踊る小児科医のblog

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年齢別死亡率で男性は45年前、女性は40年前より10歳若返っている→高齢者の定義変更は不要かつ有害

2017年01月14日 | こども・小児科
高齢者の定義を65歳以上から75歳以上に引き上げるという老年医学会など2学会の提案がありましたが、医学的には全く必要のない定義変更であり、社会的・政治的な意味合いしかありません。

確かに昔の65歳は「おじいさん・おばあさん」だったけど、今は身体的にも精神的にもかつての50代に相当すると言えるかもしれません。それ自体は医学の進歩や生活習慣等の改善により引き起こされたもので、喜ぶべきことです。(財務官僚を除けば)

記事中に「10〜20年間に5〜10歳程度若返っている」という記載がありましたが、一部の疾患や運動能力のデータなどではなく、最も基礎的かつ重要な「年齢階級別死亡率」についての言及がありません。検索してダウンロードし、グラフ化してみました。(1955年〜2013年)


男性:2013年における75-79歳の死亡率[3688.1]と70-74歳の死亡率[2129.6]の赤線を左に辿っていくと、5歳下の階級とは1985年頃、10歳下の階級とは1970年頃に交差します。(死亡率は10万人あたりの人数)

同様に、


女性:2013年における75-79歳の死亡率[1695.7]と70-74歳の死亡率[908.1]の赤線を左に辿っていくと、5歳下の階級とは1989年頃、10歳下の階級とは1975年頃に交差します。

男性は1970年頃(約45年前)
女性は1975年頃(約40年前)
から、10歳若返っているということが死亡率から見て取れます。女性の方が若返りのスピードも速かった。

しかも、75-79歳、70-74歳のいずれにおいても、男性は女性の倍以上死亡率が高い(女性の死亡率が男性の半分以下)ということもわかります。
(グラフは縦軸のスケールを男女で変えてあるので、似たような曲線に見えるかもしれませんが)

もう一つ、女性では65-69歳と60-64歳の差が小さくなってきていることがわかります。それでも10万人あたり500人程度は亡くなっているわけですが、死亡率が急上昇してくるのは70歳代に入ってから。
男性は60-64歳で既に女性の70-74歳より高く、65-69歳で急上昇する年代に入る。

この男女差についてはいろいろな要因が言われていますが、喫煙率の差が一番大きな要因だと考えています。(詳しくは未調査)

以上、男性は約45年、女性は約40年で10歳若返っていることが死亡率から読み取れましたが、記事にあるような「10〜20年間に5〜10歳程度若返っている」というのは、一部のデータだけでみたある種の誇張(詭弁)といっても過言ではないでしょう。

最初に書いたように、医学的には定義変更の必要性はなく、国際的にも65歳以上が標準であり、過去のデータとの比較という意味でも、定義というのは変更してはならないものです。

65-74歳を前期高齢者(young-old)、75歳以上を後期高齢者(old-old)と分けているのは、後期高齢者医療制度を作るために厚労省が独自に作った用語ではありません。

元気な前期高齢者が、再就職やボランティア活動などで社会参加していくことは必要なことだし、それを可能とする社会的な仕組みも求められていますが、それは社会的・政治的なレベルの話で、医学の世界で「准高齢者」などと呼び替えることには何の意味もありません。

年金支給開始年齢を遅らせようとする政治的な要請(圧力)に応じた政治的な判断と考えるのが普通であり、両学会の良識が疑われます。

(「今回の提言を年金の支給年齢引き上げなど、社会保障制度の変更に直接結びつけることには、慎重な対応を求めている」などと但し書きを付けていること自体が、それに直結することを物語っています。)

福島県の甲状腺がんマップ(201612)市部・3地域郡部別比較

2017年01月02日 | 東日本大震災・原発事故
前2つのentry(最後にリンクを列記)の続きで、13市と3地域の郡部との有病率比較をマップ化してみました。同様に「扱い注意」で、今後の推移を観察するために比較可能な形で提示したものであり、何らかの意味が読み取れるかどうかはこの時点ではわかりません。

先行検査①201606追補版


本格検査②201612暫定版


☆注意☆(追記)
このマップはタイトルおよび前entryで説明したように、13市以外の郡部については浜通り・中通り・会津の3地域で一括して比較しています。マップだけ見て各市町村ごとに色分けしているように誤解することのないようお願いします。市町村名が入っていないので、某所から拝借した地図を参考として載せておきます。(浜通り・中通り・会津の境界は「本格調査②暫定版」で分けられている線です)



有病率(発見率)は10万人あたりの人数で、スクリーニング効果や検査間隔での補正作業を行っていない、そのままの数字です。

前述のように、先行検査①のスクリーニング効果を10倍、本格検査②を2〜2.5年とすると、本格検査②では1/4に減少していなければならなかったのですが、県全体として先行検査①が38.3、本格検査②は25.1(2016年12月現在)で、受診率で補正すると先行検査①に匹敵する30台に乗ることが予想されます。(※)

色分けは前entryの表に準じていますが、より細分化し、色の違いがわかりやすいように変更しています。

市部・3地域郡部別有病率:先行検査①・本格検査②(10万人あたり)


白  0
桜色 0<
桜鼠 10<
虹色 20<
宍色 30<
赤紫 40<
中紅 50<
茜色 60<

※一次検査
  受診者 270,454人
  判定  270,431人(99.99%)
 二次検査
  対象者 2,222人
  受診者 1,685人(75.8%)
これらの数字で補正すると推定有病率は33.2となる。

<関連リンク>
福島県の甲状腺がん 二巡目で確定44+疑い24=68人 有病率25.1→推定発症率10.0人/10万人(201612)
2016年12月28日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/077c3feb0d7465c3e4e40fb32747baf6

福島県の甲状腺がん(201612)13市と3地域郡部別比較(暫定版)「地域差無し」とは言えない
2016年12月31日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/c552065a58e08d9f24e5b199bc6bb170