杉山春『ネグレクト--育児放棄』(小学館文庫、2007年)を読んだ。
2004年小学館ノンフィクション大賞受賞作。
2000年に愛知県知多郡で起きた、父母による幼女段ボール箱監禁餓死事件のドキュメント。
17歳の時に、父は高校3年生、母はヤンキーの状態で子を生み、それから3年後に3歳のわが子を餓死させるまでの成り行きと、父母(さらには彼らの父母ら)の生育歴にまでさかのぼって、この事件の原因を探っている。
弁護士らから資料提供の便宜があったのだろうが、よく書かれている。少なくとも判決(名古屋地裁平成14年10月30日判決)よりは説得的であった。
ともに家庭的な環境に恵まれないで育ち、結婚してからも家では一切育児に協力せずにゲームに明け暮れ、面倒なことはすべて「うっとおしい」の一言で回避してしまう父、育児に疲れて買い物依存症に陥った母の口癖は「むかつく」。
そんな父母(加害者)を児童虐待専門の弁護団は、弁護しつつ再教育を試みる。
懲役7年の実刑判決を受けた父母もすでに出所していると思われる。
著者は、本人たちの希望にもかかわらず、この親子(被害者のほかにも2人の子がいる)の再統合には悲観的である。一緒に暮らすことだけが再統合ではないともいう。
ぼくもそう思う。
この事件の加害者を擁護する気はないが、こんな事件の発端の一つが、三歳児検診のチェック項目だったことが印象的だった。
発達に遅れのあった被害児はチェック項目を何一つクリアしていなかった。そのことが母親が検診ひいては医療機関などとの関係を断つきっかけになったようである。
普通に育っている子の親にとっては何でもないチェック項目だが、この事件の親にとっては自尊感情や子への愛情を喪失させる質問だったのである。
2010/6/13