RIGOLETTO (Sat Mtn, Oct 28, 2006)

リゴレットもまた個人的に思い入れの深い演目です。
というのも、私がはじめて生で見たオペラがリゴレットだったからです。
あれは、確かハンブルクの公演でした。
そして、感想は”？？？”。現在の私が最も苦手とし、はっきり言って
嫌ってすらいる抽象的な意味不明の演出。
よくあの公演から入って無事に今もオペラを好きでいられたものだ、と
自分の幸運を喜ばずにはいられません。
（それは、あのメトのカヴァレリア-１０月２０日の投稿参照-があったからなのですが。）
あれから、リゴレットは、いろんなオペラハウスのものを観る機会に恵まれましたが、
いつも思っていたのは、意外とあらゆる点で満足できる公演が少ない、ということ。
それは、主役級のキャストが３人もいて、その誰かがミスキャストだったり、
調子が悪いと致命的であること、またドラマとしての側面（演出）、音楽（オケ）など、
すべてがそろうということがなかなかなかったからだと思われます。
去年メトで見た、あのヴィラゾン（公爵）＋ネトレプコ（ジルダ）の強力キャストですら、
①ヴィラゾンが絶好調だったのは、３回見たうちの１回だけだった、
②ネトレプコにジルダ、は最良のキャスティングではなかった（見た目よりも歌唱的に）
③リゴレットがまったくだめだった、
以上の理由で、私の中ではベストとは程遠いものでした。
むしろその前（かその前）のシーズンに見た、
アンドレア・ロストのジルダ（少し金属的な声質なのが残念）や、
マルチェロ・アルバレスの公爵の方が私の好みです。
なので、リゴレットを見に行くときは、
いつも、今日こそは理想の演奏に出会えるか？という期待を持って向かいます。

今年からメトはシリウスという衛星ラジオで週４回の生中継を行っていますが、
何日か前に初日を迎えた今シーズンのリゴレット。
その初日の様子をラジオで聞いたのですが、
ジルダと公爵の二人が少し緊張していたようなのと、
ラジオでは決して完全には本当の音はわからないという点を差し引けば、
なかなか全体的によかったので実は今日のこの公演はかなり期待して来ました。

まず公爵役のCalleja。いい意味で、大変ユニークな声です。
これはこちらのオペラ・ニュースなどの雑誌やファンサイトでも言われているのですが、
少し独特の発声法とティト・スキーパを思わせる甘い声で、
往年のテノール歌手のような雰囲気があります。
しかも調子の良いときは声量も十分。
この日は大変調子がよかったようで、演技も公爵の雰囲気、出てます。
彼のインタビューを雑誌で読んだのですが、
”女心の歌のシーンは緊張するけど、でも、あれは公爵が自分に向って歌う鼻歌、
要はひとりごとなんだよね。それを忘れないでおこう、とか、そんなことを考えてたら、
もう歌のほとんどを歌いおわってるんだ。”というようなことを言っていて、
この人は良い！と思いました。
好き嫌いの分かれる歌手かもしれませんが、退屈な歌手より百万倍いいです！

それから、びっくりしたのは、ジルダを歌ったSiurina。とんでもない美声です。
これはなんと形容すればいいのか。。。もうジルダの役はこの人のためにあるような感じ。
声の清潔感がただものじゃありません。はじめてリゴレットを見ながら、
”ああ、ほんもののジルダがいる！”と思いました。
もう少し嵐のシーンで強さがあってもいいかとも思いますが、それは贅沢というものでしょう。
細かいところまで気を配った丁寧な歌い方も好感がもてます。
ラジオでこの後、何回か違う日の公演も聴きましたが、日によって調子の好悪の差がすくなく、
安定しているところもすごいです。彼女のジルダは絶対に絶対に聞き逃せません！

ポンスのリゴレットもこの二人の若手をうまくサポートしながらもドラマを忘れない役作り。
いつもながらこの方の器用なのには感心します。
これは、現在のところ、私のなかでもっとも理想に近い、いや、ほとんど理想のリゴレットです。

一ヶ月に二回もこんなに幸せになってしまっていいのでしょうか？


Juan Pons (Rigoletto)
Joseph Calleja (the Duke of Mantua)
Ekaterina Siurina (Gilda)
Paata Burchuladze (Sparafucile)
Nancy Fabiola Herrera (Maddalena)
Conductor: Friedrich Haider
Production: Otto Schenk
Grand Tier A even
ON
***ヴェルディ　リゴレット　Verdi Rigoletto***