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遠い昔のTV番組を再現しようというムチャな試み

ミロラド・パヴィチ

2016-05-28 11:03:45 | 本と雑誌
ハザール事典」の作者、セルビアのヒト(もっとも本書を書いた頃はともかくもまだユーゴが健在だったとのこと、考えてみればずいぶん昔だね)、こういうキーワードは入れといた方が検索に便利なので昨日は以下なしと書いたけどもうちょっと追加(せんでいいって?まーいーじゃない)

そもいかにも学者が書いたフィクションらしくペダンティックだが作家としたらディレッタントなんじゃなかろうか、ちょっと丸谷才一に似てるかも、これがデビュー作でデビュー作には全てがある(たぶん)ってとこも・・・あれ違ったかな?丸谷は「年の残り」がアタマにあるんだがあれは受賞作でデビュー作じゃなかったかも
ところで我ら揚げ足鳥に対して作者いわく「君らは浮気女房の亭主のごときもの、噂が耳に届くのは一番後回しと決まっている」な、なるほど、いやわかるやうなわからんやうな・・・・どこの国でも言うんだね、町内で知らぬは亭主ばかりなり

さてセルビア人の学者スゥクはいかにも頼りない人物に描かれてるけど(まさか作者がモデルってことはないよな?)、3つの重要なキーを持たされてもいる、本人がその重要性に無自覚、つまり探偵役を勤めるわけではないというところが本書のユニークさであり、ミステリ読者としては物足りないところでもあり・・・・(上から目線)
1つは17世紀に出版された「ハザール事典第一版」、これは世界に一冊しかない希書中の希書で、ハザールコレクターのムアヴィアがいくら探してもみつからないモノ、なぜこれをスゥクが持っているのかについては説明がない
2つめはハザールのアテー王女から夢の中で送られて来た自室の鍵(文字通りのキー)、ハザールには夢の中へ入れる「夢の狩人」というのがいてその一人が王女の愛人だった、夢の狩人はイスパニア人の年代記作者アル・バクリ(11世紀)、アナトリア人のハザール研究者マスーディ(17世紀)、さらにはエジプト人の学者ムアヴィア(20世紀)とイスラム世界を転生して来たように書かれてるのになぜ鍵がキリスト教徒の学者に送られたのか、これまた説明なし
3つめは割れば災厄の日を消せるというフシギな卵、これは楽器店主に売りつけられた、消費期限は殺人のあったまさにその日(10月2日)、スゥクは卵を割ったが自分の1日は消せず代わりに消滅したのはどうやら「ハザール事典第一版」最後の一冊だったらしい

アテー王女は国家消滅後も(生まれ変わりではなく同一人物として)生き続ける、17世紀にはマスーディ(愛人の生まれ変わり?)にチラと顔を見せたがお互いに気づかなかった(のでマスーディはラクダに侮蔑された)、20世紀にはなぜかイスラエル国籍を得てあのホテルのメイドになり4歳児の殺人を目撃した、スゥクの鍵は彼女の部屋のものだったが使われることはなかった
ここまで伏線を張りながらこの結末は・・・マタイ伝によくあるよね「これらのことが起きたのは預言書に******と書かれていることが成就するためである」、スゥクはホテルの部屋で男に殺される、死ぬ間際に卵を割ると約300年前に予見されてたからそれは成就しなくてはいけなかったのだ、これ一神教世界のルール、だがどうも釈然とせんのよな

王女のキーを送られるのはやっぱムアヴィアであるべきなんじゃないか、幼児に射殺されるのはかまわない(かまわなくはないが事情はあること故)、死の瞬間にアテーを認めて「やっと逢えたんだね、これは君の」とキーを差し出す、これだったら「夢の狩人たちの物語」見事に完結だし300年前の予測とは別に矛盾せんと思うけど

ヒトはなぜモノを書くのか、それは書けば気が晴れるからだ、ホント実感だなあ、以上揚げ足鳥完

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