◆PROVE◆

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イヴ  【創作SS】

2005-12-17 | 創作
泣く子も黙る、クリスマスイヴ。
きらびやかな電飾に彩られた町並み、巨大ツリー、軽快なクリスマスソング。ケーキやチキンが飛ぶように売れてゆく。
泣く子も黙る、そんな楽しげな、浮かれた空気。
泣く子は――黙れ。
沈黙する。
じわりと目の奥が熱いけれど、止める。
変わりに手鏡を出す。目は真っ赤だった。惨め過ぎて顔が上げられない。
大きなツリーの根元のベンチに座りながら、あたしは目をつぶった。もう何も見たくない。…特に、幸せそうな恋人たちの姿なんて。見たくない。
午後7時。待ち合わせの時間ぴったりに彼からメールがやってきた。携帯電話が映し出したわずかな文字から、デートをドタキャンされ、そして自分がフられたことを知った。
しゃん、しゃん。
鈴の音。涼やかで軽やかな音楽。笑い声。
見えなくても聞こえてくる情景が、あたしを奈落に突き落とす。

どれくらいそうしていただろう。気がつけば、身体が冷え切っていた。指先がかじかんで感覚をなくしている。それもこれも、コートの下に着た肩の出るタイプのひらひらしたワンピースのせいだ。おめかしなんかしてくるんじゃなかった。
寒い。
時計を確かめたら八時半だった。思ったよりも時間が進んでいなかったことにあたしは少しだけ気をよくした。
再び鏡をみると、充血した目はもとに戻っていた。腫れて、メイクも崩れている様はやっぱり無様だけれど、もうどうでもいい。あたしは立ち上がって歩き出す。
耳元を通り過ぎる風が、本当に冷たい。
たまらなくなって、自動販売機に駆け寄りお金を入れて、ボタンを押した。
ガシャン。
落ちてきた缶を引き出して、ほっとする。コーンポタージュ缶を手の中で転がしながら、今度こそ家路に着くことにした。

ちらちらと振り出した雪に、追い立てられるように。          <終>


※ ※ ※ ※ ※
唐突に創作SSです。短いですね…何がしたかったんだ自分。なんにせよ、そんな季節ですな。浮かれ空気好きですよv 別に私の実話などではありませんのであしからず(笑)

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平行世界の風景 【戯言SS】

2005-08-08 | 創作

夏の暑さが身にこたえる。
京都は盆地だ。我慢大会だ。

そんな世界との断絶を試みて、やってきた場所が玖渚友のマンションだというのはどうなんだろう。
しかし、外の熱気を感じさせない快適な空調設備とコンピュータ類に囲まれたここは、確かにひとつのオアシスといえた。

「友」
「うに?なにかな、いーちゃん」

玖渚は今日もまた馬鹿でかいパソコンと、うねうねしたコードに囲まれて僕に背を向けている。
カタカタカタカタ……。
キーボードの音が響く。

「……お腹減ってないか。何か作るけど」

言いながら、冷蔵庫の中身を確かめに行って脱力した。
「お前、ちゃんと食ってるか?」
「んー」
「んー、じゃない」
冷蔵庫の中は、過去の経験から予想できたにしろ、やはり不思議なほど空っぽだった。
外の日差しを思い返して深く息を吐く。

「夕方になったら、なんか買ってくる」
「そっか。――ん?いーちゃん、今日はここに泊まるつもりなのかなっ」
「誰がいつそんなことを言った」

「遠慮はいらないよ」

誰が。遠慮なんて誰が。

「じゃあ、僕様ちゃんから言おうかな」
「――え」

「泊まっていきなよ」

なんの冗談だろう。夏の暑さは、こいつの頭のネジを一本だか二本だか抜いたのかもしれなかった。
僕は答えず、ひとまずは青い長い髪を見つめながら、壁に背をつけた。 

                                            END.


※ ※ ※ ※ ※
<後記>いきなり(久しぶりの)戯言SS公開。暑さで沸いているのは、おそらくは私の頭です(笑)。
タイトルが本質。むしろ言い訳。
戯言シリーズ(@西尾維新)本編とは間違っても交わることのない幸せな世界。…って、書いてて悲しくなってきました(笑;)


青色に連なる…

2005-08-02 | 創作

青色の渚に浮かぶ舟。
猫は孤独に震えながら丸木舟の上。
枝を1本突き刺して、先端にひらめくビニールの帆。

本当の幸せ探す旅。
びゅうびゅう鳴る風の中、見果てぬ空を望む。
無意識は風に乗り、帆にからまって、すぐ消えた。

楽しみも喜びも苦しみも怒りも、空に溶けて、渚に溶ける。

ルビーの埋まった海底遺跡。
眼下で瞬く光は猫までは届かない。
一度も見たことがなかったから、赤い光はシグナルに。

二度目の光も届かない。
幾ばくかの不安を猫に与えるだけの赤。
辛うじて開けた目には、やはり映らない赤い色。

六面のダイス転がして、行き先は、さあ、どこだろうか?

神様のいる場所。
正直いって、わからない。
いや、そんなことないよ、まだわからないよ。


呼び声を映す鏡。
水の音が響いて壊す。
澄んだ瞳の奥に、残るは声ばかり。

凛と青い渚。
桜の溶け込む頃。
蝋燭の明かりを灯して眠る。



※ ※ ※ ※ ※
唐突に詩モドキを書いてみました。(@7月27日)
試験からの現実逃避っぷりが如実に現れています。詩に見せかけた「しりとり」です。
…あれ?しりとりになってない箇所がある?き、気のせいですよ;(すみません。間違えました)


スノウ・クライン 5 【戯言SS】

2004-12-24 | 創作
しんしん――、と雪の降る音が聞こえてきそうなほどの静寂が流れた。


「玖渚、帰ろうか」
「えっ、いいの?」
ぼくは席を立って、玖渚の手を引いた。

「ええっ、いっくん!?」
「おいおい、欠陥製品。なに勝手に――」

困惑した声が追ってきたが、気にならなかった。
「いーちゃん、このあとマンション来る?」
「……ああ。そうだな、たまには寄ろうかな」
「やたっ」
玖渚が手のひらを叩き合わせる。その顔は、やっぱり笑顔だ。

玖渚はあとわずかしか学校に通えないことが、入学するずっとずっと前から決まっていた。
一人で階段を昇れない。そういった上下運動ができない彼女だから。
この校舎は1年の教室は1階に、2年の教室は2階に。そういうふうにできている。
移動手段は階段以外に存在しないから。

だから、もう少しだけだ。
もう少しだけ、ぼくたちは高校生活を楽しんでいよう。自由に。

「友」
「うに?」
「好きだよ」


雪に降り込められた、この閉じた真っ白で無垢な世界で。
もう少しだけ。

                      CLOSED.

※ ※ ※ ※ ※ ※
<後記>はい。これで『スノウ・クライン』完結でございます。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!多謝☆
えーっと。メリークリスマスイブですね…(なんだそれ)
皆様に幸せが訪れますように…☆

スノウ・クライン 4 【戯言SS】

2004-12-23 | 創作
「うわーあ! 本当だ、雪だあ!」
ぽつり、と漏らされた零崎の声に伊織ちゃんが迅速に反応した。
彼女はいつの間にか立って窓のところにいる。
「雪ですね、人識くん」
「ん――ああ」

二人が窓の外の話で盛り上がり始めたので(正確には伊織ちゃんが盛り上がっているとも言う)、ぼくと玖渚もそちらに注目を向ける。

「はわわわー、雪だねー、いーちゃん! 僕様ちゃん雪なんて久しぶりに見たよ」
それはあなたが引きこもってるからですよ玖渚さん。
「雪だよー、いーちゃん。雪、雪、雪ー」
うふふー、と玖渚が笑う。

無邪気な笑みがぼくに向けられる。

「雪は分かったから」
と、たしなめながらぼくも外を眺めた。

玖渚の笑みは、ぼくにはちょっとまぶしすぎて、直視するのが難しい。
視線を逸らした先には重たそうな雲から、白い欠片がはらはらと無数に落ちてきていた。

なんだか、まぶしい。

白色が発光するように、眼に灼きつく。

「いーちゃん?」
玖渚がそんなぼくの様子に気付いて、不安げに覗き込んできた。
「どうかしたの、いっくん」
「んあ?」
続けざまに伊織ちゃんと零崎もこちらを向いた。
「いや……なんでもないよ」

「うにー。本当に?」
「本当だから」
「ならいいけど」


※ ※ ※ ※ ※ ※
<後記>4話目をお届けします。
今日は天皇誕生日なんですね。このSSも明日で完結です。
では、5に続きます。よろしければ最後までお付き合いくださいませ。



スノウ・クライン 3 【戯言SS】

2004-12-22 | 創作
「かはっ、傑作だあな」
「何、零崎」
いきなり吹き出すように言葉を吐き出した彼に、のんびりと反応を返した。
「誰も勉強なんてしてないんだもんな。試験の時間までまだ一時間もあるのにさ」

期末試験の日程中に休んだりして試験を受けられなかった者たちへの救済措置というやつで、ぼくらはここに残されていた。救済というか、これを受けないと冬休みはやってこない。成績表も出ないし、ひいては卒業条件にも響くのだとか。


「うーん。確かに退屈だな」
先生たちの配慮だかなんだか知らないが、試験を受けるまでに時間が設けられていた。
しかしながら、ここにいる人間の中には直前まで教科書やノートを広げて復習にいそしむような者はいなかった。

「いーちゃんいーちゃん」
「何、玖渚」
玖渚が席を立ってぼくのところまでやってきて言う。
「退屈なんだよ」
…………。
みんな、退屈していた。

「うー。もう帰りたいんだよ」
玖渚が駄々をこねる。
「もう少しだから待ってろ」
「うー。でも僕様ちゃん、この学校卒業しないし」

そんな玖渚の言葉に零崎がぴく、と反応したが、すぐに興味を失ったように外に視線を動かした。


「雪だ」


※ ※ ※ ※ ※ ※
<後記>3話目です。
実は仮タイトルが『サイレント・メビウス』だったのですが、同名のアニメ(漫画??)があることを知って急遽取りやめました。メビウスとクラインは、ほぼ同義の言葉(のつもり)です。
では、4に続きます。


スノウ・クライン 2 【戯言SS】

2004-12-21 | 創作
「つまらないなあ――」
伊織ちゃんが誰にともなくつぶやいて、それから不意にぼくのほうに顔を向けると「聞こえちゃった?」とでも言うように苦笑してきた。

それで思い出した。
無桐伊織。校内の秀才じゃなかったか。
試験のたびごとに毎回しつこく張り出される成績上位30人のリストの、かなり上のほうにいつも名を連ねていた……かもしれない。
定かでは、ないけれど。

「何がつまらないの? 伊織ちゃん」

今この教室内にいる最後の一人が、伊織ちゃんの席の後ろにひとつ空席をはさんだ場所から身を乗り出して話しかける。

玖渚友。
それがもう一人の名前だ。ぼくの幼馴染のようなものである。

「だってさあ、試験受けそびれたのはうっかり風邪ひいちゃって、どばーっと熱が出ちゃっただけだもん」
「……それが、つまらないってこととどう繋がるのか僕様ちゃんは分からないのだけど」
「試験なんて、意味ないと思う」
「ああ、それなら分かるかもしれないかな」

秀才チーム二人が、クラスメイトたちが聞いたらちょっと(いやかなりか)カチンときそうな会話を展開している。
――はあ。
ぼくはため息をついて窓の外を見た。
太陽は翳っていて、空の色が全体に白っぽい。近くに立っているすっかり葉を落とした細い木と相まって、寒々しい景色だ。

実際、寒いのだろう。
京都の12月である。いつ雪が降ってきてもおかしくはない。


※ ※ ※ ※ ※ ※
<後記>2話目です。やっと四人出揃いました。
よろしければ次もお付き合いくださいませ☆


スノウ・クライン 1 【戯言SS】

2004-12-20 | 創作
「だりぃな。まったく俺が何でこんなところにいなけりゃならんのか」
「それはお前が期末試験の三日間をすべて欠席していたからだろ、零崎」
ぼくは振り返らずに頬杖をついたまま返事をした。
「半分休んでたお前には言われたくないよなぁ」

……ああそうかい。

真後ろの席で声を出した彼の名は零崎人識。
顔面に本物の刺青を入れていて、耳に携帯ストラップがぶら下がっている奇抜な出で立ちは高校指定の学ランに大層そぐわない。


私立鹿鳴館高校、1年A組の教室内は閑散としている。
窓際の列にぼくと零崎人識が座り、二列向こう側に少女が一人。
確か名前は――
ええと、何て言ったか。
ああ、思い出した。無桐伊織。
紺色に白のラインが入ったセーラー服がよく似合っている、いたって普通の少女だ。赤いニット帽がお気に入りのようで、いつもかぶっている。


※ ※ ※ ※ ※ ※

<後記>戯言SS『スノウ・クライン』1話目をお送りします。
今回の話はお知らせしたとおりパラレルなのですが……かなり色々本編ネタばれがからみそうです。未読の方はご注意くださいませ;
ではまた。2に続きます。


秋の夜の夢幻 3 【戯言SS】

2004-11-17 | 創作
「酒だって?」
ぼくは春日井さんに目を向けた。
「そうだよ。ほら見てごらんなさい」
どん、とビニール袋をぼくの前に置いて中を開いた。ビールやらチューハイやらワインやらが、かなりの量入っていた。
「はあ……これを買った金はどこから」
「細かいことは気にしない」
無茶苦茶気になるんですが。

「一姫ちゃんは何を飲む?」
ぼくにはお構いなしで春日井さんは姫ちゃんに向き直って訊ねた。
「えっとー」

「未成年に酒を飲ませないでください」
「ええー、ケチー」
まったく、駄目大人だ春日井さん。


――それから。
「ハッピーハロウィンー! いつもより多く投げておりますですよっ、師匠」
姫ちゃんはお酒は飲んでいないはずなのに妙にハイになって、お手玉を披露していた。数え間違いでなければ九個。記録更新である。
春日井さんは春日井さんで。
「お姉さんはいい気分です。いやらしいことがしたくなりました」
とか言っていた。
これはいつものことか。

ぼくはといえば、急に襲ってきた眠気と戦うのに必死だった。
やけに眠い。だけど人前で、しかもこの二人を前に眠るわけにもいかない。

そんなことを思いながら、穏やか過ぎる夜は静かに更けていった。

                            <FALL DREAM>CLOSED.


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

<後記> 最終話です。ここまでお付き合いくださった方々、本当にありがとうございました。
どうにもオチ(?)のない話になってしまいました…
感想など残していただけると嬉しいです。それではまた。

秋の夜の夢幻 2 【戯言SS】

2004-11-16 | 創作
「春日井さん、帽子くらい取ったらどうです?」
「そんなことをしたら面白さが半減だよ。魔女といえば帽子、帽子といえば魔女。いっきーはこんな格好はお気に召さないかな」

「いえ、そんなことは断じてありませんが」

ただ、大きな鍔のとんがり帽なんて邪魔だろうと思ったから言ったまでです。帽子と魔女の関係性については保留しておこう。
お言葉に甘えて、その魔女のコスプレ服を堪能させていただくことにします。
うん。春日井さん、白衣も似合うが真っ黒な服も似合っている。

どうせなら姫ちゃんもそれっぽい服を着ていてくれたら良かったのに、と不覚にも考えてしまった。姫ちゃんは学校帰りなのか、いつものセーラー服だった。

「ししょお……今よからぬことを考えましたね」
姫ちゃんがじとりとした目で見てきた。
なかなか鋭いんだよな、この娘。
「いやいやいや。なんのことやらだ」
「ふーん。まあいいです。今日はハロウィンですからね。見てください!」 
意外にあっさり引き下がると、がばあっと姫ちゃんは紙袋をひっくり返した。

どさ、どさ、どさ、どさっ。

出てきたのは、お菓子だった。お菓子の山が出来上がっている。
これはすごい。すごいがしかし。
「駄菓子ですか……」
十円チョコ。うまい棒。よっちゃんイカ。カステラ棒。どぎつい色のゼリーにすもも、粉ジュース、エトセトラエトセトラ。
「美味しそうでしょう。今日はこれらをつまみにお酒を飲むということだよ」


※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

<後記> 「秋の夜の夢幻」二話目をお届けします。切る場所がうまくいかなくてちょっと困りました。(最後のセリフを言っているのは春日井さんです。わかりにくくてすみません…)