雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

天ノ川の源を尋ねる ・ 今昔物語 ( 10 - 4 )

2024-05-20 14:45:41 | 今昔物語拾い読み ・ その2

      『 天ノ川の源を尋ねる ・ 今昔物語 ( 10 - 4 ) 』


今は昔、
震旦の漢の武帝の御代に、張騫(チョウケン・前 113 年没)という人がいた。
天皇(正しくは皇帝。以下は皇帝を使う。)は、その人を召して、「天河(アマノカワ・七夕伝説の天ノ川のこと。)の源を尋ねて参れ」と仰せになって向かわせたので、張騫は宣旨
をうけたまわって、浮き木に乗って河の水上(ミナカミ)を尋ねて行くと、遙かに行き行きてある所に至った。
その所の様子は、全く見たこともない。そこに、いつも見ている人とは異なる様子の者が、機(ハタ)を数多く立てて布を織っている。また、見たこともない翁がいて、牛を引いて立っている。

張騫は、「ここは、どういう所ですか」と尋ねると、「ここは天河という所です」と答えた。
張騫が、また「この人々は、どういう人々ですか」と尋ねると、「私たちは、織女・牽星(タナハタツメ・ヒコボシ)と言います。ところで、あなたはどういう人ですか」と尋ねたので、張騫は「私は張騫と言います。皇帝の仰せによって、『天河の水上を尋ねて参れ』という宣旨をうけたまわって、ここまで来たのです」と答えると、ここの人々は、「此処こそは、天河の水上です。もう、返りなさい」というのを聞いて、張騫は返ってきた。

そして、皇帝に奏上した。「天河の水上を尋ねて参りました。ある所に至りますと、織女は機を立てて布を織り、牽星は牛を引いていて、『此処こそ天河の水上です』と申しましたので、そこから返って参りました。その所の様子は、普通の所とはまったく異なっておりました」と。
ところで、張騫が未だ返ってきていない時に、天文の者が七月七日に参上して、皇帝に申し上げたことは、「今日、天河のほとりに知らない星が現れました」というものであった。
皇帝はそれをお聞きになって、怪しくお思いになっていたが、この張騫が返ってきて申し上げたことをお聞きになって、「天文の者が、『知らない星が現れた』と言っていたのは、張騫が行ったのが見えたのだったのだ。ほんとうに尋ねて行ってきたのだ」とお信じになった。

されば、天河は天にあるのだが、天に昇らない人でも、このように見えたのである。これを思うに、その張騫という男は只者ではないに違いない、と世間の人は疑った、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆ 


コメント (4)    この記事についてブログを書く
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4 コメント

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Unknown (luffy00616)
2023-08-30 08:55:11
今昔物語〜*\(^o^)/*
コメントありがとうございました (雅工房)
2023-08-30 14:30:36
luffy00616さま
貴ブログ拝見させていただいています。
いつまで暑いのか、とぼやいてしまいますが、まあ、もうしばらくですよ。
お体、くれぐれもお気をつけて下さい。
今昔物語、中には面白いお話しもありますよ・・。
ありがとうございました。
Unknown (luffy00616)
2023-08-30 15:44:30
今昔物語は大好きです😘
ムジナが出てきたり、、、
昔はキツネでなくタヌキが人を
騙してたとか😙

稚児のそら寝なんて
今もあるある物語りですよ〜
でも、この話しは今昔物語であるし
宇治遺物語にもあるし
ややこしいですよね😅
コメントありがとうございました (雅工房)
2023-08-30 19:05:37
luffy00616さま
早速にコメント恐縮です。
今昔物語を全部読もうと張り切ってスタートしましたが、まだまだ道半ばです。
今後ともよろしくお願いいたします。

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