Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

IL TRITTICO (Sat, May 12, 2007)

2007-05-12 | メトロポリタン・オペラ
とうとう悲しいことに、2006-2007年シーズンの最後の演目になってしまいました
マチネにも行ったし、同じ演目を一週間前にも見たし、もういいんじゃないの?とも思えましたが、
突然、頭の中で鳴り響くオペきち野郎の声。
”いいや、よくない!!シーズン最後の演奏を見逃してどうする?!”
そうですよね、でも、今夜のチケット持ってないんです。
”馬鹿者!蝶々夫人チケット争奪戦の経験(10月31日)をお前は無駄にする気か?!”
。。。オペきち野郎に罵倒されてしまいました。
わかりましたよ、行けばいいんでしょ!行けば!!!
(↑ でも、ちょっと嬉しい。)

ってことで、またしても手ぶらでやって参りました、リンカーンセンター。
こういったケースでは、どんな席を買うことになるかわからないので、どの席でも浮かない格好を選ぶのがポイントです。
あまりにドレス・アップしてしまったら、ファミリー・サークル後方or端のチケットしか出てこなかった場合、
そんなにがんばってどうしちゃったんですか?と浮きまくること間違いなし。
ま、別に浮いても問題ないんですけど!
しかし、あまりにドレス・ダウンして、パーテール(そんな席が出てくることはまずありえないが)やオーケストラ前方になった場合(これはありえる)、
若干居心地が悪い。
どんな席が出てくるか?このわくわく感がたまりません。
心とは裏腹に、全く全然困ってませんのよ、という余裕の顔を作りながら、
黒人のおじさんのダフ屋を捕獲。
確かに、オペきち野郎=私の半身が言うとおり、
蝶々夫人チケット争奪戦の経験は全然無駄になってませんでした。
なんていっても、すぐにダフ屋がわかりましたから。
なので、黒人のおじさんに向かって一直線。
まわりに警官がいて、じっとこちらを見つめているのも、何だかしらないけど、
どきどき感をあおる。
黒人のおじさんの横に並んで立ちながら(気分出しすぎ。ヤクの売人でもあるまいし!)、”どんなブツ、持ってんの?”とたずねる。
おじさん、やおら、20枚位のチケットを取り出して、”ファミリー・サークル”。
え?全部、ファミリー・サークルですか?
ちょっと脱力するのを感じて、つい、おじさんの真正面にまわりこんで、
”もうちょっといい席探してるんだけど、他はないの?”と尋ねてみました。
おやじ、”ない。今日は最終公演だし、ファミリー・サークルの席くらいしか出て来ないよ。”
うふふ、私が昨日NYにやってきたとでも思ってんの?そんな手にのるかっての!
”そう。でもそんなに枚数持ってんだから、まあ、あなたの真横にたって、もう少し様子見てみるわね。”
おじさん、一気にチケットを私に見せたのは失策。
さすが、長年ダフ屋をやってそうなだけあって、
私の様子で、ファミリー・サークルには興味がないことを察したおじさん、
いきなり20メートルくらい離れたところに立っている別のおじさんを指差し、
”あそこにいる男性のところに行ってごらん。彼はいい席持ってるから。”
あんた、さっき、ファミリー・サークルくらいしか出てこないって言ったばっかりじゃないよ!
でも有益な情報を提供してくださったので、お礼を言って、別のおじさんの方に向かう。
”あなたはどんな席持ってるの?”
すると10枚ほどのチケットを広げて、”全部オーケストラだよ”。
ぎりぎりまで待てば値切れそうな雰囲気すら漂っていましたが、早くチケットを抑えてしまいたかったので、額面で買い上げることでご約定。
”でもこれじゃ、あなたの儲けゼロじゃ。。”というと、
”ああ、いいの、いいの。うちの教会にまわってきたチケットなんだけど、さばけなくって。”
。。どんな教会なんだ?オペラのチケットくれる教会なんて、私も行ってみたいぞ。
さて、10枚あるうちのチケット、どの席がいい?と言われ、
どれもこれも似たりよったりの番号なうえ、
オーケストラ席にあまり座ったことがないために、番号ではぴんとこなかった私。
10枚のうちでは一番前方に近いチケットを受け取って、オペラハウスに入ってみて愕然。。
列の最右端 ありえない。。
しかも、頭上にはパーテール・ボックスが突き出していて、
それがずっと前方まで延びているために、舞台の半分は見えません。
しかも、前の人の頭で、見える側の舞台の下半分はブロックされ、
ってことは1/4しか見えてない。。
これが正価で150ドルとは許せない!!
やっぱり、教会にまわってくるチケットなんてこんなものよね、とふてくされるも、
やっぱりオペラが始まるとそんなことは忘れてしまうのでした。
それから私の勉強不足も反省。
今日の夜から、メトのシーティング・チャートを再暗記することにしました。

ではその1/4の視界で見た範囲内で、公演についてお話すると。。

まず、『外套』。


(セットのデザイン画)


(そしてこちらが実際の舞台)

以前見たポンスに代わって、Burchinalがミケーレ役。
この人が、どうしたの?というくらい不調で、
本人も不調だとわかっているからか、やる気ゼロ。
せっかくグレギーナもリチトラもがんばっていたし、
ブライスは相変わらず素晴らしかったのに、
彼らが火をつけるたびに、このミケーレ役が消火活動におよぶという水のさしよう。
そう、この『外套』は、ミケーレがポイント。彼がよくないと本当に退屈だし、
退屈どころか、失笑ものなのです。話が週刊現代か、新聞の三面記事か?という内容なだけに。
そして、あろうことか、その笑いが出てしまったのです、観客から。
しかも、ミケーレがルイージを殺害するシーンで。
前回、ポンスが演じたときは、あまりにもリアルで、怖くて、
観客一同、水を打ったように静かになったシーンでですよ!!
もう、いかにこの人がだめだったかということがわかるというもの。
どんなに表面的には滑稽に見える痴話喧嘩でも、
その裏にある人の感情が見えれば突然ドラマになるのであって、
その感情をとりだして見せる仕事の一端を担っているのが歌手のはず。
作品がかわいそうでした。
たった一人のミスキャスト、たった一人の不調が作品を台無しにする。
これもオペラの怖さです。

『修道女アンジェリカ』



今日のこの演目、これは大変興味深く、また感動的でした。
私が何度かフリットーリの歌唱を聞いた限りで持っていた唯一の贅沢な注文といえば、
”歌唱が少しコントロールされすぎ、上品すぎる場面があるので、
もう少し感情に任せて乱れていただきたい!”ということだったのですが、
それを目の当たりにすることができたのです!
導火線に火をつけたのが、ブライス。
今日のこの演目でのブライスはいつもにまして、火の玉のようでした。
そもそも貴族出のアンジェリカは、自分の行いのために(結婚もしないうちに、ある男性との間に子供を出産。もしかするとまたこの相手が恋愛することも許されないような相手なのかもしれないが、詳しくはオペラの中ではふれられていない。)家名に傷をつけ修道院に入ります。
彼女の両親が亡くなる際に親権を委託されたおばである(ブライスが演じる)La Principessaは、
それゆえに激しくアンジェリカを嫌悪し、やまれぬ理由で修道院に彼女を訪ねてやってきますが、
目さえ合そうともしません。
アンジェリカとさしで話すに及んで、La Principessaの我慢が切れて怒りを爆発させる場面があるのですが、
そのとき、ブライスの怒りの表現があまりにすごくて、
一瞬、あれ?今怒鳴った?それともアンジェリカに平手打ちでもした?というくらい、
ぱしっ!!!という音が聴こえたように感じられたのですが、
彼女はきちんと歌っていました。怒鳴るでもなく、手を振り上げるでもなく。。
これまで、こんな幻聴のようなことを体験したことがない私はただただびっくり。
これ以上言うと精神病院に送り込まれそうですが、
怒りのエネルギーというか、波長のようなものが、
歌から観客席に飛び込んできた、という感じで、本当に驚いたし、怖くなりました。
しかし、ここで終わらなかったのが今日のよかったところ。
間違いなくこのエネルギーがフリットーリに伝播し、
フリットーリのいつものきれいで上品で、でもそのために少しエモーショナルな面で物足りないきらいのあった歌唱が、
形こそあらあらしくて、いつもに比べて歌唱上の欠陥はあったかもしれませんが、生身の感情が現れて、アンジェリカの苦悩が奇麗事ではなくて、まさにもがき苦しむ、という感じだったのが、大変心を打たれました。



曲が美しいので、彼女の自殺、救済にいたるシーンが、絵空事のように、
きれいに演じられることが多いですが(そして、前回見た公演は、フリットーリの理性的な歌唱もあって、どちらかというとそのラインでした。)、
今日この公演をみて、このアンジェリカの、死の前の地獄のような苦しみこそ、プッチーニが本来描きたかったことなんじゃないかと思えました。
だからこそ、最後の救済が一層感動的になり。。
シーズンの最後にこのようなすばらしい演奏を見れて大変に幸せでした。

『ジャンニ・スキッキ』



こんなアンジェリカの後、感動でぼーっとした頭でいきなりオペラハウスから街に出たら、
イエロー・キャブに轢かれかねないので、
やはりこの三部作にはこのジャンニ・スキッキが必要なんだな、とつくづく実感。
よく考えるとこの三部作の順序はやっぱりこれしかありえない、と思えてきます。
残念なことに、前回の公演でなかなか素敵な若者を好演していたジョルダーノから、
リヌッチオ役がジョン・ヌッツォという人に代わってしまっていて、
やっぱり全然ジョルダーノの方が良かったのですが、
(声に少し張りがない。若いのに。)
それ以外のキャストがこの数回の上演のうちに鉄壁のアンサンブルを築いていて、
演技および歌唱が練りに練られて、大変素晴らしいものになっていました。
コルベリのジャンニ・スキッキも、なんだか前回より自信を持って、
しかも生き生きと歌ってました。



こういった喜劇の場合、上演回数が重なってくると、だんだんオーバーアクトの部分が出てきたりなんかして、
(去年のドン・パスクワーレなんかがその例)
ちょっとそこまで行くと、逆にしらけてしまうんですが。。。という風になりがちなのですが、
以前にも書いたとおり、このキャストは、出たがり、わがままな人がいないようで、
みんながお互いの調和を考えているところが素晴らしい。
いまいちだったヌッツォを一生懸命盛り立てているところも微笑ましかった。
ミキテンコのO mio babbiono caro(私のお父さん)、前回はレヴァインのスローな指揮も一因かと思いましたが、
どうやら、
Si, si, ci voglio andare
E se l'amassi indarno
のe se l'amassiのリズムがこの人にとっては魔境(つまりは失敗しがちな箇所)のようです。
魔境といえば、ボロディナはO don fataleの最後の部分がそうでした。。
今日は違う指揮者でしたが、全く同様にしばらくオケから暴走されて(歌が走って)ました。

(最初の写真はジャンニ・スキッキの実際の舞台写真。
前回5/4の公演についての記録でその美しさを絶賛した場面です。
このプロダクションは三作とも本当に舞台デザインが美しい。
遅ればせながら複数の写真をアップロードする方法を学びましたので、
それぞれの作品の説明のところに舞台デザイン画を挿入してみました。
ジャンニ・スキッキの写真とデザイン画は同じシーンです。)

IL TABARRO
Maria Guleghina (Giorgetta)
Salvatore Licitra (Luigi)
Frederick Burchinal (Michele)
Stephanie Blythe (Frugola)
SUOR ANGELICA
Barbara Frittoli (Sister Angelica)
Stephanie Blythe (La Principessa)
Heidi Grant Murphy (Sister Genovieffa)
GIANNI SCHICCHI
Alessandro Corbelli (Gianni Schicchi)
John Nuzzo (Rinuccio)
Olga Mykytenko (Lauretta)
Stephanie Blythe (Zita)

Conductor: Joseph Colaneri
Production: Jack O'Brien
Orch N Even
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***プッチーニ 三部作 Puccini Il Trittico***

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