『自由』と『法の支配』の同盟網 安全保障政策を専ら対米同盟の文脈で思考して済む時節は過ぎた 櫻田淳

2013-10-09 | 国際/中国/アジア

【正論】東洋学園大学教授・櫻田淳 「日米比同盟」の可能性を考える
 産経新聞2013.10.9 03:19
 ≪フィリピンからの秋波しきり≫
 この4月、フィリピン政府機関のウェブ・サイト上に、「フィリピン、米国、日本は今や極めて密接な同盟である」という記述が登場した。この記述は、7月15日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル上で、ベニグノ・アキノ・フィリピン大統領が「フィリピンの戦略的パートナーは2カ国しかなく、それは米国と日本である」と語ったことによって後に裏書きされている。
 実際、安倍晋三内閣発足以降、安倍首相や岸田文雄外相、小野寺五典防衛相による相次ぐフィリピン訪問は、日比両国の安全保障上の提携を加速させている。
 米比関係の文脈でいえば、1991年以降、フィリピンにあるスービック海軍、クラーク空軍の両基地からの米軍の撤退は、中国が南シナ海に進出する間隙を生じさせる結果を招いたけれども、南シナ海情勢の緊迫化によって、米比同盟の「復活」に弾みが付いている。米軍による両基地の再拠点化を趣旨とする米比両国の新「安全保障協定」締結に向けた議論も、始動したところである。
 しかも、直近に実施された米比合同軍事演習の際に、米海兵隊の部隊が沖縄を拠点にして展開したという事実は、米比同盟の本格的な「復活」を、日本が間接的にせよ側面から支援している姿を示している。
 「フィリピン、米国、日本は今や極めて密接な同盟である」という認識は決して誇張ではない。
 第二次世界大戦中、フィリピンで闘った日米両国が、21世紀には手を携えてフィリピンの安全保障に協力する。そうした光景が実現すれば、ちょうど60年前の流行歌『あゝ、モンテンルパの夜は更けて』に反映されたような戦時中の「遺恨」は完全に消える。それは、日本の対外関係に新たな局面を開くことになろう。
 こうした事情は、日本の対外政策展開に関して、一つの遠大な可能性を提起する。
 ≪アジア太平洋版NATOに道≫
 もし、フィリピンが期待するような日米比三国同盟の枠組みが構築されれば、それは、後々にオーストラリア、インド両国やフィリピン以外の東南アジア諸国の参加を見込むことによって、「アジア・太平洋版NATO」とも呼ぶべき「『自由』と『法の支配』の同盟網」の中核を占めることになるかもしれない。
 憲法改正にせよ憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認にせよ機密保全法案審議にせよ、安倍内閣下の安全保障上の政策志向は、特に中韓両国から「右傾化」という類の批判を浴びてきた。しかし、現下の日本における安全保障上の努力は、ただ単に日本の「国家の威信」を発揚するためではなく、この「『自由』と『法の支配』の同盟網」の十全な機能と全体的な利益を担保するためのものであると説明できている限りは、米国を含む他の「同盟網」諸国からは歓迎されるであろう。
 集団的自衛権の行使は、どの国々にとっても、こうした「同盟網」を機能させる上での前提である。現下の日本における安全保障上の努力が実を伴ったものであるためにも、「『自由』と『法の支配』の同盟網」の構築に取り組む意義は、大きいといえよう。
 ≪「自由と法の支配」の同盟網≫
 逆にいえば、目下、例えば韓国が執拗に続けている対日批判は、こうした同盟網の機能を弱めるものとして作用しよう。朴槿恵政権下の韓国が、中国の経済上の隆盛に幻惑される体裁で対中傾斜を加速させ、日本との「過去の経緯」に拘泥する余りに無分別な対日批判を止められないならば、それは、「『自由』と『法の支配』の同盟網」を成すことになる米国や他の「同盟網」諸国の利益に違背することになろう。もし、韓国が米国の同盟国として、「『自由』と『法の支配』の同盟網」の一翼を担うことがあるのであれば、その「同盟網」諸国の結束に亀裂を入れない配慮が求められるからである。
 国家防衛や広い意味での安全保障を語る上の基本姿勢は、「自分の国は自分で守る」というものである。しかし、吉田茂が認識していたように、そうした姿勢は、第二次世界大戦後の国際政治の現実とは整合しなかった。それ故にこそ、吉田は、「独力で足りないところを、有無相通じ長短相補っていく」枠組みとして、日米同盟の樹立に踏み切ったのである。
 そして、目下、日本の安全保障論議に求められているのは、「日本の安全保障は、米国だけではなく他の米同盟諸国や友好諸国との協調によって確保されるのであり、日本の努力は、米国だけではなく他の米同盟諸国、友好諸国の利害にも合致する」という理解の醸成であろう。日本の安全保障政策を専ら対米同盟の文脈で思考して済む時節は、既に過ぎた。日本にとっては、「『自由』と『法の支配』の同盟網」の構築と運営こそ、安全保障政策上の目標の一つとしてふさわしい。日米比三国同盟の樹立は、それに向けた里程として真剣な考慮に値しよう。(さくらだ じゅん)
 *上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
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