魔界人の妄想録

思いついたお話しや物語を書いています

【夢の話① 観音岩】

2022年11月20日 17時46分12秒 | 紀行
僕は今こうやって何故か夏の日中にひとり山道を歩いている。汗は容赦なくどんどん噴き出すし、半そでのTシャツもぼとぼとになっている。僕が山に登るときや、その先にある神社などに行くときはほとんど一人でいく。そもそも人との付き合いは苦手で、余程気を許せる人でないと一緒にいくことはない。例えば立食パーティなんか特に苦手で、何かの命令でもなければその時間を全て費やすのは難しい。だから自分から進んでいくことはないのだけれど、やはりそこは人付き合いってものがあって、どうしても参加しなければならない時もある。その間はどう頑張っても身の置き所がなく、たまたま知り合いがいたら話もできるがそうでない場合は苦痛の頂点に達する。どうしても我慢できなくなったら、急用の電話が入ったことにして抜け出すことにしている。主催者としたら、非常に迷惑な人間なんだろうと思うけど、まあ仕方ない。そんなわけで山登りはたいてい一人だ。そのほうが自分の世界にいることができるので安心なんだ。
 ただ不安なこともこともある。山道は安全なところばかりではない。急斜面もあれば岩場もある。誰も出会わないような山道はなにか事故にあったり、山の危険な動物に遭遇したら、そのことを誰にも伝えられずに帰れなくなる場合もあるわけだ。実際山道で大きなイノシシにばったり出くわしたこともある。その時は、そいつは食事中で、口をもぐもぐしながらこちらをチラリと眼を向けたが、興味なさそうにまた食事を続けていた。僕はその2メートル程の横をこちらも興味なさそうにして通り過ぎた。考えてみれば、まあ少し危なかったな。
 しかし今回はそれほど危ない登り道でもないし、人通りは平日だけどあるようだ。ただ暑い。
 さらに進むと坂道は今までよりも急になり、スピードは極端に遅くなった。持ってきた水も無くなってしまった。そして何故か今まで後ろで子供たちの声が聞こえていたのだけれど、気が付けば人気が感じられない。静かになったなと思いながら更に登り続ける。時々山は人を異世界に導くこともあるようだから、もしかしたらそうかもしれない、いやそれはお話の世界、と苦笑いしながら更に足を進める。
 もう少しのはずなのだが、と思ったとき何故か体が軽くなったような気がした。妙な気がして自分の体をみてみると、おやおや僕は狛犬の姿になっていた。不思議なこともあるものだと思ったけれど、二本足で登るよりは楽に感じたのでそのまま登り続けることにした。
 しばらく行くと、道を跨ぐように建てられた鳥居が見えてきた。ああ、もう少しだ、頑張ろうと汗を拭きながら鳥居に近づくと、太いその柱の足元に何かがちらちら見える。近づいていくと赤い可愛い着物を着た女の子だ。小学生くらいだろうか。体を柱に隠し顔だけ出して、かくれんぼしているようにこちらを窺っている。
 さらに進むと女の子の姿がはっきりしてきた。その子は二本足で立ってはいるが顔は狐だった。僕は何故か、「ああ、迎えにきてくれたんだな」と思った。
 鳥居に着くとその子がやってきて僕は手をつないだ。鳥居を抜けると僕はまた人の姿に戻っていた。僕はその子に聞いた。
 「もう少しかな?」
 「はい、もうすぐですよ。頑張ってください」
 「ところでこの先はなんていうところにいくの?」と聞くと
 「観音岩です」と答える。
 「そうか、山の頂上から天に向かって伸びる大きな岩のあるところだね」
 そういうと、女の子は僕の顔をみてにっこり笑った。
 「私が案内するのよ」
 「そりゃ心強いね。お願いするよ」
 女の子はさっきより少し強めに僕の手を握り、少し前に出て引っ張ってくれた。
 僕は幸せな気持ちになって思った。
「僕はこれからあの世にいくんだな」と。     
                      了
 

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