魔界人の妄想録

思いついたお話しや物語を書いています

交野パラレルワールド 星から落ちた神様 第2章 かぐやからの伝言

2023年11月19日 22時28分28秒 | 物語
第2章 かぐやからの伝言
そんなわけで僕は退院して家にいる。部長から「医者は大丈夫と言っているらしいが、頭の中で鐘が鳴るなんて普通に考えるとおかしいだろう。もう少し休め」と言われて、2日ほど有給休暇を取ることにした。2日休むと土曜日だから、4連休となる。今日はその土曜日。
それにしてもあれはなんだったんだろう?何度も同じ疑問がわいてくる。部長や沙織さんの言うとおり頭がおかしくなったのかな。地震もなかったと言うことだし。心理関係のクリニックにでも行ってみようか。その後は何も起こらないからもう少し様子を見てからにしようか、などと考えているとインターホンが鳴った。
「はい」とボタンを押す。あ、沙織さんだ。
「天野です。食事ちゃんと摂ってますか?お昼持ってきました。」
「あ、ありがとう。」いろいろ気にかけてくれてるんだ。そりゃ殺しちゃったかもしれないと思ったぐらいだからアフターフォローも大事ってことか。
ドアがノックされ、開けると笑顔の沙織さん。
「お弁当持ってきました。一緒に食べようと思って。入っていいですか?」
「いいけど、部長から部屋に入るなって言われてるんじゃなかったっけ?」
「いいんです。今日はプライベートだから。」
分かるような、分からないような理由だけど、まあいいか、おなかも減ってるし。
「じゃあどうぞ。あまりきれいじゃないけれど」
「いいですよ、気にしなくても。男の人の部屋ってそんなものなんでしょう?」
急に困った顔になって
「誤解しないでくださいよ。他に男の人の部屋に入ったことはありませんからね。」
そこまで強調されると逆にドキドキしてしまうよ。
「テーブルはこっちで、この椅子に座って。もう一つ椅子もってくるね。ちょっと待ってて。」
隣の部屋にいき事務用チェアを持ってくる。その間に沙織さんはお弁当をテーブルの上に広げていた。
「うわあ豪勢だね、おいしそうだ、ありがとう」
「ちょっと頑張りました。ともかく大きなことにならなくてよかったです。実はひっぱたいちゃったからお詫びです。」
「ああ、やっぱり。最後に痛かったのを覚えてるよ。でもありがとう。あ、お茶入れるね。」と立ち上がると
「私やりますよ」と沙織さんも立ち上がろうとする。が、何かに躓いて僕のほうに倒れてきて、沙織さんの頭が僕の胸のところに飛び込んできた。
「ごめんなさい」と沙織さんが顔を上げる。そして僕と眼が合った。
このとき気づいたんだけど、僕は沙織さんを抱きしめる形になっていた。ほんの一瞬だったと思うんだけど沈黙があって、僕はそうしようと思ったわけではないのだけれど沙織さんにキスした。ああ、また引っ叩かれると思ったけど、沙織さんは顔を僕の胸に埋めた。僕はもう幸せいっぱいだった。そのときだ。
「はい、今日はそこまでよ」と声がする。
僕たちは驚いて声のする方へ振り向いた。部屋の奥から女性が出てきた。これがまためちゃくちゃ美人だった。
「星野さんはこの人と一緒に住んでるの?」と僕をとがめる声。
ぼくはもうほんとにびっくりして
「そんなことあるわけないだろう。」
「じゃあ、この人は?」
「知らないよ。あんた誰?何故ここにいるの?早く出て行ってくれよ」と怒鳴る。
「まあ、そんなに興奮しないで。まあ、とてもおいしそうねえ。とりあえずみんなでいただきましょうよ。」
「みんなでって、あなたも一緒に?」
「もちろん」
「もちろんって」
「お二人にお伝えしないといけないことがあるのよ。立ち話もなんだし食事にしましょうよ。」
不思議なんだけど、何故かその人には逆らえない気がした。沙織さんも同じだったらしく、何も言わず椅子に座った。そしてその女性は僕の持ってきた椅子に座った。
「改めて聞きますけど、貴方は誰ですか?」僕は敬語になっている。
「私はあなたたちの世界では“かぐや”と呼ばれる者です。」
「“かぐや”ってあのかぐや姫ですか?」と少し声が高くなった沙織さん。
「そう、または“月の精”かな」
「それでそのかぐや姫がなんでここにいるんですか?」と僕が聞く。
「正確には私は今は月にいます。あなた方の目の前にいるのは私の分身、アバターというところかな。」
「アバター?」と二人はまた声を合わせてしまった。
「まあ、お二人は仲がいいですね。そりゃあなた方は夫婦になるんですけどね。」
「ふーふ?」とまた声を合わせた。お互いが顔を見合わせ、恥ずかしくなり下を向いた。
かぐやは声には出さなかったが、おやおやという表情。
「それで伝えたいことってなんですか?」と僕が訊く。
「そうそう、それそれ」とかぐやさんは話し始めた。
まず「カタノ」は特殊な場所でいろいろな次元が交わっているらしい。だから「交野」かと僕は思った。そんなこともあってごく希に他の次元からこちらに迷い込んでくことがあるんだとか。これが今回起こったという。つまりかぐやさんの結婚式に兄の「ニギハヤヒ」という神様を月に招待した。それで月へ向かう星に乗ったのだが原因は不明だけれど異常な動きをして、ニギハヤヒを振り落としてしまった。その神様がこちらの世界に飛び込んでしまい行方不明なんだそうだ。
「神様が行方不明ですか?」なんだかよく分からない。
「原因はわからない。なにかが邪魔をしているみたいなの。そこで兄のニギハヤヒをあなた方に探して欲しいのよ」
「私たちが、ですか??」と沙織さん。
「貴方がたは特別なの。星野さん、地面が揺れて大きな音を感じたでしょ。頭の中に響くような」
「そうです、ありましたよ。あれは気のせいじゃないんですね」
「そのとき兄は落ちたみたいよ。特別な貴方はそれを感知したってわけ。」
「私は分からなかったんですけど。」と沙織さん。
「貴方も特別な人だけど、人間の世界にどっぷりつかってるから分からなかったのね。それで彼にキスしてもらったの。アバターとはいえ私の姿が見えるでしょ。普通は見えないのよ。」
「じゃあ、貴方が星野さんにキスするように操縦したの?」
「途中まではね。でも彼は自分の意思でキスしたようよ。」
「もうその話はいいですから」と僕がこらえきれずに遮る。恥ずかしいったらありゃしない。
かぐやさんは意地悪そうに笑みを浮かべてた。
「それで伝えることってそれですか」と僕が訊く。
「そう、兄を探して欲しいの。」
「探すたってどうすれば?」
「星野さんはあの音を聞いたでしょう。その方向に行ってみたら手がかりはあると思う。」
「自分で探した方が早いんじゃないんですか?」と沙織さん。
「普通はそうなんだけれど、さっきも言ったように何かが邪魔をしてるのよ。私は月から離れられないし。」
「ニギハヤヒさんを見つけてどうしたらいいんですか?」
「コウノサンという山のカンノンイワに連れてきて欲しいの。あそこからだと迎えに行けるから」
「とりあえず分かりました。自信はないけど」
「あなた方だったら大丈夫よ。これ美味しかったわ。ごちそうさま。じゃあ頼んだわよ。」
「どうやって貴方に連絡したらいいんですか?」
「見つけたって心の中で言ってくれたら分かる。じゃあよろしく」といってかぐやさんのアバターが消えた。

交野パラレルワールド 星から落ちた神様 第1章 病室

2023年11月18日 20時12分45秒 | 物語
 また目が覚めた。今度はぐっすり寝たようだ。頭の中の鐘の音の衝撃も残っていないようだ。あれはなんだったんだろう。ゆっくり眼を開ける。ん?ここはどこだ?自分の部屋ではなさそうだ。
 「あ、星野さん」と、これは沙織さんの声だ。なんで?
 「沙織さん、よくわからないけどおはようございます。」
 「何言ってるんですか」とまた怒った声。
 「今はお昼です。そりゃよくわからないでしょうね。ここは病室で、星野さんは1週間意識不明だったんです。」
 僕としては沙織さんがそばにいてくれることはとても嬉しいのだけれど、それにしても僕は何故ここにいるんだろう?
 「沙織さん、今思い出しているんだけれど、覚えているのは、そう、お菓子を持ってきてくれたよね。そうだ、沙織さんがドアをノックして、僕はドアを開けたんだ。沙織さんの顔を見たとき、なんだか目の前が暗くなって体が斜めになるのを感じて・・・そのあとわからないんだ。」
 「私の方に倒れてきたんです。私びっくりしちゃって襲われたのかと思いましたよ。思わず突き飛ばしたら、星野さん、顔から通路に突っ込んで倒れちゃったんです。そのまま動かなくなったから、私殺しちゃったんじゃないかと思いました。自分でも驚くほど大きな声を出してしまったのでマンションのご近所さんは大騒ぎ。人殺しになりたくないんで大急ぎで救急車を呼びました。そんなわけで星野さんはここにいるんです。」
 どこまでが本気なのかわからない話だけれど、それが沙織さんのいいところ。ただ突き飛ばしたと言ってるけど、実は気を失う前、頬に衝撃を感じたことは覚えている。実際は引っ叩かれたんだろう。そりゃ殺したかもしれないと思うだろうな。ともかく沙織さんに助けられたということだ。
 医師が病室に入ってきた。
 「気づかれましたか。1週間寝ていましたよ。とにかくよかった。ちょっと失礼」
といって、僕に聴診器当てるなど診察し始めた。
 「大丈夫のようですね。」と医者が言う。
 「先生」と僕が聞く。
 「はい」
 「さっき寝てたとおっしゃったんだけど、僕は寝ていたんですか?」
 「そのようですね。最初は脳に出血があるのかと疑いましたが、そのような所見は全く見つかりませんでした。そして脳波はまさに睡眠の波形でしたね。ただ原因はわからなかったんです。見方を変えれば健康そのものですね。」
 なるほど、喜んでいいのやら恥ずかしいやら。
 「念のため、もう一晩泊まっていただいて、明日問題なければ退院して大丈夫でしょう」
そう言って医者が病室から出て行った。 
「ところで沙織さん、ずっとここにいて僕を見守ってくれたんですか?」
「そんなわけないでしょう。たまたま寄ってみたら星野さんが眼を覚ましたんです。寝てたなんて信じられない。ほんとに殺しちゃったかと思ったんですよ、全くもう」
「ごめんごめん、僕もよくわからないんだ。あの日の大きな地震のせいだと思うんだけど。」
「地震?最近地震なんてなかったですよ」
「そうなの?最初に気を失ったとき、地面がすごく揺れて大きな音がしたんだ。頭の奥まで響くような」
「なにもありませんでした。ほんとに頭がおかしくなったんじゃないですか?」
きついこと言うなあ、と思ったけれど、僕自身本気で心配になってきた。あれは一体何だったんだろう??


交野パラレルワールド 星から落ちた神様 序章

2023年11月18日 20時10分31秒 | 物語
僕は星野夏彦。35歳独身、一人暮らし。一応公務員で実は作家志望、といっても小説などといった類いではなく、妖怪や神様などの伝説や動物などを対象にした物語を書いていて、どちらかといえば伝奇作家と呼ばれるようになりたいと思っている。
交野市に赴任して3年。日頃は自宅と職場の往復に時間を費やしてんだけど、「伝奇作家」としてはこの地域は僕にとっては魅力的で宝物がざくざく。周辺を歩き回って取材し、ある物語を執筆中です。ものになるかどうかはわからないけど、まあ趣味の延長だね。
その日の夜も、夜泣石は本当に夜泣くんだろうかと考えながら構想を練っていたところ、凄まじい音と地響きに驚いた。頭の中を除夜の鐘が鳴り響いているような感覚だった。そして意識が遠のいていくのを感じた。
どれくらい時間がたったんだろう、ふと我に返りった。実際は寝てしまって目が覚めたというところなんでだろうけれど。実はインターホンが何回も鳴らされて目が覚めたようだ。まだ鳴らされているので、慌てて返事をする。
「はい、なんでしょう」
「なんでしょう、じゃないです。どうしたんですか連絡もなく休むなんて」
モニターには女性の顔が。あ、沙織さんだ。天野沙織さんは僕の3年後輩の同僚。非常に有能な人で仕事もテキパキこなしミスはほとんどない、というか完璧にこなしてしまう。先輩の僕なんかよりも評価は段違いに高い。部長の陰謀で席は遠く離れているし、仕事の絡みもないので話をする機会は皆無と言っていいほどない。ある日の飲み会でこの部長に、沙織さんへの思いをくどくど話していたようなんだけど、そのせいかな?だけどこれはあとから同僚に聞いた話で僕には全く記憶がない。
「休むってどういうこと。僕は今起きたとこなんだけど。」
「相当寝ぼけてますね。もう夕方です。部長が心配して、連絡もないのはおかしい。天野さん、家が近いようだから様子を見てきてくれないか、って言われたんですよ。私もドキドキしながらこちらに来ました。生きてるようでほっとしました。お菓子買ってきたんで開けてくれますか?」
「わかりました」とマンションの玄関スイッチを押す。
確かに話をしながらも頭はぼーっとしている。足下も多少危なっかしい。
ドアをたたく音。そして「天野です」という声。
ドアを開けると、少し怒った顔の沙織さん。でもとても嬉しくなった。
「じゃあこれ、渡しますね。そんなニヤニヤしないでください。部屋には絶対入るなって部長から釘を刺されてますからね。」
いや、ニヤニヤしているつもりはないんだか、あまり体に力が入っていない。意識がまた遠のいていく。体が斜めになって沙織さんもほうに倒れかかっているようだ。「きゃあああ」という沙織さんのけたたましい悲鳴が聞こえたが、そこでまた僕の意識は途絶えた。しかしその直前に頬に強い衝撃があったのを確かに覚えている。

お話し くまうさぎ

2023年11月18日 10時17分15秒 | 物語
 ある朝、いつものように目覚ましにしているテレビがオンになった。夢見がよくなかったので、とても爽快とはいえない目覚めだ。悪い夢だったが、しかしどんな夢であったのかは覚えていない。まあ、よくない夢だったんだろう。今日も仕事だ。いつものように歯磨きへ。そして鏡に映った自分の姿に驚いた。耳がウサギのように伸びている。あのスポックより相当長い。顔中毛むくじゃら。なんだこれは?つかんだ歯ブラシを落としてしまった。
それでも懐かしいような気もするから、いつも通りなんだろうととりあえず納得する。
 そしていつものように朝シャワーを浴びようと服を脱ぐと、なんと体中毛むくじゃら。いつからこうなったんだろうと少し疑問に思ったが、いやいやいつも通りなんだろうとここでも納得する。だって浴室の排水溝がよく詰まるじゃないか。このせいだよ。つまりいつも通りってことだ。
シャワーを終え、服を着て、改めて鏡で自分の姿を観る。やはり毛むくじゃらだ。耳は確かにウサギのようだが、毛むくじゃらの顔はどちらかといえば、こりゃ熊だな。と苦笑い。それは“くまうさぎ”というか“うさぎくま”というか、まあそんなところだ。
 ワイシャツを着てネクタイを締める。上着を着て職場へ向かう。道すがら多くの人とすれ違うが特に驚かれることはなかった。他の人には人間の姿に見えているのか、少なくとも違和感はないようだ。
駅について電車を待っていると、いつものようにこちらに走ってくる同僚のA子さんの姿がみえたので、いつものように「おはよう」と声をかけた。A子さんは声をかけられたことに非常に驚いたようだった。「え?誰?」という表情のあと「ああ、Xさんですね。声でわかった。」
「どうしたんですか、今日はとても顔色が悪いですよ。別人みたいです」と言われた。そして「あの私今日はあっちの車両から乗りますね」と走っていった。あなたとはとても一緒にいられないという感じだった。僕のことを知っているヒトには、この姿がある程度わかるのかもしれない。だとしたら、確かに逃げ出したくなるよね、これじゃあ。
 そういえば僕の周りにヒトはまばら。なんかあるんだろうな、きっと。
 困ったもんだ。

【ニギハヤヒ降臨 再会】 第2話 滝

2022年12月04日 17時47分08秒 | 物語
 私はもともと大阪市にいたんだけど、小学2年生の頃にパパが天国に逝ってしまって、ママの故郷の交野市に帰ってきたんだ。でも初めてってわけじゃなくて、パパが元気な時、ママの両親(私のおじいさんとおばあさんてことね)のおうちにお遊びに来たことがあった。お盆の頃だったかな。暑かったのを覚えている。
 そうそう、あの時パパとママとの3人で山に登ったり、滝に行ったりしたよ。大きな池でボートにも乗った。パパがふざけてボートを揺らしたりするもんだからちょっと恐かったな。ママはそのあとプンプンに怒ってたけどそりゃそうよね。売店でパパがアイスクリームを買ってくれて仲直りしたようだけど。
滝のそばで食べたお弁当は美味しかった。そういえば滝の近くに大きな石があって、そのそばを通り過ぎるとき、当時の私ぐらいの男の子が立っていたな。ちょっと寂しそうな顔をしてた。私が黙って手を振ると男の子は嬉しそうに頷いてくれた。パパとママは気づかなかったようだったけど、振り返ったらもう男の子はいなかった。お弁当を食べていたころには私も忘れていたんだけど、一人で河原の石をひっくり返して遊んでいたらいつの間にかその子も近くにいた。可愛い笑顔の子。なので一緒に浅い川に入って遊んでた。暫くするとふいにその子が立ち上がり、滝のほうに向かって指さしている。私もその方向を見たけど特に何もない。「ん、なに?」って聞いたけど、その子は何も言わなかった。そもそもいままでその子の声を聞いていなかった。仕方ないので私は目を凝らしてその方向を見ていると、確かに何かが動いている。滝の落ちている横の崖に何か細長いものがくねくねとして登っているようだ。最初は蛇かと思ったけど、よく見ると小さな足が左右に二つずつ付いている。蛇ではなさそうだ。なんかぼやけた感じだったので、二、三歩近づいた。すると崖にへばりつくように這っていたと思っていたんだけど、よく見るとそれは宙に浮かんでいてた。そして四つの足は空中の何かを掴むようにして上に向かっているんだ。体はまだ一部らしく川面からまだ出てくるようだった。その時後ろにいた男の声を初めて聴いた。
「産まれたんだよ」
その声に私は振り返って訊いた。
「産まれたって何が?」
「みんな竜って呼んでるよ。ここで産まれて空に昇っていくんだ。」
私たちの声が聞こえたんだろうか、竜は頭をこちらに向けた。確かにその顔はアニメで見たことがある竜だった。私は竜と眼があった。黒くて奥深く、そのまま見つめていると吸い込まれそうな気がした。
竜は頭を上に向けた。その瞬間竜は急に太くなり長くなり巨大化して空へ向かって飛び始めた。滝が逆流したのかと思った。その体は滝底からまだまだ湧いてくるようだった。完全に出るまではずいぶん時間がかかった。空へ飛び出した竜はすぐに小さくなり、見えなくなった。 
「わー、びっくりした。すごいねえ」っと男の子に声をかけたけど、どこへ行ったのかいなくなっていた。
「陽子、あまり滝に近づいたらだめだよ、危ないから」とパパの声。
「ねえ、さっきのすごかったね。びっくりしちゃった。」
「何かあったの?」
「大きな竜が出てきたの、ドドドって大きな音がしたよ」
「滝の音じゃないか」とパパは言った。全く気付いていないようだった。けど、その横でママは私の事をじっとみていた。とても真剣な表情だったので、私は叱られるのかと少し怖くなった。だけど叱られなかった。そのあとママは考え込むように下を向いていた。