きらびやかな電飾に彩られた町並み、巨大ツリー、軽快なクリスマスソング。ケーキやチキンが飛ぶように売れてゆく。
泣く子も黙る、そんな楽しげな、浮かれた空気。
泣く子は――黙れ。
沈黙する。
じわりと目の奥が熱いけれど、止める。
変わりに手鏡を出す。目は真っ赤だった。惨め過ぎて顔が上げられない。
大きなツリーの根元のベンチに座りながら、あたしは目をつぶった。もう何も見たくない。…特に、幸せそうな恋人たちの姿なんて。見たくない。
午後7時。待ち合わせの時間ぴったりに彼からメールがやってきた。携帯電話が映し出したわずかな文字から、デートをドタキャンされ、そして自分がフられたことを知った。
しゃん、しゃん。
鈴の音。涼やかで軽やかな音楽。笑い声。
見えなくても聞こえてくる情景が、あたしを奈落に突き落とす。
どれくらいそうしていただろう。気がつけば、身体が冷え切っていた。指先がかじかんで感覚をなくしている。それもこれも、コートの下に着た肩の出るタイプのひらひらしたワンピースのせいだ。おめかしなんかしてくるんじゃなかった。
寒い。
時計を確かめたら八時半だった。思ったよりも時間が進んでいなかったことにあたしは少しだけ気をよくした。
再び鏡をみると、充血した目はもとに戻っていた。腫れて、メイクも崩れている様はやっぱり無様だけれど、もうどうでもいい。あたしは立ち上がって歩き出す。
耳元を通り過ぎる風が、本当に冷たい。
たまらなくなって、自動販売機に駆け寄りお金を入れて、ボタンを押した。
ガシャン。
落ちてきた缶を引き出して、ほっとする。コーンポタージュ缶を手の中で転がしながら、今度こそ家路に着くことにした。
ちらちらと振り出した雪に、追い立てられるように。 <終>
※ ※ ※ ※ ※
唐突に創作SSです。短いですね…何がしたかったんだ自分。なんにせよ、そんな季節ですな。浮かれ空気好きですよv 別に私の実話などではありませんのであしからず(笑)
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