Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: LA RONDINE (Tues, Jan 13, 2009)

2009-01-13 | メト on Sirius
オペラヘッドの大好きな事件の一つに、病欠などによる思わぬ交代劇によって
登場した歌手(無名ならなお可)が素晴らしい歌唱を披露する現場に出くわす、というものがあります。

よって、私も、本来は、予定されていた歌手が体調不良で降板するなら、
代りには、出来れば、あまり聴く機会のない歌手を聴きたい!
若い有望な歌手にチャンスを!と思っている方ではあるのですが、
では、実際にアンダースタディなんかが登場して歌ってみると、
”これはやっぱりもとの歌手で聴きたかった、、”と涙させるような
お寒い歌唱であることも少なくありません。

メトでも、昨シーズンに続き、今年もあちこちの演目で穴が出て、
そのたびにいろいろな代役歌手が引っ張り出されているわけですが、
メトで近頃、有名歌手をもって有名歌手のカバーに入れる、
つまり、同時期に他の演目に出演中の主役級の歌手をカバーにお願いする、というパターンが
そう少なくないのも、結局、アンダースタディや無名の歌手に歌ってもらっても
ホームランが出る確率が少なく、
それならば、安全度が抜群に高く、観客からも文句が出るどころか喜んですらもらえる可能性もある、
有名歌手を他演目から拝借~というロジックなわけです。
マルチェッロ・ジョルダーニなんて、そのおかげで毎年どれほど酷使されていることか、、。
きっと、彼は、NY滞在中、いつゲルプ氏から電話がかかってくるやら、と、
びくびくし通しに違いありません。
(今シーズン、もともと予定されていた『ファウストの劫罰』のファウスト役と
連日で『蝶々夫人』のピンカートンの代役をつとめること数回、、。)

というわけで、有名でない歌手が代役に立って大喝采で終わった例の直近のものというと、
昨シーズンの『椿姫』で一回だけヴィオレッタを歌ったエルモネラ・ヤホくらい。
しかも、残念ながら、私はオペラハウスにいなかったし、シリウスの放送もない公演日で、
オペラハウスに居合わせた友人が電話してきて絶賛するのを、
指をくわえて聞いているしかなかったのです。くやしーっ!

今日、シリウスのスイッチをオンにすると、マグダの役名がアンジェラ・ゲオルギューではなく、
モーリーン・オフリンという名で読み上げられました。
ゲオルギューは、そういえば、昨シーズンの『ラ・ボエーム』でも、
ライブ・イン・HDの公演の日が終わった途端に、残りの公演を降板していましたが、今年も同じ手?
確か、全公演、もともとはゲオルギューが歌うはずだったと記憶しているのだけれど、、。
今日でアラーニャとの共演の日程は最後だったのに。
(この次の『つばめ』の公演は、二月半ばにフィリアノーティとの共演になります。)
”それまでは少し間が空くから今日降板しても目立たないし~、
私、HDの日も風邪だったし~。”

そして、HDの日に、ゲオルギューよりつらそうだったアラーニャは、今日、きちんと出演してます。
で、ゲオルギューの代役に立つオフリン嬢。
はっきり言って、全然名前も聞いたことがないソプラノ。
とにかくマグダ役はあまりにゲオルギューにぴったりなので、
正直、誰が歌っても彼女を越えることはないだろう、と、聴く前はボルテージが下がりっぱなし。

しかし!!!彼女が一声発して私の耳が完全停止しました。
ちょっと!!いい声ではないですか!!
ゲオルギューよりやや深めの声で、ヴェルディ作品なんかが合いそうな、
その分、ちょっとこの『つばめ』には端正すぎる気がなきにしもあらずですが、高音の伸びが本当に綺麗。
ディクションが硬いですが、丁寧に歌っているのは大変好感が持てますし、
ゲオルギューとは全然違うタイプの歌唱ながら、耳をひきつけるものがあります。
シリウスで聴いている限りでは、全く楽しめます。

まあ、声がこんなに豊かで綺麗なら、見た目はさすがにゲオルギューには敵わないだろう、、。
もしかして、ものすごく横に大きいお姉さんが、
無理矢理あの華麗な衣装を身につけて舞台をのし歩いているのだろうか、、
オペラハウスにいる人は嫌でもビジュアルが目に入るから可哀想ね、、
なんて思っていたら、このオフリン嬢がどんなルックスの人か気になってしょうがなくなりました。

そこでさっそくネットで検索。
そして、あっ!!!!とびっくり!!!




この写真が彼女です。ちょっと!美人じゃないですか!!!しかもスリムだし。
何これ!?こんななら、私もオペラハウスで聴きたいーっ!!

彼女にとっては大舞台の今日の公演。
ゲオルギューの代役、相手役はアラーニャ、しかもシリウスの放送、、。
大きなプレッシャーを跳ね返すように、舞台での全ての瞬間を大事にしたい、、
そんな気持ちが伝わってくるような歌です。
いいですね、こういう歌は。

もちろん、課題はあります。
中盤、音が外れているとまではいいませんが、重心がやや下がりがちになった部分があったのと、
やはり役作りが少しゲオルギューより浅い。
この役には少し人柄が温かすぎるような歌唱でもあります。
重唱の場面では、指揮のアルミリアートとアラーニャの懸命なサポートで切り抜けた感もありました。
でも、いきなり本舞台に立って、これだけの歌を聴かせたら、まずは賞賛に値するのではないでしょうか?
私がオペラハウスにいて、代役からこの歌唱が聴けたら、面白いものを聴いた、と喜んで家路につくでしょう。

何より彼女の強みは高音の美しさとふくよかさ。
一幕のアリアは、ゲオルギューのそれより全然出来が良かったですし、
(Ah! mio sogno! ああ、私の夢よ!と歌うフレーズでの高音の、それは美しかったこと!)
何よりも私を(いい意味で)くらくらっとさせたのは、第三幕、
作品の幕切れの最後の音となる、Ah~と伸ばす高音。
その放物線を描くように綺麗に絞られていった音からは、
まさにつばめが夕焼けの中を段々遠くに、旋回しながら飛び去っていく姿を思い起こしました。
ああ、このAh~の音は、つばめ(マグダ)が向こうに飛翔していく姿を描写していたんだ、と目からうろこでした。
この一音だけでも、彼女の歌唱を聴いた価値あり。
堪能しました。

こちらの関連記事も合わせてお読みください。短いですが、オフリンの歌唱が聴けます。)

Maureen O'Flynn replacing Angela Gheorghiu (Magda)
Roberto Alagna (Ruggero)
Lisette Oropesa (Lisette)
Marius Brenciu (Prunier)
James Courtney replacing Samuel Ramey (Rambaldo)
Monica Yunus (Yvette)
Alyson Cambridge (Bianca)
Elizabeth DeShong (Suzy)
Tony Stevenson (Gobin)
David Won (Perichaud)
David Crawford (Crebillon)
Conductor: Marco Armiliato
Production: Nicolas Joel
Set design: Ezio Frigerio
Costume design: Franca Squarciapino
Lighting design: Duane Schuler
ON

*** プッチーニ つばめ Puccini La Rondine ***

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4 コメント

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オペラは水物 (keyaki)
2009-01-15 14:00:47
オペラは、予定通りにいかないことが多いですね。
風邪が悪化したんでしょうけど、同じことが続くと常習者....にされちゃいますね。2007年ローマでの《椿姫》も2日目は、1幕のあと降りちゃったそうです。初日にパパ・ジェルモンのレナート・ブルゾンとアルフレードのヴィットリオ・グリゴーロへの拍手が多かったから降りた...なんて言われちゃいました。まあ、ヴィオレッタが彼女以外に3人も控えていましたから、ゲオルギュー自身、「ま、いいか、劇場には迷惑かかんないし....初日に張り切りすぎて疲れちゃったし...」ってことなんでしょうね。

それにしても、オペラ歌手は、ぶっつけ本番にも強くなくてはやっていけないってことですね。

ゲオルギューって、歌ってない時の口をもぐもぐが気になるって、どこかでおっしゃってる方がいましたが、確かに気になりますね。これって最近の彼女の癖みたいですけど、なるべく歌ってない時は映さないようにするか、クローズアップを避けるとか、ちょっと配慮が必要だと思いました。きれいだからかえって目立ちますね。
返信する
ポイントは抑えてあるからよくってよ! (Madokakip)
2009-01-15 14:56:08
 keyakiさん、

ゲオルギューは、彼女的に”これはきちんとやらなきゃ!”という、
線はあるみたいで、その中ではキャンセルも少ないし、
一生懸命歌ってもくれるような気もします。

今回の場合は、それがライブ・イン・HDの日に歌うこと、
だったように思います。

しかし、一旦そこをクリアすると、一気にやる気がなくなってしまうのか、
とりあえず自分が歌わなくても何とかなりそうなら、
結構あっさりと降板してしまいますね。
この日はアラーニャも出演するし、出演するかな、と思ったのですが、、。

この彼女のピンポイント狙い、一点集中型なところは、
彼女の歌唱を聴いていて時々感じることがあります。
この『つばめ』はそうでもなくて、わりと集中力が全編で持続しているんですが
(だから、彼女のこの演目での歌唱が好きなのかもしれません。)
メトでの『椿姫』、『シモン・ボッカネグラ』、『ラ・ボエーム』は、
”ここはしっかり歌うわよ!”という部分と、
それ以外の部分の対比がやや大きい気がしました。

>ゲオルギューって、歌ってない時の口をもぐもぐが気になるって、どこかでおっしゃってる方がいましたが

私です(笑)。
スカラ座の『椿姫』を映画館でみたとき、
すっごく気になりました。
そうなんですよ、美人なので逆に目立つんですよね。

今回のプレイビルに広告が入っていたのですが、
ゲオルギューが蝶々さんを歌う
『蝶々夫人』全幕のCDがもうすぐ発売されるそうです。
2008年夏のパーク・コンサートでのUn bel diは、
思ったよりもよくて意外だったのですが、
彼女の声のサイズからしてどうなんでしょうね、、
もし舞台で歌うことを前提とした録音だとしたら、、。
全幕で歌うには、彼女の声には役が重すぎるように個人的には思うのですが、、、。
また私に”やっつけ仕事”よばわりされないよう、
CDがいい出来だといいのですが。

(ボエームの記事の件、あらためて、ありがとうございます!)
返信する
観てきました。 (まんまる)
2009-02-01 22:15:16
今日「つばめ」観てきました。
どこに書こうかと迷ったのですが、「口もぐもぐ」ネタがこちらだったので
ここに書きます。

私もこれ(口モグ)、気になって気になって。
お口のコンディションの調整かなにかなんでしょうかね?
ときにぺろりと舌まででてるし、アップのときには
これはやばい・・・。

それはさておき。
私にとっては、まだまだ「お初」続き。
もちろんゲオルギュー&アラーニャもお初でした。
けっこういろいろなところでお名前を拝見するお二人なので
どんな感じかな~、っと楽しみにしておりました。
今日もしっかり全体としては楽しませてもらいました。
(まだまだ「お初」でなんでも楽しい?!)

印象としてはアラーニャさんの声はカラッとして明るい感じがして、
これはこれで気持ちよく聴けるのかな~、と思いました。
(でも見た目が苦手です・・・)
ゲオルギューさん、華のある人ですね。
ありすぎ、っていうか・・・・。
なんというのかな~、なんか圧迫観がありますね。(女王様キャラ?)
先入観あるからかしら?
あるいは映像のせいか・・・。
歌は・・・わざわざ歌声だけを聴きたい、とまで思う声ではなかったかな。
ビジュアルつきで観るのがよさそう。
(でも「蝶々夫人」のCDは買いますけど。カウフマンのピンカートン目当てで。笑)

以前、ROHでカウフマン氏もルッジェーロをやったことがあるとやら。
ん~、でも今日のを観て、この役は違うかも、と思いました。
なんとなく。

中身についてはこじんまりとしていて、あっけなく終わってしまう感じもしましたが
Madokakipさんの深い読み込み解説のおかげで
とても楽しめました。

なんだかぐだぐだな感想ですみません/face_ase2/}




返信する
ご感想、ありがとうございます (Madokakip)
2009-02-03 07:35:15
 まんまるさん、

私もこれライブ・イン・HD(映画館)で観たんですが、
まだこの日はましな方で、スカラ座で歌った『椿姫』のHDの時は、こちらまでもぐもぐしてしまうほど頻繁に観察されました。

昔はこんな癖、なかったように思うんですけど、
私が記憶してないだけでしょうか。
多分、緊張をほぐそうとしているんだと思うんですが、
確かにスクリーンでこれは目立ちますよね。

>まだまだ「お初」でなんでも楽しい?!

とってもいいことではないですかー!
私も嬉しいです。

>圧迫観がありますね。(女王様キャラ?)
>先入観あるからかしら?

ははは、その先入観を注入したのは私です。
すみません(笑)。

>歌は・・・わざわざ歌声だけを聴きたい、とまで思う声ではなかったかな。

もちろんお好みもあるかも知れませんが、
彼女の名誉のために少し付け加えると、
この日の彼女はコンディションがあまり良くなかったです。
いつもは高音なんか、もっと綺麗に響く人です。

>「蝶々夫人」のCD

で、ぜひ確認されてみてください。

>カウフマン氏もルッジェーロ

確かにちょっと違うかなあ、、。
この役はからっとした声の方が合うと思いますね。
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