Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

LUCIA DI LAMMERMOOR (Wed, Mar 5, 2008)

2008-03-05 | メトロポリタン・オペラ
シーズン頭の公演から一段落置いて、『ルチア』のリターン・パフォーマンスが始まりました。
今日を入れて計3回の予定で、ルチア役はいずれもナタリー・デッセイ。
今週土曜日に予定されている次の公演は、全国FM放送およびシリウスの両方でのラジオ放送が
予定されているので、今日はその前哨戦といった趣で、土曜日の公演により焦点が合うよう
主要キャストも調整しているはず。そのあたりがどのようにパフォーマンスに出るか、、。

主要キャストは前回のランと、エドガルド役一人を除いて同じ。
今回3公演のエドガルドは、ジュゼッペ・フィリアノーティ。
この方は、オペラファンの間で支持する人が多く、
私も、マリエッラ・デヴィーアが日本で『椿姫』に登場した際のDVDを鑑賞する機会があったのですが、
アルフレード役を歌い演じたフィリアノーティの歌唱は、なかなかに端正なのが好印象で、
生で聴くのを大変楽しみにしていたテノール。

しかし、調整モードに一番大きく入っていたのは、主要キャストではなくレヴァイン氏なのでした。
日中のリハで精根を使い果たしたか、なんとこの公演、いきなりのキャンセル。
まあ、ダウンして土曜に振れない、というのは悲しいですからね。
気持ちはわかります。

しかし。カラマリ(イタリア語で”イカ”の意。今や英語でも一般的。)と私が仇名している、
コラネリが代理の指揮かー。うーむ。

案の定、いつも四角四面で正確なのが大好きなレヴァインの指揮と比較すると、
なんだか節目のないだらだらした指揮なのが目立ちます。
(四角四面がいいかどうかという問題は別に置いておくとしても、、)
ルチアのようなベル・カント作品を思い入れたっぷりにだらだらと振っても、
あんまり効果がないのでは?というのが私論。
歌に独特のスタイルが求められている以上、それに合う指揮というのもあるはずです。
このだらだらさは、せっかくの装飾音符とか早いパッセージ等に込められた美しさを殺しかねない。
というか、殺していたんですが。

デッセイは、声そのものの調子は決して悪くはないと思いましたが、
ところどころでセーブをしている様子がありあり。
まあ、これも土曜日のことを思えば仕方がないのでしょう。
しかし、これまで(9/24前半後半10/13)に言ってきたとおり、
彼女の歌唱の最大の魅力は何が飛び出してくるかわからない、
全力で歌うところから来るそのスリリングさにあるので、
私にとっては今日のこの公演、やや彼女であって彼女でない、というような不満が残ったのでした。

演技に関しても、前半のランでは、各回で、非常に統一性のある役作りを、
それも違ったバージョンで見せてくれる、という離れ業を演じていたのにくらべると、
今日は少し役としての説得力にも欠けているように思いました。
たとえば、”このうえない情熱に心奪われたとき Quando rapito in estasi "、
ここでアリサと、今までにないほどふざけあう演技付けがされていたのですが、
亡霊の話を振り払うかのように、エドガルドへの熱い思いを歌っても、
どこかでこの不幸への予兆が彼女とアリサの心にのしかかっているはずで、
(というか、それがこの作品全編を通しての通奏低音となっているともいえるわけで、だからこそ、
私は演出家のジンママンが最後にルチアを亡霊として登場させるという演出も”あり”だと思うのです。)
それが全く感じられないような、歌詞をなぞっただけのような、二人でふざけあう演技はどうかと思いました。
彼女にしては、珍しく表面的な演技だったと思います。

ただ、演技がやや薄っぺらい分、歌唱の多様性で補ってくれたのはさすが。
”狂乱の場”が、今回フルートではなく、グラス・ハーモニカを使って演奏されている、
という話は以前書いたとおりですが、
通常、ルチアが歌った節を追いかけてフルートが奏でられる箇所では、グラス・ハーモニカさえも使わず
(というか、グラス・ハーモニカでは、あの早いパッセージを効果的に追いかけるのは無理だと思われる。)
デッセイが両方を歌っているのがユニークですが、
今回、この本来フルートが奏する旋律を、単に最初に歌った旋律を追いかけるのではなく、
違う旋律で歌っていたのが、これまでの公演にはなく、これまた面白い、と思いました。
また、彼女のヴァリエーションは、決してトラディショナルではないのに、
しかし、決して度を越えることがなく、常にセンスがいいのが、
私の彼女の歌唱で好きなところの一つでもあります。



さて、私が今シーズンの歌唱を聴いて大注目しているテノール二人のうちの一人、スティーブン・コステロ。
彼は、そのアルトゥーロ役での歌唱の素晴らしさから、一日だけエドガルド役に大抜擢されるという
大幸運をつかみました

まだまだ主役級の役を歌うには、歌唱に荒削りな部分は見られるものの、
将来を期待させるきらりと光るものを感じさせられたのも事実。
特に、最後の”神に向かって飛び立ったあなたよ Tu che a Dio spiegasti l'ali”。
これは、メインでエドガルド役を歌ったジョルダーニからは決して聴くことのできなかった、
それはそれは繊細な歌で感動ものでした。
今日の彼は、再び本来の配役に戻ってアルトゥーロ。
彼は、遠目や写真で見ると、非常にかわいらしく、スタイルもすらっとしていて男前だというのに、
今日、近くの座席で見て、びっくり。
まず、演技を頑張らなければいけません、彼は。
常におろおろと挙動不審なのは、この役を演じようとしてなのか、
このメトの大舞台に本当におろおろしてしまっているのか、今ひとつ見極めることができませんでした。
また、肩。これをもう少し下げた方がいい。もっともっと立ち姿が美しくなると思います。
素質と必要なルックスは持ち合わせているのだから、頑張ってほしいです。
そして、今日の彼の歌声は、ややいつものエッジを欠いていたように思うのは気のせいか。
それでもやっぱり大変な美声で、”調子が悪いときにも、下げ幅低し”という
私の『良い歌手の法則』を満たしているので、
それはそれで嬉しいことなのですが、彼の歌唱はこんなものではないはず。
土曜日までに調子を上げてほしいところです。

エンリーコを演じたクウィーチェンと、ライモンドを演じたジョン・レリエーは、
いつもどおり、手堅く役を抑えていました。

さて、フィリアノーティ。
彼の声自体は、やはりDVDで聴いたとおり、非常に端正だし、悪くない。
ただ、少し延ばした音がところどころイーブンに聴こえないのが気になったのと、
ただ、DVDの頃から段々と起こった変化なのか、それともたまたま今日の歌唱がそうなのか、
これはこれから何回か彼の歌唱を聴くまではなんともいえませんが、
少し、妙なオーバーシンギング、オーバーアクティングが見られたのが残念でした。
特に各フレーズの頭が綺麗な歌いだしから始まって、最後の数語で感情を込めるためのオーバーシンギング、
というこの繰り返しで、非常にアプローチがワンパターンなのが気になりました。
というか、綺麗な声があってそれで十分勝負できるのに、
どうしてこんな”大根歌唱”をあえてしようとするのか、非常に疑問が残ります。
ただ、やや声量が少なく感じられた箇所もあり、もしかすると万全のコンディションではなく、
それをカバーするためにそのような歌唱になってしまった可能性もありうるので、
土曜にそのあたりを注意しつつ、ラジオに耳を傾けたいと思います。
あとは、演技がものすごく大時代風でびっくり。
こんな白々しい演技、今のオペラの舞台ではあまり見れません、というほどに。
ルチアにキスをするシーンも、まさにぶちゅーっ!という感じで、
もう少し優雅に出来ないものかと苦笑してしまう。
彼の歌うときの体の姿勢にも関係があるのですが、彼は決めの音を出すときに、
少し顎を挙げて歌うくせがあり、もともと彼は下あごが長いので、
舞台に近い座席に座っていると、かなりビジュアル的にインパクトがあります。
だから、歌手の顔がはっきり見えすぎる座席って好きでないんです、、。

しかし、フィリアノーティの歌からは、作品のスタイル感を感じさせられるのは確か。
この彼の歌を聴くと、ジョルダーニのこの役での歌が、いかに、無理矢理釘を引き抜くような
強引な歌唱だったか、ということにあらためて気付かされます。
ジョルダーニは、この役には重たすぎ、という結論。

ルチアとエドガルドの重唱の場面で、フィリアノーティがデッセイの腰にまわした手を、
デッセイが思いっきりひっぺがしていたのに少しびっくり。
その後に続く指環の場面を彼に思い出させるためともとれましたが、
”そんなところ、さわんないで!”と、とれなくもなく、、。


Natalie Dessay (Lucia)
Giuseppe Filianoti (Edgardo)
Mariusz Kwiecien (Lord Enrico Ashton)
John Relyea (Raimondo)
Stephen Costello (Arturo)
Michaela Martens (Alisa)
Michael Myers (Normanno)
Conductor: Joseph Colaneri replacing James Levine
Production: Mary Zimmerman
ORCH J Even
ON
***ドニゼッティ ランメルモールのルチア Donizetti Lucia di Lammermoor***

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