踊る小児科医のblog

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マークさんはなぜ歩かなくてはいけなかったのか (2)

2006年07月22日 | 禁煙・防煙
タバコ規制対策のすべて

 実はタバコ問題ほど簡単なものはない。対策のすべては既に提示され、ロードマップもつまずきやすいポイントも先進諸国の経験により明らかにされている。日本はオーストラリアなどの先進国と同じ道を歩めばいいだけで、日本政府得意の「対米追従」をタバコ対策でこそ行うべきなのだ。それらはFCTCにも明確に示されているが、今すぐに取るべき主要な対策を列記してみると次のようになる。
 1)タバコ税大幅増税(一箱1000円)、2)屋外自動販売機の撤去(深浦町)、3)全ての公共的な場の禁煙化(飲食店・タクシー・路上など)、4)タバコ広告やスポンサーシップの全面禁止と包装の警告表示、5)全ての学校やメディアを通じた喫煙防止教育、6)禁煙治療の保険適用化と適応拡大、7)包括的なタバコ規制法の制定(北朝鮮)、そして8)タバコの製造・販売の禁止(ブータン)。
 マークさんは禁煙推進のアイデアとして "TELL" すなわち Tax(税)、Education(教育)、Legislation(法律)、Litigation(訴訟)の4つを特に重要視している。増税による財源はタバコ農家の転作と喫煙防止教育や医療費に用いられる。教育は子どもに対してだけでなく、テレビCMなどを通じて全ての国民に徹底して継続的な情報を与え続ける。職場における受動喫煙で雇用者が敗訴することは既に江戸川区で判例が確定している。タクシー訴訟でも国やタクシー会社は実質的に敗訴している。これらを適用すれば、全ての飲食店やJR・タクシーなどを含むあらゆる職場も、禁煙にする以外に選択肢はない。
 これらは全て包括的なタバコ規制法に盛り込まれるべきだが、「本丸」は法律が踏み込むことのできない「家庭」にある。生まれる前からタバコの煙まみれで育っている日本の子どもたちを救い出すために、あらゆる周辺的な対策をとり続ける必要がある。

トップダウンで早急な対策を

 しかし、実際にはタバコ問題ほど複雑で社会のあらゆるところまで入り込んでいる構造的な問題はない。構造改革を一枚看板に掲げた小泉政権は、本当に構造改革が必要なタバコと核燃問題には決して手を触れようとはしなかった。そしてこの2つは青森県において最も宿命的に深く根を下ろしている問題なのだ。
 民主主義のプロセスでは、長い年月をかけて合意に達したり、この国特有の「足して二で割る」手法が用いられたりする。しかし、タバコ問題において喫煙者と非喫煙者の主張を足して二で割ることは何も意味もないばかりか、根本的な対策への障害となることを銘記すべきである。
 マークさんは不完全分煙の飲食店や施設を「Pee pool(オシッコプール)」と表現していたが、現在とられている「対策」なるものは万事がその域を脱しておらず、いかにしてタバコ会社の売り上げを減らさないようにしながらタバコ規制を行うかという全く矛盾したものにほかならない。
 FCTC発効後1年を過ぎても一箱20円ばかりの微々たる増税しか実施することができず、必要な規制法の制定を図ろうとする動きが全くないことからも、本気で国民をタバコから守ろうとしていないことは明らかだ。あの北朝鮮ですら既にタバコ統制法を制定して喫煙率の減少目標を立て、喫煙者には大学入学資格を剥奪するなどの規制を実施しているのに。
 もちろん、喫煙者や規制の必要性を理解できない人たちに対し、情報を提供して理解を求める努力は必要だが、現実に犠牲者が増え続けている状況には、トップダウンで必要な対策を早急に取らなくてはならない。麻薬やダイオキシンを規制するのに、麻薬中毒患者やダイオキシン排出業者と話し合って決めようとする国がどこにあるだろうか。

何かを変えるには自ら行動すること

 マークさんは毎日40~50kmもの行程を、脚の痛みや疲労と闘いながら強い意志で歩き続けた。本来なら国がトップダウンで行うべき根本的対策を待っていたのでは犠牲者が増え続けるだけだという状況に対し、お世話になった大好きなこの国の人たちへの恩返しとして、自身の行動によって一人でも多くの人を救いたい、それだけでなく大きな潮流となって政策転換へと繋がることも願って、自分にできるアクションとして歩くことを選んだ。
 八戸における講演で "Be the change you want to see in the world" というガンジーの言葉を引用して、何かを変えようと思ったらまず自ら行動しなさいと訴えたのが強く印象に残っている。
 このようなボトムアップの手段による影響力は一見すると微々たるものに思われるかもしれない。しかし、彼の歩く姿と真摯な言葉は、全国各地で確実に多くの人の心をつかんでゆり動かし、次の行動へ繋がっていくきっかけとなった。あらためて感謝したい。
 この国が国民の健康を守ろうとするまともな社会であったならマークさんは歩く必要がなく、また本来ならこのような行動は日本人が行うべきものであった。
 国はマークさんの行動とメッセージの真意を理解して早急に政策転換を図らなくてはいけない。

タバコ規制対策の目標とは

 このポイントをはっきりさせておかないと、いつまでたってもタバコ産業の様々な詭弁に有効な反論ができずに現状維持を余儀なくされる羽目になる。
 タバコ規制対策の目標とは、喫煙率を激減させてタバコ病死を減らすこと、究極的にはゼロにすることであり、それはタバコの売上本数を激減させてタバコ会社の存立を危うくし、葉タバコ農家の生計を崩壊させることにほかならない。
 国民の命を守ることと、葉タバコ農家の生計を守ることは、決して両立することはない。
 だからこそ、青森県の政治家や首長はその二つを両立させること、すなわち葉タバコ農家の転作支援を最優先の課題として真剣に取り組むべきであり、共存共栄を唱えてタバコ規制対策を後退させようとしているタバコ族議員は、その言動によってタバコ病の犠牲者を見殺しにしているだけでなく、無策のまま葉タバコ農家をも見捨てているに等しいことを理解すべきだ。

水俣病やアスベストと同じ構造的犯罪

 健康に対する重大な影響が明らかになり、諸外国が適切な対策をとって国民を守っているのに、その規制や対策をとる義務がある政府が国民の命よりも企業の経済活動を優先し、必要な対策を先送りにしたために犠牲者が増大し続けている。この構図は、水俣病や薬害エイズ、アスベスト問題などと相似形で比べものにならないほど大規模な犯罪行為であり、タバコ会社と国の責任が問われる日が来るのは間違いない(現在でも裁判所が正常に機能していれば諸外国と同じ判決が出ているはずなのだが)。
 国が全面的に政策を転換して犠牲者が減少へと転じ、私たちが禁煙活動などという無駄な努力をする必要がなくなる日まで、マークさんから渡された旗を全国の仲間と共に手に持って歩き続けなくてはいけない。

歩けばわかるマークさんの気持ち

 マークさんの禁煙ウォークの計画を2月に初めて聞いた時、やはりウォーキングと禁煙はベストパートナーだと確信した。この88日の間、全国各地で支援者が毎日のように駆けつけて一緒に歩いたり走ったりした。県内で禁煙活動を二十年にも渡って続けてきた角金秀祐氏(当会世話人)は、南部町から大間町まで歩き通してマークさんを応援した。
 ウォーキングやランニングにタバコは厳禁というのはもちろんのこと、地に足をつけて着実に前に歩きつづけることが、害悪と虚飾にまみれたタバコという存在の対極にあるものだということは、自分の足で歩いてみれば体感できるのではないかと思う。(実際にはウォーキングやマラソン大会でタバコを吸う姿を目にすることも多く、ニコチン依存症の根深さを感じざるを得ない。)
 マークさんがなぜ三千キロにも及ぶウォークを敢行したのかに思いを馳せながら、3キロでも5キロでも少し早足で歩いてみませんか。そして、この国のタバコ規制のあり方を早急に変えていくために、医師・歯科医師は国民のリーダーとなって世論や政府を動かしていく義務があることにも、歩きながら思いを巡らせてみて下さい。

・青森県タバコ問題懇談会http://aaa.umin.jp/

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