踊る小児科医のblog

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新型コロナ:主戦場は学校ではなく医療機関:一斉休校はどの専門家も否定

2020年02月28日 | 新型コロナ
■ 専門家会議メンバーが明かす、新型コロナの「正体」と今後のシナリオ
https://news.yahoo.co.jp/feature/1582
東北大学・押谷仁教授
「学校でクラスターが発生しないとは断言はできませんが、子供の感染例は中国でも非常に少なく、その可能性は低いです。一斉の学校閉鎖をすることは、全体の流れからするとあまり意味がない。大人が子供にうつす例はありますが、インフルエンザのように子供が流行の大きな原因になることは少ないことがわかっているからです。」
「感染が起きやすい行動とは… 対面で人と人の距離が近い接触(互いに手を伸ばしたら届く距離)が、会話などで一定時間以上続き、多くの人々との間で交わされる環境です。たとえば立食パーティーや飲み会など…」
「今の日本で、一番メガクラスターが起こると考えられる場所は病院です。」
「日本ではまだ全体の中で感染している人は非常に少なく、…心配だから診てもらいたいという人の99.99%以上は、感染していないと考えられます。しかし、医療機関には、残りのわずかの割合で存在する本当の感染者がいるかもしれない。…多くの人が待合室の中で押し合いへし合いの状況になると、メガクラスターが起こる可能性があります。」
「軽症者に対しては薬もないし、治療法もない。検査もなかなかしてもらえない。…重症化する徴候のある人に最大限の医療を提供するためにも、また自分が感染しないためにも、軽症者や過剰に心配に感じる人が医療機関に押しかけるような行動はすべきではありません。」

■ 休校要請 専門家「評価難しい」 02月27日
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20200227/1000044708.html
東京慈恵会医科大学・吉田正樹教授「実施しないよりは感染者が少なくなる可能性はある。ただ、感染が起きていない地域で同じ対応をとることにどれほどの効果があるかはわからない。子どもたちが外に出歩き、友だちと遊んでしまっては効果は下がるだろうし、現時点で評価することは難しい」
川崎市健康安全研究所・岡部信彦所長「専門家会議で議論した方針ではなく、感染症対策として適切かどうか一切相談なく、政治判断として決められたものだ。判断の理由を国民に説明すべきだ」「一定の効果はあるかもしれないが、2009年に当時、新型と呼ばれたインフルエンザの経験をふまえると、各地域の状況に応じてそれぞれ対策をとることが有効だ。ウイルスに感染した患者がいない地域もあるのに、全国一律に小中高校の休校を要請するという、国民に大きな負担を強いる対策を、現時点ではとるべきではないと思う」

■ 村中 璃子氏/ Riko Muranaka
アウトブレイク対策では感染段階に応じたカードを切っていくのが基本。
リーダーシップとはトップダウンで必要のない無理を強いて権力を誇示したり、やっています感をアピールすることではない。
専門性のある人や機関から決定権を奪うことでもない。
今の目標は社会活動を維持しながら重症者の救命することです。
必要なカードは本当にそれですか?
https://www.facebook.com/rikomuranaka/posts/3043721279006168

■ 「今はまだ諦める時期じゃない」「一斉休校は議論していない」 新型コロナ専門家会議の委員が協力を呼びかけること
東京大学医科学研究所・武藤香織教授
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200228-00010003-bfj-soci
「もう封じ込めはできないけれども、今なら感染の拡大のスピードを遅らせることはできるかも、そして流行を防いで収束させられるかも、という目標が見えている時に、全国一斉に何かをやる、という対応は必要ない。しかし、多少の行動制限を徹底する必要があるという考え方でした。」
「北海道内の学校の対応については、状況に応じて学級か学校単位の休校を選ぶべきだという議論になりました。」
「新型インフルエンザの時とは違って、子どもが流行の原因になっていないし、子どもの重症者が増えていないためです。このウイルスは、インフルエンザとは違う特徴を持っているのです。」
「今回の全国一斉休校要請については、事前に政府から意見を求められておりませんし、議論もしていません。この政策の優先順位の高さ、どういう状況になったら解除できるかといった基準など、政府のご判断の根拠を理解できていない状況です。」
「体調が悪くなる前に検査しても意味がないのは明らかで、そこで陰性が出ても健康である保証はない。だから、「全ての人にPCR検査をすることは、このウイルスの対策として有効ではありません」と言い切っています。」

■ 全国一斉休校の速報に専門家も「ひっくり返りそうになった」 新型コロナ感染拡大防止のためにどこまですべきか?
国際医療福祉大学公衆衛生学・和田耕治教授
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-wada-2
「これは誰が決めたんでしょう。ひっくり返りそうになりました。」
「まず、根拠を出すべきです。今のタイミングが本当にいいという、根拠があるのでしょうか。」
「こんなカードは何度も切れませんよ。対策は何が難しいかと言えば、緩和するのがまた難しいのです。始めるのは比較的簡単なんです。」
「対策は止めるのが難しいのですから、始める時に「こういう基準になったら解除しますよ」というのを、公表するかどうかは別として腹案はもっておかなければならない。」
「私は全国で一斉にやる前に、いわゆるクラスターと呼ばれる感染者の集積が出た時には、その地域で制限してください、と少し地域ごとに対応するような段階があってもよかったのではないかと考えました。」
「3月いっぱい休校にしたとしても、また4月や5月に散発的な流行が起きたら、またやるつもりなのでしょうか?」
「政府はどういう根拠で、今のタイミングと決めて、いつまでやって、何をもってこれが成功したと判定するのか、説明責任があるのではないでしょうか。」

新型コロナ「希望者には全例検査を」してはいけない理由(おそらく首相は理解していない)

2020年02月28日 | 新型コロナ
正直、まともに論じる気力を失っています。(この国の政府に対しても国民に対しても)
前回、クルーズ船で3200人に対し、有病率30%、感度95.0%、特異度99.9%とすると数十人の偽陰性者(感染しているのに見逃される)が生じることを書きました。

ここで、あなたが10万人のまちの市長だとして、市内に100人(有病率0.1%)もの新型ウイルス感染者が野放しになっていて、残りの99900人の命を守らなければいけない。だから全市民に検査をして100人を強制隔離しようと強権発動したとします。

数式や用語は前回書いたので省略します。
(割り算とパーセントなので小学校の算数です)
比較のために特異度99.9%は同じにして、感度を80%まで下げます(現状ではもっと低いようです)。有病率は0.1%なので前回の1/300です。


偽陰性20人(見逃し)
陽性80人+偽陽性100人(濡れ衣)
陽性的中率 44.5%(半分以下)
陰性的中率 99.98%(ほぼ100%)

感染者の5人に1人(20人)は取りこぼして、残りの80人を見つけるために100人に濡れ衣を着せて強制入院させる。

検査を希望者1000人(1/100)に絞ったとしても、その中に対象の100人全員が含まれているわけはなく、有病率は同じ(感染者1人)か多くて10倍程度なので結果は省略します。

ここで、100人のうち80人は軽症か無症状なので、もし発症したとしても市中の医療機関に任せて、検査せずに対症療法で治癒したとします。
その上で、重症化する20人を確実にピックアップすることを目的に、「新型ウイルスを含むウイルス・マイコプラズマ・細菌等」により気管支炎か肺炎に進行しつつある市内の100人を検査対象とすると、その中に20人は確実に含まれていることになります。


偽陰性4人(見逃し)
偽陽性0.08人(濡れ衣は、ほぼゼロ)
陰性的中率は95%となりますが、偽陰性の4人も引き続き医療管理を受けているので、もし改善しないなら再検査して早期に対応することも可能。
偽陽性はほぼ無視できますが、1人と仮定しても、元々重症化しつつある患者なので、過剰治療と考える必要はありません。(症状や検査結果から区別できないし、する必要もない)

現実には、日本国内での有病率は0.1%には遠く及ばず、おそらく0.01%にも達しないでしょう。
でも、東京1千万人の中で0.01%、つまり1千人の感染者が野放しで満員電車に乗っているんです。
これは、放置できないと思うでしょう。
それなら、どうしますか?
(→冒頭に戻る)

新型コロナ:死亡率の減少:地域差:基礎疾患リスク:フェーズは「流行蔓延期」に

2020年02月24日 | 新型コロナ
中国の確定44,672例の続きについて、書きかけていたのですが遅くなりました。

死亡例のリスクファクターの最大のものは前述のように年齢で、80代以上14.8%、70代8.0%です。

基礎疾患別では、心疾患10.5%、糖尿病7.3%、呼吸器疾患6.3%、高血圧6.0%、がん5.6%と続き、基礎疾患なしは0.9%(全体の平均は2.3%)となっています。



ここでは喫煙者について検討されていませんが、SARSやインフルエンザなどと同様に、喫煙者は死亡率が相当高いことが推測されます。
(慢性の呼吸器疾患の大半は喫煙者だと推測されます)

地域別では、武漢を含む湖北省で2.9%、中国のその他の地域では0.4%と大きな差がみられます。

注目すべきデータとしては、発症時期別の死亡率が、1月中旬以降激減しており、2月以降では0.8%まで減少していることです。

この「地域差と時期による変動」については、当初は武漢に限定して、重症例だけがピックアップされて統計に揚げられていたと考えられるので、そのバイアスを差し引いて考える必要がありますが、それにしても他地域の0.4%(全時期)と2月以降の0.8%(全地域)という数字を見比べてみると、これまでの平均2.3%を大きく下回っており、名目上の致死率も今後相当下がってくるものと予想されます。

当初より、名目上の致死率は1%以下、実質の致死率はその1/10の0.1%程度と見込んでいます。

これらの数字は、楽観的な予測を示唆しているとは言えません。
致死率1/1000(0.1%)は、もし東京の1千万人のうち百万人が感染したら、千人が死亡するという意味です。
(国内では一千万人の感染者のうち1万人が死亡)

これは、インフルエンザの超過死亡数と同じレベルですが、毎年インフルエンザで高齢者を中心に1万人が亡くなってもニュースにもパニックにもなりませんが、新型コロナで1万人が死亡すると仮定すると「国難」ということになってしまいます。

問題は、治るか重症化=サイトカイン・ストーム(免疫系の暴走)=するかという分かれ目がわかっていないことです。リスクファクターは上記の通りですが、リスクの少ない比較的若い人の一部が重症化していることには注意が必要です。

95%くらいは軽症か無症状だとしても、千人に一人が亡くなる(インフルエンザと同等)というのは、対処法は普通に扱っていいけれども、強い感染症であるということも確かだということです。

ごく一部の重症化しそうな方をピックアップすることが肝要で、これは普通の診療と何ら変わるものではありません。特に、子どもでは重症化は非常に稀であり、旧型コロナ、新型コロナ、その他の風邪を分けて考える意味はないし、見分けはつきません。

新型コロナ感染症(COVID-19):年代別致死率をグラフ化:10-30代0.2% 80代14.8% 男性は1.6倍

2020年02月21日 | 新型コロナ
グラフにして可視化したら一目瞭然です。

中国における72,314例のうち、確定44,672例
一つ前に「子どもの重症例は稀で死亡はゼロに近い」と書きましたが、残念ながら10代で1例の死亡があったものの、全体の傾向はSARSと同様です。
致死率は10代〜30代で0.2%、40代でも0.4%で、死亡例の水色はほとんど読み取れません。
50代で1.3%に上昇し、平均の2.3%を超えるのは60代(3.6%)からです。
なお、男性2.8%、女性1.7%で、男の方が1.6倍も死にやすい。喫煙率の高さが影響しているものと思われます。

致死率の分母は確定例数ですが、軽症や無症状者も相当数いるはずなので、実際にはもっと低いものと推測されます。(軽症や無症状者は数えられないので、確定した数字で出てくることはありませんが)

なお、現在(2/21)までに、日本国内(クルーズ船を含む)の感染者数は728人、死亡は80代の3人で、死亡率は0.4%となっています。(クルーズ船の感染者には無症状者も多数含まれているようですが詳細不明)

出典は、
China CDC Weekly COVID-19.pdf
https://www.docdroid.net/XyuMmdb/china-cdc-weekly-covid-19.pdf

表は一番下にスクリーンショットを掲載しますが、要点だけを書き出してみました。



新型コロナ:SARSから学ぶ:小児の重症化は稀で死亡はゼロに近い

2020年02月18日 | 新型コロナ
Facebookに限定公開で書きかけたことをまとめ直してみます。
新型コロナウイルス感染症 *1において、「小児の重症化は稀で死亡はゼロに近い」と推測されますが、現時点では必要な情報が全く不足しています。

毎日のニュースのほとんどは役に立たない。
必要なのは、年齢性別の死亡者数、あるいは重症者数。
感染者数というのは氷山の一角なので、それを分母にした致死率(2%)は目安に過ぎません。
(実際の感染者はおそらく10倍くらい)
政府、中国政府、WHOは、そういった情報をリアルタイムに収集し、発信すべき。*3 →中国4万例のデータが発表されたので追記しました。
できれば、数十例、数百例の小児の実際の臨床経過と治療、転帰などのまとめが欲しい。*2

この状況で、参考にすべき最大の経験は、2003年のSARSです。
同じコロナウイルスで、今回の新型コロナがSARSの致死率を上回ることはないはずなので、SARSの時の疫学的情報を目安にして判断することが可能。

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重症急性呼吸器症候群(SARS)に関するQ&A
2)疫学・サーベイランス
http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/QA/QAver2-01b.html
「小児は報告例も少ないのですが、死亡者も報告されていません。この理由については現在研究対象となっており、まだ解明されていません。」
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やはり、子どもの死亡例はなかった。

このQ&Aで言及されている
「SARSの疫学に関する合意文書」
http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/update101who.pdf
の該当ページのスクリーンショットを2枚掲載しておきます。

表3 致死率

香港では0-29歳はn=0ですから、死亡者だけでなく感染者(患者)もゼロだった。
中国本土では、高齢者ほど致死率は高く、20-29歳では0.9%で、0-19歳の情報がないのは、死亡者はゼロで感染者も少なかったのだろうと推測されます。

調査を必要とする特別な対象人口
「小児のSARS」

子ども→大人 2例
子ども→子ども 報告なし
香港で8人の子どもが同級生に感染を伝播した事実は全くない
広州市でも学校での感染伝播の証拠は何も見つからなかった

これらのSARSにおける情報と、現在までに新型コロナで小児の重症例や死亡例が伝えられていないことを合わせて考えると、冒頭の「小児の重症化は稀で死亡はゼロに近い」という推測は相当に根拠があるものと考えられます。(その理由はわかりませんが)

なお、高山義浩氏(感染症専門医)が2月16日にFacebookで公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床像について…」というまとめが大変参考になるので紹介しておきます。
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=2695806897139467&id=100001305489071
「いまだ、世代別の疫学報告はありませんが、私個人のざっくりとした印象で言うと・・・、若者の重症化率と致命率は、統計的に見れば、ほぼゼロ%でしょう。」
「なお、風邪症状に過ぎないのに新型コロナかどうかを確認するためだけに、救急外来を受診することは避けてください。」

と、ほぼ同様の見立てをしています。

メディアでも「高齢者や基礎疾患のある人は重症化しやすい」ということは伝えられていますが、じゃあ若者や子どもはどの程度なのかということは全く伝えられていません。

少なくとも、基礎疾患のない子どもが感染することについて、過度に心配する必要はなさそうです。
おそらく、子どもは感染しないのではなく、感染しても発症しないか、普通の風邪の経過で治っているのだろうと推測しています。

この点について、中国(特に武漢)で家族が感染したり死亡したような子どもでの情報が求められます。

(以下、追記しました)
*1 メディアだけでなく医学系のページでも「新型コロナウイルス(COVID-19)」という誤用が後を絶ちません。
「COVID-19」は新型コロナウイルス感染症(病名)の略称で、ウイルス名は「SARS-CoV-2」。
エイズAIDS(病名)とHIV(ウイルス名)を混同するような初歩的なミスですが、明らかに「COVID-19」という酷い命名が原因です。
ちなみに、
SARS → SARS-CoV(SARSコロナウイルス)
MERS → MERS-CoV(MERSコロナウイルス)
COVID-19 → SARS-CoV-2

COVID-19というのは「coronavirus disease」つまり「コロナウイルス感染症」という一般的情報に19がついただけの名称ですから、現在の感染・流行状況とはギャップがありすぎます。
あるいは、メディアがウイルス名に「SARS」が入っていることを意図的に隠している可能性もあります。

ウイルス名と病名の法則で考えれば「SARS 2」とするか、明らかな発生源である武漢(Wuhan)をとって「WARS」とすべきでしょう。

*2 乳児9例の報告が14日付けでJAMAに掲載されましたが、全例で家族内感染があるものの、「ICU・人工呼吸器・重度の合併症」いずれもゼロであり、症例数は少ないものの貴重なデータと言えます。
Novel Coronavirus Infection in Hospitalized Infants Under 1 Year of Age in China
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2761659

*3 中国における72314例(確定44672例)のまとめが発表になりました。残念ながら10代で1例の死亡がありますが、全体の傾向はSARSと同様です。別にまとめる予定です。
China CDC Weekly COVID-19.pdf
https://www.docdroid.net/XyuMmdb/china-cdc-weekly-covid-19.pdf

新型コロナ:有病率が上がればPCRでも偽陰性は無視できない(陰性でも感染していないとは言えない)

2020年02月13日 | 新型コロナ
クルーズ船乗客への全員検査が議論されているようですが、感染症の専門家がPCR検査でも偽陰性があり得ると述べていたので、どの程度なのか調べようと思っていたところ、次のような解説記事が昨日(2/12)掲載されていました。

「有病率が上がれば陰性的中率は下がる(検査で陰性でも感染している可能性は上がる)」という原則は、どの検査、どの病気でも変わりありません。

クルーズ船の乗客の有病率が上がってきていると仮定すると、全員検査で陰性とされた人の中で、数十名の偽陰性者が「感染なし」と判断される可能性があります。

一方で、ホテルに隔離していた帰国者は、十分な日数が経っていて症状がない人達なので、有病率は非常に低いと考えられ、検査で陰性なら感染なしと判断することができます。

以前作成した、計算式が埋め込まれているエクセルのシートにこの記事の数字を当てはめてみて、全て確認できました。

数字の羅列では理解しにくいので、「」内に引用・抜粋した文章と、それぞれについての図表と数字を出して説明してみます。

■ 新型コロナウイルス感染症との闘い 知っておくべき検査の能力と限界 2020.02.12 鎌江伊三夫
https://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20200212_6236.html

「4つの可能性:①真陽性(「感染あり」で陽性)、②偽陰性(「感染あり」なのに陰性)、③偽陽性(「感染なし」なのに陽性)、④真陰性(「感染なし」で陰性)」
「PCR検査は、検体から得られた遺伝子を増幅し、遺伝子レベルでウイルスを特定する方法である。そのため、一般には、感度も特異度もかなり100%に近い値になるのではないかと考えられる」


→ここで、基本の表を出しておきます。准看護学院の講義に使っているものです。

感度と特異度は検査の性質・精度に関する指標、
陽性的中率・陰性的中率は検査結果の判断に関する指標です。
有病率は(a+c)/(a+b+c+d)です。

感度、特異度、有病率の3つが変数となるので、同じ検査結果でも判断は異なってきます。

「ここではリスク分析上の通例としてやや低めに見積もり、感度95%、特異度99.9%と仮定」
「想定される有病率が1%とかなり低い場合でも、陽性適中率91%、陰性適中率99.95%と算出される」


→表の★のところに、感度95%、特異度99.9%、有病率1%を入れると、陽性的中率90.56%、陰性的中率99.95%と計算されます。
有病率が低いときには、検査で陰性なら感染していないと判断して差し支えありません。
(それでも1万人に5人は偽陰性となる)

ただし、この有病率の数字は実際にはわからないので、臨床的な流行状況から見当をつけて判断することになります。

「439人のうち135人が陽性。名目の有病率は31%」
「有病率を同レベルの30%としてみよう。全乗客・乗員数3711人から439人は除いて、全員検査の対象は3272人を想定」
「偽陰性49人、偽陽性2人、陽性適中率は99.8%、陰性適中率も97.9%と推計」


→同様に有病率30%、検査対象者の3272人を入れると、この記事の数字が出てきます。
ここで、陰性的中率は97.9%と高そうに思えますが、対象者数が多くなると、偽陰性者数の49人は無視できない数字となります。

(文中では「適中率」と表記されていますが同じものです。臨床医学では「的中率」が通常使われていると思います。)

「有病率が50%であれば、推計される偽陽性はほぼ同じの2人であるが、偽陰性は82人」


→同様に、図表の通りです。陰性的中率は95.2%に低下します。

「全員検査を行えば、2人に濡れ衣を着せ、49人から82人ほどの感染者を見落とすことになる」

→臨床診断ではPCR検査の結果で最終判断するので、「濡れ衣」(偽陽性)の2人が誰だということはわかりません。

同じように、偽陰性者の49〜82人というのも特定できないので、全ての陰性者について「感染している可能性は否定できない」ということを、本人も、政府・メディア関係者も、国民も知っておく必要があります。

ちなみに、この解説記事では最初にことわっているように感度95%と低めに見積もっているので、これを99%まで上げれば、有病率30%の時に陰性者2298人中10人、50%では1651人中16人まで偽陰性は減少します。
減りはしますが、「陰性でも感染している可能性は否定できない」という結論は同じです。

「以上のような問題をできるだけ避けるためには、本来、集団スクリーニングは、対象をハイリスク集団に絞って行うべきものである。この原則に従えば、水際作戦としての感染防御の観点からは、全員検査を急いでやるべきではないとの結論になる。その意味で、これまでの厚労省が取ってきた方法は間違っていないと言えよう」 
「医師や公衆衛生の専門家と呼ばれる人からも、全員検査を行うべきとの意見が聞かれるのは、まさに驚きである」

今回のような混乱は、日本人の検査至上主義と、検査の特性に対する基本的知識の不足(全員に検査すればシロかクロかがはっきり分かると思っている)によるものと言えます。
正しく恐れるためには、最低限の知識は必要なのです。
(上記のような用語や数式まで覚える必要はありませんが)