付け焼き刃の覚え書き

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「インベーダー・サマー」 菊地秀行

2023-12-28 | 破滅SF・侵略・新世界
「10年以上、おれは青い山と空を見ながら暮らしていた。で、ようやくこのごろわかってきたのさ。おれたちは、万古不易のものがあるからこそ、世の中を変えようと意気込んでいたんじゃないかなって」
 人間の心など山脈ひとつに及ばない尻軽女だとかつての革命の闘士、夕笛日報の大友記者。

 北アルプスを望む信州の夕笛市、その夏の日。幽霊屋敷と呼ばれている住宅街の一軒家に不思議な美少女、東やよいが住み着くようになって町は変わっていった。
 男子生徒の描く風景画の空はこの世のものではない色彩を帯び、校長のあいさつの言葉が奇怪な言葉に変わり、他の男性教師や男子生徒の言葉も変貌していく。そして、それに合わせて周囲の風景も少しずつ変化していった。
 自分たちの存在が不確かなものとなり、血と肉と記憶があやふやになっていく者が増えていく中、同じ男性でも日本剣道界の至宝とも呼ばれる片桐学だけは不思議と影響を受けていなかった……。

 美しい少女への愛慕が引き起こす、静かなる侵略の顛末。
 菊地秀行が『妖神グルメ』や『風の名はアムネジア』など、伝奇ホラーからポストアポカリプスまでさまざまなタイプの作品を書きまくっていた時期の代表作。結局「魔界都市」とか「闇ガード」などの伝奇バイオレンスアクションが主流となるわけですが、このあたりの静かに迫る恐怖とノスタルジーとロマンスの融合というのも面白いのですよ。

【インベーダー・サマー】【菊地秀行】【天野喜孝】【ソノラマ文庫】【当代きってのストーリーテラーがリリカルに謳い上げる、あるひと夏の侵略】【初源的人間】【金髪のジェニー】
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