面。
従えた家臣たちを追い払うために、これで遊んでおいでと
札入れをポーンと投げるところが気っ風のいい姐さん、と
いう感じだった。

秀吉の謁見から戻った慶次に逢いにくる場面が印象的。
二人、月を見ている。
進言に従わなかったことを詫びる慶次に、まつが言う。
「人の心は縛れません。そなたが言ってくれた言葉です。」
十二歳で従兄弟に嫁いで、国と前田の家のことばかりの毎日
がイヤになって出奔した、と話すまつ。
まつを捕まえるよう命じられた話を慶次がすると、
「じゃじゃ馬馴らしは慶次の得意。まつと松風、加賀のじゃ
じゃ馬!」と、まつが慶次の手をとり、幼友達のように手を
前後に振る。が、人目を気にしてか、立場をわきまえてか、
するりとその手をほどき、距離をとる慶次。
「松風はオスでござりまするぞ」。

慶次の回想の台詞。「人の心は縛れませぬ。好きになされ。
松風もお譲りします、と言うと、まつ様は帰って行かれた」。
「好きにしろと言われて逃げられるか」とまつ。
それ以来、男になって国のために尽くした。でも、うれし
かったのは「誰にも縛れぬ心が私にもあることを、そなたに
知ってもらえたこと」と吐露するまつ。
美しい月。月を見つめる二人はいつしかしっかり抱き合う。

このシーン、だんだん抱擁のしかたが強くなり、ガッシとい
う感じに♪ 千穐楽も本当にしっかり抱き合っていた。
原作ではもっと凄い二人の描写にかなりドキドキ。そのあた
りをふまえてかどうか。でも舞台ではこのほうがよかった♪
ご両人!という大向こうのかけ声がいつからかなくなった。
型通りの見せ場じゃなく、二人の高ぶる想いがひしと伝わっ
てくるいいシーンになったと思う。
美しい二人の、美しい絵だった。

お寺から信長の真の書状をもらってくる場面の後、慶次との
別れの場面は備忘録(3)にて。

最後は家康の城に呼び出された後、まつ自身が家康の人質と
なって江戸に向かう場面。
まつの出立は、毅然として凛々しかった。
「家康の懐に入り、私は江戸にいて加賀を守ります!」
行列を従えたまつが言う。
「百万石のまつが絢爛に着飾って、一騎がけのごとく、江戸
に乗り込むのじゃ」
胸元から出した慶次との思い出の花びらを一気に撒いて、
「慶次殿、見ていてください。これがまつの、一世一代の大
傾奇です。皆の者、出立じゃー!」
きゃあ~、しびれまする。ぞくぞくします。
まつ様、カッコイイ~!!

思い出の花びらがなくなってモッタイナイよ~と思う私(笑)。
【誰にも縛られぬ心=まつの心=慶次の心=傾奇者の心】
政治に関わろうとそうでなかろうと、また、近くにいようと
離れていようと、まつと慶次の心は、同じ想いでつながって
いるのだなと思う。

千穐楽では声が心配だったけれど、可愛い仕草から、恋に揺
れる乙女心、国を率いる女将軍としての気品と誇りに満ちた
所作まで、見応えじゅうぶん。
美しいからこそいっそう引き立つ、賀来さんのまつ、大健闘
でございました。

●伽耶姫と慶次 国をなくした二人
もう一人の女性、伽耶はもともと異国の姫。
助けてもらった慶次に弟子入りし、慶次の元で学び、成長し、
やがて自分の一座に戻って一族のために必死で働き出雲の阿国
と呼ばれる人気スターになる。それでも慶次のことは忘れられ
ずにいる。そんな役どころ。
ミニスカートの佐藤さん、ビックリするほど細かった。
NODA MAPの「パイパー」での不思議な役はハマってたんだ
けどなあ。今回はせっかくきれいな姫なんだから、もっと笑顔
がほしかったなあと思う。
サトエリちゃんにも千穐楽ではジーンとさせられた。
慶次から暇を乞うところ。本当は離れたくないけれど、泣く泣
く・・・という女心をにじませていた。
(伽耶が踊るときの曲の歌詞が切なかった~。)

18日夜に見た時、お別れでべそをかいている伽耶に慶次が指で
涙を拭ってあげていた。昼の部ではなかったように思う。いま
そこで咄嗟にやったのかもしれない細かな動きにドキドキした。
プチ感動! 千穐楽では鼻のあたりをぬぐっていた。
まつとは対照的に、慶次が伽耶に対しては子供扱いしているこ
とが伝わってきて、ここ、私は好きだった。だからこそ大人に
なった伽耶と再会するシーンに生きたと思う。

自分が傾奇者を演じてみて、その心がわかったという伽耶。
二人とも国をなくした者どうしだったな、という慶次。
初めて対等に語り合った時間だったのかもしれない。
慶次の前ではまともに自分の気持ちを表現できなかった伽耶が、
ついに本心を打ち明けた時、自分のために大事な知らせを持っ
て来てくれた伽耶を大人の女性として受け止める慶次。
「うれしいぞ!うれしいぞ、伽耶」と、千穐楽ではぴったり頬
を寄せて抱きしめるシーンが感動的だった。

●兼続と慶次 莫逆の友「好きな言葉は
兼続なくして慶次は語れない。
この舞台でも二人の話が1本の大きな柱になっている。
くっついては離れ、離れていても魂が呼び合う生涯の友。
K&Kコンビ、ステキだ。

家臣の子弟たちの不祥事で上杉方の非を認め、存分にやり合う
ようにと慶次に言ったのが最初の出会い。
この時から意気投合した二人。
二人に共通するのは、大の読書好き。
『北斗の拳』全27巻もそろっている、という台詞が『花の慶次』
を描いた原哲夫氏へのオマージュなのもよかった。

「好きな言葉は・・・愛!」(ピースサイン付き)
とはもちろん舞台版オリジナル。これは稽古場で誕生した台詞
だそう。この座頭にして、この登場人物、この舞台でしか成立
しない台詞なんて凄すぎる♪
最初の兼続の登場シーンでは一人で言う。
大河ドラマですっかり宣伝が行き届いた「愛」の兜は注目の的。
サワヤカ端正なお顔の銀之丞さんは、荒ぶる武者というよりも、
涼し気で思慮深い兼続のイメージにピッタリ!
そんな兼続から初めてこの言葉を聞いた時は、うっひゃあ~♪
めちゃエエ感覚やんか~。この舞台は成功するぞと思った。



秀吉との謁見から無事戻った慶次のことを嬉しそうに報告する
兼続。「いつでも傾いていいという御免状まで賜ったそうだ。」
「ねーっ!」兼続。(これは当初はなかった。)
「うん!」慶次。(これは千穐楽。その前はああ、だったかも。)
ここ、見つめ合う二人がすっごく嬉しそうにニヤニヤ笑顔で、
それを見ているこっちが嫉妬しそうなほど(笑)。
こんなハジケたお芝居をする愛之助さん、ものすんごく新鮮♪

死を覚悟で主馬と対決する前夜、兼続と酒を飲む慶次。
この時には二人で。
「好きな言葉は」と兼続が言い、二人で同時に「愛!」
(ピースサイン)+キラ~ン!(効果音)。
同道する道及がそれを見て関西弁でボソッと♪
(このアドリブも当初はなかったと思うんだけど。)
「なんやの。自分らだけで響き合うて。ごっつ感じわるう。」
両手の人差し指をくっつけてスネたり。(千穐楽は失念!)
そこで、兼続から書物を借りるよう、道及にも勧める慶次。

上杉の佐渡平定のエピソードも入っている。
都にいる慶次のところへ、笠を目深にかぶり、身分を隠し、
上杉の佐渡攻め決行の知らせを告げる男あり。
合戦をご所望ならこの船に乗られたし、と。
「して、その指揮を執られるお方は?」慶次。
「上杉家筆頭家老 直江山城守兼続!」
それを言っている本人だ。
笠の持ち方、立ち姿、台詞回し。兼続がまたカッコイイの。
水を得た魚の慶次、合戦じゃー!と大興奮。

慶次は「戦人」として、敵味方のリーダーの資質や時代の趨勢
を分析し、見極めたような言葉をしょっちゅう発していた。
兼続に対しては、味方の一人ひとりの名前を覚え、声をかけて
いた、それゆえ皆が兼続についてゆく。それこそ新しい時代の
武士だ、と。自分のやり方は信長様の時代の戦い方である、と
も言っている。

一方、兼続が別れ際に慶次に言った言葉がキュウウンである。
「おぬしとは毎晩酒を酌み交わし、書物について語り合い、昼
はともに戦場を駆け巡った。このまま終わってほしくないと思
った戦は初めてだ」。
(先の慶次の兼続へのゴツゴツした褒め言葉と、慶次に向けた
兼続の滑らかで優しいの言葉の響きが対照的。お互いに響き合
い、惚れ合った武士どうしのやりとりが素敵だ。)
では、ごめん!と言えば、ごめん! と返す二人。

また武将に惚れられちゃったね、慶次(笑)。
前後するけれど、お前とは戦場で出会いたかったと秀吉に言わ
れ、昔戦った相手である古田織部には男惚れされて、山荘に住
まわしてもらったり。武将以外ではまつ、金蔵、加椰、秀康・
・・とにかく惚れちゃった人多数。
(ついでにここに書いちゃうけど、秀康は家康の妾腹の三男で
慶次に勝負を挑んで負け、その後、慶次に心酔してしまう。
千穐楽の「だっちゅーの」は「だじょー」の日もあった。
秀康の「だっちゅーの」に反応して、慶次が「死に場所を選べ
っちゅうの!」と返し、道及もそれに続き、観客的にも「だっ
ちゅーの」のほうがウケていた。秀康役の仁科さん、お父様に
やっぱり似てると思った。)

佐渡の後、けっきょく兼続と慶次は十年も会わずしまいなんだ
よねー。
織部のところにいて、釣り糸を垂れたりなんかして暮らしてい
る慶次。(白地に濃紺の花を染め抜いた着流しがゆったりした
生活を物語っている。もう自分のような武士の出番はないと思
っていたのか。)
それでも情報収集を怠らない慶次は、織部を通じて兼続の窮地
を知ることに。(加椰も同じ知らせを持って駆けつける。)

慶次の戦場復帰はほかでもない、兼続のためだった。
その再登場のしかたがいい。
道及が胸元から平家物語を取り出し(ここで笑いが起きる)、
突然読み始めると、途中から声が重なる。慶次だった。
「好きな言葉は・・・愛!」キラ~ン!
「おう、やっと響き合った!」と喜ぶ道及。二人、ほんとに嬉
しそうにニコニコしていた。

家康の術策にはまって、それに抗議するため世にいう「直江状」
を諸国に発した上杉家。その後、謀反の疑いあり、と家康に味
方する軍勢が大挙して、上杉家の会津攻めに加わったとのこと。
上杉に勝ち目はないとわかっていながら、道及、金蔵、松風と
共に兼続のもとに駆けつける慶次。
(花まくぞ~、花まくぞ~♪ という、一座のはなむけの歌と踊
りが楽しい。千穐楽のここでやっとサトエリちゃんの笑顔が!
皆に見送られ出陣する3人と1頭。松風に乗ったまま鳥屋口を
出入りする慶次の頭がギリギリ上につきそうだった。笑)

負け戦と知りつつ、兼続がこの戦の大義名分を掲げ、味方を鼓
舞し、戦に懸ける想いを述べる長台詞がすごくカッコいいの。
そこに花道からやってきて、名乗りを上げる3人と1頭。
押し掛け助っ人、前田慶次、って言ってた。
慶次たちが加わって、嬉しそうな、泣きそうな顔の兼続。
うれしいぞ!と。
慶次の長台詞もすごくカッコよかった。けど、覚えられず(涙)。
笑止千万なり、とか。真の武士の魂を、とか。
存分に傾け!とか・・・。

命を賭けてともに傾こうぞ!(馬上の慶次)
いざ、出陣じゃー!(兼続)

パン、パーン!と音がして、天井の左右からシューッと。
キラキラした紙ふぶきが降ってきて、感動の幕切れ。
最後まで自分に正直に生き、いつでも死ぬ覚悟をしている武将
の晴れがましい顔がすごく清々しく、感動的な最後だった。
戦国の世も一期一会。舞台も本当に一期一会。
千穐楽もまた素晴しい一期一会だった。


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4 コメント

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松の描き方 (瑠衣)
2010-09-27 23:32:04
隆さんの本では奔放に慶次と逢瀬を重ねる松、舞台では女将軍として前田家と加賀を守る女将軍。どちらも思い切りフィクションではあるが、戦国の世は「嫁して二夫にまみえず」と言うしばりも無かったし、男は合戦にあけくれ、家を管理し家の子郎党を養うのも女房の勤めなので江戸時代のように男尊女卑的な思想も無かったので、本の説も舞台の説も無かったとは言い切れない。今回脚本家はそこをうまく書いていたと思います。
返信する
瑠衣さま♪ (ムンパリ)
2010-09-28 01:36:41
ほんとに。今回はまず脚本がよかったですね。
リピートすればするほどそう思いました。
どうせフィクションなら、ここまでかぶいてやれ!
という感じ(笑)。
女性ではまつを主軸にして、慶次のサブストーリー
として最大限に盛り上がりましたよね。

> 江戸時代のように男尊女卑的な思想も無かった
戦国時代はまだ画一的な女性像ではないんでしたね。
そういえば大河ドラマ「功名が辻」でもそんなふうなこと
を言ってたような・・・。

舞台のまつ様、ほんに面白いおひとでございました。
返信する
Unknown (puspitasari)
2010-09-28 22:32:34
>利家=ちっさいオッサン

この的確な表現が
ツボにはまりまして・・・。
原作以上に情けないおっさんに
なっていたかと(笑)
原作では臨終間近、慶次と会うところは
なかなかいい男でしたよね?

いつもながら
素敵な観劇レポありがとうございます。
私にとっても貴重な「備忘録」です♪
返信する
puspitasariさま♪ (ムンパリ)
2010-09-29 07:51:14
ちっさいオッサンはね~、池乃めだかさんのギャグ
をそのまんま引用させていただきました(笑)。
いやしかし、ほんまにそんな気がしました♪
原作との違いをいい意味でも楽しめる舞台でしたね。
私なんてムダにダラダラ書いてるだけですが・・・。

ここに書いとこうかな。
いま振り返るのも楽しいですね、出演者の皆さんのブログ。
その日に焼き肉か~、とか(笑)

●角田信朗さん
http://ameblo.jp/kakuda-nobuaki/
●横内謙介さん
http://www.tobiraza.co.jp/blog/index.php?ID=401
●佐藤江梨子さん
http://eriko-sato.yellow-cab.co.jp/blog.html/
●海老瀬はなさん
http://ameblo.jp/ebise-hana/
●松原美穂さん
http://blog.livedoor.jp/osakapro2006/
●榛葉隆太
http://ameblo.jp/lionking369/
●野田晋市
http://blog.livedoor.jp/uratamadesuyo/
●仲村瑠璃亜
http://ruria-nakamura.yellow-cab.co.jp/blog/1212.html
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