「一人横綱」自民党の失政は、『政権の喪失』ではなく、『国家としての沈没』を招く 櫻田淳

2013-07-24 | 政治

【正論】東洋学園大学教授・櫻田淳 「一人横綱」に失政あれば国沈む
産経新聞2013.7.24 03:18 [正論]
 相撲の世界でも、昔日の大鵬、千代の富士、朝青龍、あるいは現在の白鵬のように、実質上、一人で横綱の責任を背負わなければならなくなった力士には、想像を絶する精神上の重圧が掛かる。
 「栃若時代」のような東西両横綱の実力伯仲の構図の下ならば、それぞれの力士は、互いに切磋琢磨(せっさたくま)することによって、土俵に上がる折の「緊張感」を保つことができよう。しかしながら、「一人横綱」の力士は、専ら自己省察や自己鍛錬だけを支えにして、代わりのいない土俵を務めるのである。「一人横綱」の重圧は、そうした孤独に耐えていく姿勢にこそ、強調されるものであろう。
 ≪新たな「55年体制」幕開けか≫
 先刻の参議院議員選挙の結果、自民、公明両党は合わせて76議席を獲得し、院内安定多数を制した。この選挙結果は、昨冬の衆議院議員選挙の結果と併せれば、新たな装いでの「55年体制」の到来を予見させる。
 そもそも、1980年代後半、「55年体制」末期の日本政治の様相は、「酔ったまま平然と土俵に上がる横綱」と「全然、稽古をしない平幕」の相撲のようなものであった。「55年体制」下、「一人横綱」として政権を担った自民党は、次第に、その政治姿勢における慢心、驕慢(きょうまん)、安直、硬直が批判に曝(さら)されるようになる。
 「政権交代可能な二大政党制度」の定着に向けた過去20年余の模索は、そうした政治情勢への反省を機にしていたけれども、民主党主導内閣3年3カ月の「実験」は、その模索を頓挫させた。此度の選挙に際して、共産党の勢力伸長が指摘されるとしても、彼らが政権を担うことを期待する向きは皆無であろう。結局のところは、日本の政治情勢は、自民党を主軸にした「一党優位体制」に回帰しようとしている。
 このように考えれば、安倍晋三政権下の自民党が「一人横綱」として向き合うことになる重圧は、途方もないものになるであろう。というのも、「もう一人の横綱」が登場し得ていない現状では、「一人横綱」としての自民党の失政は、単なる「政権交代」や政局の混迷ではなく、日本の国家としての総体的な沈没に結び付くからである。
 ≪慢心と独善、厳に慎むべし≫
 故に、今後の自民党の政治姿勢においては、「55年体制」末期を彩ったような慢心、驕慢、安直は無論のこと、「何でも手がけられる」といった類いの独善が浮かび上がるようなことは、厳に慎まなければならないであろう。現下、自民党が手にしているような高い政党支持率や衆参両院での圧倒的な優位は、そうした「悪弊」の土壌になりやすいのである。
 幸いにして、昨冬の第2次内閣発足以降、「アベノミクス」の名の下、安倍首相が披露した日本の「活力」を復活させる政策志向は、此度の選挙結果が示すように世の大勢の支持を集めているし、主要国(G8)や20カ国・地域(G20)での議論が示すように世界各国の理解と賛意を総じて得ている。
 また、たとえば環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉、原発再稼働、消費税増税という政策課題の扱いには、さまざまな議論が予想されるけれども、それもまた、どれだけ日本の「活力」の復活に寄与できるかという観点から怜悧(れいり)に判断されるべきものであって、「国論の分裂」を経るような類いのものではない。「何を手がけるべきか」という議論は、既に出尽くしているのである。
 ≪改憲だけでなく力の裏付けも≫
 加えて、新「55年体制」の下では、憲法改正に向けた機運は盛り上がるであろう。しかし、憲法それ自体は、従来、「護憲」標榜(ひょうぼう)層が信じてきたようには「平和」を担保しないのと同様に、「改憲」標榜層が願ったようには「国家の独立や威信」も担保しない。国家の「独立」を万全なものにしたければ、相応の「力」の裏付けが要る。ここでいう「力」とは、軍事、経済・産業・技術、外交・対外広報、文化・スポーツ・芸術に至る広範なものの総称である。
 「平和」もまた、こうした「力」の差配の加減によって成就されるものに他ならない。狭い意味での防衛・安全保障政策の文脈でいえば、「アベノミクス」の断行を通じた経済再生と財政再建を成就させた上で、相応の資金と人員を投入できるようにしなければ、万全を期したとは断じ難い。憲法改正に向けた議論は今後、加速させるのが当然であるにしても、憲法改正によって日本を取り巻く国際政治環境が劇的に変わるという期待を抱くのは、決して賢明ではない。
 こうして考えると、今後3年、国政選挙が実施されない「政局上の無風」の情勢下であればこそ、安倍首相以下の自民党の執政は、難儀の度合いを高めるであろう。筆者は、自民党に対しては、前に触れたように、「自民党の失政は、『政権の喪失』ではなく『国家としての沈没』を招く」という認識の下、執政に臨むように期待する他はない。(さくらだ じゅん) *リンク、強調(太字・着色)は来栖
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〈来栖の独白 2013/7/24 Wed. 〉
>今後3年、国政選挙が実施されない「政局上の無風」の情勢下であればこそ、安倍首相以下の自民党の執政は、難儀の度合いを高めるであろう。
 今、最も共感を強くし、私をリードしてくれるオピニオン。
>「自民党の失政は、『政権の喪失』ではなく『国家としての沈没』を招く」
 この卓越したコンテクストを、結局は「政局」の人であった小沢一郎氏に読ませたい。
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