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『丕緒の鳥』

2019-10-13 13:27:57 | かおりどん
「私たちは無力です。これが仕事だからやっているけど、それ以前に、これくらいしかできることもないんです。けれど――」


小野不由美の『丕緒の鳥』を読みました。
昨日12日は「十二国記」シリーズの最新巻発売日だったのですが、これはその一つ前、昨日まで最新作やった短編集です。表題作含む4編収録。
最新巻読むにあたって、過去作品を復習しておきたいなとは思ってて、まだ読んでなかったこれと一緒にネットでポチポチとね、これの他に4作も一緒に購入。
いずれは新潮文庫で全巻揃える予定。ネットは悪いなぁ。
台風のきついところの人は今日入手みたいやけど、うちは無事昨日届きました。
最新最新と言うけど、これ出たのもう6年前なんや。長編は18年ぶりとか。みんな待ったよな。

このシリーズ、今で言うところの「異世界召喚もの」ってことになると思うけど、この短編集に描かれているのはどれも、この世界で生まれて、地味に地道に生きる、歴史の表舞台に出てこない人たち。
長編を読んでても、我々の知ってる世界の常識からかけ離れた世界設定にびっくりするけど、短編ではさらに細部の作り込みを感じてまた引き込まれる。
読者はシリーズで読んでて世界観を了解してる人ばかりやろうけど、これを初めて読んで、不思議な世界にぽかんとするのも面白いのかもしれない。


表題作の主人公・丕緒(ひしょ。ふりがなないと読めん)は、大射という儀式で射られる陶鵲を作る羅氏である。ここまでを理解するまでに結構な情報量がいるはずやのに、なんでか読ませる。陶鵲は鳥に見立てた的やとか、羅氏はその陶鵲を作るんやけど国の官吏で、でも儀式の采配をするだけの羅氏は政治に関わることはできなくて・・・・みたいなことが丕緒の回想とともに説明されていく。
間接的にでも王様に何か伝えることはできないかと模索した過去と、それも諦めきっている現在。
最後、新たに完成させた射儀の描写がとても美しい。
そして新王と対面する場面もとてもいいシーン。なんやけど、シリーズファンはきっと「景麒は入れたげへんの?」と思ってしまったはず(笑。

2作目「落照の獄」は凶悪犯罪者を死刑にするか否かで揺れる法治国家の司法官たち。
長く死刑が停止されてきた国で、民衆は死刑を願い、審理の3人と高官たちは死刑復活にためらう。
死刑復活と反対の怒涛のディスカッションと、最後に下される判決への罪人の笑い声が、傾きかけた国の未来の暗示とともに重苦しい。敗北感に打ちのめされるお話。

3作目「青条の蘭」はブナ林が謎の病変で枯れていくのを止めようとする人たち。4作でこれが一番長い。
ブナ林が枯れることによる人里への影響のあれこれとか、小役人でしかない標仲の無力感とか、なんとか国を救おうと必死で雪の中を進みつづける様子とか、暗くて苦しい話がほとんどやのに、終盤、突然に明るい光が見えだす。
極寒の地に光が差すような最後がまたきれい。

4作目「風信」では官吏ではなく女の子が主人公。
王の悪政のために家族を失った蓮花が、新たな居場所として働くことになったところは、浮世離れしたような変な人たちが住む。ずっとガラス板をかざして外を見てたり、セミの抜け殻を集めまくったり、仕事に没頭してて王が死んだこともうっかり忘れてしまう。
それもみんな暦を作るための観測だとわかって、蓮花は仕事を手伝って穏やかな生活に馴染んでいく。でも外は政変で混乱していて、忘れかけていた蓮花たちのところにも戦火が迫る。
ネズミが集めたどんぐりを調べたり、花粉を集める熊蜂を眺めたりと、4作ではもっとも穏やかでかわいい話やけど、そこへ至るまでの蓮花の境遇はとても厳しい。


4作振り返って思うのは、どれも国が安定してない時代の話で、他の人に簡単には理解してもらえない専門的な仕事をしてる人たちが、でも自分にできることをやろうと一途に頑張ってるということ。
丕緒が陶鵲で伝えようとしたことは王にはなかなか届かない。司法官はなんで死刑にせんのかと妻からも詰られる。山枯れの危険性を一般人はわかってくれない。暦は人々の生活を支える大事なものやけど、それを作る過程は現実を見ていないような浮世離れした生活に見える。
それぞれ職業小説みたいなのを、十二国記の舞台装置に当てはめるとこうなるんやなぁというのも面白い。
長編では主人公たちが大きな困難に立ち向かっていくのを一緒に追うことになるけど、こうやって短くまとめたお話をいくつかあわせて読むと、この世界観そのものを楽しむような本かなと思った。

さて、久々に十二国世界に浸ったところで『白銀の墟 玄の月』へ参りましょう。
驍宋様はよ帰ってこいー!
コメント (2)
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