雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

夫婦の絆が命を救う ・ 今昔物語 ( 10 - 35 )

2024-05-20 08:07:58 | 今昔物語拾い読み ・ その2

     『 夫婦の絆が命を救う ・ 今昔物語 ( 10 - 35 ) 』


今は昔、
震旦の[ 欠字。王朝名が入るが不詳。]の御代に、百丈(約 300m )の石の卒塔婆(ソトバ・墓標。聖地の表示。)を造る工(タクミ)がいた。
当時の国王は、この工に命じて、百丈の石の卒塔婆をお造りになったが、遂に完成した時、国王は、「我は、この石の卒塔婆を、望んでいた通りに完成させることが出来た。極めて喜ばしいことだ。ところが、この工が他の国にも行って、同じような卒塔婆を建てようとするだろう。それは気に入らないので、この工をすぐに殺してしまおう」と思いついて、この工がまだ卒塔婆の一番上にいる時に、下ろさずに、足場を一度にばらばらと壊してしまった。

工は下りることが出来なくなり、「どういう事だ」と思って、「卒塔婆の上に何もせずにいても仕方がない。わが妻や子たちは、きっと、この事を聞いているだろう。聞けば必ずやって来て見るだろう。わけもなく私が死んでしまうとは思わないだろう」と思ってはいたが、声が届く距離なら叫びもするが、目にも見えないし、声も届かないほどの距離なので、どうすることも出来ず坐り込んでいた。

やがて、この工の妻や子供がこの事を聞きつけて、卒塔婆の下に行き、ぐるぐる回ってみたけれど、まったく為す術もない。
妻は、「そうとは言え、わが夫は、何の方策もすることなく死ぬような人ではない。きっと、何か良い方法を思いつくだろう」と思って、期待を込めて巡り歩いていた。
工は、卒塔婆のてっぺんで、着ている衣を脱いで、それを裂いて糸にしていった。その糸を結んで繋ぎながら、そうっと下に下ろしたが、極めて細いので風に吹かれて漂いながら下りてくるのを、妻は下でこれを見つけて、「これこそ、わが夫が何かの験(シルシ)に下ろしてきた物だろう」と思って、そっと動かせると、上にいる夫はそれに気付いて、夫も動かした。

妻はその動きを感じて、「やはりそうだ」と思って、家に走って帰り、糸で紡いでおいた[ 欠字。「糸巻き」のような物か? ]取って持って来て、上から下りてきた糸に結びつけた。
今度は、上に引き上げると、下からも結びつけた糸を繰り出す。次には、切った糸を結びつける。それを手繰り取ると、次には、糸のような細い縄を結い付けた。また、それを上で手繰り取ると、次には太い縄を結い付けた。また、それを手繰り取ると、今度は三、四本より合わせた縄を上げた。それを上で手繰り取ると、今度は、その縄をつたって、慎重に伝って下りてきた。そして、逃げ去ってしまった。

さて、この卒塔婆をお造りになった国王は、功徳を得ることが出来たのだろうか。世間の人は挙って、この事を誹った、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


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