滋賀県 建築家 / 建築設計事務所イデアルの小さな独り言

建築家・清水精二のブログ、何でもあり独り言集・・・。

浄土真宗末寺-本堂建て替えプロジェクト その1/滋賀県 建築家 建築設計事務所イデアル

2021年06月19日 | 建築

しばらく梅雨も中休みでしたが、昨日ぐらいから梅雨空が戻ってきましたね・・・。今回は、昨年から滋賀県大津市で計画している浄土真宗末寺の本堂建て替えプロジェクトについてお話をします。記事を2回に分けてお話しようと思っていますので、この記事が1回目(その1)となります。寺院建築を再建する場合、浄土真宗末寺に限らず伝統的な様式による寺院空間を維持するため、木造による伝統様式としている寺院や鉄骨造・鉄筋コンクリート造によって伝統様式を模している寺院が大半だと思います。もっとも、荘厳や佛具、儀式の行動様式が伝統に基づいている以上、寺院建築が伝統様式によって再建されることは自然な流れであると言えます。

しかし、高齢の参詣者や生活習慣が異なる若い世代における「正座ができない」「正座が嫌い」という単純な理由だけを取り上げてみても、伝統様式による寺院(本堂)空間では、これらに対応できなくなっているのも事実です。また、高齢の参詣者にとっては段差の解消は必須ですが、伝統様式による浄土真宗末寺の本堂では向拝から階段を上がらなければ外陣に入れずバリアフリー化に対応できません。近年における末寺の現状は、檀家の高齢化や若い世代の檀家離れによる檀家の減少が懸念されており、従来から檀家制度によって維持・運営されてきた末寺にとっては存亡にかかわる重大な課題となっています。伝統的な寺院建築では、檀家(参詣者)の高齢化や世代による生活習慣・見解の違いに対応できないうえ、末寺を維持・運営するコミュニティ(檀家制度)の希薄が懸念される今日の状況において、建築家としてどのような本堂を提案できるのか・・既成概念に捉われないこれからの浄土真宗末寺本堂のありようはどのようなものなのか・・をテーマとして新しく建て替える本堂を計画しました。

画像は、建て替える新しい本堂の外観パース(外観の完成予想図)です。新しい本堂の建設費用は檀家が分配して分担されているので、可能な限り永久的な本堂であることが志向されます。とは言え、永久的な建物を造ることは困難ですから、予定建設費用に照らし耐震性・耐火性・耐久性・メンテナンス性を総合的に考慮して鉄骨造としています。鉄筋コンクリート造も考えられましたが、計画地が軟弱地盤であることから軽量である鉄骨造が合理的であると判断しました。

外観デザインは伝統様式に拘らない近代様式としており、本堂として厳かな外観を保つため、外陣を囲うように回縁を設け、回縁の外周に円形の列柱を配し軒を深くしています。この列柱は有名な浄土真宗本山の御影堂の軒周りに配されている列柱を連想する役割をしており外観デザインのポイントの1つになっています。さらに、開放的な本堂とするため、外陣の外壁は和を感じさせる縦格子状のガラス張りにしています(外観パースはスリガラス調になっていますが、本堂の開放性を増すために透明ガラスにすることも検討しています)。このガラス張りの外壁と深い軒や列柱によって、近代様式でありながらこの建物が厳かな寺院本堂であることが一見で伝わる外観を形成しています。

新しい本堂の特徴の1つは、外陣の出入口側半分(本堂正面側)を土足のまま利用できる土間形式とし、外陣の奥半分(内陣側)を畳敷きとしていることです。列柱内側の回縁もスロープも土足利用としています。したがって、従来のように向拝で靴を脱がなくても土足のまま本堂(外陣)に入って参詣することができます。段差の解消については、既存のトイレ棟(外観パース左端)を移築し、トイレの利用も兼ねたスロープを設けることで段差なしで本堂に出入りできるようにバリアフリー化しています。これにより高齢者等の本堂への出入りが容易になり、「気軽に本堂へ行ける」という意識が各行事への参加意欲を高め、コミュニティ(檀家制度)の希薄への一助につながります。

末寺とのかかわりが希薄になりつつある世代に対して、仏縁を身近に得られるようにするためには、気軽に行事に参加できる開放的な空間を提供すること、また、仏事との関係性に捉われないコミュニティ・日常の憩いの場となる開かれた末寺としての空間を提供することが求められます。つまり、そこ(お寺)へ行けば地域情報や他の刺激的な知識などが得られたり、多様な交流があったりと仏縁以外のプラスαが得られる場を提供することが必要です。このような課題に応えるため、土足のまま利用できる内部空間の外陣と外部空間の軒下回縁は、内部と外部をつなげた一体空間として公開性の高い空間構成となっているので、行事や仏事がなくてもコミュニティ・日常の憩いの場として利用できるようにしています。これからの浄土真宗末寺は、地域だけでなく社会的にも開かれた末寺(お寺)として仏縁を得る得ないにかかわらず、世代を超えた多様な人々がプラスαを求めて気軽に集える場(空間)を提供する存在であるべきだと考えています。

という事で、今回はここまでにしておきます。次回(その2)は、新しい本堂の内部についてお話しようと思っています・・・。

 

 

 


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