くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「空中トライアングル」草野たき

2012-11-03 20:53:54 | YA・児童書
 中学三年生、進路やら恋やらで悩み多き年頃のはずの律子ですが、幼なじみの格好いい彼氏はいるし、私立の附属女子校に推薦で入れる見込みもあるし、穏やかに過ごしていたのですが。同じマンションから引っ越していったもう一人の幼なじみと再会したと聞かされます。自分も会いたいと思った律子、友達も誘って動物園に行くことになりますが、どうも彼氏が不機嫌で……。
 彼氏は琢己、もう一人が圭といいます。三人で心地よい関係を過ごしてきた子供の頃が忘れられない律子は、なんとか圭と頻繁に会えないものかと思い、アルバイト先の喫茶店を訪ねます。そこで圭の彼女からライブチケットを買わされて。実際に行ってみると、彼女の歌声は素晴らしく、すっかり感激するのですが、その後二人のキスシーンを見てしまう。
 思春期に揺れる少女の思いが等身大で、とてもよくわかります。草野たき「空中トライアングル」(講談社)。和裁が得意なお母さんの手製の浴衣を素直に着て、ガールフレンドと花火大会に行ける琢己がいいんですよね。文武両道のイケメンだそうです。剣道部員としても期待されている。そんな彼が後半、自分の脆さをさらけ出す場面がよかった。
 「空中トライアングル」とは、マンションの三人の部屋をつなぐとちょうど正三角形になるという圭の発言によるものなのですが、なんと後半、思い出の場所に立った律子は全く三角形ではないことを発見して愕然とします。おっとりとして人と争ったりしない少女のはずだった律子自身も、内部に悩みを抱えていて、圭の内心や琢己の葛藤、両親の関係、心からの友達がいないことなどがどんどん明らかになっていく。
 中でも印象深かったのは、クラスメイトの浩美ですね。売れっ子の子役だったに、今では全くオーディションに受からない。唯一応援していた律子なのに、「友達じゃない」というんですよ。
 琢己とも圭とも、昔のようには戻れない。親しくしていた菜穂はさらに仲のいい友達がいる。本当に一人になって自分と向き合ってみて、律子は少し成長します。
 甘やかで、でもちょっぴり切ない感じ。個人的にはやがて琢己との仲が新しい絆としてつながるといいように思うのですが。


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