星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

現代詩を浄瑠璃で語る  観劇メモ

2007-08-29 | 観劇メモ(伝統芸能系)

こんなマイナーな、いや高尚な催し、いったいどんな人が行くんだろうと
思ってた。ふふ。私が行きました。






今回、浄瑠璃を語られる豊竹英大夫さんによれば、義太夫節は古くさいと
思われがちだが、実際に聞くとその圧倒的な存在感は若い人にも身体で感
じてもらえるはず。だから、語る中身を古語ではなく現代の日本語で書か
れた詩に置きかえてみたらどうか、というのが今回の試みだそう。
そうすることで声の芸能や、三味線という音楽表現がストレートに伝わる
のではというのが狙いらしい。

そんな思惑があるとはつゆ知らず、私がこの公演に興味を持った理由は約
3つ。
・『傾城阿波鳴門 十郎兵衛屋敷の段』をチョット聴いてみたかった。
・雑誌でよくお見かけする詩人の高橋睦郎さんをナマで見たいと思った。
 (ナマもやっぱり素敵だったんです~♪)
・能楽堂というところを一度覗いてみたかった。
つまり、ただのミーハーなんである。
先に感想を言ってしまうとこの公演、マニアックだけどすごく惹き付けら
れた。浄瑠璃床本と併載されている現代詩はギッシリ詰まった浄瑠璃と違
い、行間をあけたり改行したりしてある。見た目も感覚もかけ離れた<詩>
という言の葉が、いかにも浄瑠璃らしい曲にのって語られるのはおおっ!
というようなオドロキであり、ミョウに新鮮な体験だった。


8月26日(日)16:00~17:30  会場:山本能楽堂
●トーク、創作浄瑠璃・詩人による自作の朗読
舞台上には、能「天鼓(てんこ)」より<金地花林花模様縫箔>と呼ばれ
る装束と、同じく「天鼓」より<鞨鼓台>という作り物が用意されている。


はじめにトークがあった。参加者は豊竹英大夫さん(文楽大夫)、
高橋睦郎さん(詩人)、建畠哲さん(詩人・国立国際美術館館長)の3人。
「はっきり言って詩の内容は私にはサッパリわかりませんっ! 」と
英大夫さん。お二人の詩を全部読み、今回のために詩をセレクトしたご本
人なのに(笑)。
「いや、たぶん全部わかったらそんな詩はつまらないですよ」と高橋さん。
ウンウン。その点お芝居も詩も、もしかしたらオンナジかも!

建畠さんが自作の詩を二編朗読した後、続いて同じ詩を英大夫さんが語る。
今回の浄瑠璃の作曲はすべて、文楽三味線の竹澤団吾さんと共同作業だと
いう。最初の散文詩は私にはどう考えても違和感がある。だけど、始まる
とたしかに浄瑠璃になっていた。しかもご本人の朗読よりもパワーがあっ
て断然面白い!
ただ、私がTVの文楽入門で教わった、文楽の曲はぜんぶ大阪弁、という
セオリーには当てはまらない。そりゃそうよね。文楽の古典と違って、詩
は詩人の言語感覚とリズムで書かれているんだから。
たとえば、一編の最後はこんな感じ。
  意味のない誤解はない
  パトリック! パトリック!
  二十一世紀は近い
(建畠哲「パトリック世紀」より)

このような詩を浄瑠璃で語るのはやや力技という気が私にはしたけれど(笑)。

ところが、高橋さんの詩のほうはチョイスしたのが偶然そうだったのか、
浄瑠璃で語ることでよりドラマ性が増したように感じた。おそらく、その
詩を書かれた時のエピソードを高橋さん自ら紹介してくださった事が大き
いのではないかと思う。
「これは3人のお母さんのことを書いた詩の一部です。一人はエレナ・チャ
ウシェスク・・・兵士たちのお母さん、一人は土方巽(ひじかたたつみ)
のお母さん、もう一人は私の母。僕は土方巽からお母さんの話を聞いたこ
とがあって、そのことを書いたのが今日の詩です」と。
「BUTOH」(舞踏)という独自の身体表現の創始者の名をここで聞くとは!
私は土方さんの舞踏をナマで観たことはないがDVDは持っている。また、
好んで観に行く山海塾の天児牛大さんの師にあたる人なので、にわかに
その詩()が気になり出した。
高橋睦郎詩集『声の庭』「ぼくは お母さん」より抜粋したもの。)
実際、浄瑠璃になって語られた言葉はかなり激しく、泥臭く、原始的な
印象だった。浄瑠璃そのものが音楽となって、本当に炎が目に見えるよう
な感覚になった。作品がもともと語り口調だから英大夫さんの土俵といえ
るのか、こちらは不思議なことに曲がときどき関西弁のイントネーション
になる。詩人は九州出身らしいが、浄瑠璃は関西弁の抑揚が混じるほうが
なじめる気がする(笑)。


●素浄瑠璃『傾城阿波鳴門 十郎兵衛屋敷の段』
舞台上には、能「百万」より<萌黄色萱取革長絹>と呼ばれる装束と、
<縹茶段稲穂蒲公英縫箔>という装束。能「百万」では、子を探す母が舞
を舞い、集まる群衆の中に我が子を見つけようとするのだそう。


人形のない状態で聞く、素浄瑠璃。大夫の顔をじっと見たまま耳に神経を
集中させる。最初はチラッと床本に目をやっていたが、そのうち意味がスッ
と入ってくるようになり、だんだん手に汗を握るようになる。
「傾城阿波の鳴門」の中でもあまり上演されない、十郎兵衛屋敷の段は
こんな感じ。
主家の宝刀を探すため、故郷に娘を残して十郎兵衛と妻お弓は流浪中。
その間にお尋ね者になっている。そんな時に尋ねてきた巡礼姿の娘、小判
を持っているというので実の娘とは知らず、十郎兵衛は金を貸してくれと
いう。ところが、怖がって大声を出したので口をふさいだところ、窒息し
て死んでしまった。あとから戻ったお弓が眠っている我が娘を見て「おお
ほんに娘じゃ娘じゃ」と触ってみたら手足はもう冷たかった。先に娘と会っ
た時、つらい一人旅の話を聞かされても今はまだ親とは名乗らず、いったん
退なせたのに。それも我が子可愛さから。決して憎いわけではなかったのに。
・・・・・・
最後は追っ手が屋敷に押し寄せるが、なんとか逃げる十郎兵衛とお弓。逃
げる時に、娘の死骸の上に戸や障子を積み重ね、ここに松明の火を差し、
誰にも渡さぬよう火葬をする。南無阿弥陀仏と手を合わせながら・・・。

うーん、そうだったのか。誤って我が娘を殺してしまうとは、なんという
悲しいお話!でも、今や親殺し、子殺しは全然珍しい話題ではなくなった
もんね~。


●山本能楽堂を覗いてみた!






最後に、今回ぜひ見てみたかった会場についてちょこっとご紹介。
大正5年に24世観世宗家に入門した先代山本博之が、昭和2年にこの地に
能楽堂を建設。その後、大阪大空襲で喪失したものを再建、3階建ての木
造建築に伝統的な能舞台を持つが現在の山本能楽堂。
外観と内部の写真、その他詳細については公式サイトへ。
実際に中に入ってみてその大きさに驚く。こんなオフィス街にこのような
空間があったとは! 全くの門外漢ながら舞台の前に立つだけで神聖な空
気を吸った気になれた。客席は1階も2階も前方は桟敷席、後方には腰掛
け席がある。私が観劇したのは2階の自由席だったが、開演前に1階で撮
影させていただいた。


文楽のイベント「現代詩を浄瑠璃で語る」(このブログ内の関連記事)
文楽、素浄瑠璃、舞踏のコラボなクリスマス。(このブログ内の関連記事)
「現代詩を語り、舞踏を舞い、キリスト劇を演じる」観劇メモ
(このブログ内の関連記事)

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13 コメント

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オモロそ~。 (かしまし娘)
2007-08-30 12:54:21
ムンパリ様、まいど!
 
>山海塾
う~ん、何十年も行ってみたい。と思いながら
縁がないよ…。ヨヨヨ。こんな所に反応するなんて。グハ。

>「傾城阿波の鳴門」
文楽ではじぇんじぇん上演されませんね。
今年の1月に、阿波から東京に公演しに来てくれたので、
初めて観ました。「順礼歌の段 」です。
「実の父が知らないとはいえ子供を殺す」っていうのにギョギョギョ。
でも翌週くらいに「おーいニッポン。私の好きな徳島県」であっさりOAされちゃったんですが(笑)

山本能楽堂って椅子じゃないんですね!ウウ、しんどそ~。

それにしても、コアなイベントすっご~い。
それに駆けつけたムンパリさんもすっご~い。
私も「創作浄瑠璃」聴いてみたかったなぁ。

>文楽、というとなぜか構えてしまうけど、浄瑠璃、と聞くと私には身近な
存在に思えます~♪ 
うう~んスゴイよ!私は逆かな(笑)
でも、秋の「素浄瑠璃の会」(東京)には、またまた行こうと思って。
ど~せ寝るのに(笑)
返信する
ありがとうございました。 (とみ(風知草))
2007-08-30 22:35:45
>ムンパリさま
丁寧なエントリのおかげで行った気になりました。
英大夫さんは,浄瑠璃で新約聖書をイスラエルで上演なさったとか。A.ロイド・ウエッバーもまっつぁおな素敵な大夫さんですね。素敵なイベントは見逃さず行かんとあきません。
傾城阿波鳴門 十郎兵衛屋敷の段
6月にみよし会で吉弥丈がお弓を演じられました。どんどろ大師にもお参りし,上半期はマイブームでした。ととさんの名はが有名ですが,この段も聴きたいです。
大槻能楽堂は,父方の生家の近くで行ったことありますが,山本能楽堂は行ったことあれしまへん。立派ですなぁ。
返信する
コアなコメントすっご~い(笑) (ムンパリ)
2007-08-31 01:09:00
かしまし娘さん、こんばんは。
コアなイベントのレポにコメントをくださって嬉しいです!!(笑)。
この文楽の試みシリーズ、1回目は東京で行なわれたそうですよ。そちらでは「素浄瑠璃の会」というものがあるんですか? 楽しそうですね~♪

> 文楽ではじぇんじぇん上演されませんね。
あら、そうなんですか! 「傾城阿波の鳴門」は郷土芸能の方におまかせなんでしょうか?

山本能楽堂はですね、前は桟敷席ですが、後ろに1~2列ほど背もたれのない椅子席があります。(4~5人がいっしょに腰掛けるベンチシートタイプの席です。)私は正座がからっきしダメなのでそっちにすわりました(汗)。

山海塾は2年に1回ぐらい日本に来てますよ~。 2008年か2009年にまた見られるのではと思います。
あ、よろしかったら山海塾のマイ観劇メモです。↓
http://blog.goo.ne.jp/moon_parrish/e/9e7eada5a2077d6a7d4fefff74bf4d79
http://blog.goo.ne.jp/moon_parrish/e/3c260b12aba156126d84384a0b2351af
http://blog.goo.ne.jp/moon_parrish/e/732d367f4bd05e0161ba1c4e237ed4f9 
返信する
ゴスペル イン 文楽 (ムンパリ)
2007-08-31 01:10:47
とみさん、コメントいただきありがとうございます。
こんなマニアックな内容、どうなんやろと勝手に思い込んでましたが(笑)。
 
> 英大夫さんは,浄瑠璃で新約聖書をイスラエルで上演なさったとか
わお! 凄い方なんですねえ。次回は神戸で、創作文楽 ゴスペル イン 文楽「イエス・キリストの生涯」だそうです。なんとA.ロイド・ウエッバーの「ジーザス・クライスト=スーパースター」とつながってます!!(笑)

みよし会は「傾城阿波鳴門」だったんですね。十郎兵衛屋敷の段について、英大夫は「このような時代だからこそ聴いてほしい」とプログラムに書かれています。ただ悲惨だからという理由で聴かれなくなってしまうのは残念ですよね。
返信する
いたしてたんですねー! (すりょん)
2007-08-31 11:26:29
わぁ!いらしてたんですね~!
しかも的確なレポート、素晴らしい♪

実は私は英大夫さんに義太夫を習っている在家弟子なんです。
それで英大夫さんの活動を応援しているという次第です。

吉弥さんもお好きですか?
今度10月27日に尼崎ピッコロシアターで、
舞踊劇「心中天網島」があるのですが、
吉弥さんが治兵衛をされて、
英大夫さんが義太夫を語られるんやそうです。
よろしかったらまたお運び下さいませ♪

http://bunka-produce.jp/modules/news/article.php?storyid=35
返信する
コアなサイトになってきました。 (とみ)
2007-08-31 20:59:52
>ムンパリさま
義太夫とお弓談義で盛り上がっていますので,続けて参加いたします。確か,宝塚の教会で聖誕祭ミサには賛美歌ならぬ義太夫で寿いでおられるようです。今年は行ってみよっと。
>すりょんさま
はじめまして。横から失礼致します。
ここ一年は,文楽と上村吉弥丈を中心に観劇スケジュールを組んでいます。えにしの会は追っかけることできませなんだが,もとより,尼崎は予定しておりました。素敵な情報ありがとうございました。
拙宅でも河内センセのページ紹介させていただきます。
わーい。
返信する
楽しかったです~♪ (ムンパリ)
2007-09-01 01:00:41
すりょんさん、なんと、在家のお弟子さんでいらしたんですね!
現地ではどなたかわかりませんでしたので、お声もかけられずレポにてご報告させて頂きました。
おそらく、すりょんさんにコメントを頂いていなければこの催しには行っていなかったと思います。ポーンと背中を押して頂き、どうもありがとうございました(笑)。
英大夫さん、とてもエネルギッシュな方で、お話も面白く、イベントのほうも楽しく拝見いたしました。文楽初心者の私も全然オッケーでしたよ。帰ってからイロイロ考えていると、ジブリなどのアニメ作品を浄瑠璃で、なんていうのも楽しいかなあと思ったりしました(笑)。

「心中天網島」のお知らせ頂きありがとうございます!! いま公演概要をチェックしてきました。行きます、行きます~♪
歌舞伎関係は劇場チラシとか、役者さんのサイトでこまめに情報を収集しないと見逃してしまう公演が多いんです、私。また何かございましたらコメントを残していってくださいませ!

上にコメントを頂いております、とみさんの「風知草」をご紹介しておきますね! (たぶん、もうご存知だとは思いますが。)
http://otomisan-fuchisou.cocolog-nifty.com/blog/
返信する
とことんコアで!(笑) (ムンパリ)
2007-09-01 01:03:36
とみさん、引き続きコアなコメント!!(笑)。
その宝塚の教会ってどこやどこや! と気になってます。はい、自分で調べますです。
 
そういえば、とみさんのところで吉弥さんのお名前をよくお見かけすることに今頃気づきました。私、梅川忠兵衛とどんどろ大師を見逃したのが残念です。なにぶん、上方歌舞伎ビギナーなもので(汗~)。
11月の国立劇場「摂州合邦辻」には私も行きたいと思ってます。でも、その前に尼崎があったんですね! 予定に入れました♪

事後報告ですが、すりょんさんに風知草のURLをお知らせ致しましたのでご了承ください~。
返信する
有難うございます♪ (睡蓮)
2007-09-04 11:15:58
とみさん
初めまして!ですが、ブログは時々拝読させていただいておりました。
以前友人(彼女も在家弟子なんですが)が吉弥さんのトークショーを企画したので、参加させていただいたことがあります。
ご自身のお立場をしっかりと見据えた上で、さらに花開かせていこうという思いがひしひし伝わってまいりました。

ムンパリさん
そうですね!アニメの世界は実写では難しいものがありますが、
頭の中で想像を掻き立てる分には制限がありません。
きっと素浄瑠璃は向いている表現手段だと思います!

今度の心中天網島、ご即答嬉しいです~!!
S席、英大夫さんのHPから申し込んでいただけると、
今なら良席が取れるかと思います。
リンク張らせていただきますね♪

http://www5f.biglobe.ne.jp/~hallelujah/schedule/071027picco.html
返信する
ああっ汗 (睡蓮(すりょん))
2007-09-04 15:46:30
すみません!
私、睡蓮とすりょんと2つハンドルネーム持ってるもので…!
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