prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「エルネスト」

2017年10月22日 | 映画
冒頭かなりの尺数を割いて広島の原爆祈念碑を訪れ、アメリカの原爆投下の責任を曖昧にする「過ちは繰り返しませぬから」という碑文に主語がない事実を指摘し、原爆の惨禍をもたらしたアメリカの責任そのものは問わないでやり過ごしてきた日本の属国ぶりを間接的にだが端的に現す。

日系人の主人公とはいえ、直接の日本との関わりはさほどなく、アメリカ(とソ連、つまりは大国)の傲慢に対する態度の違いを浮き立たせる普遍的な交錯点のような立場として描かれる。

フレディ・前村・ウルタードの医学生として直接人の命を助けうる立場にいる者が、革命家として直接人を殺すか殺されるの立場に立つアイロニーを、青年の純粋さといった図式ではなく生死の交錯点として置いている。
フレディが子供の頃に溺れかけた体験と、医学生として解剖実習で見る防腐剤の液体に漬かった死体が、液体という一点で生死の間を示す映像ならではの暗示性能を見せる。

戦場での名前をエルネストと変えるのは「千と千尋の神隠し」でも描かれた名前を奪う(元には全体主義社会や軍隊の実例に基づく)のと微妙に重なり微妙にずれている感。

キューバの街並みのなんともいえず風情のある感じが魅力的。どの程度デジタル処理したのかは知らないが、阪本順治監督がラジオのインタビューで話していたが、それほどいじっていないとのこと。
感心したのはむしろ50年以上前の日本の風俗の再現で、エボナイト製の黒電話機が並んでいる画をはじめ光の当たり方といい画面の厚みは時代は違うが熊井啓の「謀殺 下山事件」をちょっと思い出したくらい。

オダギリジョーが全編スペイン語で通した芝居は立派だし、途中から立派といちいち思わないくらい板についてくる。

フレディやゲバラ軍隊のように医学部に進学できるのは恵まれた層で、本当に貧しかったら軍の最下層の汚れ仕事に就いて革命軍を狩る側にまわるというアイロニーの描き方は事実にせよ痛烈さで今一つ。
(☆☆☆★)

エルネスト 公式ホームページ

映画『エルネスト』 - シネマトゥデイ

エルネスト|映画情報のぴあ映画生活



本ホームページ

10月21日(土)のつぶやき

2017年10月22日 | Weblog