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音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

LE NOZZE DI FIGARO (Sat, Dec 12, 2009)

2009-12-12 | メトロポリタン・オペラ
やっと『フィガロの結婚』の最終公演日になりました。
こんなに聴きたいわけではないのに、今日は2.5回目のデ・ニースのスザンナです(1回半回)。
なぜそんなことになってしまっているかというと、伯爵夫人のせいでした。
色んな歌手をカバーしたいと思うと、Aキャスト、Bキャストはもちろん、
亜A、亜Bといった、一人だけメンバーが違う公演まで観に行かなければならない、、。
もはやこれは強迫観念というしかありません。

今日の伯爵夫人はミードでちょっぴり脱線してしまった(でも歌は素晴らしかった!)
”すらりとした美人”路線に戻って、アネッテ・ダーシュ(下の写真)が伯爵夫人です。
指揮は前回の鑑賞時と同じくルイージ。



その前回鑑賞した公演の感想で、ルイージの指揮には一言もふれないままで終わらせてしまったところ、
鋭い読者の方から、ルイージの指揮についての言及がありませんね、と指摘され、
やっぱりばれてしまいましたね、あはは、、と笑ってごまかすな!って感じなので、まず今回はルイージの指揮のことから。

タッカー・ガラでのルイージの指揮が本当に素晴らしかったので、
彼のトリプル指揮(同時期に『フィガロ』、『エレクトラ』、『ヘンゼルとグレーテル』を振る)に
猛烈に期待していた私なんですが、正直にいいますと、12/4の『フィガロ』はちょっと期待外れでした。
彼のタッカー・ガラでの指揮、特にイタリアものに関しては、本当に迷いがなくて、
それが奏者にも伝播して、エキサイティングな演奏になっていたんですが、
『フィガロ』は、その時のような彼の意思とオケのレスポンスがぴたっと合わさった感じがありませんでした。
特に私が気になったのは、テンポを極端に煽ったりする部分で、
彼の指示がそうだから、ととりあえずテンポを早めつつも、
実はそれが奏者にはしっくり来ていないために、
逆に重くなる力が働いているような、変な歯切れの悪さを感じました。
またその中途半端さが、歌手への負担を増やしているように思われる個所もあり、、。
昨日観た『エレクトラ』はすでに感想に書いた通り、素晴らしい演奏でしたが、
そこには彼の明確な”こういう風にこの作品を演奏したい!”という意思が感じられたのとは、
実に対照的な『フィガロ』です。
で、そう言われてみれば、あのタッカー・ガラの時にはモーツァルトの作品が全然含まれてなかった。
盲点でした。

しかし!
メトの次期音楽監督は是非彼に!と書いた私に、”モーツァルトの作品が振れなくてもよいのでしょうか?”と、
疑問を呈する方もおられるかもしれませんが、それはノー問題。
モーツァルト作品は、別の指揮者に押し付けてしまえばいいんです。
そんな、どのレパートリーも優秀な指揮者なんていないんですから。

その上に、今日の演奏は、もともと強硬なシーズンスケジュールと午前中のリハーサル、
それに加えてそろそろ始まっているであろう一週間先のメト・オケの演奏会のリハで、
奏者の疲れがマックスに達しているんでしょうか?
各楽器のミスが半端じゃなく、久々にこのようなぼろぼろの演奏を聴きました。
NYに旅行にいらして、たまたまこういう演奏を聴かれた方が、
メト・オケは下手っぴだ、とか、この日はBオケだった、と、吹聴してまわるのでしょう。
以前にも書いたように、メト・オケにはAオケとかBオケとかの区別はありません。
それぞれのセクションのメンバーが複数いる首席奏者を中心に色々な組み合わせで、
アメーバのように編成を変えて、時にはサブのメンバー(正式の団員ではないメンバー)を加えて、
毎日の演奏にあたっています。
というか、逆に、メトのような公演の組み方をしているオペラハウスでは、
Aオケ、Bオケといった固定したメンバーでは、とてもではないですけれども、スケジュールに対応できません。
まあ、今日のような演奏を聴かされれば、私も”メト・オケって、、”と思うでしょうが、
このような演奏がそう頻繁にあるわけでは、決してありません。



そのオケに若干振り回されていた感があったのは、前回の鑑賞時には優れた歌唱を聴かせていたピサローニで、
前回の公演の感想でも書いた通り、彼は良くも悪くも、歌と演技の両面で、
その公演のエネルギーを反映させてしまう傾向があって、
彼の今日の歌は前回より少し雑になってしまっているような印象を持ちました。
しかし、声はやはり美しい人で、彼の歌唱の魅力の基盤となっている、
全音域にわたる均一な音色というのは、全く印象が変わりませんでしたので、
この点は、彼の本来の実力といってほぼ間違いないと思います。
どうせ毎年全部の組み合わせの公演を観に行くんだから関係ないでしょうが!と言われそうですが、
彼が先のシーズンで別の演目でメトに登場するとなったら、絶対にこれは観に行きたいと思います。

前回は、ウィルス感染で三幕以降を降板してしまったデ・ニース。
その際は、なるほど一幕と二幕でも、もともと苦手である高音域にさらに支えが不足しているような歌い方で、
それがウィルスによるものか、Opera Newsに叩かれた心理的な影響かどうかを、
見極めるのが今日のミッションの一つでしたが、
結論を言うと、私の考えでは、心理的な落ち込みは間違いなくあると感じます。
それは高音域の歌い方の変化にも現れているんですが、それ以上にステージ・マナーというか、
そちらに顕著に現れています。

彼女のモーツァルト・アリア・アルバムに対して手厳しい評が掲載されたOpera Newsの発行前に観た、
10/9の公演に比べて、基本的な演技の動きは同じでも、かなりニュアンスがトーン・ダウンされていて、
彼女本人は面白くないかもしれませんが、私はこの変化は決して悪いものだと思いません。
むしろ、スザンナ役としては今日の方が魅力的です。
こんな短い時間の間に、彼女の発声や高音域の問題が改善されるわけでも、
演技の能力が著しく進歩するわけでも当然なく、何が一番変わったか、というと、
彼女個人が役以上にのぞき見えてやかましかったのが、それがなくなったことで、
より役の方がきちんと浮き上がってきたこと、それに尽きると思います。
舞台の上では個性はないといけませんが、歌手本人の姿がやかましく見え過ぎてもいけない、
難しいな、と思います。



それをきちんとわきまえているのがレナードのケルビーノで、
決して際立って特別な声の持ち主であるわけではないのに、
彼女のケルビーノが常に観客に好感を持って迎えられるのは、役得というのもありますが、
それ以上に、彼女の演技、歌、すべてが、ケルビーノという少年に出来るだけ近づくにはどうしたらいいか?という
真摯な目標に向けられている、その点にあると思います。

アネッテ・ダーシュの伯爵夫人は、一言、私は全然買いません。
まずもって、この役に全然声質が向いてないと思います。
彼女の声にはどこか、良く言えば情熱的、悪く言えばヒステリックなカラーがあって、
後者が全く伯爵夫人のパーソナリティにそぐっていないことはこうして文字で説明するだけで明らかです。
向いていないのは声質だけではありません。声域もです。
ミードが出演した公演で、”Dove sono"はまずい歌手にあたると、音がぶら下がって聞いてられん!と書きましたが、
その聴いてられん!状態を作り出してしまっているのが彼女です。
役の重要なアリアの中心音域に対応できてないうえに、更に曲の山場を作っている
さらに上の音域では耳障りな絶叫調の音しか出てこなくて、
当ブログを開設後に聴いた伯爵夫人(ホン、ハルテロス、ベル、ミード)の中ではもっとも歌唱レベルで劣っています。
ヘッズの中には、彼女は確かに声も歌唱も特別でないが、演技の熱さでカバーする人だ、みたいなことを
言っている人もいるんですが、それはどのあたりのレパートリーのことを言っているんでしょう、、?
私が今日観た『フィガロ』では全然そういう片鱗は感じられませんでしたが、
大体、伯爵夫人をそんなアプローチで演じることにも土台無理があります。
ということで、何か別の役なんだろう、と考えるしかありません。
写真でわかるとおり、すごく美人で、造形的な舞台姿は美しいんですが、
深い意味での”舞台姿”、つまり立っている姿や所作から、伯爵夫人の地位、
品位、性格、考え方がこぼれてくるようなものを持っているかというと、それも私には疑問に感じられます。
その点ではハルテロス、ベルの二人に敵っていません。
平土間の10列目くらいまでとオペラグラスを使っている観客にはダーシュ系舞台姿も効果があるかもしれませんが、
それ以上遠く離れたオペラグラスのない観客には、ハルテロス&ベル系舞台姿でないと無力以外の何物でもありません。

相手の伯爵夫人が誰であれ、全く絡むということをしてくれないテジエについては前回書いた通り。
このテジエとダーシュの二人ほど、それぞれが完結していて、距離の離れた伯爵夫妻というのは
いくら倦怠期を迎えているからといったって、極端すぎます。

最近良く目にするようになった自分勝手な鑑賞マナー(の不足といった方がいいかもしれませんが)は、
時にこのブログでふれている通りですが、『フィガロの結婚』という演目は、
何か客を緩くさせるサブリミナル効果でもあるんでしょうか?
前回の、”公演中にテキスト・メッセージを打つ、世の中で自分の人生にだけ
大事なことが起こっていると思っている女
”に続くサンプルを発見しました。

前回の『フィガロ』はそんなわけで座席運が散々だったので、今日こそは!と意気込んでオペラハウス入りしました。
隣はイギリス英語を話す、おそらく会社の出張ついでに同僚と公演を見に来たらしい男性の二人組。
この男性たちなら大丈夫そう、、とほっとしていると、幕が上がってしばらくするうちに、
私達が座っている座席ががたがたと揺れ始めました。
メトは建物がだいぶ古くなってきているので、いくつかの客席はたてつけが悪く、
後ろの列の人が足を組み替えるために膝で座席の裏を押しただけで、全列が地震が起きたように揺れまくります。
幕に二、三度のことなら、仕方がないな、とあきらめるところなんですが、
今日のそれは尋常じゃない。わさわさ、わさわさと、すごい勢いで揺れているのです。
何事?と振り返ると、10歳にもならない女の子が、座っていると舞台が見えないのか、
立ち上がって、我々の座席の背の上にある柵にもたれかかって、姿勢を変えるごとにすごい振動が起こり、
さらには足を隣のイギリス人紳士の座席の背中にひっかけて、背の後ろを何度も蹴り飛ばしている始末。
気の毒に、イギリスではこういうことを注意しては無粋だと思われるのか、
男性は頭を抱えながら、前に乗り出して舞台を見はじめました。
というのは、頭を背もたれにくっつけていると、その振動と音で、とても舞台に集中するどころの話ではないからです。
どうして横にいる母親は注意しないんだろう?と、私の真後ろの座席にいる母親を見ようとして、
さらに首を回す途中で、私の目はある光景に釘付けとなり、愕然としました。
私とイギリス人紳士の座席の背もたれの間に、この馬鹿母の、
木綿の靴下を履いた足がのっかっているではありませんか!
ちょうど、男性と私の肩の間に、ばばあの臭い足が!!!
これ、失礼じゃないですか?人の目の前になりうる場所に足を置くなんて!
気が付いたら、言葉が出る前に、手で彼女の足先を掴んで座席から振り落としてました。
娘の方については、子供だからとちょっとは我慢しようかと思ったけれど
(なんて言って、どうせできないんですけど!)、この母あってこの子あり!!
一幕と二幕の間で座席で舞台セットの変更を待っている間に、
ほとんど隣の男性が彼らに注意をしようと振り返ったのと同時に、私が口火を切ってました。
”どちらかお好きなように。今すぐ私たちの注意を聞いて行いを正すか、同じ言葉を次の幕の前にアッシャーから聞くか。”
この劇場は新しくないから、背中を蹴られる度にすごい振動なんだから!と言うと、
”そんなこと、知らなかったのよ、、”と言い訳する母親。
そうですか。劇場で靴を脱いで、その足を人の目の前に置くのが無礼だということも
知らなかったとでも??
ふざけるな、っていうんです。
イギリス人紳士が、”ありがとう、こんな状態でとても鑑賞できないと思いましたよ。”
あなたは幸運よ。なぜなら、”こんな状態”は、Madokakipの周りでは絶対に存続・継続させませんから。
しかも、その男性がぼそりと、”いっそ、彼ら、いなくなってくれてもいいんですけどね。”
あらま、毒舌ですね。ちゃんとマナーさえ守ってくれれば、私は構わないですけど。
ところが、インターミッションが開けてみると、実際、その母娘は座席に戻って来ませんでした。
イギリス人紳士が嬉しそうに、”あなたが怖がらせて追い払ってしまったようですね。”
さっきまでそれを望んでいたのはあんたでしょうが、この偽善者っ!
だし、この私がそんなことで申し訳ないことをした、、と思うようなしおらしい女に見えますか?
んなわけないじゃないですか。


Luca Pisaroni (Figaro)
Danielle de Niese (Susanna)
Annette Dasch (Countess Almaviva)
Ludovic Tezier (Count Almaviva)
Isabel Leonard (Cherubino)
John Del Carlo (Don Bartolo)
Greg Fedderly (Don Basilio)
Ann Murray (Marcellina)
Patrick Carfizzi (Antonio)
Ashley Emerson (Barbarina)
Tony Stevenson (Don Curzio)
Conductor: Fabio Luisi
Production: Jonathan Miller
Set design: Peter J. Davison
Costume design: James Acheson
Lighting design: Mark McCullough
Choreography: Terry John Bates
Stage direction: Gregory Keller
Dr Circ A Odd
OFF

***モーツァルト フィガロの結婚 Mozart Le Nozze di Figaro***

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6 コメント

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フィガロをパスしていたわけ。 (ゆみゆみ)
2009-12-21 13:55:19
始め、私が今回の遠征を悩んでいたのは大好きな「フィガロ」にダッシュが出るから見たくなかったのです。(なのに見ちゃった私)
何故なら彼女が苦手だから。マッチャンが「ドン・ジョ」で日本に来た時にエルビラを歌ったのですが、メトで春に見たフリットリの魅力的なエルビラとは程遠く、うるさくヒステリックなエルビラでした。その彼女の伯爵夫人は見れるかな?と悩みました。
結局私には駄目でした。彼女は言葉が無い。だから彼女が何を言いたいのか、全く伝わりません。やはり私は彼女は今のところ苦手なんだと思って帰りました。しかし、ある意味冷え切った夫婦の感じは有ったのかな?
メトで始めて彼らの間に子供がいる事を知りました。今まで1度も見たことが無かったので大変新鮮でした。
大好きな「フィガロ」をマドカキップさんは何回ご覧になったのかしら?いいな~~!!
次回の遠征候補には、「フィガロ」は当分ございません。
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やっぱり! (Madokakip)
2009-12-21 16:26:40
 ゆみゆみさん、

>「ドン・ジョ」で日本に来た時にエルビラを歌ったのですが

やっぱり!絶対にエルヴィラを主要レパートリーにしてるんだろうな、と思いました。
普通に考えると、向いているように見える役だと思います。
でも、確かに仰るとおり、彼女のアプローチでは限界があるんですよね。

>大好きな「フィガロ」にダッシュが出るから

ミードの時を見て欲しかったですねー。
死者と被ってなかったので無理だったのでしょうが、、。
雰囲気込みではAキャストのベルも素敵でしたが、
彼女は少し歌が弱いんですよね。

>次回の遠征候補には、「フィガロ」は当分ございません

とはいえ、人気演目ですから、また機会もあるでしょう!
その時にはいい配役にあたるといいですね。
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飛んできました (Kinox)
2011-10-25 11:31:51
Madokakipさま、リンクありがとうございます。たしかにダッシュは悪く言えばヒステリック、よく言えば若い女性特有のとがった神経を感じさせるのが良いところだと思います。
あんなに求められて結婚したのに旦那はもうわたしには振り向いてくれない、恐らくまだ美しいであろう伯爵夫人の熟女の憂鬱。高音がきれいで、なんとなく柔らかな温かみを持つ声を望んでしまうんですが、ここにダッシュをもってくるなんて随分思い切った配役だったんですね。わたしもたしかによさは想像つきません。
>肩の間に、ばばあの臭い足が
以前ムーティがbunch of peasants(豚に真珠のニュアンスを含めてるんでしょう)と評していたとMadokakipさまに教えていただいたNYの観客の傍若無人さには、わたしはいつまで経っても慣れないですが、さすがに悪臭ソックスにはびっくりです...
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Kinoxさん (Madokakip)
2011-10-27 14:39:38
そうなんです。
カウンテスは彼女にあまり適した役ではなかったかもしれません。
今、シーズン前のパンフレットを見ていると、ダーシュはエルヴィーラにキャスティングされていたっぽいですね。
エルヴィーラなら彼女の個性にわりと合うかもしれないな、、と思います。降板、残念でしたね、、。
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Madokakipさま (Kinox)
2011-11-01 11:44:51
まぁダーシュは若いのでまだじかに聴ける機会があるでしょう。今回、ぶれがありながらも私をメロメロにしてくれたレベカがフィンレー版にも引き続き予定されているので、まだまだ楽しみです。
ラングレ版がラジオでとても良い(歌手のノリが断然違って聴こえる)ので、クヴィエチェン版はHDだけにしようと思っていたのに、つい来週の分も買ってしまってしまいました。予定してなかったとはいえ、今シーズンこんなにジョヴァンニづくし(この後はマッテイ&ターフェルのトスカHDもフィンレー版の前にあり)になってしまって自分にあきれてます。
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Kinoxさん (Madokakip)
2011-11-05 13:03:40
レベカはオーディエンスの間ですごく良かった!という人と
“、、、、、。”の二つにぱっきりとわかれていますね。
好悪がはっきり分かれるタイプの歌手の典型かもしれません。
私は、、、と、また書き出すと長くなってしまいます。
今、一回目に観たドン・ジョヴァンニの感想を書いていますので、それまでお待ちくださいね。

>つい来週の分

ということはこれは実演でご覧になるということなのですよね!
ご感想、楽しみにしております!!

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