「中国の圧力に日本は断固たる態度を」ラリー・ウォーツェル氏/中国 空母ワリヤーグ就役

2012-09-24 | 国際/中国/アジア

中国の圧力に日本は断固たる態度を 軍事衝突の危険も ラリー・ウォーツェル氏インタビュー
産経ニュース2012.9.23 23:24【ワシントン=古森義久】
 米国議会の米中経済安保調査委員会の委員で中国の軍事戦略の専門家のラリー・ウォーツェル氏は22日、産経新聞と会見し、「尖閣問題では中国がさまざまな圧力をかけてくることが予想されるが、日本は断固たる態度を保つことが重要だ」などと語った。
 ウォーツェル氏は中国側の出方について「正面からの軍事攻撃あるいは軍事対決を除くあらゆる圧力手段、漁業監視船などの公船のほか漁船や活動家らを送りこみ、尖閣周辺を海軍艦艇に航行させるという手段で日本への圧力をかけるだろう」との見解を明らかにした。
 軍事衝突の危険については「中国指導部はまだ軍事攻撃は考えていないだろうが、偶発的な事故のような形で衝突が起きる危険はある」と述べた。
 ウォーツェル氏は「中国国内の反日デモと尖閣諸島への艦船の送り込みを合わせて、日本の政治指導部に圧力をかけ、揺さぶり、尖閣の領有権について譲歩させることが目的だ」と説明した。
 とくに反日デモに関しては「中国当局が明らかに日本に圧力をかけるために誘導して起きた現象で、当局は民衆の反日活動の程度や規模をコントロールできる。停止させることもできる。暴走にみえる暴力行動も当局が許容した範囲といえよう」との見方を示した。
 日本の対応についてウォーツェル氏は「政治指導層は尖閣諸島領有権に関して断固たる態度を保ち、統治を確実にしなければならない。そのためには日米同盟の堅持と国際規範を順守することも欠かせない」と語った。
 さらに同氏は「パネッタ国防長官が最近、改めて日本側に伝えたようにブッシュ前政権からの『日米安保条約第5条の共同防衛の誓約は尖閣諸島にも適用される』という方針は最も重要だ」と指摘。そのうえで「日米がこの方針から後退しないことが肝要であり、その点では米側が日本に2基目の(移動式早期警戒レーダー)Xバンドレーダーの配備を決めたことの意味は大きい。日米共同防衛の強化に役立つからだ」と語った。
 ウォーツェル氏は米陸軍情報将校として北京駐在の武官を2度務め、国防大学教授などを歴任。2001年から現在まで米議会の超党派の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員を務めている。
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中国空母、日本に脅威?それとも張り子の虎?
zakzak2012.09.24
 日本政府による沖縄県・尖閣諸島の「国有化」に対する中国側の対抗・制裁措置が激化するなか、中日友好協会は、27日に北京の人民大会堂で予定されていた「日中国交正常化40周年記念式典」の延期を日本側に伝えた。また、中国初の空母が、近日中に正式就航することも分かった。尖閣強奪をもくろむ中国が、日本恫喝に利用する可能性も指摘されている。
 「空母の就役は、中国が今後、諸島の領有権問題を解決し、海洋権益を維持するために重要な影響と作用を及ぼす」
 中国紙によると、中国の軍事専門家はこう語っているという。
 中日友好協会幹部が「諸般の事情で、当面、(記念式典を)延期する」と北京の日本大使館の担当者に通告してきた23日、くしくも、遼寧省大連の港では、中国海軍に空母を引き渡す式典が行われた。
 同空母は、旧ソ連時代にウクライナで「ワリヤーグ」として建造が始まったが、ソ連崩壊に伴い建造が中断した。その後、中国が「海上のカジノにする」と称して購入。2002年に大連港に到着し、05年ごろから改修作業が始まった。今年8月から10回の試験航行を重ねてきた。
 中国海軍の艦船として最大、満載排水量6万7000トン、全長305メートル、戦闘機約40機搭載のの巨大空母が、東シナ海に配備されれば日本人も心情も穏やかではない。人民解放軍の強硬派、羅援(ラ・エン)少将は先月、同空母を「釣魚島号」と命名することを提案しており、中国の企みを感じてしまう。
 だが、同空母にはいくつかの欠陥が指摘されている。
 まず、設計段階で予定されていた蒸気タービンエンジンが積まれておらず、出力(馬力)が弱い船舶用ディーゼルエンジンを搭載しているため、「艦載機に十分な揚力を与えられないのでは」(日中関係者)という指摘だ。
 さらに、米海軍空母のようなスチームカタパルト(空母から航空機を射出する機械)がなく、スキージャンプ式の艦首で艦載機を自力発艦させるので、「きちんと発艦できるのか。中国が『訓練用空母』としているのは、張り子の虎なのでは」(同)という見方もある。
 これに対し、軍事評論家の世良光弘氏は「中国はそれほどバカじゃないはず。甘く見ない方がいい」といい、こう解説する。
 「もし、艦載機が発艦・着艦できない空母なら、訓練用にもならない。世界に恥をさらすことになる。先日、甲板に水平が並んでいる映像を見たが、かなり訓練されている。(能力は劣っても)中国空母が東シナ海に配備されれば、日本の安全保障の脅威になる。現在、中国は新たに空母2隻を建造しており、数年後には、この脅威はもっと大きくなる。日本は警戒すべきだ」
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中国初の空母「ワリヤーグ」が訓練用にしか使えない理由 2011-08-31 

   

 中国初の空母「ワリヤーグ」が訓練用にしか使えない理由
 阿部 純一 JBpress2011.08.31(水)
 8月10日、中国初の空母「ワリヤーグ」が試験航海を実施した。華々しいセレモニーもなく、また期待された中国海軍艦船としての「命名」もない地味な船出であった。
 中国のネットにタグボートから撮影されたと思われる写真が出ていたが、微速前進の慣らし航行といったところだった。そのわずか1週間後の8月18日、ワリヤーグが再び大連のドライドックに入ったところを見ると、まだフル稼働の状態にはなく、今後も慣らし航行とドック入りを繰り返すように見える。
 要するに、まだ訓練用にも使えない状態であり、海軍艦船として「就役」したとは言いがたいのだろう。まともに訓練用に使える状態になって初めて「就役」し、その段階になってから「命名」される段取りなのかもしれない。
 しかし、一般の人から見れば、たとえウクライナから買った中古のボロ船とはいえ、10年がかりで修復し、最新のレーダー設備や対空兵装も設置したのだから、実験・訓練用空母にとどめず正式空母として戦力化し運用しないのはもったいない、と思うかもしれない。
 満載排水量6万7000トンの巨艦は言うまでもなく中国海軍艦船としては最大であり、中古艦とはいえ、化粧直しで見た目は新造艦そのものである。その「ワリヤーグ」をなぜ中国海軍は実験・訓練用としたのか。
*搭載された船舶用ディーゼルエンジンの欠点
 その答えになりそうな説明が、米国の軍事安全保障サイト「グローバル・セキュリティー」にあった。
 「ワリヤーグ」がウクライナから中国に引き渡された時、エンジンは積載されていなかった。もともとの設計では、蒸気タービンエンジンを2基積載し、29ノットの最高速を出すはずだったが、そのエンジンそのものが積まれていなかったのだ。
 しかし、中国は蒸気タービンエンジンや、さらに進んだガスタービンエンジンを国産する能力がなく、結局、船舶用ディーゼルエンジンを積んだという。
 船舶用ディーゼルエンジンは燃費はいいが、蒸気タービンエンジンなどよりも容積が大きい上に出力(馬力)が出ない。そのため「ワリヤーグ」の最高速は19ノット(時速約35キロメートル)にとどまるという。
 米海軍の空母が30ノット(時速54キロメートル)以上の速力を持つのは、それで向かい風を作り、発進する艦載機に十分な揚力を与えるためである。それができない「ワリヤーグ」は、空母として致命的な欠陥を抱えているということになる。
 少ない揚力で艦載機を発艦させるには、艦載機を軽量にしなければならない。つまり、艦載機が携行する対空ミサイルや対艦ミサイルを最小限にしなければならず、場合によっては燃料も減らさなくてはならない。
 これでは、空母としての役割を十分に果たすことなどできないだろう。つまり、「ワリヤーグ」にできるのは、艦載機の離発着訓練程度に過ぎないのである。
*中国は空母を「旧ソ連的」に運用するのか?
 もちろん、「ワリヤーグ」はそれ以外にも問題点を抱えている。米ソ冷戦時代に計画されたソ連海軍の空母という出自がまず問題になる。
 旧ソ連では、空母はあくまで艦隊に防空戦力を提供するのが役割であった。米海軍空母の役割が「パワープロジェクション」(戦力の遠方投入)であり、対地攻撃がメインであるのと対照的である。
 米海軍の空母打撃群に随伴するイージス艦などの役割は、空母を守ることにある。一方、ソ連艦隊の空母は、共に行動する艦隊を守ることが本務とされた。だから空母自身にも対空ミサイル、対艦ミサイルなど攻撃兵器が満載されている。「ワリヤーグ」にもその傾向は顕著であり、まさに空母兼巡洋艦といった趣である。
 はたしてこれが中国海軍のニーズに合うのかどうか。それは中国海軍の空母運用思想にかかってくるが、おそらく中国はまだ明確な結論を得ていないのではないだろうか。
 大陸国家の海軍として、沿海における制海権を重視するなら、旧ソ連的な空母の運用も合理的な面がある。しかし、将来的に南シナ海における覇権確立を目指し、東南アジア諸国ににらみを利かせるとか、シーレーン防衛を考えてインド洋への展開などを視野に入れれば、旧ソ連的運用でいいのかどうかが問題になる。
*航続距離が短い空母艦載機「J-15」
 これに関連して問題になるのが空母艦載機だ。中国はウクライナから、ロシアが空母艦載機用に開発した「スホイ33」の試作機を入手し、模倣生産して「J-15」と名づけ、これを艦載機として運用しようとしている。
 ロシアはスホイ33を、保有する唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」で運用している。この空母は「ワリヤーグ」と同型艦であり、それだけ考えれば、中国もJ-15を艦載機として運用しようというのは合理的選択のように見える。
 しかし、空母の仕様上の制約から生まれたのがスホイ33である。それをコピーした中国のJ-15も同様なことが言えるのだが、空母の運用思想とも関連して、艦隊の防空戦力に位置づけられる戦闘機なので長い航続距離は必要とされていない。
 また米海軍空母のようなスチームカタパルト(高圧水蒸気の力を利用して搭載機を加速させ射出する機械)を持たないため、スキージャンプ式の艦首で艦載機の自力発艦能力が求められた結果、燃料積載量を減らして自重を軽くする設計となった。
 結果として、スホイ33の航続距離は約2900キロメートルと、ベースになった「スホイ27」の約4000キロメートルよりも大分短くなっている。
 これは米海軍艦載機「F/A-18E/F スーパーホーネット」の約3700キロメートルと比べても短い。作戦行動半径となると、 F/A-18でも1000キロメートルあるかないかとされているから、中国のJ-15はせいぜい600キロメートル程度であろう。なお、ミサイル等の積載能力もF/A-18の方が大きいのは言うまでもない。
 おそらく中国は、空母「ワリヤーグ」の問題点、艦載機J-15の問題点をすでに十分自覚しているのだろう。だからこそ、「ワリヤーグ」を実験・訓練用空母に位置づけたのだ。
 すでに新聞等で報道されているとおり、中国は純国産となる空母を上海で建造中である。おそらく船体の完成までにあと3~4年を要するだろう。それまでの間に、高出力を確保できる蒸気タービンエンジンあるいはガスタービンエンジンを調達しなければならないが、すでに中国はウクライナとの間で交渉を開始しているとの報道もある。
 国産空母が完成するまで、中国海軍は「ワリヤーグ」を使い、空母を運用する上での様々な実験や訓練を行い、そのデータをもとに国産空母にフィードバックし、中国海軍のニーズに合った空母に仕立て上げる算段なのだろう。空母艦載機にしても、J-15より軽量の「J-10」戦闘機の艦載機バージョンの開発なども行われるに違いない。
*海軍の軍拡は自らの首を絞めることに
 こうして検討してみると、中国が空母を実戦で運用するようになるためには、まだ相当の年月がかかるだろうことは容易に想像がつく。
 2011年7月末、中国人民解放軍のシンクタンクである軍事科学院の論客として知られる羅援少将は、インドや日本の動向を踏まえ「中国の権利や海洋権益を効果的に守るためには、中国の空母の数は3隻未満であってはならないと思う」と発言している。
 羅援少将が空母運用にどの程度の知識を持っているのかは分からないが、空母3隻態勢は空母運用の最低条件だとされる。1隻が作戦任務に就き、1隻が訓練、1隻が補修でローテーションを組めば、常時1隻は活動できるからである。
 中国が最初の国産空母を完成させ、就役させるのは2015年頃だろうと米国防総省は予測している。2隻目の国産空母が建造されれば、「ワリヤーグ」と合わせてとりあえず3隻にはなる。
 空母は単体では行動せず、機動部隊を編成するから、護衛の駆逐艦や潜水艦、補給艦なども必要になる。結果として、中国海軍は大軍拡路線を目指すことにならざるを得なくなる。それを財政的に賄えたとしても、中国の軍拡に対する周辺諸国の警戒感はこれまで以上のレベルになり、中国が置かれる国際環境が厳しいものになるのは必定である。
 「ワリヤーグ」が最初の試験航海に出た直後の8月13日、米海軍は南シナ海で活動中の空母「ジョージ・ワシントン」にベトナムの軍・政府関係者を招待し、米空母の威容と威力を誇示した。南シナ海の領有権をめぐり、中国とベトナム、フィリピンとの緊張が高まる中でのこの米軍のデモンストレーションの狙いが中国を牽制することにあるのは明らかであり、米国と中国との「力の差」が歴然としていることを見せつけるものであった。
 中国海軍が東シナ海や南シナ海で領有権をめぐり、強気に出れば出るほど、周辺諸国は米国に接近していくことになる。ベトナムがその好例と言える。
 中国は「ワリヤーグ」を持ったことで、逆に米国との軍事的なレベルの違いを思い知らされることになる。それが中国を協調的な方向に導くのか、あるいは米国に対してより対抗的になるのか。
 96年の台湾海峡危機などの経緯を考えれば、おそらく後者の道をたどるのだろうが、それは中国の将来を危うくする道でもあることを、中国の指導者は自覚しなければならない。
<筆者プロフィール>
阿部 純一 Junichi Abe
 霞山会 主席研究員、事務局次長。1952年埼玉県生まれ。上智大学外国語学部卒、同大学院国際関係論専攻博士前期課程修了。シカゴ大学、北京大学留学を経て、2006年から現職。専門は中国軍事・外交、東アジア安全保障。著書に『中国軍の本当の実力』(ビジネス社)『中国と東アジアの安全保障』(明徳出版)など。
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中国の一貫した謀略戦(長期間かけた法律、世論、心理の三戦)に曝されている日本 尖閣諸島 2012-07-30
 日本を絶体絶命の危機に陥れつつある中国 長期間かけた法律、世論、心理の三戦を実施中
 樋口譲次 JBpress 2012.07.24(火)
 石原慎太郎・東京都知事によって、尖閣諸島の購入計画が明らかにされると、国内では大きな反響と支持の輪が広がり、すでに10億円を超える賛助金が集まっているようである。
 これに対し、中国は当然のように反発を強めているが、尖閣諸島略取の対日戦略は40年余りにわたり終始一貫して展開され、年を追うごとにエスカレートしてきた。その戦略は、いったいどのような思想の下に押し進められているのか?
■中国の三戦、「世論戦」+「心理戦」+「法律戦」
 いつもながら中国に対する控えめな表現が目立つ防衛白書(平成23年版)であるが、中国の「三戦」については、次のように記述している。
 「中国は、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視しているとみられ、「三戦」と呼ばれる「輿(世)論戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作の項目に加えたほか、『軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させる』(2008年中国の国防)との方針を掲げている」と。
 1963(昭和38)年に公布された「中国人民解放軍政治工作条例」は、2003(平成15)年に改正され、「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」の実施を明確に規定した。
 過剰なまでにシビリアン・コントロールを強調する戦後の日本にあっては、軍が行う「政治工作」という概念が理解できないかもしれない。
 中国軍の「政治工作」とは、対内的には「共産党の軍隊」であるとの基本原則を堅持するための政治思想教育の徹底であり、対外的には国家目標を達成するため「軍隊の戦闘力を構成する重要な要素」としての軍による政治活動を、前もって相手国(その同盟国を含む)に仕かけることを意味していよう。
 軍による対外的政治工作は、軍事を純粋に軍事力という物理的要素からだけではなく、心理的、政治的要素にも重きを置いて考える「孫子」の戦略思想を反映したものである。
 時々、中国政権内部における軍の独走が話題になる。しかし、「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」を代表的手段として行われる軍の政治工作は、軍単独ではなく、政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に絡ませ、国家のあらゆる機能を駆使して展開される。その策動の目標の1つが、まさに尖閣諸島なのである。
■「孫子」の「戦わずして勝つ」の現代的実践としての三戦
 一般的に、戦争は、相手国を軍事力で撃破して目的を達成するものと考えられがちだ。しかし、孫子は、相手国の占領支配を目的とする戦争においては、敵国を保全したまま勝利を獲得するのが最上の策であると主張する。
 つまり、「不戦而屈人之兵、善之善者也」(「孫子」第3章謀攻篇)、すなわち「戦わずして勝つ」ことである。
 中国では、王朝の交代のたびに繰り返されてきた残虐な戦いで、何千万とも言われる大量の人命と莫大な財産が失われてきたが、この歴史が、上記の考えを補強してきたのは、なるほどとうなずけるところである。
 ヘンリー・キッシンジャー博士は、米国の親中派の代表と目される重鎮であるが、回顧録「中国(上)」(岩波書店)の中で、「中国人は、常にぬけ目のないリアルポリティクス(現実的政治)の実行者である」と喝破している。
 古来、中国は、権謀術数の国であり、極めて策略的である。そして、中華人民共和国(人民解放軍)を作った毛沢東がそうであったように、中国は「孫子」の忠実な実践者であり、その「戦わずして勝つ」の現代的実践の手段が、中国が三戦として掲げる「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」なのである。
 米国防省は、2010年8月の「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」の中で、中国の三戦について、次のように説明している。
 世論戦は、中国の軍事行動に対する大衆および国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反するとみられる政策を追求することがないよう、国内および国際世論に影響を及ぼすことを目的とするもの。
 「心理戦」は、敵の軍人およびそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするもの。
 「法律戦」は、国際法および国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する反発に対処するもの。
 いずれにしても、中国の三戦を一言で置き換えれば、「謀略戦」で勝つということである。「謀略戦」は、平・戦両時にわたって展開されるが、特に、平時の戦いにおける主要手段として重視して運用される。
 「謀略戦」は、「間諜」(スパイ活動)や「詭道」(相手を偽り欺くこと)などとともに併用され、その狙いは、相手国の意図を測り、油断を誘い、戦備を弱め、そして戦意を挫くことにある。同時に、相手国の同盟関係(日米同盟)を機能不全とし、あるいは解体するにある。
 この「謀略戦」は、尖閣諸島などを標的に、すでに我が国に対して広範に仕かけられており、明らかに現在も進行中である。
 そして、今後も執拗に続いて行くものと覚悟しなければならない。従って、その狙いと実態を十分に承知し、これに打ち勝つ対中戦略を練り、国を挙げて対応する体制を整備することが必要である。
■謀略戦に乗じられやすい民主国家の弱点
 建国以来、米国が、唯一敗北を味わったのはベトナム戦争である。
 「孫子」の弟子である北ベトナムのホー・チ・ミン大統領やボー・グエン・ザップ将軍は、その間接的な攻撃と心理戦の原則を自分たちの戦争に適用した。
 そして、その巧妙な報道操作によって、南ベトナム国家警察本部長官によるベトコンの銃殺、「ソンミ村事件」に代表されるベトナム住民の虐殺、爆撃で焼き出され裸で泣きながら逃げ惑う少女の姿など、参戦の大義に対する疑念と戦争の残虐さをアピールする映像がテレビなどで繰り返し米国のお茶の間へ持ち込まれた。
 米国内では、ベトナム戦争派兵の支持率は急速に低下し、反戦の声は高まり、厭戦思想(気分)が全国規模にまで拡大して米軍の撤退を早めた。ベトナム戦争は、史上初めて、戦場ではなく新聞の紙面やテレビの画面で勝敗が決まった戦争(「テレビ戦争」、「リビングルーム戦争」)だと言われている。
 1993年10月、「ブラックホーク・ダウン」で有名になったソマリアの「モガディシュの戦闘」でも同様なことが起こった。米軍の「MH-60ブラックホーク」がソマリア民兵に撃墜された。そして、18人の米兵が殺戮されて市中を引きずり廻されるテレビ映像が公開された。
 米国民の間には衝撃が走り、一挙に撤退論が噴出して、ソマリア内戦で発生した難民に食糧援助を行うために参加した平和維持活動(PKO)の目的を果すことなく撤退を余儀なくされた。自由な民主社会における情報の持つ威力である。
 一方、中国あるいは北朝鮮のように、共産党(朝鮮労働党)一党独裁で、思想・言論・報道の自由を認めず、強度の統制を行う国家では、このような事態には陥り難い。ちなみに、ソ連邦の崩壊は、「情報公開(グラスノスチ)」が大きなきっかけになったと指摘されている。
 このように、強権支配の全体主義国家と自由な民主主義国家との抗争においては、非対称の政治社会体制が戦いの帰趨を左右する大きな要因となり得る。
 特に、意見の多様性を認め、情報の自由な発信・交換を認める国家では、政治家、軍隊、国民そしてマスコミまでもが謀略戦の格好の対象となり、敵に乗じられやすい社会環境が存在する。
 秘密保護法もスパイ防止法もない我が国は、その不備を深刻に認識し、法制定やマスコミのあり方などを含めて弱点の解消策を真剣に検討する必要がある。
■我が国への「三戦」の仕かけ~その実態
 そこで、現在、日中間で最大の懸案事項となっている尖閣諸島問題を題材に、中国の「謀略戦」の実態について公刊資料を基に概説してみよう。
 尖閣諸島は、歴史的にも、国際法的にも我が国の固有の領土であり、我が国が実効支配している。
 この尖閣諸島に対して、中国は、自国領土である根拠も、実体も皆無であるにもかかわらず、あたかもそうであるかのように捏造し、略取する「謀略戦」を大胆かつ執拗に仕かけている。誠に不届き千万、厚顔無恥な国家と言わざるを得ないのだが・・・。
 そもそも、中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは1971年12月である。1968年秋、日・台・韓の専門家が中心となり、国連アジア極東経済委員会(ECAFE)の協力を得て行った学術調査の結果、東シナ海に石油埋蔵の可能性があるとの指摘がなされたのが発端だ。
 1972年の日中国交正常化交渉第3回田中・周会談において、周恩来首相は「尖閣諸島問題については、・・・石油が出るから、これが問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない」(服部隆二著「日中国交正常化」中公新書)とその事実を認めている。
 そのうえで中国は、当時、中ソ対立の激化にともない、対ソ戦略上日中講和を急いだため、自ら本問題の一時棚上げを提案した。
 しかし、中国の「謀略戦」は、1970年代初頭からすでに始まっていた。その主要な事象を追ってみよう。なお、文末の括弧内は、三戦のうち、どの戦いに該当するかを示している。
 1971年、米国サンフランシスコで中国人留学生らが尖閣諸島は中国固有の領土であると主張するデモを行い、これが世界中の中国社会にも拡大されて「保釣運動」へと発展した(世論戦)。
 1978年には、約100隻の中国漁船が尖閣諸島に接近し、領海を侵犯して違法操業を行った。この後、中国人活動家などの領海侵犯が繰り返されていく(世論戦、心理戦)。
 1992年、中国は「中華人民共和国領海法」を制定し、釣魚列島(尖閣諸島)が自国領であると規定した。(法律戦)なお、翌年(1996年)、国連海洋法条約が発効し、我が国は尖閣諸島周辺における排他的経済水域を設定した。
 2003年、厦門市で開催された全世界華人保釣フォーラムにおいて「中国民間保釣連合会」の結成を決定した(世論戦)。
 翌年、この連合会などが準備した抗議船2隻は、領海を侵犯し、魚釣島から約3海里地点に20個の石碑を沈めている。尖閣諸島には、かつて中国人が居住していたとの証を作為するためである(法律戦)。
 本問題とも関連するが、中国は、2004年4月、我が国の沖ノ鳥島は「島」ではなく「岩」であり、日本の領土とは認めるが、排他的経済水域は設定できないと主張した。
 そして、2009年8月の国際連合大陸棚限界委員会において、沖ノ鳥島を「人の居住または経済的生活を維持できない岩」であると認定するよう意見書を提出している。
 その主張に反して、南沙諸島西北部の群礁である赤瓜礁には人工建造物を構築しており、自国に有利なように国際法を解釈し、あるいは自国の主張を裏付ける国内法の制定を行うなど、近年積極的な法律戦を展開するようになっている。
 2008年には中国国家海洋局所属の海洋調査船2隻が、尖閣諸島付近の領海を約9時間にわたって侵犯した。これ以降、中国は国家機関を表に出して主権を主張するようになり、行動は一段とエスカレートした。
 我が国は、翌年、海上保安庁による同諸島周辺の監視態勢を強化するため、PLH型巡視船の常駐化を決めたが、中国外交部は北京の日本大使館に対し「日本が行動をエスカレートさせれば、中国は強硬な反応を示さざるを得ない」と、恫喝まがいの抗議を行った(心理戦、世論戦)。
 2010年9月7日、中国漁船が領海を侵犯し、海上保安庁の巡視船の停船勧告を無視して逃走する際、巡視船に衝突を繰り返したため、同船長が公務執行妨害で逮捕・勾留されるという「中国漁船衝突事件」が発生した。
 中国政府は、即座に複数の報復措置を繰り出した。
 日本との閣僚級の往来停止、航空路線増便の交渉中止、石炭関係会議の延期、日本への中国人観光団の規模縮小、在中国トヨタの販売促進費用を賄賂と断定、日本人大学生の上海万博招致の中止、中国本土にいたフジタ社員4人をスパイ容疑で身柄拘束、レアアースの日本への輸出停止などである。
 そして、9月10日には中国の漁業監視船「漁政201」と「漁政202」が尖閣諸島付近の日本の接続水域に侵入するとともに、18日、中国国内4都市では数百人規模の反日デモが組織され、21日、ニューヨークを訪れていた温家宝首相は「我々は(日本に対し)必要な強制的措置を取らざるを得ない」と述べた(心理戦、世論戦)。
 これに屈したかのように、民主党政権は、25日、中国人船長を処分保留のまま釈放した。しかし中国政府は、中国人船長逮捕に関して日本に謝罪と賠償を要求するとともに、尖閣諸島海域における「漁政」によるパトロールを常態化させることを決定した(心理戦、世論戦、法律戦)。
 昨年(2011年)、香港の民間団体「保釣行動委員会」は、世界各国の保釣運動6団体を結集して「世界華人保釣連盟」(会長は台湾人)を設立した。両岸問題を抱える中台であるが、こと尖閣諸島問題に限ってはこの外交的演出を通して共闘関係にあることを見せ付けようと腐心している(世論戦、心理戦)。
 この年は、漁業監視船に加え、中国海軍Y8情報収集機とY8哨戒機、国家海洋局のヘリコプターそして海洋警備機関である海監所属の「Y12」プロペラ機など航空機による活動が活発化してきた。
 また、中国の海洋調査船「北斗」と「科学3号」が我が国の排他的経済水域内でワイヤー状のものを下し曳航しているのが度々確認されており、海洋調査を本格化させているのは明らかだ。これらの諸活動が、軍の統制下にあることは周知の事実であり、その行動の三次元化(立体化)が顕著となっている(心理戦、世論戦)。
 今年(2012年)になって、中国政府および政府系報道機関は、初めて釣魚列島(尖閣諸島)を、チベット・新疆ウイグル自治区および台湾と同じように中国の「核心的利益」と表現するようになった。
 3月には、中国国家海洋局所属の「海監50」と「海監60」が我が国の接続水域に侵入し、このうち1隻が25分にわたって領海を侵犯した。本行動について、同海洋局の海監東海総隊責任者は「日本の実効支配打破を目的とした定期巡視」と述べるまでに至っている。
■最後は、心理的な戦いだ
 「孫子」は、中国の春秋時代(紀元前8世紀~)末に呉王闔廬(こうろ)に仕えた兵法家・孫武が書き残した兵法書と伝えられている。その「孫子」以前に成立していたとされる「囲碁」は、中国人の戦略的思考を色濃く投影している。
 碁盤上では、同時に数か所で異なった戦いが繰り広げられるが、それらは相互に絡み合って展開され、最後は支配した領域の多寡をもって相対的優位を争う戦略的包囲戦である。
 また、日本の「将棋」や西洋の「チェス」を短期決戦とすれば、「囲碁」は長期持久戦である。
 「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」は、独立した概念のように分類されているが、尖閣諸島問題に関する中国の対日戦略に見られる通り、実際は相互に密接不可分の関係にあって、三位一体として運用される。中国の三戦は、まさに「囲碁」のゲームの理論に沿って展開されるのである。
 「世論戦」は「心理戦」と「法律戦」の展開を促進するため国内外における同調意見の高まりを作為して相手の敵対心を弱め、「心理戦」は「世論戦」と「法律戦」の遂行を可能とするよう相手の意識を攪乱・操作し、「法律戦」は「世論戦」と「心理戦」を助長するための法的布石を打つという具合である。
 このように、中国の三戦は、戦略的包囲戦ならびに長期持久戦として巧妙にかつ何年もかけて忍耐強く遂行される。そして、「相手国の為政者と国民の目を曇らせ、心を腐らせる」ことを狙いとし、「熟柿(膿み柿)」になって落ちるのを待つ。
 すなわち、敵を絶体絶命の窮地に誘いこみ、戦う前にその軍隊や国が無傷のままで降伏するように陥れるのである。その要訣は、大きな軍事力を背景とした心理的な戦いをもって政治目的を達成することにほかならない。
 我が国が、中国の一貫した謀略戦に曝されている重大な事実と深刻な実態を、政府はもとより、国民も重々肝に銘じなければならない。
<筆者プロフィール>
樋口 譲次 Johji Higuchi
 元・陸上自衛隊幹部学校長、陸将
 昭和22(1947)年1月17日生まれ、長崎県(大村高校)出身。防衛大学校第13期生・機械工学専攻卒業、陸上自衛隊幹部学校・第24期指揮幕僚課程修了。米陸軍指揮幕僚大学留学(1985~1986年)、統合幕僚学校・第9期特別課程修了。
自衛隊における主要職歴:
第2高射特科団長
第7師団副師団長兼東千歳駐屯地司令
第6師団長
陸上自衛隊幹部学校長
現在:
郷友総合研究所・上級研究員、日本安全保障戦略研究所・理事、日本戦略フォーラム 政策提言委員などを務める。
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