因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

シンクロ少女#9『未亡人の一年』

2011-11-30 | 舞台

*名嘉友美作・演出 公式サイトはこちら 王子小劇場 12月4日まで
 本公演は、2010年10月に上演された『性的敗北』が同年佐藤佐吉賞最優秀脚本賞を受賞し、さらに同劇場の支援会員から「次回作もみたい!」という支持が最も多く寄せられた団体を1週間無料で招待する王子小劇場支援会員セレクト公演として実現したもの。
 シンクロ少女の舞台が高い評価と熱い支持を受けていることがわかる。
 初日を観劇した。

 劇場はいって手前がステージで、観客はその横を通って奥側に作られた客席につく。上手と下手にそれぞれリビングらしきセット、中央は畳敷きで座卓が置かれ、3つの異なる空間があることを示す。

 『未亡人の一年』。このタイトルといい、ほぼ全裸の女性のからだを赤い薔薇が彩るチラシといい、シンクロ少女公演はいずれも挑発的で官能的な作風である。今回もさぞかし・・・と身構えた。

 11人の出演俳優は、本拠地シンクロ少女はもちろん、これまでもオクムラ宅(1,2)や味わい堂々(1)の公演などでおなじみの顔ぶれが多い。よく言えばはまり役、反対に言えばどの舞台でも似たような役どころになりがちだ。それが今回は「いかにもな役柄」をベースに思いもよらない持ち味が加わることによって、人物像や相関関係に混乱するわ、物語の展開は読めないわのスリリングな2時間となった。

 『性的敗北』はもちろん、味わい堂々の『毒見』の作者は名嘉友美その人である(演出は今回の『未亡人の一年』に出演の岸野聡子)。当時の記事を読み返すと、どちらに対しても自分はそうとうきついことを書いており(汗)、いささか「偏見」に近い凝り固まった感覚があることに気づく。

 『未亡人の一年』は、ひとつひとつのシーンが大変おもしろい。物語の設定はいささか極端で特殊なところはあるものの、現実の日常会話の自然な台詞をテンポよく重ねながら、その人物の性格や背景を観客にいつのまにか、しかし確実に伝えてゆく手腕はお見事だ。
 配役にも3つの空間の捉え方にも、11人の人物がどのような関係にあるのかにも緻密な仕掛けがされており、初日が開幕したばかりのいま、何を書いてもこれからご覧になる方にとっては妨げになる可能性がある。
 したがって「泉政宏が何と○○役で」とか、「横手慎太郎のソノヤ兄ちゃんと浅川薫理のキホちゃんの●●シーンが」など、いろいろなことが頭に浮かび、「書きたいのに書けない」と悶々としている状態だ。困った。ほんとうに悩ましい。

 これまでのような過激なエロスを期待している方には拍子抜けかもしれないが、自分のようにある種の偏見をもって警戒していた者にとって、今回の最新作は劇作家・名嘉友美の新境地を示す確かな手ごたえを与えてくれる舞台であった。
 『未亡人の一年』には、「未亡人と、その周囲の人々の後悔の物語」のサブタイトルがついている。過去には戻れず、死んだ者は生き返らないという絶対的な現実を生きるしかない人々が、過ちと後悔を繰り返しながらそれでも生きていく物語である。
 そういう作品はほかにもたくさんあるが、決してありきたりではない。
 公演が終わって物語の流れや出演俳優の健闘など作品の詳細が書ける状態になったら、改めて本作について考えよう。

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