itchy1976の日記

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マイケル サンデル『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業(下)』

2011年12月31日 23時01分55秒 | 書評(その他著者)
ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業(下)
マイケル サンデル
早川書房


今回は、マイケル サンデル『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業(下)』を紹介します。カントの議論からロールズ、アリストテレス、コミュニタリアニズムの話に入ってきます。上巻に比べたら議論よりもサンデルの講義のほうが多くなってくるんだ。下巻は難しいなあという印象ですね。ちゃんとした講義録なっているのもサンデルだけでなくハーバードの学生達のレベルが高いということを表しているんでしょう。

第7回 嘘をつかない教訓 
レクチャー1 「嘘」と言い逃れ
○2つの見方
1.経験の主体として、知性界(思考の世界)に住んでいる。ここでは、自律の能力がある。つまり、自分で自分に与える法則に従うことになる。→自由であると共に自律を可能にする。
2.経験の対象として、感性界(感性の世界)にすんでいる。ここでは、自然界の法則や原因と結果の法則に従う。

○あからさまな嘘と誤解を招くような言い方で述べられた真実との間に、道徳的な違いはあるのか?
ー(ex)殺人犯から友人を匿うための方便
モニカ・ルインスキー事件におけるクリントン元大統領の言い逃れ
・道徳性の基礎を結果にはおいていない→道徳性の基礎を道徳法則の形式的な遵守においている
・嘘ではない言い逃れの裏には道徳法則への敬意を見ることが出来る

レクチャー2 契約は契約か?
○カントの政治理論
・権利の原則を生み出す契約は、単なる理性の理念に過ぎない。しかし、それは疑いのない実践的な現実を持っている。それはすべての立法者に法を起草する際、その法が国全体の統一意思によって生み出されたかのように起草するよう義務付けることができる。

○ロールズの「無知のベール」とは
・正義について考える方法は、「無知のベール」の背後の仮説的契約にある。
・お互いに年齢や性別、人種、社会的地位などを知らない状況。つまり、平等な状態だ。

○現実の契約の道徳的効力
1.いかに拘束ないし義務を負わせるのか
a.同意に基づく契約→自律
b.便益に基づく契約→互恵性(相互の便益)
2.契約が生み出す条件をいかに正当化するのか
→契約それ自体では、正当化しない。どんな契約も「同意内容は公平か」を問う余地がある。

第8回 能力主義に正義はない?
レクチャー1 勝者に課せられるもの
○ロールズの二つの正義の原理
1,平等な基本的自由ー自らの基本的権利と自由をいかなる経済的便益とも交換しない
2,・格差原理ー最も恵まれない人々の便益になるような社会的・経済的不平等だけが認められる→恵まれたものは、恵まれないものの状況を改善するという条件でのみ、その幸運から便益を得ることが許される
・機会均等原理ー公正な機会の均等が保障

○ロールズの挑戦
・道徳的な観点から見たとき、人生における所得と富と機会が、恣意的な要素に基づいていていいのだろうか?

レクチャー2 私の報酬を決めるのは・・・
○分配の正義の理論
1.リバタリアニズムー自由市場システム
2.能力主義ー公正な機会均等
3.平等主義ーロールズの格差原理

○ロールス格差原理に関する反論
1,インセンティブはどうなるのか
→ロールズ自体はインセンティブを認めているーインセンティブを考慮したうえで賃金格差と税率の修正を認めることが出来る
2,努力はどうなるのか
→勤労倫理や頑張る意欲でさえ、自分の功績だとは主張できないー家庭環境や社会的・文化的偶然性によって決まる
→分配の道徳的な根拠は努力ではなく貢献であるー貢献は生まれながらの才能と能力の問題に引き戻すことになる
3,自己所有はどうなるのか
→私たちは自分自身を所有していない

○分配の正義は、道徳的な適価の問題ではなく、正当な期待に対する資格の問題

第9回 入学資格を議論する
レクチャー1 私がなぜ不合格?
○アファーマティブ・アクションとは積極的差別是正措置のこと

○アファーマティブ・アクション賛成の議論
1,是正の議論ー教育的背景の格差の是正のため
2,償いの議論ー過去の過ちの償いのため
3,多様性の議論ー教育的経験のため
       ー社会全体のため

○シェリル・ホップウッドの訴訟
・なぜ、ロースクール入学の可能性が、自分で変えようがない要素によって左右されないといけないのか?

レクチャー2 最高のフルートは誰の手に
○リバタリアニズムやカントやロールズは、正義を道徳的適価や美徳と結びつけることは、自由から遠ざかることであり、自由な存在としての個人への尊厳から遠ざかることー道徳的適価や美徳から正義や権利を切り離そうとする

○アリストテレスとは
・正義を美徳や真価や道徳的適価に対する名誉とハッキリと結びつけている
・正義とは、人々に値するものを与えること、与えられるべきものを与えること
・すべての正義は差別を内包するーその差別が関連する卓越性に基づいている
・目的・意義・目標を重視ー目的から正義にかなう分配が導き出される→目的論的論法(目的論から論理を組み立てる)
・アファーマティブ・アクション(第9回レクチャー1)に関する反論につながる

第10回 アリストテレスは死んでいない
レクチャー1 ゴルフの目的は歩くこと?
○アリストテレスの思想
1,目的論の提起ーテロス(目標・目的)に関する議論が避けられない、目的論から論理を組み立てる
2,ポリスに生きる存在ー政治的動物
3,魂とか善とか美徳といったような精神的・倫理的な要素が大事ー魂の技術としての政治

○アリストテレスにとっての政治
・善い人格を形成すること
・市民たちの美徳を高めること
・善き生をもたらすもの→善を追求する集団に最も貢献するものが政治的統治における役割や名声を得るべき

○カントやロールズにとっての政治
・善や価値、目的を選択する自由を尊重すること

○政治的な生活や政治への参加が善き生に不可欠だと主張したのだろうか?
・ポリスで生活し、政治に参加することによってのみ、我々は人間としての本質を充分に発揮できる
・美徳とは、実践し、自分で行動することによってのみ得られるもの
・必要な習慣を身につけるために徳を実践し、善の本質について議論することー政治の究極的な姿

○ケーシー・マーティンとゴルフカートの訴訟
・競技の目的は何か?(目的論)
・名誉に値すべき資質とは何か?(分配の正義)

レクチャー2 奴隷制に正義あり?
○アリストテレスの正義論
・目的と名誉が不可欠
・正義とは、人々につりあった役割を与え、美徳にふさわしい名誉や承認を与える

○ジョン・ロールズ
・目的論によって正義を論じた場合、平等な基本的人権が脅かされる。

○奴隷制が正義にかなうための条件
1,社会にとって必要であること
2,奴隷にふさわしい人がいること
  
○目的論への反論
・多元的な社会では、善き生の本質について同意することが出来ない
・正義や権利や憲法は、特定の善の考え方や、政治的生活の目的などを前提にすべきではない。
・人が自由であるためには、特定の役割、伝統、慣習にとらわれるべきでない。

○アリストテレスとカントやロールズの主張のいずれが正しいかを吟味するには?
1,権利は善に優先するのか
2,自由な道徳的主体とはどのようなものか

第11回 愛国心と正義 どちらが大切?
レクチャー1 善と善が衝突する時
○アラスデア・マッキンタイヤとは
・コミュニタリアニズムの政治哲学者
物語的な観念ー私が何をするべきかという問いに答えるには、どんな物語の中で私は自分の役を見つけられるのかという問いに答えてからでないと、答えることが出来ない
→ある程度まで、その人が属するコミュニティや伝統や歴史によって規定され、負荷をかけられている存在である。
→自分の家族、都市、民族、国民の過去から、様々な負債や遺産、期待や義務を受け継いでいる。
→私は過去とともに生まれてきた。私をその過去から切り離そうとすることは、私の現在の関係をゆがめることになる。

自己は集団構成員であること・歴史・物語との特定のつながりから切り離すことができず、切り離すべきでもない

○義務のカテゴリー
1,人として人を尊重するという義務(普遍的)
2,自分が同意することにより発生する特定の人に対する義務(契約、取引)
3,連帯、忠誠心、集団構成員としての責務ーコミュニタリアンが主張する義務

レクチャー2 愛国心のジレンマ
○コミュニタリアニズムに対する反論
1,義務が競合してしまうときどうするのか?ー複数の共同体に入っている際の義務の衝突
→道徳的基準をどうするか
2,愛国心やコミュニティの構成員であることから生じるすべての義務は、実際のところ感情的な問題、情緒的な問題を示しているに過ぎないー真に道徳的な義務をあらわしているわけではない
3,愛国心やコミュニティの構成員であることから生じるすべての義務は、リベラリズムと相反しない
4,愛国心やコミュニティの構成員であることから生じるすべての義務は、集合的な利己主義に過ぎないのではないか

○忠誠心のジレンマ
ーダンのカンニングの事例、ビリー・バルジャー、リー大佐
・コミュニティの正義vs国家(全体)の正義
・特定のコミュニティに存在する「善き生」という観念から切り離して正義の原理を見つけることが出来ない

第12回 善き生を追求する
レクチャー1 同性結婚を議論する
○個人と義務の構図が正しいかどうか評価する一つの方法は「それが正義にどのような影響を及ぼすのか」を見ることである

○正義と善を結びつける方法
1,相対主義的な方法ー正義や権利を考えるためにコミュニティに広がっている価値観に頼る
2,非相対主義的な方法ー権利がもたらす道徳的な価値や目的に内在する善に頼る→サンデルの考え

○正義を議論するうえで善や目的について論じることは避けられない
ー(ex)同性結婚
・結婚の目的は生殖であるから同性結婚は反対
・異性愛者の結婚に必ずしも生殖能力や子どもが必要なわけではないー不妊カップルの結婚を認めているー同性結婚擁護
・政府は結婚を認める役割から撤退すべき

レクチャー2 正義へのアプローチ
○正義へのアプローチについて2つの問い
1,正義について考えるとき、「善き生」の問題を検討することは不可欠なのか?→Yes
2,善について論じることは可能なのか?→Yes

○正義へのアプローチ(善ありし正義)
・道徳的、宗教的な論争では、中立でありたいと思う裁判所でもそうは出来ない
・反照的均衡(ロールズ):個々の事例について私たちが下した判断と、それらの判断の根拠となる一般的な原理との間を行ったり来たりすること
→正義と権利については共有される判断を生み出すことが出来るが、それが善き生と、包括的な道徳的・宗教的問題についてまで共有される判断を生み出すとは考えていない→恐らく、正義と権利についても同様のことになるのではないか?
道徳的・宗教的な意見の相違が存在し、善についての多元性が存在する限り道徳的に関与することでこそ社会の様々な善を理解できるようになる



東京大学特別授業[後篇]
ー戦争責任を議論する


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