読書と映画とガーデニング

読書&映画&ガーデニング&落語&野球などなど、毎日アクティブに楽しく暮らしたいですね!

吉村昭「闇を裂く道」

2016年11月03日 | や・ら・わ行の作家

 

 

文春文庫
1990年刊行されたものの新装版
2016年 2月 新装版第1刷
解説・高山文彦
507頁

 

 

大正7年(1918年)熱海-三島間を短時間で結ぶ画期的な新路線・丹那トンネルが着工されました
しかし、険しい断層地帯を横切るため土塊の崩壊、凄まじい湧水に阻まれ67名もの犠牲者を出し、当初の予想をはるかに上回る難工事となり、完成までには16年もの年月を要したのでした

 

まだ今のようなトンネル掘削技術も機械も持たない日本
着工当初には、電力価格の高騰で供給を受けられず、カンテラの明かりを頼りに人力でトンネルを掘り進めたとのこと
驚きです

 

 

関東大震災や丹那トンネルを横切る断層が動いたことによって起きた昭和5年の北伊豆地震の襲来を描いた件は圧巻
しかし、断層が動くのは何百年に一度だから工事を進めても構わないと語った専門家の言葉は、今の私たちには通用するものではないでしょう

 

工事の進捗状況、その時の政情、社会情勢、工事に直接携わった人間と共に描かれているのが、トンネル掘削工事が始まったことで豊かだった湧水がすっかり涸れてしまい生きる術を失った丹那盆地の農民たちの変化です
着工前には穏やかな笑顔で迎えてくれた彼らでしたが、窮状に陥った後の抗議行動に出る姿はまるで別人
他の著書同様、物語(=史実)の側面や裏側まで丁寧に描かれているのは、吉村さんの根気強い資料蒐集の賜物です

 

 

丹那トンネル建設とは直接関係の無い
東西両方から建設の始まった東海道線がどこで繋がったのか、や、最終章の、東海道新幹線関連の話も大変興味深く読みました

 

自分が通るとしたら丹那トンネルに並行した東海道新幹線の新丹那トンネルですが、今後は通過の度にこの小説を思い出すことでしょう
グーグルアースでトンネルの上、函南町を見てみました
昔、男たちの熱い闘いがあったことが夢のように思われる、美しい緑に囲まれた町ですね

 

帯の謳い文句
「あの『高熱隧道』をしのぐ面白さ」
正しいです

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 門井慶喜「家康、江戸を建てる」 | トップ | TV(BS・CS)で観た映画(日... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

や・ら・わ行の作家」カテゴリの最新記事