千の天使がバスケットボールする

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『バレエに生きる』

2012-10-07 16:27:29 | Movie
バレエを習っている少女はすぐわかる。電車の中でみかける髪をアップにきっちりとアップにしている少女たちは、日本人にしては顔が小さく手脚がスラリと長い。そして何よりを姿勢がよくて、歩く姿は小さなバレエリーナ。最近は、いかにもバレエのレッスンに向かう娘とつきそいの意外と地味めな母のセットをみかけることがある。第40回ローザンヌ国際バレエコンクールで菅井円加さんが第一位に輝いた一連の報道から、日本全国津々浦々にはバレエ教室が5000もあり、習うバレエ人口が40万人とあり、その層の厚さと裾の広さに驚いたのは私だけではないだろう。米国では、こどもをひとりだけ授かるなら裕福な層は女の子を望む人が多い。ピンクのドレスを着せたバースディ・パーティ、そしてバレエを習わせることに夢を感じるそうだ。日本のこどもたちのピアノのお稽古のように、なじみのあるバレエ教室なのだろう。

ピエール・ラコットとギレーヌ・テスマー。本作はパリ・オペラ座と縁の深い夫婦のドキュメンタリー映画である。
ところで、バレエを身近に感じる方が多い昨今だが、このおふたりのお名前をご存知な方はそれほどいないのではないだろうか。
バレエが一般大衆にひろまったとはいえ、こどもにピアノを習わせる母親が多くても、本人はそれほど音楽を知らないし、コンサートに足を運ぶこともないのが実際だ。かくいう”ちょっと”バレエも好きな私も多少のバレエ・ダンサーの名前は知っていても、この老夫婦の存在は知らなかった。美しく、居心地のようさそうな素敵な邸宅に住む足取りもちょっとあやしい太めのおふたり。やがて古い映像が流れて、斬新な演出でいきいきとクマテツなみに跳躍して踊る青年と、気品があり優雅に舞う白いチュチュが似合う美しいエトワール。今ではすっかり老いたふたりが、あの素晴らしい邸宅を支える優れた実力を充分に知らせてくれる若かりし頃の踊りである。

ピエールは1932年生まれ。7歳の時に両親と姉と一緒に、パリ・オペラ座で初めて本物のバレエ、セルジュ・リファールとリセット・ダルソンバルが踊る「ジゼル」を観る。涙を流して深い感銘を受けた少年は、いつか絶対にあの舞台で自分も踊ると決心する。10歳でオペラ座バレエ学校に入学し、頭角を表してプルミエとなるが、振付創作もはじめる。一方、ギレーヌは43年に北京で生まれ、幼い頃に、当時住んでいたモロッコで、旧ソ連のバレエ映画を観てバレエとともに人生を生きる決心をする。その夜、海辺に面した家の屋上で星を見ながら決心した景色は、今のバレエの世界と繋がっているという。こんなふたりの出会いは、ギレーヌがコンセルヴァトワールの入学審査を受けた時にさかのぼる。審査員として初めてギレーヌをみた時から、ピエールは彼女の容姿と踊りの美しさにすっかり心を奪われた。

映画は、振付家と活躍をはじめたピエールの作品を紹介していく。シャルル・アズナヴールの「パリの子供」や「夜は魔法使い」。特に、ジュリエット・グレコの歌を背景に創作した「声」というバレエは、今観ても斬新でテーマー性もある。彼女の特異な”声”からこんなダンスの発想をするピエールの才能は、妻となったギレーヌのダンスにも次々と生かされていく。彼らの踊りからコンテンポラリーのおもしろさにめざめはじめた私だったのだが、予想外にも、その昔、マリインスキー劇場で、ヴァーツラフ・二ジンスキーと踊ったエカテリーナ・エゴロワから「古典バレエを保存すると誓って」といわれて、モダンなバレエを封印して古典バレエを復元することをはじめる。

「ラ・シルフィード」」「コッペリア」「盗賊の娘」「ドナウの娘」「ジゼル」「オンディーヌ」・・・、次々と名作のダンスシーンが映される。ルドルフ・ヌレエフも踊っている。映像がいかんせん、古かったり画質が悪いのが残念だが、その芸術性にどんどんひきこまれていく。
バレエって素晴らしい。
やはり古典バレエは王道である。気がつけば、すっかりバレエの魔法にかけられていた私。

パリだけでなく、ニュー-ヨーク、モナコ、アルゼンチン、そして東京も・・・、とふたりのバレエの旅は続く。ギレーヌは、引退後、パリ・オペラ座で後進の指導をしている。夫婦には実子がないが、ここにはふたりのこどもたちがいる。ギレーヌの関心は「円環を閉じること」そんな哲学的なことをさらりと言う彼女は、レッスンの様子を見ても聡明な女性という印象も受けた。ともあれ、数々の夢のようなシーンが現れて、まさに心が躍るような映画だった。

監督:マレーネ・イヨネスコ
2011年フランス製作

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