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ジャズ喫茶「ジス・イズ」

2017年01月24日 | 釧路

 
 
 ジャズ喫茶「ジス・イズ」



 伝説のジャズ喫茶――。

 全国の音楽通の間でそう呼ばれ、国内外の第一線のアーティストたちも足を運んだジャズ喫茶「ジス・イズ」。

 マスター・小林東さんのご冥福を祈り、1969年6月25日にオープンし、2013年1月に閉店した伝説のジャズ喫茶の歴史を紹介させて頂きます。



 ジャズで飯を食う



 喫茶店のオーナーだった小林東さんは新潟県に生まれ、1951年、11歳の時に家族で釧路に移住しました。
 
 15歳で釧路新聞社に入社して映画館の広告担当になり、ここで生涯の伴侶となる民子さんと出逢います。その後、20歳の時に転機が訪れます。
   
 アメリカの黒人クラリネット奏者ジョージ・ルイスの釧路公演で、初めて生のジャズに触れた東さん。
 
 虐げられてきた歴史の中で生まれた体を躍らせるスウィングに胸が高鳴り、千人を超える観客の最後部で夢中で立ち上がったといいます。
 
 それ以来ジャズにのめり込み、「一生のうち一度はジャズで飯を食おう」と決意し、将来的にはこの街を出て行くと宣言しました。
 
 そんなある日、幣舞町の高台にあった公民館でのライブ後の帰り道に、ふと眺めた釧路川リバーサイドの夜景。

 川の水面に映ったビーズのような煌きに、なぜか涙があふれ出た東さん。
 
 「自分が素晴らしい街に住んでいること、やりたいと思っていることができる場所が目の前にあること」に、その時初めて気いたといいます。







 ジス・イズ開店


 
 その二年後、東さん25歳、民子さん23歳の時、揃って新聞社を退職。
  
 そして、1969年6月25日。コーヒーの淹れ方も知らないまま、栄町公園そばに民子さんとともにジス・イズを開店しました。
  
 夜でも酒を出さない席数20ほどの純喫茶で、2000枚を超すレコードやCDに囲まれた店内には大音量でジャズが流れました。
 
 東さんの芸術への造詣の深さと温厚な人柄を慕って、地元の文化人やジャズファンたちが集いました。



    

 

 店内にグランドピアノを置いたことをきっかけにライブ演奏が始まり、国内の第一線で活躍する音楽家たちが演奏を披露するようになりました。
  
 70年代から二十数回、公演で釧路を訪れ、無名時代のタモリを発掘したことでも知られるピアニスト・山下洋輔さんもその一人。
  
 彼は、公演の度にジス・イズを訪ね、同店でも4回ライブを行いました。小林さんの音楽への真摯な姿勢も合わせ、ジャズ界でその名を知らない者はいなかったそうです。
 
 函館出身の舞踏家の大野一雄さんも、1983年に初めてジス・イズを訪れ、釧路で8回公演を行いました。95歳の2002年には車椅子の身で釧路に駆けつけ、開店33周年を祝いました。
 
 サックス奏者の渡辺貞夫さんも東さんに惚れ込み、ジス・イズで5回公演を行いました。渡辺さんは2014年9月、自宅療養中の東さんを訪ね、ベッド脇で演奏。
 
 「ジス・イズは日本最小で最高のコンサートホールだったと伝えると、泣いて喜んだ顔が今でも忘れられない」と懐かしむ。
 
 今秋の釧路公演では、東さんに捧げる曲を演奏します。
  


    


 
 歴史に幕


 
 開店から43年間、ジス・イズのカウンターに立ち続けてきた東さんでしたが、2012年9月に脳梗塞で倒れてリハビリ生活に。
  
 その後、2013年1月に惜しまれつつ44年の歴史に幕を閉じました。
   
 閉店後も「釧路の文化発信の拠点を残したい」と、約30年間通ったお店の常連客が同年6月に「ジス・イズEST」として営業を再開。
 
 店内のランプ、ピアノ、レコード、大型スピーカーは昔のままで、ライブ演奏も月1回のペースで続けていましたが、株式会社estの廃業に伴い、2年後にやむなく閉店の運びに。
 
 そして、2015年7月3日にジス・イズの完全閉店を惜しむ有志の手によって、「ジス・イズ ラストライブ」を開催。
 
 東さんはリハビリを続けながら入院加療中でしたが、2017年1月19日、肺炎のため73歳で死去。通夜は1月22日、告別式は23日に釧路シティホールでJAZZ葬の形で執り行われました。
 
 SNSの普及で、ジャズ喫茶のようにゆったりと自分の時間を占有する余裕がなくなってしまった今の時代を見て、東さんは何を思うのでしょうか――。
 
 


 



【記事引用】「街角のスミ」「日本経済新聞」「JAZZ THIS IS」「株式会社est
【関連サイト】「記憶の彼方へ
 
 

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