徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:夢枕獏著、『陰陽師 第12巻 醍醐ノ巻』(文春文庫)

2017年10月02日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『陰陽師 第12巻 醍醐ノ巻』もいつも通りの短編集です。収録作品は、「笛吹き童子」、「はるかなるもろこしまでも」、「百足小僧」、「きがかり道人」、「夜光杯の女」、「いたがり坊主」、「犬聖」、「白蛇伝」、「不言(いわずの)中納言」の9編。相変わらず盛りだくさんです。

「笛吹き童子」では、博雅のライバル登場?!童子のあまりの笛のうまさに「とてもかなわない」と悩む博雅が意外な感じです。さてこの童子の正体は誰でしょう?なかなかほほえましいエピソードです。

「はるかなるもろこしまでも」は都のあちらこちらに楽しげに現れては、伽羅の匂いを残して消える不思議な女の話。これもいいお話で、私は好きです。

「百足小僧」は藤原実貞(さねさだ)がおかしな行動を取り出し、終いには家人を攻撃するようになるエピソード。

「きがかり道人」は月駆け道人という天帝に月と共に地を巡る月守の役を仰せつかっている老人が蝉丸の琵琶に魅了されて寄り道をしてしまい、月がそこに引っ掛かってしまうというファンシーなエピソード。

「夜光杯の女」は唐から渡って来た曰く付きの夜光杯にとりついていた女・楊貴妃が出てくる話。

「いたがり坊主」は、帝の御悩を平癒させた高山の正祐(しょうゆう)法師の正体が暴かれる話。

「犬聖」は、達智門で犬に守られ養われていた赤ん坊を心覚こと賀茂保胤(やすたね)=賀茂保憲の兄が引き取って、ちょっとひと騒動になるというお話。

「白蛇伝」は長楽寺の僧・実恵(じつえ)がある日を境に夜ごと白蛇に通われるようになったというお話。ただし、清明は白蛇の正体を突き止めただけで退治はしていません。そういうオチもあるのかとちょっと意外に思いました。

「不言中納言」は、里を荒らす黒い大猪獅子を藤原忠常が弓で射たら、その獣は出なくなったものの、忠常の屋敷で立て続けに家人が頭部を喰われてしまって晴明に助けが求められるお話。冠茸を取りに山に入って何日間か行方不明になっていた中納言が実はこの射られた大猪獅子を助けてしまい、そのことを誰にも言わないとその獣の妻に約束したことを晴明に告白して、忠常と自分を助けてくれるように依頼します。まさに平安怪異譚というエピソードですね。

それにしても、なぜこの巻が「醍醐ノ巻」なのかよく分かりません。10巻の「夜光杯ノ巻」のタイトルはむしろこの巻の方が相応しいように思うのですが…

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