大江戸散策徒然噺 Introducing Japanese culture and history

豊かな歴史に彩られた日本の文化と歴史を紹介

日本三大東照宮の一つ「鳳来山東照宮」参拝記(其の二)~歴史を刻む天空への石段~

2011年11月09日 20時15分05秒 | 地方の歴史散策・愛知県鳳来山東照宮
長閑な雰囲気を漂わす田園風景を眺めながら鳳来寺参道へ続く石段入口に着いたのは、参道入口から歩き始めておよそ20分の時間を要していました。

いざ神君家康公が座する天空の社殿へ、と気持ちを引き締め1425段の第一歩を踏み出しました。それまでほぼ平坦な道のりであった参道から石段は急激な角度でうっそうとした杉林の中へと消えていきます。

杉木立の中へ延びる石段

石段という表現が正しいのかわかりませんが、実は整った石が積まれたものではなく、小さく切り出した石を不揃いに並べたものなので、歩行のバランスをとるために常に下を見ながら歩かなければならない状態が続くのです。このため周囲の景色を見ながら歩くことができないもどかしさを感じてしまうのです。

石段

参道を歩いている間は快晴の空の下で、晩秋の陽射しに少し汗ばむほどだったのですが、うっそうとした杉木立に陽射しは遮られ、前夜の雨で湿り気のある空気が森全体を冷やし、肌寒さを感じるほどです。

しかしこの肌寒さが滴り落ちる汗に変わるまでにさほどの時間を要さないほど、石段の登りは過酷さを増してきます。石段の最初の一歩から山頂の鳳来寺までは1時間ほど要するとのことなのですが、歩き始めて5分ほどで息が絶え絶えになるくらいの聞きしに勝る石段の登りなのです。かつて芭蕉が当山に訪れた時、持病が突然悪化して途中で引き返したという話はまんざら嘘とは思えないほどの石段です。

石段

そんな逸話を頭に思い浮かべながら、森閑とした杉木立の中をもくもくと歩きつづけるのですが、ふと耳を澄ますと石段に沿って流れる清流のせせらぎが聞こえてきます。なんと幽玄な世界なのだろうか! 杉木立の隙間から射し込む木漏れ日が一筋の光となって照らし出す世界はまるで浄土へのプロローグを演出しているような錯覚に陥ります。

石段と山門

石段を包む周囲の自然環境は素晴らしいものなのですが、石段を懸命に登る我が身はそれころ我を忘れて天空を目指します。うっそうとした杉木立の向こうになにやら建物らしきものが見えてきます。見上げるような石段を踏みしめながら、歩を進めていくとそれが山門であることがわかりました。木々の間から射し込む陽射しの中に浮かび上がるように佇む山門は神々しさを感じさせてくれます。

山門

ちょうど一休みを考えていた頃に現れた山門(仁王門)は慶安4年(1651)に鳳来山東照宮造営を命じた三代将軍家光公によって建てられたものです。薄暗い杉木立の中に鮮やかな朱の仁王門が彩りを添えています。仁王門の左右にはそれぞれに仁王像が祀られています。尚、この仁王門は国の重要文化財で、門に掲げられている扁額の文字は奈良時代の聖武天皇の皇后様である光明皇后の宸筆であると伝えられています。実は芭蕉はこの仁王門までやってきたのですが、持病の悪化のためここから引き返したのです。

仁王像(右)
仁王像(左)
振り返って見た仁王門
石段に架けられた橋

仁王像から力を授けられ、気を取り直して延々と続く石段の旅を続けることにします。仁王像から100mほどの距離(全行程の1/5)にあるのが「傘すぎ」とよばれている杉の巨木です。石段の脇にそそり立つひときわ大きな杉の木なのですが、なんと30m以上の高さまで枝を持っていないのです。推定樹齢800年、樹高約60m、目通り幹周は7.5mと周囲の杉を圧倒する大きさです。国の指定天然記念物で新日本名木百選に選ばれているそうです。

傘すぎの説明書き

さあ頑張って天空を目指します。石段を登っていくと道の脇に少し平坦な場所が現れることがあります。そこには例外なくかつてそこに建っていた僧坊又は堂宇の名前が記された石柱が置かれています。最も僧坊の数が増えた時期は四代将軍家綱公の頃で、石段脇に21もの僧坊が山頂に至るまで連なっていたのです。現在はそのほとんどが焼失して、わずかに2院が残るのみです。21もの僧坊が連なる鳳来寺石段は「鳳来寺道」と呼ばれ、江戸時代の最盛期には数多くの参詣者で賑わっていたのです。

松高院の山門

その一つである松高院の山門が石段脇にひっそりとした趣で佇んでいます。この松高院は現在無住のお寺です。さらに石段はつづきます。山頂に近づくにつれ石段の幅が狭く、勾配もかなり急になってきます。ますます足元を注意深く見ながら石段を登ることになるので、時間もかかります。

振り返って見た松高院

その急な勾配の石段を見上げるともう一つ残っている僧坊である「医王院」のお堂が見えてきます。お堂だけが一つ残る医王院の掃除をしている人がいました。鳳来寺まではあとどれぐらいかを尋ねると、「もうすぐですよ」とのこと。

医王院へつづく石段
医王院のお堂

やっと先が見えてきたことで、最後の力を振り絞って石段を登り始めたのですが、このあたりからの石段の幅はさらに狭くなり、勾配はやたらキツク、傾斜角度が40度くらいあるとのことです。こんな状態の鳳来山の石段には「手すり」というものがまったくありません。

最後の石段?

ほんとうに最後の力を振り絞るように石段を登りきると、やっと平坦な場所に到着です。しかし鳳来寺のご本堂が見えません。平坦な道を誘われるままに進むと、前方にまた石段が現れます。心が折れるとはこのことで、すでにエネルギーは使い果たしています。それでもこの石段を登らなければ、目的を達することができないという気持ちは残っていました。

平坦な道

これが最後の石段と思いながらゆっくりと登っていきます。「着いた!」「やっと着いた!」
息も絶え絶え。腰、股間、太もも、膝、ふくらはぎ、すべてが悲鳴をあげています。

鳳来寺本堂
鳳来寺休憩所

ご本堂への参拝もそっちのけで、休憩所へ直行。崩れ落ちるようにベンチに腰を掛け、放心状態ままご本堂を眺めていました。

鳳来寺境内からの絶景

鳳来寺境内で疲れを癒し、いよいよ最終目的地である東照宮へと向かいます。

日本三大東照宮の一つ「鳳来山東照宮」参拝記(其の一)~鳳来寺参道散策~
日本三大東照宮の一つ「鳳来山東照宮」参拝記(其の三)~神君家康公が座する天空の社殿~



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