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飲み会

 久しぶりに旧友と飲んだ。中高と同じ学校に通っていた者6人、地元の友人3人の計9人で小宴を開いた。夕方6時に始まる会のため、酒を飲まない1人が車で迎えにきてくれた。日中は少し暖かだったが、日が落ちるとやはり寒い。春物の服ではまずいなと、冬物のジャケットを羽織っていった。
 集まった9人の仕事は様々だ。眼科を開業している者、中学の教師2人(一人は教頭)、タイル会社の工場長、サラリーマン2人、保険代理店を開いている者、人材育成の講師、そして塾長の私。保険屋さんだけが離婚しているが、あとは皆妻子がいる。結婚は私が一番早かったため、子供も一番大きい。眼科医はさすがに生活にゆとりがあって子供が4人もいる。子供の教育のために一年前に名古屋に豪邸を建て引っ越していったが、毎日診療のために小1時間かけて通ってくる。一番小さな子供を持つのは工場長で、幼稚園に通う女の子がいる。結婚する暇がないほど遊んでいたため、結婚が一番遅かった。その子が20歳になるのは15年後だから、60歳を越えてしまう、少なくともそれまでは頑張らなければいけないわけだから、大変だ。私などあと5年もすれば親としての義務が何とか果たせる。そう考えると、子供のいない保険屋を除けば、これから先私が一番先に楽になれるかなと思うが、まだまだ気は抜けない。
 会と言っても、堅苦しい挨拶などするわけでもなく、「乾杯!」とグラスを空けた瞬間に無茶苦茶になり始める。あちこちから声が飛び交い、誰と誰が話しているのか分からない。私も、飲むとやたら饒舌になってしまう近年の悪い癖で、のべつ暇なくしゃべっている。子供のことがやはり話題の中心であったのだが、次第に昔話へと移っていく。一番楽しい頃をずっと一緒に過ごしていた者たちだから、何遠慮することもなく、昔の失敗を引っ張り出してきては、ゲラゲラ笑っていた。
 大学生の頃、夏休みの夜中、突如海に行こうという話になって、車2台か3台に分乗して、一時間以上かけて真っ暗な海まで行き、水を掛け合ってずぶ濡れになったことや、徹夜マージャンで負けた者がお金が払えずに大事にしていたダウンジャケットを代わりにしたこと、結婚式のたびに2次会で新郎を胴上げして店の天井にぶつけた話など、バカ話には事欠かない。おとなしい者など一人もいない、皆個性的な者ばかりなので、若い頃の武勇伝の1つや2つは持っている。繰り返し繰り返し聞いてきた話でも、久しぶりに聞くとおかしくてしょうがない。笑って笑って、飲んで飲んで、話して話し続けた。
 1次会が終り、2次会へと場所を移動する際も、ひと時も話が途切れることがない。もう途中から何を言っているんだか分からなくなったが、ここまで来ると私は無敵になってしまう。やたら声を張り上げ、素面で運転している友人にはさぞや迷惑だったろうが、そんなことはかまっておれない。2次会の場所でも、訳の分からぬことを言っていたはずだが、全く覚えていない。無茶は言っていないと思うが、たとえ言ったとしてもこの友人たちだ、別にどうってことはない。本当に愉快だった。
 「さあ、もう一軒行くか」、という声に促されて、店を出た。足元は自分ではしっかりしていると思っていたのだが、「おい!」と名前を呼ばれたため、反転してそちらに行こうとした瞬間に何かにつまずいたのか、どうっと倒れてしまった。よくは覚えていないが、右膝から倒れこみ、ほぼ同時に左ひざを打った。うわあ、と声をあげながら、右肩をしたたか打ち、挙句には右のこめかみ辺りを地面にぶつけた。それでも、羞恥心は働いたのか、すぐに立ち上がりへらへら笑って見せたのだが、友人全員は大笑い。「やっちまった・・・」恥ずかしくて仕方なかったが、車に乗り込んだ後も、ずっと笑われ続けた。隣の座席の者が、「怪我はないか」と気遣ってくれたので、ズボンを見ると、「あっ!」、穴があいている・・ズボンをめくってみると膝から血が滲み出ているし、こめかみ辺りもすりむいている。眼鏡のフレームも曲がっているし、本当に散々だ。
 3次会の店ではずっとその話題で持ちきりだったし、帰りの車の中でも、破れたズボンをからかわれる。あまりに笑われるから、「じゃあ、今度夏休みに集まるときにはこのズボンを短パンに直してはいて行くぞ!!」と宣言してやった。それで、また大笑いされてしまったが、絶対にやってやる。

 ああ、このことは会うたびに言われ続けるだろうな。でも、いいや。私の葬式では、しんみりしていないでこの話を持ち出して皆で大笑いしてくれ。そんな葬式のほうが私にはお似合いだ。

 
 

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